死刑執行に抗議する声明

2008年9月15日  監獄人権センター



 私たち監獄人権センターは、9月11日に行われた、大阪拘置所の萬谷義幸さん、山本峰照さん、東京拘置所の平野勇さんの3名に対する死刑執行に強く抗議する。

 今回の死刑執行は、昨年12月の執行以来5回16人の執行であり、今年だけでも4回にわたり13人が執行されている。1年間に10人以上の死刑執行を行ったのは、国連死刑廃止条約が採択される以前の1976年以来31年ぶりであり、まさに時代を四半世紀以前に後戻りさせる暴挙と言わねばならない。  特に、山本峰照さんは確定から2年4カ月、平野勇さんは確定から2年しかたっておらず、前回6月に執行された宮ア勤さんの確定後2年5カ月に続いて、確定後極めて短期間に死刑執行を行ったこと。また、8月の内閣改造をはさみながら昨年12月以来の2カ月に1度に限りなく近い執行ペースを堅持したこと。このことは、長勢・鳩山と二代の法務大臣が敷いた大量執行の道を今後も突き進もうとする法務省、保岡法相及び現政権の強い意思の表れとして、強く弾劾されなければならない。

 1989年の国連総会での死刑廃止条約の採択から19年、いまや世界の7割の国が法律上・事実上死刑を廃止し、「死刑のない社会」を実現している。アジアでも2006年にフィリピンが死刑を廃止し、昨年は韓国が事実上の死刑廃止国となった。台湾でも死刑執行を停止している。昨年12月には国連総会で死刑執行停止決議が採択され、昨年から今年にかけて国連拷問禁止委員会や国連人権理事会の日本審査においても、あいついで「死刑執行停止を含む死刑廃止に向けた具体的な措置」が日本政府に求められている。死刑廃止に向けた国際的要請を背景に、残る主要な死刑存置国である中国やアメリカ合衆国の諸州でも死刑執行を減少させいる。
 福田首相が退陣を表明したにもかかわらず、法務大臣がこのような国際的要請に挑戦するかのような重大な政治決定を行うこと自体、民主主義の観点からも決して許されるものではない。

 今年5月の秋葉原事件などの無差別殺傷事件や頻発する家族内での殺人事件をきっかけに、厳罰化がこの種の犯罪の抑止には無力であること、加害者の「自己責任」を責めるだけでは問題は解決せず、むしろ非正規雇用やセーフネットの欠如などの政治の怠慢をおおい隠すものでしかないことに、多くの人々が気づき始めている。
 犯罪行為は正当化されるものではなく、加害者側の社会的責任はそれとして問われるべきである。犯罪被害者への社会的支援は充実されるべきであり、犯罪を減少させることは誰もが望んでいる。しかし、犯罪者もまた家庭内暴力や犯罪行為や貧困や社会矛盾の被害者であったり、社会的弱者においては被害者と加害者の立場が入れ替わることも少なくないことも、また真実である。罪を犯すべくして生まれてきた人間などいない。いかなる罪を犯した人であれ、その社会復帰の可能性を断ち、彼ら彼女らを殺すことによってしか再犯を防げない社会は、誰もが生きにくい未熟な社会である。

 「死刑のない社会」の実現は、誰もの人権が保障され、誰もの命が尊重され、誰もが生きられ、誰もが生き直せる社会への第一歩であり、戦争のない社会、貧困のない社会への第一歩である。  「今なぜ日本だけが死刑存置にこだわるのか」「何のために隔月ごとに死刑執行のベルコンベヤーを回す必要があるのか」を真剣に問いかけ、死刑執行の即時停止を求める声をあらゆる分野から、政府及び与野党の国会議員に対して上げていこう。