死刑確定囚処遇を巡る訴訟
 原告益永利明さん本人尋問

益永 美幸


 東京拘置所在監の死刑確定者益永利明さんが起こしている民事訴訟の本人調べが9月13日、東京拘置所内仮法廷で行われた。
 この裁判は、当初1990年11月に11項目の請求原因をもって提訴されたが、本人訴訟であるにもかかわらず、原告が一度も出廷できぬまま、昨年2月に全面敗訴の一審判決が出された。控訴審では海渡雄一弁護士が代理人となり、争点の中でも特に「戸外運動が毎日実施されないのは、違法である」との訴えに重点をおいて争われている。
 拘置所内での公判のため傍聴は叶わず、調書を読んでの報告となるのだが、益永さんが語る獄中での日常は、文字を追うだけででもその非人間性が十分に伝わってくる。

生活の隅々まで規制

 益永さんの証言には、「処罰」という言葉が何度も出てくる。起床時刻以前に起床すると規律違反として「処罰」される。起床時刻になっても起きないと「処罰」、点検前に立つと「処罰」、房内を歩き回ると「処罰」、布団に寄り掛かると「処罰」。居眠りさえも、「生活指導の一貫」という理由で注意されるという。この国の監獄では今もなお。特別権力関係が維持され、獄中者は全く法的根拠のない規則によって縛りつけられていることが分かる。
 このような非人間的規制下で、益永さんは指定された場所に「座って」朝の点検を待つことから始まり、戸外運動も入浴もない休庁日には12時間以上も同じ場所に座っていることを強いられ、運動不足が原因と思われる高血圧や腰痛、不眠、視力の低下等の健康不調に悩まされ続けている。

一日中狭い独居房で監視されて過ごす苦痛

 益永さんは、死刑確定から9年余の現在に至るまで「第2種独居房」に拘禁されている。一般房に改造を加えたこの房では、外気に直接触れることができない。中庭側にある窓は片側しか開けられないように固定されており、開けられる方の窓の外側は穴あき鉄板(パンチメタル)で塞がれ、通路側窓の開口部分も同様の構造になっている。また、外の景色を見ることも埃とキズだらけの風防ガラス越しか、パンチメタルの小さな穴を覗くことでしかかなわない。
 天井にはテレビカメラと盗聴マイクが設置され、24時間監視されている。監視カメラを設置するために天井は一般房よりも40センチ低く改造されており、撮影を可能にするため就寝後も6ワットの蛍光灯が照らされる。外気を肌で感じることもできず、外の風景を眺めることも不自由で、一挙手一投足を監視される狭い房でただ一人、一日の大半を座ったままの姿勢で過ごし、夜も明かりに照らされて熟睡することなどできない毎日。肉体的苦痛はもとより、計り知れないほどの精神的圧迫を受けていることは容易に想像できる。

貴重な戸外運動

 死刑確定後、すべての養親族との外部交通が禁止され、実家族との面会が半年に1度ほどしかなく、他の死刑確定者が集う食事会やテレビ鑑賞の場に参加することも禁止されている益永さんにとって、外の空気を吸い、風に触れ、地に足をつけて体を動かせる戸外運動は、単に運動する時間としてだけでなく、精神面においてどれほど大きな意味を持つものであるか。
 「戸外運動がない日が続くと、だんだん気持ちが内向きになってきて、憂鬱になってくるんですけれど、戸外運動で外にでて、青空を見たり、日の光を浴びたり、あるいは木や草を見たりということをしますと、そういう憂鬱な気分がぱっと吹っ飛びます。」という益永さんの言葉が如実に物語っている。
 隔日で1回30分の戸外運動(房からの出入り、裸足で運動した後に足を洗う時間、爪を切る時間等も入れての30分である。また、雨天の日には中止される。)で足りない分は「室内運動」で補っているなどと、国=拘置所側が主張するような、時間の帳尻合わせで済む問題ではないのだ。
 そもそも、この「室内運動」自体にも問題がある。スピーカーから流れる音楽とナレーションに乗って、せいぜい15分間、小学生が水泳の前にやる準備運動程度のストレッチ体操の時間が午前中に1回。午後にも1回、いわゆる「室内体操」の時間があるが、実際に体を動かしている時間は10分以下。その内容は正座か仰向け・うつ伏せになった状態で行うものばかりで、飛び跳ねたり、足を屈伸するといった、立った状態での運動がひとつもない。座りずくめで身体が凝り固まっている者にとって、この程度の運動では、焼け石に水というものだ。
 国側は反対尋問で、布団の上げ下ろしの時にも立っているのだの、壁にもたれることは禁止されていないだのと、くだらないことを取り上げるばかりか、座っている時間と訴訟の準備を関連づけ、本訴訟のために、物差しを利用した振り子を使い、2週間かけて「室内運動」の時間を割り出したことについてまでも、「運動しないでずっと計ってたの。せっかくの運動なのに。」と嫌味たっぷりの物言いで、益永さんが何件も獄中訴訟を起こしていることを暗に非難した。本末転倒も甚だしい。

再審準備のための弁護人接見までも制限

 この訴訟のもう一つの大きな争点である再審準備のための弁護人接見の時間を30分に制限し、話す内容まで規制したことについても国側は、接見回数と時期だけにこだわり、何回接見しているのだから十分ではないかという姿勢だ。益永さんが、問題としているのは、弁護人との接見が拘置所側の裁量と判断だけで時間も内容も制限されてしまうことにある。国連総会において全会一致で採択された国連被拘禁者処遇基本原則には、「弁護士と相談するための十分な時間と便宜を与えられなければならない。」と明記されている。弁護人との接見を「制限」「規制」することは明らかに人権侵害なのである。
 「戸外運動」にしろ弁護人接見にしろ、これらは単に益永さん個人だけにかかる問題ではなく、すべての被収容者の人権問題として、司法がどういう判断を下すのか注目していただきたい。