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関西CPR大阪NGOセミナー報告

長谷川 真 理 (関西CPR)


2月22日、大阪の山西福祉記念会館にて、ゲストにイギリスから、国際人権NGOメンバーとして活動されているアンドリュー・コイル、ヴィヴィアン・スターン両氏を御招きし、関西CPR大阪セミナー・記念講演会「英国行刑改革運動に学ぶ〜国際人権NGOを迎えて〜」が行われた。
両氏の講演に先立って、三重短期大学の水谷規男助教授(刑事立法研究会)から、この度出版された『刑事施設と国際人権 国連処遇基準実施ハンドブック』(日本評論社)が紹介された。
「施設拘禁では、拘禁されていることに基づく必然的制約以外は、基本的人権を保障されるべきで、一般社会と同様の生活を保障されるべきとする『通常化原則』、被収容者がやがて社会復帰することを考慮し、できるだけ開放的な施設処遇をすすめるべきとする『開放原則』、などが本書を貫く基本的思想である。今後国連で、このMSWを原案として改訂作業が進められていく予定だが、各国の足並みの乱れから本来よりも後退したものになる可能性があり、もともとのMSWが邦訳されることの意義は大きい。また、日本においては施設処遇に関する国際基準についての理解が、行政側も市民の側も十分でないことなどもあり、本書が国際基準についての共通の理解を得る一助となることを希望している」、ということだった。
アンドリュー・コイル氏は、イギリスのブリクストン刑務所長であり、刑務所内の人権問題に取り組む国際的NGOであるPRIのメンバーとしても活動。コイル氏は、1990年のマンチェスター刑務所で発生した暴動の調査にあたったウールフ判事の報告書について語った。 「報告書は、暴動を未然に防ぐには刑務所内の強圧的な管理抑圧体制ではなく、刑務所内における良好な秩序の維持こそが有効だと主張している。監獄内における『正義』とは、刑事施設に関わる国内、国際法規を遵守することである。また、監獄内においても、人間の尊厳や基本的人権は守られねばならない。監獄は、私たち自身が必要と考えるからこそ存在する。監獄の本質は一部の人間の自由を奪うことで社会の秩序を保つことである。それ故、監獄における人権の取り扱われ方は私たち自身の社会の表れなのである」、と報告した。
ヴィヴィアン・スターン氏は、PRIの事務局長、「犯罪者のケアと再定住のための全国協議会(ナクロ)」ディレクターとして語った。
「PRIは1989年に設立。監獄内における人権について国連基準を遵守させること、監獄に囚われている人の数を減らすこと、監獄制度の代替案を提示すること、死刑制度の廃止、刑事施設内における差別の撤廃を活動目的としている。
NGOの活動の目的は、監獄施設の監視者たることである。監獄の中で何が行われているか情報を集め広く知らせ、また、市民の間で監獄が本当に必要か、そのあり方について議論を巻き起こす。そして、監獄を開かれたものにするよう働きかける。また、被拘禁者が外の世界と接触を保てるように努めること、監獄の外にいる家族を助けること、出所後の社会復帰の手助けをすること。そして日本の刑事施設に関わる情報を世界に向けて発信し、世界ではどうなっているのかを国内へ伝えることである」、と語った。
両氏の講演の後、特別コメントとして、関西学院大学の前野育三教授(刑事政策)が日本の被拘禁者処遇について話された。
「一般にPRIのような組織が活動する際の困難は、市民の中に『犯罪を犯した人間は他の人と同等の人権を享受するに値しない』という感覚が浸透していることである。しかし、そうした考え方は『基本的人権はすべての人に保障されなければならない』という人権思想の原則とは相容れない。悪いことをした人間がすべて罰せられるわけではない。被告人や有罪者というのは、ある意味では秩序維持のためのいけにえである。そういう一部の人間の犠牲のもとに社会秩序が維持されるような現状に安住していいのか? 国民がこの問題に関心を持ち続けるよう働きかける必要がある。
日本の被拘禁者処遇は、諸外国と比べて非常に閉鎖性が高いという問題がある。被拘禁者の外部との接触についても障害が高いだけでなく、外部からも施設の実態が分からない。一般市民を交えた監獄施設の査察機構が存在しない。こうした日本においては、PRIの様なNGOの活動は非常に困難ではあるけれども、必要性もまた極めて高い。
また現在、施設処遇においては国際的に、出所後の社会復帰をいかに準備するかという考え方になってきたが、日本では受刑者に『しつけ』的教育を行ない、いかに犯罪を起こさない人間にするかという考え方が根強い。こうした点も改められていかなければならない」、と訴えた。 (終)