(週刊金曜日409号、2002.4.26)

もし、どこかの国に武力攻撃されたら?

サンホセ市民に直撃インタビュー

藤原真由実:弁護士

 一昨年コスタリカを訪れた時、「コスタリカが五○年以上軍隊をもたずにやってこれたのは、市民社会のパワーのおかげです。国民がお祭りのように楽しむ大統領選挙を見てください。そのことがはっきりわかるでしよう」とアドバイスされた。今年の二月三日がその大統領選挙とのことで、現地に飛んだ。

 コスタリカは、一九四九年から今までに、七〇回近く憲法を改正している。それほど憲法改正は頻繁に行なわれているのに、軍隊廃止条項を変えようという改正案は提出されたことがないという。また、憲法は自衛のための再軍備の余地を残しているのに、再軍備の勤きもほとんどなかったというのである。これは一体なぜなのか。フィゲレス元大統領の妻カレンさんが述べた「コスタリカは『軍隊はいらない』という考え方をみーんなが共有している国でございます」という言葉は、本当なんだろうか。ようし、大統領や政府関係者など「エラい人」ではなく、ごくフツーの市民みんなが本当に「軍隊はいらない」と思っているのか、直接取材してみようと、サンホセ市街に出撃した。

 インタビューしたのは、国立博物館の警備員、露天商のおじさん、女子学生、デート中の鳶職人、家政婦、タクシーの運転手など。彼らに「自分の国に軍隊がないことをどう考えているか」「他の国から武力行使された時のことを考えると不安を感じないか」「どうしてそう思うのか」など、しつこく聞いてみた。すると、何と全員が「軍隊を解散してその費用を教育や福祉に回したのは正しい」「軍隊なんていらないよ」と回答。「軍隊がないことに不安を感じる」と答えた人は誰一人いなかった。「軍隊はないほうがいい」理由を列挙すると、次のとおり。

 私たちの質問に、「なぜそんな現実的でないことを聞くの?」と言いたげな人が多く、取材している私が逆に質問されることも。コスタリカ市民は、「軍隊がないから」平和に暮らせると言い、「軍隊がなくても」平和に暮らせるとは言わない。また、平和は毎日の生活の中で「創っていくもの」で、「平和を守る」という表現をする人もみあたらなかった。日本ではよく耳にする「仮想敵国」論や、「世界情勢がどうだからわが国はこうすべき」といった話も聞かれず、むしろ軍隊を持つと国民の生活が貧しくなるとか、紛争の危険性が大きくなるという具体的な現実から考えていること、紛争を予防する努力や対話の大切さを自分の言葉で一生懸命誠実に説明してくれるのが、何とも新鮮で感動的だった。

「軍隊の廃止は偉大な実験でした」と言う大学生のロイ・ムリーリョ・セケイラ君(一九歳)は、「コスタリカは平和と民主主義を世界にも広げようとしているんです」と続けた。コスタリカでは、子どもの頃からの「家庭の中から平和の推進者になる」実践的な平和教育が、ここまで浸透しているのである。


資料インデックスページに戻る