(毎日新聞2002.4.3夕刊より抜粋)

元祖「コスタリカ方式」の選挙
平和と民主の「祭典」を見る

竹村 卓
駿河台大学

 「軍隊をすてた国」として知られる中南米の国コスタリカ。1949年制定の現行憲法第12条によって軍備を廃止して今日まで50年以上、内紛が絶えない他の中南米の国とは異なって、「非武装平和」という理想の国づくりを、何度かの危機を乗り越えて進めて来た。
 この間87年に、当時のアリアス大統領がノーベル平和賞を受け、国際選挙監視団に積極的に参加するなど、したたかな外交努力も認められる。しかし「平和の国づくり」は、国家予算の30%前後を教育にあてるなど高い教育水準に支えられた、この国独自の民主的な仕組みのたまもの、とも言われている。この度筆者は、青年法律家協会有志のコスタリカ視察団と帯同して、2月3日投票された大統領・国会議員・地方議員の総選挙を観察する機会を得た。
 驚いたことに、今回われわれをはじめジャーナリストなど、外国人が千人以上も選挙視察に訪れている。人口約382万人、小国と言えるコスタリカの平和主義、進んだ民主的な制度などが人をひきつけるのだろう。
 この国では、外国人も最高選挙裁判所TSEに登録すると、投票用紙見本をはじめ選挙関連資料を提供され、TSEや投票所内部の取材・見学が可能となる。このオープンな姿勢の背景には、公正な選挙への自信と同時に、選挙を機に「平和と民主の国」コスタリカを世界にアピールする狙いがあると思われた。
 注目の大統領選挙は、国民解放党PLN・キリスト教社会連合党PUSCの2大政党に加え、新党市民行動党PACが支持を伸ばし、三つ巴の激戦だった。平和主義は当然とされ、政策的には経済問題、とくに自由化をこれ以上進めるかどうかが争点となった。結果は有効票の四割を獲得した候補がなく、4月7日上位のPUSC・PLN両候補の間で、現憲法の下で初めての決選投票が行われる。
 コスタリカではサッカーと並んで選挙はお祭りである。支持する党の旗を家に立て、選挙集会には様々な選挙グッズを手にした支持者が集まり、それを目当てに物売りも登場する。投票前夜各党支持者が自動車に党の旗を掲げて、クラクションを鳴らし続けるなど暴走?行為を楽しんでいた。異なる党の旗を、同じ車に立てる姿も珍しくない。今回大統領選挙には13、選挙全体では38の政党が候補を立てている。
 公正な選挙のために、TSEには独立性と強い権限が与えられている。初等教育高学年(日本の小学5年〜中学2年)用社会科教科書にも「多くの人が、TSEを立法・行政・司法の三権に続く国の第四権と認めている」とある。有権者はTSEから写真付IDカードを交付され、指紋を登録する。全国6681ヵ所の投票所(兼開票所)は学校の教室、そこで指紋押捺照合の上投票する。身代わりなど不正投票を排除するためである。
 TSEは投票4ヶ月前から、道路封鎖など選挙関連の警察活動もすべて管轄する。投票日前後3日間酒類の販売は禁止、レストランなどのアルコール類は封印される。そのため休業するカジノ付バーもあった(TSEの独立、選挙の自由と公正確保の背景には、不正選挙疑惑に端を発した1948年の内戦がある)。
 日本では衆議院議員の候補者が、小選挙区と比例区を選挙ごとに交代することを、誤って「コスタリカ方式」と呼んでいる。しかし、コスタリカの国会(一院制)議員選挙に小選挙区はない。全国7つの大選挙区、選挙区ごとの拘束名簿式比例代表制である。しかも候補者の4割以上は、女性でなければならない。憲法によって、大統領は終身再選が、2名の副大統領(次期大統領に出馬禁止)と国会議員は連続再選が禁止されている。進んだ「コスタリカ方式」、本当の姿には驚かされることが多い。
 4月の決選投票後には、コスタリカ代表が出場するサッカーのW杯が待っている。平和と民主のコスタリカ方式、その母国の人々が沸く祭典は当分続きそうである。


報告書インデックスページに戻る
資料インデックスページに戻る