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刑務所と市民社会

アンドリュー・コイル


受刑者はその犯罪の刑罰として刑務所に送られますが、刑務所は受刑者の更正、受刑者が自分が何者でありどんなことをしてしまったかを理解することへの援助、釈放後の準備、コミュニティへの再統合をも目的としています。これらの目的を達成するため、刑務所制度はナクロのようなNGOに援助を求めるのです。ブリクストン刑務所では、刑務所内部で活動する22のボランティア組織、例えばアルコール中毒の問題や薬物中毒者やエイズ患者を支援するNGOなどから援助を受けています。また刑の満期が近い受刑者や非暴力的な犯罪を犯した受刑者が、老人や精神障害者を介護することで、外部通勤で受刑生活を送るような制度もあります。刑務所は本来コミュニティから孤立しているのではなく、コミュニティの一部分なのです。だからこそ刑務所とコミュニティの掛け橋が必要となるのです。ナクロのようなNGOはその掛け橋を提供してくれます。

受刑者の精神的向上について

良い刑務所を運営するためには、@保安、A適切な秩序、B公正、が必要です。これらがバランスをとって運営されるべきなのです。受刑者の精神的向上は@Aも向上させるものです。それは、被拘禁者に自尊心を抱かせ、自分も社会に対して貢献できるということを自覚させることです。
去年、ブリクストン刑務所は国立劇場と協力して、6週間かけてハムレットを上演するという大きなプロジェクトを実現しました。女性役の国立劇場の俳優以外はすべて受刑者です。役者は台詞を覚え、大道具係は舞台装置を作りました。それぞれが役割を果たし劇を準備する中で、集中力や自律心を養うのです。最初、劇の観客として招かれた同じブリクストンの受刑者達は、上演する受刑者達をからかってやろうと思っていたようです。しかし徐々に劇に引き込まれていき、最後には上演している人たちの自尊心に感動していました。ある受刑者は私に、「所長、13歳の私の息子は私が何かいいことをやっているのを初めて見たと言っていました」と教えてくれました。

刑務所長から最後に一言。今日の参加者には法務省の方やCPRのようなNGOの方もいます。私の経験からもCPRのようなNGOが関与してくれると刑務所をよく運営できるし、そうしなければならないと思います。NGOを中に入れないと彼らは塀の外で「刑務所はひどいところだ」と言いたてます。外にいるのはみな善人で、中の人はみな悪人にされてしまうのです。私は、「口で言うのは簡単だ、中に来て一緒に協力してくれ」と言っています。つまり、私たちがNGOを利用しているのであって、NGOが利用しているわけではないのです。