TOKUSHIMA

徳島刑務所をめぐって
受刑者接見妨害徳島国賠判決について

金子 武嗣 (大阪弁護士会)


一、はじめに

 1996年3月15日、徳島地裁で受刑者と弁護士との民事の接見をめぐり、刑務所所長の処分を、憲法、国際人権規約自由権規約(B規約)に違反する違法があるとして、北野雅夫受刑者と弁護士三名(大阪弁護士会所属、戸田勝、木下準一、金子武嗣)に損害賠償を認める画期的な判決があった。この判決を紹介しながら、今後の展開を述べてみたい。

二、事件の概要

 北野受刑者は、判決確定により1990年4月26日、それまで拘留されていた大阪拘置所から徳島刑務所に移監された。同人は無罪を訴え再審を準備中であった。ところが移監後、徳島刑務所管理部保安課職員(刑務官という)からいわれなき暴行を受け、また身体的に苦痛を与えられるような無理な姿勢を強要され、さらには全く理由なく保護房に入れられたり、懲罰処分を受けた。
 弁護団はこのような徳島刑務所のやり方を見過ごすことができず、北野受刑者を原告、国を被告として、1990年8月8日損害賠償を求める訴えを提起した。
 ところが徳島刑務所所長は暴行事件の打ち合わせのための接見について刑務官立会いと時間を30分にするという不当な制限を加えた。刑務所側の根拠として、監獄法50条の委任を受けた施行規則127条1項(立会い)、規則121条(時間制限)を根拠とした。
 弁護団は現実の徳島刑務所のひどいやり方をみてきて、やはり国際人権の水準に照らして制度自体を変えなければ、受刑者と弁護士との接見交通権が確立しないと考え、この損害賠償を提起した。

三、徳島地裁の判決の意義

自由権規約14条1項について

 徳島地裁の判決は、まず国際人権規約自由権規約(B規約)について、直接的法的効力を、しかも法律や規則に優位する効力を認めた。
 次に徳島判決は、自由権規約14条1項は、「受刑者が民事事件の訴訟代理人たる弁護士と接見する権利をも保障していると解するのが相当であり、接見時間及び刑務官立会いの許否についてはなお一義的に明確とはいえないにしても、当該民事事件の相談、打合せに支障を来すような接見に対する制限は許されないというべきである。したがって、監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項も右B規約14条1項の趣旨に則って解釈されなければならないし、法及び規則の条項が右B規約14条1項の趣旨に反する場合、当該部分は無効といわなければならない。」
 これまで所長の自由裁量とされた監獄法の処遇がはじめて人権の国際水準たる自由権規約により規制されることになったのである。

受刑者の権利

 徳島地裁の判決は受刑者の権利の制限についても、「受刑者であるとの一事をもって当然に憲法上の権利・自由の制約が許されるものではなく、懲役刑においては、受刑者を一定の場所に拘禁して社会から隔離し、その自由を剥奪し、これに定役を課すことにより犯罪に対する応報を遂げることを目的の一つとするものであるから、身体的自由が束縛されることは当然としても、それ以外の権利・自由に対しては、懲役刑のもう一つの目的である受刑者の改善更生を図る処遇をすることと、行刑施設が受刑者を多数拘禁し集団として管理する施設であって内部における規律秩序を維持しなければならないという二つの要請から必要とされる場合に、その目的を達成するために合理的な範囲内で制約を加えることが許容されるにすぎない。」と身体的自由の拘束以外の受刑者の権利、自由の制約については「目的」と「合理的な範囲」での厳しい要件が必要とした。今後の受刑者の処遇について重要な意味をもつ。
 そして、受刑者の弁護士との接見について「憲法上受刑者に対しては外部交通権としての接見の権利が保障されているものと解されるが、外部交通権が受刑者の更生にとって極めて重要な意義を有するものであることを考えると、接見に対する制限においては、処遇上及び刑務所内の規律秩序維持上の必要があるか否か、その制約が合理的な範囲内にあるか否かの判断については一定の厳格さが要求されるというべきである。」としたのである。
B 受刑者と弁護士との接見についての所長の裁量
 徳島地裁の判決は、この観点にたって、受刑者と弁護士との接見について次のように判決した。

 1、接見の要件について

「B規約14条1項及び憲法の趣旨並びに接見の権利の重要性に鑑みると、これが全くの自由裁量であると解することはできず、」…「刑務所内の管理、保安の状況その他具体的事情のもとにおいて、当該接見を許すことにより、受刑者に教化上好ましくない影響を与えたり、刑務所内の規律秩序の維持上放置できない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合を除いて、本件のように民事事件の訴訟代理人たる弁護士との接見は原則として許可すべきであり、特段の事情がないのに接見を拒否することは、裁量権の範囲を逸脱し違法となると解すべきである。」としたのである。

 2、接見の態様について

 徳島地裁は、監獄法施行規則の30分という時間制限、刑務官の立会について、「B規約14条1項等の趣旨に鑑みると、受刑者と民事事件の訴訟代理人たる弁護士との接見に対し、当該民事事件の相談、打合せに支障を来すような接見に対する制限は許されないというべきであり、刑務所長としては事案に応じて規則127条3項、124条の定める制限緩和の措置を採るべきであり、この点についても全くの自由裁量と解することはできない。」と、所長は例外規定を柔軟に適用すべきであるとの原則を示した。この点も画期的である。
 そして徳島地裁は、本件の30分の時間制限について所長の裁量権を逸脱・濫用したもので、違法とした。まさしく正当である。
 しかし刑務官立会については、刑務所側の「特段の事情」を認め、裁量権の逸脱・濫用があったとはいえないとした。この点については弁護団としては不満が残るところである。

四、おわりに

 徳島地裁の判決は、これまで自由裁量とされた刑務所の処遇について、憲法、国際的人権基準から光をあてたものである。この判決を手がかりにして、全国で更に刑務所の処遇改善が図られることを弁護団として強く要望する次第である。