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東京拘置所改築問題 その後の経過報告

監獄人権センター事務局


東京三弁護士会では法務省・東京拘置所と改築問題の定期的協議の中で、法務省側は改築後のモデルとして新設された相模原拘置支所を挙げ、2月15日に弁護士会が同所を見学するということで、その結果を待ってCPRとしての要望をまとめることにした。 報告によれば、相模原拘置支所では、居房の両側に廊下と巡視通路が設置され、建物外側の窓は「すりガラス」になっていて、室内は薄暗く、被収容者はまったく外を見ることができない。入浴と運動は未決収容者が面会以外に居房から出られる唯一の機会であるが、浴室は完全に室内にあり、屋上の運動場も四方を壁に囲まれ空だけしか見えないなど、拘禁中はまったく土に触れたり景色を見たりできない構造になっていた。

CPRの要望書

これを受けて、CPRでは、取り急ぎ2月20日付で東京三弁護士会宛に以下のような要望書を提出した。「基本的には老朽化施設の改築は被拘禁者の人権状況(居住環境)の改善であり歓迎する。しかし国際的には施設の小型化(1000人以上収容しない)・地域密着型化(社会復帰に備え、地域社会・家族との絆を保つ)の方向にあり、3000人規模の大型施設(日本の被拘禁者4万人の約1割)は時代錯誤。今後数10年間この施設が使用されることを考えると、現状の問題点の克服だけでなく、21世紀をも見据え、将来の人権状況の改善にも対応できるような構造にすべき。高層化・単独室化が被拘禁者の肉体的精神的健康保持に与える影響に特に配慮すべき。職員の労働条件等の悪化についても懸念される。また、外界が見えない、独居を原則とする相模原拘置支所で被収容者の深刻な心身の健康状態の悪化が表面化しないのは、同所での収容期間が平均3ヶ月、最長半年位と短いためで、東京地・高裁の刑事事件の被告人のほぼすべて、さらに高裁管轄の死刑確定者をも勾留する東京拘置所とは比較にならない。現に、最も長期にわたる死刑確定者は30年以上も勾留されている(死刑確定者の多くは深刻な拘禁ノイローゼに罹患しているが、死刑確定者の制限された接見交通権の現状では問題は必ずしも表面化していない)。」
具体的事項としては、「昼間の時間帯に居房から出て人間的交流を図れるスペースの確保、夜はプライバシーが守られる居房システム/学習活動を支援し社会復帰に役立つよう図書館を設置/未決勾留中も希望者が教科・職業訓練等を受けられる設備/外国人に対しての宗教施設の充実/懲罰的に運営される『スペシャル・ルーム』の撤廃/長期拘留者にとって深刻な拘禁ノイローゼ防止のため、窓の開け閉めができ、居房内の窓から外部が見える構造/パンチ・メタル・ボードなどによる窓カバーの撤去/運動スペースの拡大と雨天用屋内運動施設の設置/居房内の適切な冷暖房設備、日当たりと通気性、(学校教育で教室で要求される程度の)照度を確保する設備(現状では視力が極端に落ちる人が多い)/机と椅子を設置して、現状の流しのフタ、便器のフタの使用をやめる/日本人の体格の変化や外国人被拘禁者の体格に対応した居房の大きさの見直し/医務室の完備/面会室・差入窓口の大幅な増設/電話の設置/直接触れ合える構造の面会室の設置」、を要望した。

東京三弁護士会の要望書

こうした要望や弁護士会内での討論を経て、東京三弁護士会は、連名により3月6日付で東京拘置所長・爲本成輝氏宛に要望書を提出した。この中では、「未決拘禁者に対する『無罪推定』に基づいて、施設内での生活をできる限り一般社会での生活に近づけること。施設の規模に適応した職員の大幅な増員・予算の確保。刑事施設の小型化・地域密着化。霞ヶ関に拘置所を新設すること」、を基本的観点として掲げている。また、「外界を見、外気に触れ、地面を歩行することは被収容者に不可欠であるとし、外に向かう窓はスリット状にするなど、外からは見えなくとも中からは外の景色が見える構造にし、地面の上で自然を享受しながら運動できる空間を作ること。原則として被収容者間の相互の自由な交流を許すべきで、これに適応した広い空間を確保すること。各フロアに被収容者が外部と連絡するための電話・ファックスを設置。遮蔽板をなくした接見室の設置。テレビ・ラジオを居室内で視聴できる機会を保障する。保護房の壁を柔らかい材質にし、外気を遮断できる構造にして、換気扇・トイレの便水・窓を被収容者が操作できる構造にする。被収容者が自ら売店で自弁品を購買できるようにする。診療所・歯科診療所・精神的疾患者のための設備の充実・拡大。浴場を広げ増設し、シャワー室も設置。屋外の敷地内に広い土の運動場・室内運動場を設置。図書室の設置」、など列挙している。

今後の動き

改築計画を立案している法務省矯正局営繕課も近く海外の拘置所の視察を計画している。また、6月以降に予定されている弁護士会と法務省との協議で、法務省側は上記の弁護士会からの要望に一定の回答をする予定という。ようやく話し合いの雰囲気が作り出されつつある。CPRとしても今後ともこれらの動きに注目していきたい。

最後に

最後に、残念ながら、CPRとして緊急に作成した2月20日付の要望書において「現在東京拘置所に収容されている被拘禁者に対する広報と意見聴取の徹底」を求めることが見落とされていた。改築で最も大きな影響を被るのは他でもない被拘禁者自身である。今後、法務省・東京拘置所との協議で特にこの点を強調していきたい。また改築問題に関心のある方、特に被拘禁者の方は、ぜひ監獄人権センター事務局までご意見・ご要望を寄せてください。