代表のぼやき

2010.06


成功する再開発、失敗する再開発

再開発の成功ですっかり有名になった高松市丸亀町商店街。ビュッフェ・スタイルのレストラン「やさしい食卓」が1月のオープン以来、連日のように家族連れやカップルで賑わっている。場所は、B街区に建設されたビルの三階。ガラスのドームで知られるA街区(壱番街)の再開発に続き、昨年度までの完成を目指して整備が行われてきたB、C街区(弐番街、参番街)に建設された5つのビルのひとつ弐番街の3号館だ(市街地再開発事業で街区いっぱいの一体的なビルを建設したA街区に対し、B、C街区では希望者が共同ビルを建てる方法で再生を図っている)。三階で窓の外には古いアーケードの側面が見えるという不利な条件を克服しての健闘だ。エレベータはあるが、階段をのぼる人の方が多い。
再開発というと、新しいビルに大型店や世界のブランドを誘致して、プチ東京を目指してきた。このレストランは、そのような従来のやり方とは一線を画す新たな試みの第一弾だ。「やさしい食卓」は、いわゆるバイキングだが、目の前のキッチンから地元の食材を使ったアツアツの料理がたえず提供される。北九州の葡萄畑でレストランやホテル「野の葡萄」を成功させた(株)グラノ24Kからノウハウの提供を受けた。経営にあたっているのは、新たに設立したLLP(有限責任事業組合)「ナチュラル・スタイル」。グラノ24Kのほか、東京・羽村で産地密着・地域密着の食品スーパーを展開する福島屋など各地域でこだわりの事業を実践している企業家、丸亀町で厳選有機野菜の販売を行ってきた亀戸水神市場やオリジナル自転車で気を吐く元プランナーの地元起業家、そして生産者を商店街のコーディネートのもとに糾合した。監修役は食からの地域再生やスローフードを標榜する食環境ジャーナリスト・金丸弘美氏。今回は、讃岐固有の食材や料理法を再評価するワークショップを実践、市民とともに基礎データを固め、今後に備えた。ナチュラル・スタイルLLPは、「やさしい食卓」のほかに、イタリアン・レストラン、ナチュラル・キッチンなど3つのレストランと2つのデリをB街区に集中展開、「オリーブ・ガーデン」を構成する。
背景にあるのは、もっぱら「プチ東京」をめざしても、地方都市・中心市街地の再生は果たせないという認識だ。
まず、国際ブランドを追求する限り、地方都市は大都市に対し「二流」にとどまらざるをえない。たとえば、高松のヴィトンがパリや銀座のヴィトンと同じ品揃えであるわけがない、店舗の建物と空間も異なる。そのようなこともあって、まったく同じ商品でも、高松のヴィトンとパリや銀座のヴィトンとでは価値が違って見える。
パリや銀座のヴィトンでは財布の紐が弛むが、高松のヴィトンでは財布がなかなか開かない。第一これでは、高松以外の人たちが高松にやって来ない。
第二に、大衆的な(あるいはチョイ高級な)ブランドは、今や郊外ショッピングセンターが豊富に取り揃えている。商店街を模したショッピングモールは、現実的でない分「快適」である(雨が降らない、自動車も自転車もいない、休む場所がある、煩わしい人間関係がない・・・)。家賃が安いから店も広く品揃えも豊富だ。同じブランドの店を商店街に作っても郊外ショッピングセンターと勝負にならないのである。そもそもメーカーが、人気商品を、古い付き合いだが数のはけない商店街の老舗専門店を見限り、郊外ショッピングセンターに優先的におろすようになって久しい。
もちろん、かつての、デパート・スーパーなど大手流通資本にまるごと依存したような再開発は論外として、地域の企業家(まちづくり会社を含む)が事業主となって、魅力的なブランドを導入することは、依然としてひとつの重要な柱である。何よりも、地元の消費者に応えることになるからだ。しかし、このように単純にブランドを導入するだけでは中心市街地としての商店街再生は全うされない。まして、高級ブランドの立地対象とならない小規模な都市の中心商店街は立つ瀬がない。
より重要な柱は「地域にこだわる」ことである。地域の素材をいかし、自然や歴史・文化に根ざした商品やサービスを開発し、消費者へ提案していく。ただし、「地域にこだわる」ことは排他的になることではない。高松の消費者のニーズが香川県で生産されるものだけで満足されるわけでない。必要なもの、良いもの、欲しいものを他地域、全世界から輸入することが排除されるわけではないし、そんなことは不可能である。重要なのは、同じように活動している他の地域と連携である。ネットワークを組み、ノウハウを交換し、足りないところを補いあいながら、それぞれのパワーを増していくことだ。
今や、ショッピングセンターも地域貢献は熱心である。地域の生産者が写真入りで産品を並べている。しかし、それぞれの地域にこだわった主体が連携し、農と商をつなげば、郊外ショッピングセンターを超えることができる。ただただ地域の商圏を分割し、食べ尽くしていく郊外ショッピングセンターとは、まったく違う展開が生まれる。そうなると対象となる消費者も地域にとどまるわけではなくなる。お互いの地域の行き来が生まれ、広域商圏=観光への展開も視野にはいる。神戸、東京の消費者を高松に引き寄せることができるようになる。
この構造を、アレキサンダーの著名な論文「都市はツリーではない」に倣って図解してみた(次ページ参照)。アレキサンダーは、本来人々、家族、コミュニティ、会社などが輻輳しているセミラチス構造の都市を、ツリー構造として理解し都市計画が組み立てられていることに異を唱えたのであった。しかし都市はともかく、中央集権的に組み立てられたわが国の地域は、実態としても地域間の連携が乏しいツリー構造である。このような構造では、各商店は既成の問屋システムなどでバラバラであり、地域空間は容易に大手流通資本によって解体されていく。大手流通資本は、相互の競争により国土を領土分割していく。これをセミラチス構造に再編成しなければならない。地域同士が連携し、連携によって相互に補完しあい、大手流通資本にはできない新業態を開発し対抗していく。そして中心市街地を再生していく。
「商店街が食で農と商をつなぐ」展開は、他の分野でも可能だ。「雑貨やクラフトで職人と商をつなぐ」「ファッションで地場産業と商をつなぐ」「介護や子育てサービスでコミュニティと商をつなぐ」。こうして、日本の各地にあった豊かなライフスタイルが再評価、再獲得されれば、その焦点としての地方都市が再生されれば、日本のライフスタイルが、西洋に負けないブランドとして確立するだろう。「観光立国」も、基本に立ち返るこの戦略がなければ、画餅に終わる。
千葉まちづくりサポートセンター代表・福川 裕一

 

 

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