名古屋刑務所保護房内受刑者死亡事件に関するアピール

NPO法人・監獄人権センター

法務大臣  森山 眞弓 殿

 2001年12月15日の名古屋刑務所の保護房内での受刑者死亡事件について、本日、名古屋刑務所の現職刑務官が、特別公務員暴行陵虐致死容疑で逮捕された。
 NPO法人・監獄人権センターは、設立以来、革手錠の廃止と危険な拷問装置となりうる保護房の厳格な監督を求めてきた。私たちは、一連の事件の真相解明と再発防止のために、

を要請する。

 本件は、刑務官が、消防用のホースにより、保護房収容中の受刑者の下半身に大量放水を行い、直腸裂傷を負わせて死亡に至らしめたという事件であり、虐殺ともいうべき、きわめて凄惨かつ残虐な拷問事件である。

 本件は、2002年10月4日の名古屋刑務所の記者会見を受けて福島瑞穂参議院議員が法務省に過去の死亡事案について照会を行い、10月29日に法務省から答弁がなされてはじめて明るみにでたものである。この照会がなければ重大な虐殺事件そのものが闇から闇に葬られていたのである。

 本件について法務省矯正局は、当初、受刑者自身が指を肛門に挿入し、自傷により直腸裂傷が生じたと説明していた。昨年12月10日の参議院法務委においても、法務省・中井矯正局長は、「自傷」は明言しなかったものの、同様の説明を行っている。本件についても、昨年の一連の名古屋刑務所での事件を受け矯正局内に組織された「特別調査チーム」は対象としているはずである。こうした調査が有効に機能していたのかどうかの観点から、調査の内容も公表されるべきである。また国会において虚偽の答弁を繰り返した矯正局長、法務大臣の責任もきわめて重大であるといわねばならない。

 事件については、名古屋刑務所長(久保勝彦氏、当時)から名古屋矯正管区や法務省矯正局に報告が行われ、年度終了後の昨年中には、名古屋矯正管区による管区監察において調査が行われていたはずである。事件の調査が適正になされていれば、2002年5月の受刑者死亡事件、9月の受刑者重傷事件ほか、一連の名古屋刑務所における重大な拷問事件の発生は防止できたのである。当時の所長、矯正管区、矯正局の責任はきわめて重大であるといわざるを得ない。本件について、刑務所長、矯正管区、矯正局の調査が実際にどのように行われたのかが、徹底的に明らかにされるべきである。

 今回の凄惨な容疑事実からは、刑務官の受刑者に対する根深い差別意識がかいま見える。刑務官が受刑者と接する際に、受刑者も同じ人間であるという、もっとも基礎的かつ根本的な認識に立ち帰る必要がある。そのためには、刑務官に対する徹底した人権教育が行われるべきである。この間の刑務官教育が有効であったとはいえない以上、今後は、法務省内部ではない民間の有識者も含めた独立した組織によって、国際人権基準に沿った人権教育のカリキュラム作成がなされるべきである。

 最後に、このような密室における人権侵害事件の防止には強力な調査権限を持った人権救済機関が必要不可欠である。法務省、矯正管区による調査が有効に機能していないことを考えると、人権擁護法案に基づいて法務省の外局として設置される「人権委員会」では、有効な再発防止策は不可能だと思われる。人権擁護法案は廃案にし、組織の上で法務省から独立し、強力な調査権限を有する人権救済機関の設立を強く要望する。

以上

2003年2月12日