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小倉検察審査会議決について

中尾 晴一 (福岡県弁護士会)


 96年1月25日小倉検察審査会で元小倉刑務所受刑者の看守に対する刑事告訴の不起訴処分を不当とする議決がなされた。「不起訴不当」の議決自体画期的だが、それ以上に、実際に元受刑者、看守に対して尋問を行い、「制圧行為」「戒具(金属、革手錠)の使用」「保護房における被収容者の取扱」についてそれぞれ不適当・不適正との判断を示すなど、非常に踏み込んだ内容になっている。現在、検察庁では再捜査を行なっている。(編集部)


 この事件の告訴人のI君は、平成5年恐喝未遂・傷害の罪で懲役2年4月の刑に処せられ、同年9月13日から北九州市の小倉刑務所で服役をしていました。
 I君とは以前より面識のあるところ、平成6年11月ころ家族を通じてI君が看守から殴られたので面会に来てほしいと連絡をしてきました。
 そこで早速刑務所に行きましたが、その時はI君はその事件で懲罰を受けていて面会できず、別の日に行くこととなり、別の日に面会をしました。
 I君は心底憤りをもって看守の暴力を訴えました。
 その話の内容は次のようなものでした。

 平成6年11月2日午後4時40分ころI君も含めた受刑者が五工場での作業を終え、同工場検身場に行進した時、看守がI君に列外に出るよう命令したことでI君がその看守に「どうしてか?」と言ったことが気に食わないということで、I君の胸倉を持ち、別の看守とともにI君に後ろ手錠をして非常ベルを押し、駆けつけた他の看守とともに処遇部門取調室まで連行した。  取調室でI君は看守から顔面を手拳で殴打され、その場にころがされて看守から馬乗りになられて押さえつけられ、他の看守から背中を蹴られたり、顔を足の膝で押さえつけられたりした。
 その後、取調室から出され保護房に連行されたが、その途中、一人の看守が「暴力団は打ち殺してしまえ」などといって連行しながらI君の前に回って、I君の頭を押さえ、I君の顔面に膝蹴りを加えた。
 そのためI君は上右前歯を折られてしまった。
 I君は絶対このような看守は許せないので告訴してほしい、というものでした。
 I君は私もよく知っていて、短気なところはあるけれども決してうそをつくような男ではありません。
 歯も実際折れていました。
 それで私もI君の依頼を受けて告訴することにしたのです。

 平成7年1月25日、福岡地方検察庁小倉支部に氏名不詳者らの看守に対して特別公務員暴行罪で告訴をいたしました。
 この事件については目撃者や関係者が多数いるので、かなりの捜査日数が必要なのではないかと考えていましたが、担当検事は同年3月30日付けで不起訴処分(嫌疑なし)にし、その通知を代理人弁護士の私のところには送付せずに、在監中のI君宛てに直接送付して済ませていました。
 私が不起訴の結果を知ったのは既に不起訴処分があって7日以上経過していました。
 不審判請求もできません。
 全くひどい話でした。
 そして、その処分をした検事は処分した日に転勤となっていました。
 要するに自分の転勤が分かっていてバタバタと不起訴処分をして出ていったという感じでした。
 すぐにI君の方とも相談し、同年4月19日検察審査会に審査の申立をしたのです。
 私の方ではI君の訴えを中心に看守が暴力をふるったことについて検察官が不起訴としたことは不当だと主張したのです。
 検察審査会はていねいに調べてくれました。
 I君の話も直接聞いてくれました。
 その上で平成8年1月25日不起訴不当の議決が下されたのです。

 この不起訴不当の内容は、I君の訴えていた看守の乱暴については直接触れず、こちらが特に訴えていなかった事件当初のI君への金属手錠を両手後ろに掛ける等の制圧行為の不当性、さらにはI君に対して平成6年11月2日午後4時44分から同月4日午後3時41分までの間の食事・用便及び就寝の際に革手錠を緩解することなく継続して施錠し、食事については段ボール箱の上のおにぎりを犬が食べるような方法で食べさせたことを暴行陵虐ととらえ、告訴事実とは別の角度から、これらの行為を特別公務員暴行陵虐罪であると断じたのです。
 これには全く驚きました。
 私の方もI君の訴えに限定して告訴事実を考えていたので、検察審査会がこのように広く事実を見つめて罰するべきところは罰するとの態度を取られたことは正直驚きました。
 ただ、I君が訴えていた看守の暴行が認められなかったのは残念でした。
 この議決を受け、現在、検察庁の方で再捜査をしているところです。
 この議決が出た時に検察庁のある幹部が検察審査会に「どうして検察審査会は告訴事実と違う事実で不起訴不当としたのか」と文句を言ってきたそうです。
 しかし、このような文句を言う前に検察庁はこの議決をもっと謙虚に受けとめるべきです。
 被害者が犯罪を犯してきた者だからという偏見があるのではないかと感じざるを得ません。
 今は、この不起訴不当の議決をふまえ、検察庁が徹底的に調べ直して正当な判断をされるのを期待しているところです。
 今後はI君とも相談し、国賠請求も考えていこうと思っています。
以 上