ネットワーク力とマネジメント力をもって廃棄建築に市民活動の生命を吹きこむNPО           2002.8



地域のタカラとロマンの継承・再創造

今や、都市も田舎も空き家多発の時代である。

住居や建築は、人が住まなくなり使われなくなると急速に衰えをみせ、やがて、壊されていく。しかし、今、注目すべきは、NPO(特定非営利活動法人)が、日本全国の各地域の空家、空蔵、空工場、空店舗や公的遊休施設などに新しい生命を吹きこみつつある動きである。

例えば、先日訪ねる機会のあった愛知県の知多半島。かつて、ここには新見南吉が『ゴンギツネ』の物語を、杉浦明平が多くの秀逸な文学作品を創り、造り酒屋や織物産業が盛えた多様なタカラを誇る、独特のロマンかおる地域である。そこでは、かつての地域のタカラとロマンを、高齢少子、経済衰退の新しい困難がひしめく時代の流れの中で、「最も個性的なやり方で」「自己の独自性」を発揮しつつ、タカラを継承・再創造し、新しいロマンを紡ぐことを、今日、NPOと住民が実践しようとしている。

廃棄建築の再生は使い方如何

知多市のNPO「ゆいの会」は、構造不況の中廃業した知多木綿の織物工場を活動場所にしている。そこでは、地域住民は家事援助・介助・子育て支援などの助け合いサービスや移動サービスや配食サービスを活用できる。加えて、さおり織り、陶芸、絵てがみ、パソコン、紙すきなどのふれあい活動に参加できる。月2回土曜日行われている子どものための「アート・スコーレ」という美術工芸制作活動も行われている。

最初、NPOはこの工場の事務所部分から使い始め(家賃1万円)、市民活動のニーズの育みとともに、NPOと住民はうち捨てられていた空間の清掃・メンテナンスを丁寧に行ない、今では約1,000uの敷地内の工場建物全てを生き生きと使いこなすようになっている(家賃9.5万円)。

ノコギリ型屋根の工場棟と切妻の美しい事務棟がたたずんでいる建物たちは、こうして滅びていく傾向にあった空間から、人々の心のこもった使用という生命が注入されて、すっかり、生彩のある場所に変容していった。それらは周辺民家と連なりあって、地域に内側からの元気の湧きあがる新しい風景をかもしだしている。道から建物の内部をみやると、住民の女性が織機にむかって、さおり織りに夢中になっている姿や、お年よりたちが歓談しながら陶器づくりを楽しんでいる様子がうかがえる。このようにユーザーが生き生きとその場所を使いこなしている時、建築はつくり手だけでなく、使い手によって生命を授けられ生き永らえさせられていくのだということをあらためて感じる。とともに、古い建物を構成する木や土壁や土間や瓦や建具の模様入りガラスや窓の外のヨシズなどが、人々にとっても和らいだ気分を届けている。複数の建物のつなぎ目のスキマからもれている光の束の清々しい美しさは、ユーザーたちにハッと息をのむような、無意識の気もちよさをとどけている。

古いうち捨てられていた地域のタカラが、状況の変化の中でこのような創意的使い方がなされる時、地域の住民の心の中にはこの地域のかつての出来事の意味あることが呼び覚まされる「共同記憶」の回復・共有がなされていくであろう。とともに、そこには、高齢者から子どもまでの日々の出会い・ふれあい・気持ちの高まりあいの現実的な意味あることが次から次へと起こる生活現場がたちあらわれている。

子どもと障害者とニワトリと

工場だけではない。もちろん民家という伝統的住居の空家活用においても上のことはいいうる。NPO「ネットワーク大府」は「住み慣れたところで生き生きと安心して暮らしたい」という住民の願いを実現するために、民家(空家)を改造して、デイサービス、家事・介護援助、子育て支援などの助け合いサービス、及び、訪問介護や通所介護やケアプラン作成などの介護保険サービスの場所として生かしている。

そこは、かつての伝統的住居のもつ縁側、四ツ間取り、土間などが相互に浸透しあいつつ、高齢者たちの安心居場所が見事に再構成されている。梁背の高い立派な梁や、棹縁天井の木目の美しさ、大黒柱の親しみ深い太さなどは、現代建築が模似できないさりげない豊かさをユーザーに提供している。そこには、現代の施設のありがちなおしつけがましい固い空間をこえて、人々の心身をつつみこむ柔らかな場所の実現がある。これからの時代の住居や施設の公共性は機能的充足だけではなく、精神的充足が問われてくる。

障害者の心身をつつみこむ柔らかい場所の実現としては、半田市にあるNPO「ふわり」の「なちゅ」と呼ぶ「駄菓子屋つき喫茶店」は見逃せない。幼稚園を改造してつくったそれは深いひさしの下に机と椅子がおかれ、学校帰りの子どもたちのたまり場となっている。障害者たちがゆったりと個性的に働いている姿がこの場所にいっそうの輝きを与えている。障害者や若者たちの運営する、ヤギもいる「ニワトリ小屋ふわり」の生みたて玉子は、そこの料理のモトとなっている。ここには「生きとし生けるものみんなつながって生きる」の発想が脈うつ21世紀的な場所の設計へのヒントがこもっている。

ネットワーク力とマネジメント力

すでに紙幅がつきた。最後にNPOとして学びたいことをひとつ。NPO「地域福祉サポートちた」は、ここでとりあげたNPOをはじめ、知多地域(5市3町)に密着した住民互助型在宅福祉サービス17団体のネットワークの要となり、人材育成、活動支援を行ない、行政をパートナーとし、市民主体の新しい価値観と社会全体のバランスのとれた地域発展に寄与していることである。そのネットワークの実力はスゴイ。

加えて、マネジメント能力、経営・経理の手法とセンスにたけた運営が事業としての円滑な発達を支えていることである。

いづれ機会をみてあらたに、このNPOのネットワーク力とマネジメント力に深く学ぶ時をもちたいと思う。




延藤安弘



BACK