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徳島刑務所をめぐって
四国弁連決議について

松原 健士郎 (徳島県弁護士会)


1 四国四県の弁護士が集まって、四国弁護士連合会(四国弁連という)が構成され、毎年四国弁連の総会が順次各県都で開かれている。
 1995年度は高松で総会が行われ、刑務所被収容者からの人権救済の申立に対する弁護士会の調査については刑務官の立会いなしになされるべきである、との決議がなされた。決議の内容は次のとおりである。「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。この使命に基づき弁護士会が人権擁護のための諸活動をしていることは公知の事実である。
 ところで、刑務所被収容者より弁護士会に刑務所内での処遇などにつき、人権救済の申立がなされた場合、弁護士が刑務所に赴き、被収容者より事情聴取を行う必要があるが、調査が適切、公正に行われるためには、その事情聴取は刑務官の立会いなくして行われることが保障されるべきである。
 また、刑務所被収容者については、拘禁目的に相応する内在的な制約を除き、接見を受ける権利が保障されるべきことは、憲法第13条及び国際人権(自由権)規約第10条の趣旨とするところであり、被収容者の上記権利の実効性確保の点からも同様のことが言える。
 然るに、現在被収容者による上記のような人権救済の申立に対し、弁護士会が申立人の事情聴取に赴いた際、刑務官が立会っている刑務所が多数存在する。
 上記のような立会いは、弁護士会が行う調査の公益性を軽視し、公正を損なうものであり、また一方、被収容者の接見を受ける権利を侵害するものである。
 よって、当連合会は刑務所に対し、刑務所被収容者の刑務所内での処遇などについての人権救済の申立に対する弁護士会の事情聴取については、刑務官が立会いなくして行われることが保障されるよう要望する。」

2 被収容者より刑務所内の処遇に関し、徳島弁護士会に人権救済の申立があり、これに応じて弁護士が刑務所に調査に赴いた際には、従前刑務所内の一室を用意され、そこで申立人あるいは関係者より事情聴取することができた。
 しかし、1994年3月に上記と同様の救済申立があり、弁護士が刑務所に出掛けたところ、刑務所側より刑務官の立会いを要求された。
 これに対して、調査担当の弁護士が強く立会いのない事情聴取をさせるよう求めたが、刑務所側が拒否をしたため、担当弁護士は事情聴取をせずに帰った。
 その後も度々立会いのない事情聴取を求めたが、刑務所側がこれを承諾しなかったため、やむなく1995年7月に刑務官立会いの上、接見室で事情聴取を行わざるを得なかった。

3 しかし、本件のような場合、以下に述べる理由から刑務官の立会いなしに弁護士による事情聴取が行われるべきであると考える。
 第1は、人権擁護委員会の調査の中立性、公平性を図るという見地からである。
 刑務所内の処遇をめぐる人権救済の申立の当事者は申立人が被収容者で相手方が刑務所である。このような場合身柄を強制管理されている申立人に相手方の影響を受けることなく自由に主張を尽くすことができるよう配慮されなければならない。刑務官の立会いを認めることになれば、申立人は当然相手方の心理的強制下におかれることになるから、調査方法自体の中立性、公平性が損なわれることになる。そして延いては、調査内容の中立性、公平性も疑われることになるのである。

 第2は、調査の公益性を図るという見地からである。人権擁護委員会の調査は、公的機関による公的調査というべきものであり、このような性格をもった調査は刑務官の立会いなくして、初めて成しうるものと考えるべきである。
 第3は、刑務所の取扱いは憲法や国際人権規約に違反するということである。刑務所被収容者についても拘禁目的に相応する内在的制約に反しない限り、基本的人権が尊重されるべきであり(憲法第13条)、刑務所、被収容者も接見を受ける権利を有している。また、国際人権規約第10条をはじめ1988年の第43回国連総会に於いて裁決された「あらゆる形態の拘禁、収監下にある全ての人の保護のための原則」等においても、全て被拘禁者は人道的かつ人間固有の尊厳を尊重して扱わなければならない旨規定されている。

4 以上のとおり検討した結果、徳島県だけで国家機関に申入れをするのではなく、四国全体の弁護士が集まって申入れをしたほうが効果的であると考え、1995年11月10日四国弁連として先に記載したとおりの決議をした次第である。
 そして、この決議は、法務大臣、四国四県の刑務所長に対して執行された。

5 刑務所の壁は、内側からも外側からも高い。しかし、我々が被収容者の声を真剣に受け止め、これに1つ1つ応えていく以外に壁を低くする方法はないのではないか。
 今後とも個人として、また弁護士会を通じて運動を展開しようと考えている。