代表のぼやき

2004.6


Save the 下北沢

「私は専門家だから、現場を見ないでもわかる。この道路の計画は時代遅れだ。」「ヨーロッパではもうこういう道路はつくらない。いい例はバルチェロナだ。バルチェロナでは、もう古い町に道路を貫通するのをやめたのよ。」お茶の水の和食レストランで、ローマ大学フェリーニ先生のおしゃべりのトーンはさらにヒートアップした。その日の午後、千葉大学でローマ市の最新の都市計画について講演してから、もうとぎれることなく話しっぱなしなのに、私が見せた地図によほど腹が据えかねたのであろう。

ファリーニ先生に見せたのは、下北沢駅北口を貫通する最大幅26mの道路計画と駅前広場計画に反対するグループ「Save the 下北沢」が作成したビラである。地図の上に、計画されている道路や広場を書き込み、その結果失われるお店がプロットしてある。道路の名前は戦後に計画された放射状の補助54号線。地下化を求める周辺住民の声や事業を違法と断じた判決を無視して強行されてきた小田急線の連続立体交差・複々線化工事の最後の工区である代々木上原・梅が丘間の事業認可が下りたことをきっかけに動き出した。当初はこの部分は平面複々線化という計画だったのだ。しかし構造を地下へ変更、その上を利用して駅前まで行く短い道路を加え、昨年1月に都市計画の変更・決定が行われたのである。区のスケジュールでは来年には事業認可を受ける予定だ。

下北沢はとても居心地のよい町である。昔からの商店街に、新しい店が加わり、たくさんの人々が「回遊」している。シャッター通りと化した地方都市の中心市街地の人には、別天地のように見えるだろう。しかもただ人の集まる渋谷のようなところとは異なる。人と人とのコミュニケーションを育む、もっと言えば文化を生み出す町なのである。道路計画は、このような町の性格を一変させるだろう。にもかかわらず、条例による「街づくり誘導地区」を指定した世田谷区は、「街を訪れた人々が回遊したくなるような歩行者回遊軸を強化します」と強弁する。コイズミから自治体まで、嘘でも言い切れば通るという乱暴が言葉を失わせる。

果たしてこの計画を止めることができるのだろうか。見通しは必ずしも明るくない。東京都は、最近行った道路計画見直しの中でこの路線を優先的に建設すると位置づけた。世田谷区長は、道路建設促進を公約に当選した人である。とくに都市計画の専門家として悲しいのは、この走り始めた公共事業には、進行を止めるボタンがどこにもないことである。市民10万人の署名を集めながら運河埋め立てによる道路建設が粛々と実行された小樽の姿がダブる。今のところ、多くの住民は道路建設は10年後のこととタカをくくっている。しかし事業は10年をかけて着々と進行していくのである。

「道路は自動車がスムースに流れなければならない」「防災に道路は不可欠」「小さな建物からなる町並みより、大きく高い建物の方が立派な街」「水平過密都市から緑の垂直都市へ」といった20世紀的観念を固く信じる人が少しも減らない。それに対し、バルセロナでなされたのは、古い密集したラヴァル地区に幹線道路を貫通させる計画を、住民たちのまさに居間となる広場の整備へ転ずることであった。様々な側面をもつ「バルセロナモデル」であるが、これこそその真骨頂と言えるだろう。下北問題を、旧来の都市計画に別れをつげ新しい町づくりを切り開く突破口としたい。

※「Save the 下北沢」については、http://www.setagaya.st/shimokitazawa/ を参照。

千葉まちづくりサポートセンター代表・福川 裕一


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