(1995年12月21日、名古屋拘置所で死刑執行された木村修治さんの義姉日方ヒロコさんが、執行後、木村さんの遺体と対面する場面)
弟がそこに納棺されていた。 二人に小さな数珠が渡された。 母は息子の首に手を差し入れた。15年ぶりにふれ合った母と息子。首から顎の下にかけて索条痕がくっきりとあった。眼のくまは土気色に頬は象牙色といったらいいのか、最期の苦悶が鮮やかに残っている。
公務員として15年間、同じ屋根の下に接し続けた人間が、その手で修治さんに引導を渡し、目かくしをし、首に縄をかけ、ボタンを押し、床を落とし、脈拍を調べている医師の合図を待ち、死体となった修治さんを抱え、吐いた血をぬぐい、排泄物を拭き取り、納棺するまでの刑務官一人一人の心は八つ裂きになるだろう。その日を食い止められないなんて!何という人間は恥知らずな刑罰に呪縛されているのか-----。私は教会につくなり、受付にいた女性に自己紹介もそこそこ泣き崩れてしまったのだった。