代表のぼやき

2008.10


加曽利貝塚と世界遺産登録・再論

5月に行われた記念すべきボーンセンター10周年の総会の後、加曽利貝塚をテーマにシンポジウムを行った。そして9月28日千葉県中央博物館で、今度は3人の専門家をお呼びして第二弾の「貝塚シンポジウム」を行うことになった。まちづくり、里山保全、博物館問題に取り組んできたボーンセンターの10周年企画としては悪くない。この問題には、千葉のまちづくりの多くの問題が凝縮しているからである。
さて、総会の直前に発行された前々号で、「加曽利貝塚世界遺産登録へ、ボーンセンターの役割は?」を書いた。ちょうど韓国ICOMOS主催の世界遺産をテーマにした会議に呼ばれていて、その発表の準備をしていたので考えていたことをまとめたのである。
韓国は、HahoeとYangdongというふたつの集落の世界遺産登録をめざしており、そのプロモーションのためのシンポジウムであった。海外からは、ICOMOS理事で、私が所属するCIVVIH(歴史的町並み・集落委員会)会長Ray Bondin氏(マルタ)、CIAV(ヴァナキュラー建築委員会)会長Marc de Caraffe氏(カナダ)、中国文化省の世界遺産担当Lu Qiongさん、建築史研究所のFu Jingさん、筑波大学世界遺産学コースの斎藤英俊教授、それに私であった。中国の発表には舌を巻いた。知らない町や集落が次々に出てくる。中国は世界遺産の宝庫である。「文化的景観」のカテゴリーでしか申請できず「顕著な普遍的価値(OUV)」の証明に四苦八苦している日本とはだいぶ状況が異なる。
私は、例によって「なぜ、なにを、どのように保存するのか?:顕著な普遍的価値(OUV)に関する若干の考察」と題 して、「文化的景観」の概念が導入され、世界遺産が再定義が進行することを捉えて次のように述べた。
『このような「文化的景観」と、沖縄のように点在する遺跡を一体として捉える動きを重ねると、世界遺産は実に身近なものとなってくる。単体では世界遺産の候補になりそうになかった資産が他との連携で相乗的に価値を高め、一定の地域の見慣れた風景が一転して価値を帯びてくる。たとえば日本の近世城郭はユニークな遺産に違いないが、現在世界遺産に登録されているのは姫路城だけである。一方、暫定リストにはすでに彦根があり、候補には松本、萩があげられている。これらをあわせて、「日本の近世城郭」と括り直すことも可能だ。そして、城下町や宿場町などほかのジャンルへの応用もいくらでも考えられる。課題は、複数の遺跡を組み合わせて、確かにOUVがあるという説得力を持った、どのような物語を紡ぎだせるかにかかってくる。ガイドラインにある10項目(文化遺産では6項目)は変らないとしても、OUVの幅は大きく広がることになるだろう。一方、幅が広がることで、マネージメントは困難を増すに違いない。そしてこの点こそが重要だ。記念物とせいぜいその周辺に限られていたマネージメントが、都市、集落、農村、田園、森林や海岸をふくめた環境のトータルなマネージメントへ飛躍しなければならないのである。遺跡のマネージメントは、都市計画や農村計画と同義語となる。』
このように述べて、川とともにある佐原の町並みの意味を説明し、さらに、千葉の里山でさえ、その保全は、モニュメントとその周辺環境を守ること以上に難しい課題であって、その課題を克服したとき、かつての日本では見慣れた里山景観であっても、世界遺産に足るOUVを証明することができるはずだし、そうでなければならないと思う、と主張した。
ただし、以上の主張は、その後の平泉の経過を見るとややぐらつかざるを得ない。いくら文化的景観の価値を学問的に証明しても、世界遺産にはやはりドーンという魅力が要求されるのが現状だからだ。もっとも平泉のケースでも、河川改修や道路などの土木事業、町並みなどを含めたトータルな環境が世界遺産にふさわしいものであったかどうかが強く問われている。
Ray Bondin氏は、この間、特にヨーロッパの世界遺産都市で、都市開発が問題になっていることをとりあげ、HUL(歴史的都市景観Historic Urban Landscape)をめぐる議論が沸騰していることを指摘した。ここでもキーワードはすぐれたマネージメントである。私たちがなすべきことは明らかである。自然そして文化遺産を保存し、活かした美しい町をつくることなのである。問われているのは、私たちの社会を運営する能力である。

千葉まちづくりサポートセンター代表・福川 裕一

BACK