書籍紹介

「美しい都市をつくる権利」 五十嵐 敬喜 著 (学芸出版社、 2002 年 3 月発行)


●紹介者:成岡 運営委員

「美」を真の社会変革のキーワードとして、まちづくりの中に位置づけ、社会論、憲法論まで、掘り下げて論じた力作。著者である五十嵐敬喜は、 70 年代に日照権紛争を取り仕切った闘う弁護士である(現在、法政大学法学部教授)。建築基準法上の適法な建物が地域環境を侵し、それを手助けした建築家の姿勢を問い、建築家の顕名運動を提唱した。

その後 80 年代に入って、「都市を考える法律家と建築家の会」を私たち建築や都市計画分野の人間と学習会を 10 数年続けた。この間、都市問題に対し発言を続け、中曽根民活アーバン・ルネッサンスの矛盾点と闘い、日韓台の市民交流を進めると共に、クリストファー・アレグザンダーが提唱するユーザーパーティスぺーションに基づく、パターンランゲージによる建築づくりに関心を持ち、埼玉県の盈進学園高校等の建築計画に取り組んだ。

この延長線上で、神奈川県真鶴町に「美の基準」に基づく創造的まちづくり条例をつくり、未線引き白地地域に押し寄せた、リゾート開発に対抗する新たなシステムをつくりあげた。

今回の著書は、この問題意識をさらに発展させたものである。21世紀に入り、小泉改革の「聖域なき構造改革」が、かけ声倒れに終わり先行き不透明の状況となり、さらに昨年9月に起こった世界貿易センターのテロの流れの中で、イラクや北朝鮮との戦争がいつ起こってもおかしくない世界情勢であり、これを受けて憲法の規定を無視した有事の体制を整えつつある権力状況。

これらの閉塞した状況の中で、「美」を手がかりに、自立した市民社会をつくりあげ、戦争でも破壊されない美しい都市(例えば、ハイデルベルグ、京都)を創ろうとする著者の情熱が伝わってくる。アレグザンダーは「美」

「名づけ得ぬ質」と定義した。「美」は日常のなかあった。美しい都市の検証事例として、ハワイのコナ、広島県の鞆(とも)の浦、米国インディアナ州コロンバス、群馬県新治村、英国エジンバラ、東京都国立市の6都市を取り上げている。全てに共通するものは、歴史に裏付けされた主体的な市民の関わりにある。

最後に著者は、我が国の都市法が、市民の意志にかかわらず適法という名の下に、まちを醜悪にしている現状を嘆き、法律家らしく憲法の構造に迫る。現憲法は、基本的人権に代表される個人の権利を守る論理構造になっていて、コミュニティ、あるいは市民社会といった集団はあまり意識されていない。

このことから、著者は憲法 29 条の「財産権」には「義務を伴う」という改正を提案する。個人の権利を守るための「規制法」から、「美しい都市を創る」という「創造法」に転換すべきであり、この作業を通じて、憲法を絵に描いた餅ではなく、国民主権と平和のための具体的で最強の手段とすべきであると説く。

 

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