メイキング・スタンダード・ワーク
犯罪防止刑事司法委員会で検討へ
1 国連犯罪防止会議の新たな方向性
4月29日から5月6日までカイロにおいて、世界140日国あまりから、大臣を含む1000名を超える参加者を得て、第9回国連犯罪防止並びに犯罪者処遇会議(「コングレス」)が開催された。私は、日本弁護士連合会が派遣した11名の代表団の一員として今回のコングレスに参加した。
コングレスは、1955年の第一回ジュネーブ会議以降1990年の第8回ハバナ会議まで、刑事司法の分野における様々な基準を設定してきており、ほぼ主要な基準の設定作業は終えたといわれている。第9回コングレスは、このような状況を踏まえて、「既に設定された基準をいかに効果的に履行しうるか」というコングレスの新たな方向性を打ち出し、この方針の下で様々な「決議」がなされた。
2 オランダ政府提出の決議案変更さる
今回のコングレスにおける被拘禁者の人権に関する決議案として注目されるのは、オランダ政府提出の「被拘禁者処遇標準最低規則の効果的実施に関する決議案」である。
オランダ政府案は5項目からなり、その内容は、<1>拘禁制度の透明化を高める諸制度の導入を加盟国に対して提案する、<2>監獄の状況の定期的審査及び効果的情報収集機構の確立の検討をコミッションに対し要請する、<3>「メイキング・スタンダーズ・ワーク」(「MSW」)を評価し歓迎する、<4>MSWをペナル・リフォーム・インターナショナル(「PRI」)と国連で共同出版することを事務総長に対し要請する、<5>MSWの影響と有用性を継続して調査することをコミッションに対し勧告する、というものであった。(なお、「コミッション」とは、「犯罪防止刑事司法委員会」のことで、これは1992年の国連の機構改革により、国連の犯罪防止刑事司法部門の政策決定を行なう機能を与えられた機関である)。
このオランダ政府案の<3><4><5>が削除され、新たに第3項として、「MSWの利用と検討のために国連加盟国に配付することの検討と、コミッションで検討されるMSW続版の作成に関し国連加盟国に助言を求めることを、コミッションに要請する」との条項が挿入された。
3 MSWをめぐる動きー日本政府、オランダ政府案にクレーム
上記変更箇所を見て明らかなとおり、それは、MSWに関する箇所である。MSWとは、1955年のコングレスで採択された「被拘禁者処遇標準最低規則」に関する176頁に及ぶマニュアル(コンメンタール)であり、これは、PRIが、被拘禁者の人権に関する専門家7人の共同執筆により作成し、昨年11月のPRI主催・オランダ法務省後援のハーグでの国際会議において採択されたものである。(その詳細は、日弁連の海渡雄一弁護士が、既にニュースレターで紹介しているので、その論考を参照されたい)。
日弁連は、MSWの重要性に鑑みて、平成7年4月27日付で法務大臣宛に、日本政府がこのオランダ政府案に賛成し決議案の成立に寄与されるよう要望する旨の文書を提出した。又、日弁連代表団は、4月30日、オランダ政府案が審議された第一委員会において、オランダ政府案を強く支持する旨の意見表明をした。
ところが、日本政府は、MSWは170頁を超えるものであり、コングレスの参加国に充分に検討されていないので、オランダ政府案<3><4><5>を削除し、代わりに、「MSWについてコミッションで慎重に検討する(examine carefully)」旨の条項を入れるべきことを主張したのである。
日弁連は、5月1日、日本政府に対し、オランダ政府案に対し何らの留保も付けずに賛成されることを要望する旨の文書を提出したが、他方第一委員会では、この日本政府の発言を受けて、非公式の調整協議を持った。
確かに、マニュアルをコングレス参加国に配付するのが遅れた感もあり、170頁を超えるマニュアルに関する決議をマニュアルの検討を経ずしてすることは困難であることも否めなかった。また、1992年の国連の機構改革により、刑事司法の実質的検討作業がコングレスからコミッションに移行されているという現状もあり、結局「コミッションで検討する」との最終決議文言になったのである。
従来コングレスが設定してきた刑事司法に関する国際基準をいかに効果的に実施するかについて検討していくという「コングレスの新たな方向性」は支持すべきものであろう。問題は、今回の決議の内容をより具体化し、実際に機能しうるような実務的な体制を構築することである。そして、このような作業のなかで、監獄人権センターを含むNGOの役割が、より重要なものとなっていくこは間違いないであろう。