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刑務官複数が、人事院に提訴

監獄人権センター:刑務官部会


熊本刑務所の刑務官複数が、3月25日に人事院に対して同時に行政措置要求を行い、同日記者会見を行った。
 熊本刑務所では、所長の指示によって、95年9月頃から、ある受刑者の「刑務官が、ハト行為(注:ワイロを受けて違法に受刑者の信書の仲介などを行うこと)などの不正行為をしている。」との告発に基づいて、全受刑者、一般職職員に対して幹部職員が取り調べをおこなってきた。処遇部門職員については、検察官による取り調べも実施されている。職員はお互いに疑心暗鬼となり、受刑者に密告されるのを恐れた。刑務官を陥れる受刑者が現れる一方、まじめに刑期を努めようとする受刑者まで被害者になり始めた。
 このような状況に下で多くの刑務官が、全く事実無根の、あるいはささいな服務規律違反を理由に、指示通りの始末書を書くように強要され、一部のものは辞職願いの提出まで強要されることになった。とりわけ問題なのは、刑務官と受刑者との私語に類するようなことまで、規律違反として取り上げられている点である。刑務官と受刑者との人間的な信頼関係のないところで、建設的な処遇が成立するはずもないが、熊本刑務所のやり方は、このような信頼関係を破壊するような性格をもったものと考えられる。
 また、家庭の事情などから、とうてい受け入れることのできない転任などの処分も強行されようとしている。退職願いを書かせられた職員は、その撤回通知書を既に出している。今回の行政措置要求に目的は、撤回されている辞職願いの承認を行わないこと、無理な転任・配置換えを強行しないようにすることである。
 刑務官は国家公務員法108条の2により、団結権を否定されている。しかし、ILO87号条約によって、公務員であっても、警察職員と軍隊以外は団結権を保障されている。ILO専門委員会は、消防職員うや刑務官の団結権の否定に対して、87号条約違反であるという見解をとってきた。
 日本の刑務官には、労働組合もなく、所長の権限が絶対の階級社会であると言われてきた。また、刑務官の労働条件が改善されず、人権も尊重されない環境が、一方では職員の士気を低下させ、他方で被拘禁者に対する人権侵害の原因となっているのではないかとも指摘されている。
 監獄人権センターでは、このような観点から、刑務官部会を発足させ、刑務官に対する、上司からのいじめ、刑務官の過労死の問題にも取り組んできた。熊本刑務所のケースもその一環として取り組んでいく。
 申立人らは、労働基本権の否定に対する代償措置としてある人事院による救済に望みを託しつつ、迅速な救済が得られない場合には、刑務官の団結権の否定そのものの見直しを求めて、ILOに提訴することを含めて検討していくこととしている。


この問題については、1996年4月18日発売の「週間宝石」に、CPR事務局長の海渡雄一弁護士、刑務官部会の坂本敏夫さんのコメントとあわせて、記事が掲載されています。 ホームページ編集者注