監獄人権センター 政策シリーズ vol.1
 
 
 
 
 
 
無期懲役受刑者処遇の問題点と
 
重無期刑(終身刑)の導入について
 
〜もう一つの絶望の刑を増やさないために〜
 
 
 
 
 
弁護士  海渡 雄一    
(監獄人権センター事務局長)   
 
 
 
 
 
 
2002年10月
 
 
監獄人権センター 政策シリーズ vol.1
 
 
無期懲役受刑者処遇の問題点と
重無期刑(終身刑)の導入について
〜もう一つの絶望の刑を増やさないために〜
 
 
 
 この報告書は、NPO法人・監獄人権センター事務局長の海渡雄一が作成しました。
 
 監獄人権センター(Center for Prisoners' Rights)は、日本及びアジア地域の刑事拘禁施設の人権状況を国際基準に合致するよう改善することなどを目的に、1995年3月に結成された人権NGOです。その後、2001年にNPO法人として設立され、2002年に東京都の認証を得ています。
 
 監獄人権センターは、日常的な活動として、隔月のニュース発行、被拘禁者が施設を相手取って提起する訴訟や刑務官(いわゆる看守)の労働条件等に関する訴訟のバックアップ(現在合計15〜20件)、建設的な刑事政策の提言などを行っています。
 
 
 
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無期懲役受刑者処遇の問題点と重無期刑(終身刑)の導入について
〜もう一つの絶望の刑を増やさないために〜
                    海渡雄一(監獄人権センター事務局長)
 
はじめに
 
 現在、「死刑廃止を推進する議員連盟」の中で重無期刑(終身刑)制度の導入が検討されている。このような提案は、我が国の刑罰制度のあり方の根幹に係わる内容を含んでいる。
 もともと、このような制度は死刑廃止後の代替刑として議論されてきた。監獄人権センターは本来自由刑は社会復帰の準備のためのものであると考えており、社会復帰への道がほとんど絶たれた重無期刑(終身刑)のような刑罰はそれ自体が残虐な刑罰に該当する可能性があると考えている。
 我々はいつ処刑されるかも知らされないままに死刑囚監房に暮らす死刑確定者の著しい苦痛を考えれば、死刑廃止の導入と同時に重無期刑の導入が計画された場合、強く反対する考えは持たなかった。しかし、我々の今日得ている情報では、死刑廃止議員連盟の有力なメンバーの個人的な見解としてではあるが、死刑の廃止ないし死刑執行のある程度長期間の停止を含まない重無期刑だけの単独立法の考え方が示されている。これは死刑という絶望の刑にもう一つの終身刑という絶望の刑を付け加え、死刑判決を減少させるどころか、これまでならば無期刑とされてきた事案の一部を終身刑化する結果をもたらすだけであろう。
 本稿ではまず現在の無期刑の実態を論じて、死刑制度の廃止後の刑罰制度のあり方を論議したい。
 
 
第1 日本における無期懲役受刑者の実態
 
1 概要
 平成12年末時点で受刑中の無期刑受刑者は1,047人である。出所者の平均在所期間は21年6ヶ月である。平成3年以降、一貫して増加傾向にある。
 
【表1】          【図1】
昭和63年 834人
元年 864人
2年 888人
3年 870人
4年 873人
5年 883人
6年 894人
7年 909人
8年 923人
9年 938人
10年 968人
11年 1002人
12年 1047人
 
2 最近の無期刑確定判決(13年犯罪白書より)
 
  【表2】             【図2】









 
平成3年(91年) 24人
平成4年 29人
平成5年 27人
平成6年 35人
平成7年 35人
平成8年 34人
平成9年 32人
平成10年 45人
平成11年 48人
平成12年 59人
 
  新規無期刑確定者が激増していることがわかる。
 
3 執行済み刑期
 長期無期刑受刑者の執行済み刑期は次の通りである。
 
     【表3】





 
最長 50年2ヶ月
45年以上  4人
 40年以上45年未満  7人
 35年以上40年未満  12人
 30年以上35年未満  17人
 25年以上30年未満  27人
    (99年4月1日時点。参議院福島瑞穂議員質問主意書より)
 
4 無期刑受刑者の仮釈放者の在所期間別人員
 無期刑受刑者の仮釈放者の在所期間別人員は次の通りである。仮釈放者数が激減し、かつ在所期間自体も長期化の傾向が顕著である。
【表4】
年次
 
総数
(人数)
12年
以内
14年
以内
16年
以内
18年
以内
20年
以内
20年を越える
51年〜55年(平均人員)
51

0.8

7.6

24.2

11

4.2

3.2
56年〜60年(平均人員)
46.4

1.2

9.6

18.4

10.8

3.8

2.6
61年 28 3 15 6 2 2
62年 25 2 2 12 7 2
63年 11 1 5 2 1 2
元年 13 5 1 3 4
2年 17 5 3 4 5
3年 33 1 12 8 6 6
4年 21 6 1 6 8
5年 16 1 4 5 4 2
6年 15 8 3 4
7年 15 1 5 4 5
8年 9 1 5 3
9年 13 1 4 8
10年 14 5 9
11年 9 3 6
12年 6 6
 注 1 保護統計年報による。
   2 無期刑仮出獄が取り消された後、再度仮出獄になった者を除く。
(平成3年と13年の犯罪白書から作成)
 
 このように、無期懲役受刑者の仮釈放者数が激減していることがわかる。確かに、1980
【図3】                             年代半ばまでは毎年50名程度の無期懲役受刑者が20年以内で仮釈放されていた。ところが、80年代の後半から仮釈放が減り始め(88年から90年は10名台)、90年代はじめに30人以上に回復するものの、その後も減り続け、96、99、2000年には遂に仮釈放者数は一桁となっており、最新の2000年のデータはわずか6人である。
 このように、極端に仮釈放の審査・決定が制約されていることがわかる。このことは、何らかの刑事政策上の重大な決定がなされているものと見なければならない。
 
 
第2 長期の昼夜間独居拘禁とされている者の多くが無期懲役受刑者
 
1 昼夜間独居拘禁とは
 昼夜間独居拘禁とは刑務所内の規律秩序を害する恐れがあるという理由で、受刑者を工場に出さないで、作業は狭い房内で、袋貼りなどの作業を行なう特別の処遇である。根拠は監獄法施行規則の47条で、「戒護のため隔離の必要ある」場合とされている。矯正局の編集した職員研修の教科書「行刑法」では、対象者は「1 他の者と全く共同生活ができない特異な性格を有する者、2 暴力的傾向や他の被収容者を扇動する性癖を持っていて、共同生活をさせる場合には、行刑施設の保安を害するおそれが特に顕著な者、3 他の者から、精神的、身体的圧力を受けやすい者」とされている。
 処遇の内容は作業以外の運動や入浴も一人だけで行なうのが原則である。所内のレクリエーションなどに出席することは認められず、通常の居房には設置されているテレビもない。房内では、作業中だけでなく、日課外の時間であっても、就寝時間前は、座った姿勢が強制され、立ち上がったり、壁によりかかったり、足を崩して伸ばすこと、立て膝なども禁止されている。
 房の外に出られるのは運動と入浴と面会の時に限られる。運動は土・日・祭日と入浴日(週2〜3日)、雨天の日には実施されない。一回の運動時間はわずか30分で、通常の受刑者は広い運動場が使えるのに対して、独居者の運動場は鳥小屋と呼ばれている扇形の狭い檻のような空間である。そして、独居拘禁中は、房外に出たときも、他の受刑者との会話や看守との私語が厳格に禁止されている。家族の面会がなければ全く言葉をしゃべらない生活が続くことになる。精神的、肉体的にあまりにも過酷な処遇である。
 
2 独居拘禁の実態
 衆議院植田至紀議員の質問主意書に対する2000年12月26日付の答弁書で、昼夜間独居拘禁を受けている受刑者は全受刑者の4パーセント以上、数にして2000人以上、最長で37年、10年以上が28人(2001年7月の法務省調査では26人)、5年以上が65人に達していることが明らかになった。このうちの岐阜刑務所の1名を除いて全員が無期懲役受刑者である。37年の独居拘禁は世界的にも類例を見ない過酷な状態である。また、北九州医療(8人)、岐阜(5人)、旭川(2人)、宮城(5人)、大阪(4人)、八王子医療(1人)、広島(1人)に10年以上の長期の独居拘禁が集中している。
 
3 国際人権基準に違反
 厳正独居に類似した処遇は諸外国においても全く見られないものではないが、その処遇の内容には他に見られない特徴がある。最大の特徴は期間が著しく長いということである。また、房内での行動が制限され、特定の姿勢が強制されている。このような例は世界的にも例がない。人間が立ったり、座ったり、手足を動かしたり、色んな方向を向いたりすることは、人間の最低限の自由の中核的部分といえる。被拘禁者の監視、保護のため、このような基本的自由までが制約されることは、到底合理的とはいえない。長期にわたる場合には、腰痛その他の身体の障害にもつながりかねない。また、社会復帰を困難なものにしてしまう。また、ヨーロッパでは常識の房内での所持品や居房の広さなどについての特別の保障もされていない。戸外運動時間が週に1時間程度で著しく不足している。他の受刑者・看守との精神的な接触が断たれているため、心身の健康がむしばまれる可能性が高い。
 また手続的にも長期の厳正独居については刑務所長の権限だけでなく、上部機関の承認や裁判所の許可が必要としている国も多くある。日本のように刑務所長の権限だけで何年間にもわたって独居を続けることができるというのはあまりにも乱用の危険が大きいといえる。
 我が国の異常に長期におよぶ独居拘禁は、自由刑の基本が社会復帰にあるという考えに日本の矯正当局が立っているかどうかが試されている、極めて重く本質的な問題をはらんでいる。
 
 
第3 無期懲役と仮釈放
 
1 仮釈放制度
 刑法28条の定める制度で法文上では仮出獄となっている。「改悛の状」が要件である。決定権は地方更生保護委員会(各高裁所在地)にあり、申請権は各刑務所長にある。被拘禁者による仮釈放の申請権は否定されている。
 
2 要件の主観性
 犯罪への「改悛」は有罪の自認が前提の概念である。再審請求をしていることは改悛なしと認定される傾向にある。再審請求中に仮釈放が認められた例として、村上国治さん(白鳥事件)、石川一雄さん(狭山事件)、李得賢さん(丸正事件)、桜井昌司さんと杉山卓男さん(布川事件)などの例がある。しかし、いずれも強力な外の支援運動が勝ち取った例外的なケースと考えられ、無実を訴える無期懲役受刑者の仮釈放は極めて困難なものとなっている。
 そもそも受刑態度の評価は主観的なものとなりやすい。より客観的指標(無事故、プログラムへの積極的な参加)による判断によって恣意的な判断がなされないように制度を改めていくことが必要である。
 
3 秘密通達
 検察庁が無期懲役者の仮釈放について新たな通達を出していたことが2002年1月8日朝日新聞の報道によって判明した。無期懲役の中に仮釈放の認められない特別の類型を作っていることが判明したのである。この通達は前文しか公開されていない。本文はかなりの長文で、さらに通達を適用する個別事件に言及した別表が存在する。まず通達全文の内容を明らかにすることが最初の課題である。
 通達の中で最高検次長検事は、検事長に対し、無期懲役刑が確定した事件のうち、「動機や結果が死刑事件に準ずるくらい悪質」などの「マル特無期事件」について、刑務所長・地方更生保護委員会からの意見照会に対し、「仮出獄不許可」の意見を作成し、事実上の「終身刑」とするよう求めている。記事によれば、「『マル特』に指定されるのは、動機・結果の悪質性のほか『前科・前歴、動機などから、同様の重大事件を再び起こす可能性が特に高い』などと判断した事件。すでに指定されている服役囚もおり、一連のオウム真理教事件の被告も指定候補になっている。具体的には、地検や高検は最高検と協議。指定事件に決まると判決確定直後にまず、刑務所側に『安易に仮釈放を認めるべきではなく、仮釈放申請時は特に慎重に検討してほしい』『(将来)申請する際は、事前に必ず検察官の意見を求めてほしい』と文書で伝え、関連資料を保管する。その後、刑務所や同委員会から仮釈放について意見照会があった際に、こうした経緯や保管資料などを踏まえて地検が意見書を作成する」、ということである。
 なお、犯罪白書は無期懲役の場合の仮釈放審査について次のように記載している。
 
○長期刑受刑者に対する仮出獄審理の充実強化(13年犯罪白書)
 地方委員会では,無期刑受刑者を含む,執行すべき刑期が8年以上の長期刑受刑者の仮釈放審理に当たっては,本人の心身の状況,被害者感情をはじめ,関係事項について特に周到な調査と審理を尽くすとともに,本人に対する指導・助言,帰住予定地の環境調整等に格別の配慮をしている。
これらの者に対しては,地方委員会事務局の保護観察官による調査をできるだけ早期に開始し,これを定期的に実施するとともに,主査委員による複数回の面接や複数委員による面接を 行うなど,慎重な審理を行っている。
○長期刑仮出獄者に対する保護観察(13年犯罪白書)
無期刑を含む長期刑仮出獄者に対しては,特に保護観察の充実・強化が図られている。
地方委員会が相当と認め,かつ,本人の同意を得た事案については,仮出獄当初の1か月間,更生保護施設に居住させ,早期に円滑な社会生活へ移行させることを目的とした処遇を計画的・集中的に行う中間処遇を実施している。平成12年の中間処遇実施対象者は116人である(法務省保護局の資料による。)。
さらに,平成12年7月から,仮出獄後1年間(仮出獄の期間が1年に満たないときは,その期間)を重点的な処遇期間として,この間の保護観察官による直接的関与を強化するほか,被害者及び遺族に対する被害弁償・慰謝の措置の具体的方法について保護観察開始当初から継続的に指導・助言していくなどの処遇を実施することとなった。
 
4 仮釈放制度と累進処遇
 行刑累進処遇令の改正により現在は既に削除されているが、旧法の第89条、90条は累進処遇一級、二級受刑者の仮釈放について規定していた。現在の法的な根拠は明確ではないが、今日に至るまで、二級になることが、施設長の地方更生保護委員会に対する仮釈放申請の前提になっている。
 
5 懲罰と仮釈放
 長期の場合、懲罰は累進級の降下とも連動し、不利益性が極めて大きい。にもかかわらず、懲罰に対する手続的な保障は全くない。書面による告知、証拠文書の閲覧、証人申請権、弁護士の立ち会いなどの手続的な保障が否定されているのである。仮釈放の機会の喪失という実質的な刑期の長短を左右するという点で、長期刑受刑者に対する懲罰には、弁護人を選任すべき「司法の利益」があるといえる。長期刑・無期刑受刑者に限定してでも、懲罰事件に関する必要的弁護制度の確立が望まれる。
 
 
第4 仮釈放のない終身刑の提案
 
1 死刑廃止のステップ?
 現在、死刑を廃止するためのステップとして、無期懲役と死刑との溝を埋めるためとして、仮釈放のない終身刑の導入が提案されている。
 終身刑の導入と同時に確実に死刑が廃止となるならば、話は別である。しかし、現実に進んでいる事態は、「死刑廃止のための環境を整備するため」と称して、終身刑の導入だけが実現し、死刑廃止は彼方に先送りされてしまう危険性が増している。現実に死刑廃止議員連盟の中でこのような内容の提案がなされていると聞いている。そして、このような提案が現実のものとなる危険性は高いと見なければならない。
 
2 自由刑概念の転換もたらす終身刑の導入
 終身刑は、それ自体がきわめて残酷な刑罰である。このような終身刑を大量に科しているのが世界有数の死刑大国アメリカであることに目をふさいではならない(死刑と終身刑の双方の制度を持つ州は32に及んでいる。死刑も終身刑もないのが10州、死刑がなく終身刑だけがある州はわずか6州に過ぎない)。
 終身刑のような刑罰を認めることによって自由刑の「社会復帰目的」という概念に、これと全く対極と言うべき「社会からの排除」「犯罪者の無力化」(incapacitate model)という概念を持ち込むこととなる。アメリカは、過剰拘禁と厳罰化がもたらす、刑罰制度の非人間的な姿の世界的な象徴である。終身刑の導入は、進み始めた過剰拘禁とセットで、日本の比較的安定していた刑罰制度を堀崩し、一気にアメリカ化していく突破口となるかもしれない。
 
3 ドイツの教訓
 ドイツでは1949年に死刑を廃止し、終身刑を導入した。しかし、終身刑が「生きながらの埋葬」であると批判され、1981年終身刑を廃止した。
 
 
第5 CPT勧告に見る無期および長期刑受刑者の社会復帰のための課題
 
 ヨーロッパ拷問等防止委員会(CPT)はヨーロッパ拷問等防止条約に基づいて設立された条約委員会である。この委員会は加盟国の拘禁施設を定期的もしくは臨時に訪問し、拷問や非人道的な取り扱いの防止のための勧告を広範に行ってきた。CPT第11回年次報告(2001年9月)に「拘禁に関する基準に関する最近の発展」に終身刑などに関する貴重な勧告が掲載されている。以下に該当条を翻訳掲載する。
 
<終身刑およびその他の長期刑受刑者> 第33項
「多くのヨーロッパ諸国において終身刑とその他の長期刑受刑者の数は増加している。我々のいくつかの訪問において、このような被拘禁者が物質的な条件、諸活動、人間的な接触の可能性などの点で改善が望ましい状況に置かれていることを発見した。さらに、多くのこのような被拘禁者は長期の拘禁に固有の心身に有害な影響をさらに悪化させそうな特別の制限を課されていた。そのような制限の例は刑務所の他の被収容者との永久的な隔離、房外に出る際には常に手枷をされること、他の被拘禁者とのコミュニケーションの禁止や面会の権利の制限等である。CPTは特定のタイプの判決を科せられているすべての被拘禁者に対して、彼らの示している(あるいは示していない)個別のリスクに十分な考慮を与えることなく、このような制限を無差別に適用することに如何なる正当性も認めることはできない。
 長期の拘禁刑は被収容者に対して、数々の非社会化の影響を持ちうる。加えて、施設化された長期刑被拘禁者は幅広い心理的な問題を経験し、社会からますます隔絶されていく傾向を持っている(これらの心理的な問題には自己評価の喪失、社会的なスキルの損傷を含む)。しかし、この社会に対して、すべての被拘禁者は最終的には戻っていくであろう。CPTの見解によれば、長期の刑を勤める被拘禁者に提供される刑務所の処遇体制は、これらの影響を積極的で活動的なやり方で補償するものでなければならない。
 このような被拘禁者には様々な性質の有益な活動に対するアクセスが認められなければならない(このような活動には労働、望むべくは職業訓練的な価値のあるもの、教育、スポーツ、レクリエーション/交際を含む)。さらに、彼らはその時間をどのように費やすかの方法について選択権を行使できなくてはならない。このようなやり方は、自治の感覚と個人的な責任感を培うことに資するものである。彼らの拘禁期間について意味を与えるためには、さらなるステップが採られるべきである。特に、個別的な拘禁計画の提供、適切な心理的社会的なサポートは、拘禁の期間の経過に応じて、また、釈放の時が来たときに、このような被拘禁者をサポートするに当たっての重要な要素である。さらに、もし、外部の世界とのコンタクトが効果的に維持することができれば、長期刑を勤めてきた被拘禁者に対する施設化の否定的な影響はより目立たなくなり、釈放に対してもよく準備ができることになるだろう。」(翻訳 海渡雄一)
 
 
第6 今後の課題
 
1 無期懲役受刑者を必ず社会に復帰させるという決断が必要
 まず第一に強調しておきたいのは、無期懲役受刑者は社会に復帰できるし、復帰させることについて、市民社会も国家機関も一定のリスクを覚悟の上で決断しなければならないということである。ヨーロッパでは死刑を廃止しただけでなく、長期刑についても20年を最高とする国が増えている(ドイツ、スウェーデン等)。無期刑についても必要的な仮釈放制度を持つ国が増えている。これらの国々ではどのような凶悪犯罪を犯した犯罪者も必然的に社会に帰ってくるということを前提として、すべての刑罰制度を構想しなければならなくなっているのである。換言すればこのような国家は、このような受刑者を社会に危険をもたらさないように更生させた上で、社会に復帰させる=再社会化する責務を負っているといえる。
 社会復帰=再社会化を明確に意識すれば、無期懲役受刑者の人間性を破壊し、社会復帰を困難にしてしまう昼夜間独居拘禁、受刑中の外部交通の厳しい制限などの様々な非人間的な処遇を減らすことについて、新たな意味あいが生じるだろう。また、釈放後の再犯の可能性を少しでも減らすために、帰住先に対する積極的な環境整備、労働や住居の確保、教育的・心理的なカウンセリング・プログラムの実施なども積極的に取り組まれることとなろう。
 
2 進行しつつある無期刑の終身刑化の傾向をもたらしたもの
 【図4】                             しかし、日本の実情はどうやらこのような前提が揺らいできているようにみえる。10年ぐらい前までは、無期確定者数と仮釈放者の数のバランスがとれていた。このことは、例外的なケースを除けばほとんどの無期懲役受刑者が時期の前後はあっても社会に復帰できたことを示している。しかし、最近のデータを見ると、無期確定者が激増しているのに対して、仮釈放者数は激減している。約1000人の無期刑受刑者がいるにも係わらず年間の仮釈放者が6名という実態を放置すれば、ほとんどの受刑者は実質的な終身刑を科され、獄内で一生を終えることとならざるをえない。釈放の希望のないところで社会復帰のための処遇は成り立たない。現実の無期刑そのものが絶望の刑となりつつあるのである。犯罪に対する厳罰化を求める市民の声、被害者の権利の強調、検察庁の秘密通達などがこのような実態をもたらしたといえるだろう。
 
3 まず、実態の共有化と情報公開から
 まず、今日の無期懲役の終身刑化の根拠となっていると考えられる検察庁秘密通達の全文を公表させ、これを検討する必要がある。さらに、無期懲役受刑者・独居拘禁処遇受刑者に関するデータの公開の要求や、無期懲役受刑者のうち仮釈放で出所する率の異常な低下の理由を国会などの場で明らかにさせるなどの情報の公開のための諸活動に全力で取り組む必要があるだろう。このような地道な調査活動の中から、無期懲役受刑者の処遇改善の糸口を見つけていきたい。
 
4 長期的な目標は義務的仮釈放制度の導入
 より恣意性の少ない、仮釈放制度の創設が望まれる。
 ヨーロッパ諸国では、受刑者が施設内で事故がなく過ごすことができれば、一定の期間の刑期を自動的に削減する「善時制度」を採用している。日弁連の刑事処遇法案や刑事立法研究会の刑事拘禁法要綱案でも、このような考え方が採用されている。このような制度の採用こそが、無期懲役の終身刑化を防ぐ唯一の道のように思われる。
 
5 死刑制度にもう一つの絶望を付け加える終身刑の導入に反対する
 死刑制度を廃止するか、あるいは最低限死刑をある程度長期間執行停止することと同時に導入される終身刑については、絶対悪である死刑を廃止するための一つの選択肢として理解できなくはない。決してこのような制度を容認しないし、このような制度が導入されれば、その改善に取り組むことを留保しつつ、このような法案の制定にあえて反対する活動は控えるつもりであった。
 しかし、終身刑だけの単独立法、死刑と共存する終身刑は、その持つ意味が全く異なる。現実の無期刑の一部が実質的な終身刑から形式上も無期刑に転換されるだけであり、死刑は減少せず、むしろ通常の無期刑の対象とされて来た事件の終身刑化をもたらすことだろう。死刑制度の廃止なき終身刑の導入は、死刑という絶望の刑罰に終身刑というもう一つの絶望を付け加えるものであり、我々は絶対に反対である。
 
弁護士  海渡 雄一  
監獄人権センター事務局長