代表のぼやき

2012.08

「歴史に学ぶ石巻の再開発計画」

 いよいよというか、ようやくというか、石巻の中心市街地で再開発の準備が進んでいることが報道されるようになった。「中心街再開発の動き急:石巻市中心市街地で再開発の動きが活発化している。立町1、2丁目と中央1?3丁目の計6地区でそれぞれの地権者らによる検討が進んでおり、このうち先導モデルとなる立町2丁目5番地区については来春にも着工、来年度内完成の計画が動き出した。商店と住居などを組み合わせた開発で、定期借地を活用し、地権者の共同出資による「まちづくり会社」が建設・経営を行う。被災地のモデルケースとして注目されそうだ」(石巻かほく7月18日)。それまでは、市役所が進める高台移転(蛇田地区の区画整理)ばかりがクローズアップされていた。
報道された6地区のうち、3地区の再開発計画にたずさわっている。記事にある立町2丁目5番地区もそのひとつ。敷地内に、立派な和風住宅、土蔵、そしてすばらしい庭園がある。築山の上には神社もある。これらの建物は、地震の被害は軽微であった。再開発では、約20戸の住宅、ふたつの店舗、高齢者施設(27戸の高齢者住宅を含む)、そして駐車場をつくり、同時に古い建物をギャラリーへ整備するなどの事業が行われる。
問題はデザインである。3月にボヤいたように、歴史的な都市構造をふまえた現代版の町家をかたちづくりこと、「麹町計画」をいかにして現代の石巻に適した「石巻計画」へ展開するかが課題である。私は、図に示すようなシステムを考えた。少し詳しくなるが、建築関係者の多いボーンセンターであるので、紹介させていただこう;
@ 石巻絵図(幕末)や明治25年絵図に描かれた町家と町並みを現代にあわせて再構成します。町家では、通りぞいに主屋が置かれ、奥には中庭を間に挟みながら、離れや蔵が並んでいました。その町家の「鰻の寝床」型の細長い敷地が単位となるように棟の配置を工夫します。
A まず、表通りに面して、従来とおり主棟を置きます。下は店舗、上は住宅。横に並ぶと、通りを囲み、連続した町並みが形成されるようにします。
B 表通りに面する建物の高さ(H)は、道幅(D)と同じか1割増し程度とします。
C 内側は、戸建て住宅の町並みのようにします。住戸を上に積み上げるのではなく、横に並べていきます(イギリスのテラスハウスのように)。
D 中心市街地の中なので、一階を駐車場に、そして三方は隣同士が接しても日当りや通風を確保しプライバシーが守れる住戸を工夫します。このような住戸は、周りに庭が必要なふつうの住宅に対して、庭を内蔵した中庭型になります。
E 駐車場が見えなくなるように蓋をします(駐車場は2層可能です)。この蓋が人工地盤となり、津波の時の避難階となり、普段は居住部分のメインフロアとなります。(店舗は従来通り、道に面して一階にあり、町並みをつくります。)
F 一定距離ごとに、通りから人工地盤への避難用の直通階段を設けます。ただし人工地盤自体は外からはあまり見えないようにします。
G 主屋の裏は数メートル幅の公開の空地とし、隣のブロックとはこの空地がつながるようにします。
H 何戸かが、共有の庭を囲み、ひとつの近隣単位を構成するようにします
I こうして構成したユニットを、敷地の大きさに合わせ、単数あるいは複数を町並みにはめ込んで(インフィルして)いきます。
地権者の意見がまとまったところから随時再開発を進めます、というのがこの計画の肝である。そして現在3カ所で合意が進んでいる。
石巻固有の条件は、やはり避難階の設定である。この地区では、地上階に住居を設けることは禁止されていないが、住民たちがまとめた「みちしるべ案」(http://www.ishinomakimatinaka.com/mitisirube)は「1階部分は非居住の用途を中心にしましょう」としている。町はすでに駐車場だらけになっているので、それをシールドすれば一石二鳥となる。しかしユニットで見ているとあまり気にならない駐車場の蓋(人工地盤)も、敷地の規模が大きくなると意見が分かれる。多くの地権者が参加することになった地区では、地権者や取材に来た放送局には受けるのだが、石巻で1週間のワークショップを実施中のブルッセル自由大学の先生と学生には、反自然的な構造物と映ったらしい。駐車場の透水性舗装をどうするのかといった質問が相次いだ。街区内の、「住戸ユニットを縦に積み重ねず横に並べる」低層集合住宅も、実際に住もうと思っている人には今のところ好評で、中庭や廊下の位置、間取りをどうするかなど、具体的で詳細な調整が進んでいる。以上の計画については、事業スキームを含め、国交省のホームページに報告書がアップされている。参照していただければ幸いです。
http://tochi.mlit.go.jp/secondpage/6513


千葉まちづくりサポートセンター代表・福川 裕一


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