「そうだったかのか!」「やってみよう!」を喚起する
−新ブックレット『ぐるぐるめぐりの創造的まち育て』のオモシロサ5つ−      2003.06


作者のイギリスのH.ジラルデッドは、大学教授、ものかき、加えて映画制作者です。原著名の『サスティナブルシティ(持続的都市)の創造』は、ひとりひとりがよりよく生きるミクロから惑星全体の生命システムのマクロまでの有機的つながり、経済も社会も文化も環境もが循環するつながり、いわば森羅万象がぐるぐるめぐるつながりのよい状況づくりの必要性と可能性についてかかれています。そこで翻訳書としては『ぐるぐるめぐりの創造的まち育て』というボーンセンター発行らしいタイトルとなっています。

本書のオモシロサは次の5点にわたっています。第1に、主題に関する歴史的ものの見方の大切さです。例えば、イラク戦争の報道に登場したウル(メソポタミアの約3500年前の古代都市)も、古代ローマも滅びた最大の理由は、水や食料などの資源を得る周囲の環境と持続可能な関係を築かなかったことにありました。19世紀の半ばのイギリスで土地が疲弊しはじめた原因は、水洗便所のために、糞尿を集めて保管することがなくなり、農牧地にリン酸塩が絶えず奪われ、土地の養分のバランスが崩れるという近代システムの出現にありました。等々と、この本には、人類史全体にわたる都市化と持続可能な開発の接点の大切な歴史的ポイントについて「そうなのか!」とうなづかせてくれる内容にあふれています。

第2に、現代文明社会における持続可能な都市づくりのものさしを具体的に差し示しています。例えば、人間活動の持続可能性を評価するために、カナダの生態学者であるウィリアム・リースらの「エコロジカル・フットプリント」という概念を紹介しています。その定義は、都市あるいは国に食料ないし、木材を供給し、二酸化炭素などの排出ガスを吸収するために必要な土地面積のことをいいます。ロンドンのフットプリントはその面積の約125倍にも及んでいます。今や人間居住地に占める生態学的な場は、地理的な場と一致しません。しかし、ぐるぐるめぐりを達成するためには、都市はよその土地への依存度を減らす積極的努力が不可欠です。

第3に、「ぐるぐるめぐりのまち育て」を、多面的包括的に方向づけていることも本書の内容に深みを与えています。持続可能な都市とは、公正な都市(正義、食料、住居、教育、健康、希望が公正に配分される)やエコロジカルな都市だけではなく、美しい都市、想像的な都市(市民の開放的な心や人的資源がフルに活用される)、コンタクトしやすく動きやすい都市、コンパクトで多中心的都市などの諸側面のひろがり、人々の活動とインスピレーションを生みだし、生き生きとした公共生活を育む、という「まち育て」の視点の重要性が含まれています。

第4に、これらを実現しうるユニークなケースが生き生きと語られることです。例えば、イギリスの荒廃した高層ビル街を再活性化したプロジェクトは、不毛な荒廃地、瓦礫、放棄された敵対的なむき出しの環境劣悪化の状況に、地元の人々が関わりあいをもつことによって、自分たち自身を変え、その場所を美しい平和な場所に変え、花や自然に満ち、野生動物の水飲み場があり、野菜その他の作物が育ち、人々には安心感があり、所有と自由の感覚がある場所に改善されました。本書にはこうした都市再生物語の典型事例がコラム的にちりばめられています。

第5に、「ぐるぐるめぐりのまち育て」は、物質と精神の新しいバランスを創りだす、豊かな文化育みの活動であることが明らかにされていることです。これまでの都市づくりを支えてきた価値体系、さらには、私たちの文化を変えることをなしには持続可能な都市は実現できません。「人が変わればまちが変わる」ような根本的な市民の生き方の姿勢の変化、精神的・倫理的な変化が、新しい政治姿勢と経済活動を伴って初めて、都市が真に持続可能となることができるのです。

ボーンセンターの会員の塚田幸三さんは、この度も、この上ないオネウチモノをわかりやすい訳で私たちに届けて下さいました。会員内外に広がることはもちろん、具体のプロジェクトにその精髄を生かすとともに、千葉における都市の持続可能性の総合戦略や政策の提案活動にも生かされていくことを期待します。

延藤安弘

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