□ 事業報告(共同事業) 
ちばまちづくりNPOフォーラムを終えて

千葉県県土整備政策課が千葉県内のNPO法人で構成する実行委員会に委託した「ちばまちづくりNPOフォーラム」が、1月29日に船橋市のきららホールでのメインフォーラムを最後に半年にわたる事業を完了した。この事業でボーンセンターは事務局の一部(都市計画学校)を担当し、代表(福川裕一)、副代表(栗原裕治)、事務局長(宮田裕介)が参加した。
そこで、この「ちばまちづくりNPOフォーラム実行委員会」とは、千葉県にとって、あるいはボーンセンターにとって一体何だったのか。あらためて振り返る。

1.はじまりのはじまり
少子・高齢化の進展、地方都市人口の頭打ちや減少傾向など、都市をめぐる状況は著しく変化している。また、地方分権や行財政改革が進行する中で、地域力や個性を生かしたまちづくりが求められるようになり、これまでの行政主体のまちづくりの限界を打ち破り、地域が主体となってまちづくりに取り組むことが求められるようになった。
これからのまちづくり活動には、地域住民が主体的にまちの維持・管理に参画するだけでなく、地域住民のさまざまな思いを汲み取り、まちづくりをリードする計画づくりへの地域住民の参画が必要不可欠といわれ、まちづくりに関わる活動を行っているNPO等の団体にこうした役割への期待が高まっている。
しかし、そのような役割をNPOが担うには、都市計画に関する基本的な知識や地域住民のまちづくりへの参加を促し、合意形成を推進する技術力が必要とされるが、NPOにこうした知識や技術力はまだまだ不足している。
今後地域が主体となったまちづくりを進めていくためには、地域住民のまちづくりへの関心を高め、まちづくりを推進することができる地域の個人や団体を発掘し、ともに学んでいく必要があるということを行政とNPOの両方が意識するようになった。
そこで、千葉県都市部(平成16年度より県土整備部)が「自らが所管する事業と関係の深いまちづくり分野を中心に、県民にまちづくりに関心を持つことを呼びかけるとともに、既にまちづくり活動を行っている個人や団体間の交流を促進し、かつ、都市計画やまちづくりに関する知識の普及をはかり、地域が主体となるまちづくりについての新しい情報や知識を蓄積する。」という方針をたて、既に県内でまちづくり活動を実践しているNPOに広く参加を呼びかけた。参加を呼びかけるにはあたっては、中間支援団体であるボーンセンターにも相談があった。
そして、その趣旨に賛同するNPOと千葉県都市部によって、まず「千葉県まちづくり懇談会」が運営されることになった。この懇談会の会長は、参加した20団体ほどのNPOの互選によりボーンセンター(栗原)が引き受けることになった。ほぼ3年前のことである。

2.開催までの経緯
この「千葉県まちづくり懇談会」の正式メンバーは参加を表明した県内NPOと千葉県都市部であったが、千葉県都市部の呼びかけで県内市町村のまちづくり担当者もオブザーバーとして懇談会に参加することになった。この学習会は年に2〜3回、千葉県庁本館の多目的ホールで互いの活動を紹介しあったり、新しいまちづくりの情報を学びワークショップや意見交換を行うなどのかたちで進められてきた。
しかし、こうした限られた時間の切れ切れの学習会はそれなりに意義があるものの、参加者の連携を密にしたり、更なるまちづくりのネットワークを広げていくには限界もあった。そこで参加メンバーの有志が協議し、「千葉県まちづくり懇談会」の設立趣旨を踏まえて県内各地で学習会を開催しネットワークを広げていくとともに、具体的なまちづくりの現場で地域住民と一緒に学ぶことが必要との認識で一致したことで、今回の「ちばまちづくりNPOフォーラム」の企画がつくられることになった。
当初、この企画はNPOから千葉県環境生活部NPO活動推進課の平成15年度提案募集事業に提案されたが、企画そのものが十分に練られていなかったこともあり、採用にいたらなかった。しかし、企画の意図は今後のまちづくりにとって価値があるという思いがあり、「千葉県まちづくり懇談会」の幹事会(会長はこれも互選でボーンセンター)で企画を練り直し、千葉県都市部(現在の県土整備部)の平成16年度事業として採用された。
地域にはさまざまな課題があるので、地域主体のまちづくりには「福祉のまちづくり」「環境のまちづくり」「安全なまちづくり」など、さまざまなテーマがあり、県土整備部の所管するまちづくり分野よりも幅広い。しかし、これらはまちのつくり方、あり方等を含めて県土整備部が所管するまちづくりの分野(都市計画・都市政策・都市整備等)と密接に関連していることは否定できない。そこで、この企画を県内のさまざまなNPOに新たに知ってもらうことも必要と考え、この事業の実行委員に参加する県内のNPOを再度募ることにした。
また、「千葉県まちづくり懇談会」にオブザーバーとして参加していた市町村に、実行委員会にもオブザーバーとして参加してもらうことをお願いした。
したがって、この事業は「千葉県まちづくり懇談会幹事会」がつくった企画を、千葉県県土整備部の委託を受けて「ちばまちづくりNPOファーラム実行委員会」が実施したということになる。実行委員会に懇談会幹事会が全員加わったことは言うまでもない。

3.開催概要
企画は、3つの事業から成り立っていた。「都市計画学校」「まちかどフォーラム」そしてまとめとしての「メインフォーラム」である。
この事業の全県的な広がりを意識して、実行委員長は新たに実行委員会に応募した子育て分野のNPOをメンバーの互選により選出するとともに、副実行委員長3名を選出し、3つの事業それぞれの責任者とした。また、事務局もそれぞれの事業ごとに3団体を選出し、全体の事務局は3団体が合同で引き受けることになった。ボーンセンターは、「都市計画学校」の事務局を引き受けることになった。
千葉県県土整備と実行委員会の間で契約が取り交わされたのは昨年7月であったが、実行委員会はそれまでに3回ほどの会議を開いて詳細計画を練り始めていた。
事業の概要については、ボーンセンターが事務局を担当した「都市計画学校」を中心に振り返ってみる。
「都市計画学校」は、地域主体のまちづくりを推進するために、地元行政および先進的なまちづくりに関する取り組みを行っている地域のNPOと協働で企画することを基本に、まちづくり関連の基礎的な制度やその地域の具体的事業事例についての参加者が知識や情報を得るとともに、共通の知識・情報を基に意見交換するというプログラムで進められた。
具体的には、専門家、地元行政職員、地元NPOが「都市計画の目的と必要性および内容」「都市計画の仕組みと手続き」「地域における都市計画の事業事例」「まちづくりにおける地域NPOの活動事例」についてミニ講義あるいは報告を行い、その後に参加者全員で意見交換を行った。
まちづくりリーダーの発掘や育成へのきっかけづくりということが狙いとしてあり、開催する地域周辺NPOや市民団体の会員、その他これからまちづくり活動を始めようとする地域住民を含めて対象とし、実行委員会でチラシを配布するとともに、開催する市町村の広報、千葉県のホームページでも参加を呼びかけた。
開催場所は、佐原市(2004年8月25日)、千葉市(同年9月11日)、市原市(同年10月2日)、流山市(同年10月9日)、九十九里町(同年11月14日)を予定したが、流山市での開催は台風の影響で中止となった。
参加者は佐原市41名、千葉市54人、市原市31人、九十九里町28人であった。
開催地の地元行政は、都市計画課、都市政策課、都市整備課などが対応したが、市町村によってはまちづくり推進課が参加した。
報告を行った地元NPOは、佐原市が「NPO法人小野川と佐原の町並みを考える会」、千葉市が「まちづくりちば市民の会」「NPO法人まちづくり千葉」、市原市が「NPO法人千葉まちづくり協議会」「青葉台町会協議会」、九十九里町が「NPO法人TSK」であった。
ボーンセンターは、事務局として開催までの準備および開催当日の裏方を主に担当したが、佐原市で福川代表が「都市計画の基礎知識」のミニ講義を行い、宮田事務局長が4会場全てで司会進行を担当した。
当日行った意見交換やアンケート結果を要約すると、それぞれの会場の参加者評価は下記のとおりである。

・佐原会場:プログラム内容全般について満足度は非常に高く、佐原市のまちづくりに希望が持てるという意見が多く出された。また、住民のまちづくりへの関心が薄いのではないかという意見やまちづくりコーディネーターの必要性を指摘する意見が多かった。
・千葉会場:内容についての参加者の満足度は全体的に高く、特にNPOの事例報告に関心が集まった。また、引き続きこのような学習会の開催を望むという声があったが、一方で、最近の「まちづくり」といった場合の「まち」の定義がはっきりしないという指摘があった。更に千葉市のまちづくりに特色が感じられないという意見があった。
・市原会場:参加者は「環境とまちづくり」「景観とまちづくり」に関心を持つ人が多く、青葉台町会協議会の報告への関心が高かった。内容全般について参加者の満足度は高く、せっかくの企画なのに参加人数が少ないことについて、宣伝不足ではないかとの指摘があった。
・九十九里会場:プログラム内容についての関心は平均的で、まちづくりは行政の仕事と考えての要望的な意見が多かった。この地域にはまちづくりを主体的に推進している地域のNPO等の団体が少なく、市民参加のまちづくりはこれからという印象だった。しかし、終了後には太鼓によるアトラクションも準備され、都市部とは少し違ったまちづくりの雰囲気があった。

他の「まちかどフォーラム」と「メインフォーラム」の事業については、概要を簡単に述べるにとどめる。
「まちかどフォーラム」は、鎌ヶ谷市(2004年10月16日)と佐倉市(同年10月23日)に開催された。「都市計画学校」との相違は、実際のNPOが推進しているまちづくりの現場を見学し、その後にフォーラム形式で意見を出し合い意見交換を行った点である。
ボーンセンターでは、副代表の栗原が鎌ヶ谷市での「まちかどフォーラム」にパネリストとして参加した。
今年1月29日に船橋市で開催された「メインフォーラム」は、今回の事業の集大成ということで、午前中の「基調トーク」と午後の「ラウンドテーブル」の2部構成で行われた。基調トークは、加藤種男氏(アサヒビール芸術文化財団事務局長)、福留強氏(聖徳大学教授・NPO法人全国生涯学習まちづくり協会理事長)、栗原裕治(ボーンセンター)で行った。主なテーマは、まちづくりの課題、とりわけネットワークの問題を取り上げ、企業や大学との連携を含めて、それぞれの現在の取り組みについてトークを行った。
ラウンドテーブルは、「都市における自然再生」「コミュニティとNPO」「景観とまちづくり」「福祉とまちづくり」「商店街とまちづくり」「まちづくりと子ども」「まちづくりとアート」「まちづくりと市民メディア」の8つのテーブルに分かれて、発話団体の発表を中心にそれぞれのテーマを検討した。
約150名の多様な主体の参加者があり、特にこのメインフォーラムでは若者の参加が目立ったことが印象的であった。

4.振り返り
現在、ボーンセンターを含む3事務局で報告書を作成している。今回の事業は企画の段階から既に2年が経過しているわけだが、果たして「千葉県まちづくり懇談会幹事会」および「ちばまちづくりNPOフォーラム実行委員会」が考えていたとおりの成果が得られたのだろうか。
まず、この事業の次年度への継承は保障されていない。事業目的が「きっかけづくり」だったということで県土整備部が来年度の予算化を見送ったが、「都市計画学校」や「まちかどフォーラム」を実施した市町村単位で同様の企画が展開されるかは今のところわからない。今年度の経緯を見ながら、事業が継続されるようなら来年度は手を挙げようという市町村や地域NPOもあったと思われる。アンケートや意見交換における参加者の事業への評価は悪くなく、多少のインパクトはあったと思われるので、いくつかの市町村で同様の試みが実施されることを期待したい。また、こうしたまちづくりといった身近な課題に関係する事業は、どちらかといえば県行政よりも市町村行政と地域NPOとの協働が基本のように思われる。
協働という視点で見ると、県行政と実行委員会との関係は今回も難しかった。大きいのは、今回の事業が委託事業ということで、委託元の県土整備部は、委託先の実行委員会のメンバーになれなかった。県土整備部が実行委員会に入ってNPOと対等な関係をつくり、透明性のあるルールをつくって事業にあたることができれば、もっと柔軟で多様な展開が可能だったと思われるが、委託者と受託者という関係に二分されたために、外に広げていこうという実行委員会と、管理の範囲にとどめようとする県土整備部との意見調整の時間に多くの時間が浪費されたばかりか、相互に納得する解決ではなく一時的に互いが譲歩するような場面が多く見られた。こうした実行委員会形式の事業が、従来の委託事業のやり方でうまくいくのか、行政のNPOの下請化にならないか、実行委員会形式の委託事業が増えているだけに、大きな課題であろう。
費用的にも課題が残った。今回の事業費は300万円であったが、実行委員会の試算では約550万円が必要だった。結局は、実行委員会としてはせっかくの事業を遂行したいために金銭面で譲歩し(NPOの事業ではよくあるパターンだが)、無償で活動した時間が多いという結果だったが、県土整備部との調整にも時間をとられ、事務局団体の負担は更に大きかった。市民活動は、コミュニティ・ビジネス等の雇用の受け皿として期待されている側面もあり、継続的かつ主体的に責任を負う事業として定着させるには、営利を目的としない市民活動であっても、経済活動の一部として認知されていく必要がある。
いずれにしろ今回の事業の成果は、市民参加のまちづくり、行政とNPOの協働によるまちづくりの「きっかけ」をつくったということで意味があったと思われる。実行委員会に参加した団体も共同作業をとおしてネットワークが醸成された。また、各地で展開した事業をとおして、市町村行政や地域NPOとのネットワークもつくられた。それぞれのイベントに参加した県民とも多用な対話ができた。なによりも。最後の「メインフォーラム」に年齢、所属、地域を越えてさまざまな主体の参加があったことが嬉しかった。

(副代表・栗原 裕治)


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