小田 実:世界危機 平和主義貫け

「有事法制と私たち」『朝日新聞』(大阪本社版)の5月18日号

世界危機 平和主義貫け

 
 作家  小田 実氏

 65年結成の市民団体「ベトナムに平和を!市民連合」(ベ平連)の中心人物の一人。文筆活動のほか、国内外で頻繁に講演に立つ。69歳。
 

 基本的な認識として大事なのは、今が平和な時代ではなく、有事だから有事法制を作っているということ。その有事とは、米国が引き起こしているものだ。昔、関東軍が有事を引き起こして日本を戦争に引きずり込んだのと似ている。
 4月下旬、ペ平連の元メンバーを中心にペトナムを訪れた。「ベトナム戦争で米国は反省したはずなのに、いろんな口実をつけてまた動き出した。ベトナムの教訓を忘れたのか」と論じ合った。ベトナム戦争の体験から見れば、今はまた世界の危機で、危機を引き起こしたのは米国だたいうことになる。
 世界では平和主義と戦争主義がせめぎ合って来た。平和主義は「問題を解決するのに、絶対に武力行使しない」との考え。戦争主義は「武力行使は反対だが、相手がテロリストであるなどやむを得ない場合には行使する」というものだ。だが、「9・11」以降、戦争主義だけが横行している。
 こういう時こそ、平和主義を定めた憲法を持った日本の役割は重要だ。米国が「民主主義の国」、フランスが「文化の国」、スウェーデンが「社会保障の国」というなら、日本は「平和主義の国」になればいい。いや、なるペきだ。
 有事法制の別の間題は、全体主義の許容だ。軍隊ほ市民一人ひとりの生命を犠牲にしてでも国家全体を守ろうとする組織である。どうしても全体を優先してしまう。ことに個人の力が伝統的に弱い日本でほ、この全体主義は強力にに出る。国会での政府答弁はその危険をよく示している。これでは個人を尊重する民主主義がないがしろにされ、個人は抹殺される。
 

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