27 言葉の力と写真の力 (現地時間 2004年05月05日 04:10:11発 日本時間 06日 14:21:22受信)

 一連のメールの続きです。
 まず写真が発表されなかったら、今回の事件はこれほど衝撃的なものではなかったでしょう。裸にされたイラク人捕虜の性器の部分(ぼかしている)を指差しながら笑っているアメリカ人女性兵士、という組み合わせは、人々にショックをあたえるものでした。
 しかしそのあとで、ニューヨークタイムスなどが、あれは脅迫されて強制的にマスターベーションをさせられている写真だと、言葉でその構図の説明と意味づけをおこない、またそのあとで、アメリカのメディアとアラブのメディアの両方で、実際に拷問されマスターベーションを強制されたイラク人元捕虜の言葉(インタビュー)が報道されるにおよんで、その衝撃はいっそう深まったのです。写真と言葉の結びつきです。
 昨日、ブッシュ大統領は、アメリカが出資しているアラブ向けテレビ局で、「これはアメリカではない。アメリカは自由と個人の尊厳を重んじる国だ。フセイン体制では、こういうようなことが起こっても、捜査と処罰はおこなわれなかった。アメリカは違う。厳正な捜査と処罰をおこなう」というようなことを言っています。(インターネットのビデオでみた記憶なので、正確ではないかもしれないけど、そんなこと。)
 数日前に、私がこの一連のメールを書き始めたときから、この事件は、いよいよ大きくなっています。さっき通りすがりに、売っているニューヨークタイムスを見ましたが、一面トップはこの問題でした。我が家に配達されるローカル紙のサンフランシスコ・クロニクルも一面トップがこの問題です。あとオンラインで見る多くの英字ニュースサイトも、この問題がトップです。
 一番新しいアルジャジィーラ英文サイトは、性的虐待のディテールを、直接的な言葉を使って書いています。これまでこういう形で書いてこなかったのは、アラブ世界の報道の暗黙のルールがあったのかもしれない。
 しかし、いま読むことのできる最新の記事は、ケミカル・ライト(これが正確に何かは知らない)と箒の柄をつかったソドミズム、マスターベーションを強制してそれを写真とビデオに撮る、とはっきりと書いています。これらの言葉が、どれほど破壊的な力をもつか分かりません。以下はその部分です。
Abuse detailed
Taguba said several detainees had credibly described acts of abuse, including:
* Breaking chemical lights and pouring the phosphoric liquid on detainees
* Beating detainees with a broom handle and a chair
* Sodomising a detainee with a chemical light and perhaps a broom stick
* Arranging naked male detainees in a pile and then jumping on them
* Forcing detainees to remove their clothing and keeping them naked for several days at a time
* Forcing groups of male detainees to masturbate themselves while being photographed and videotaped
http://english.aljazeera.net/NR/exeres/D56AA81D-A4A9-42B1-95FA-D8F6AD7D5438.htm

  これまで読んだところの日本の新聞記事は、上のようなことを、はっきりとした言葉を使って書いていません。「殴ってマスターベーションを強制した」、「女性兵士がそれを笑ってみていた」、「ソドミズム、肛門を箒の柄をつかって突いた」と書くべきなのです。問題は、下品であるかないかではない。そういうように日本語で報道しなかったら、なぜこんなに大きな事件になっているのか、分からないでしょう。
 これらの事件報道が引き金になって、アメリカ軍によるイラク人捕虜拷問殺人の疑いもでてきました。
 昨日、メールを書いた後、もうこれ以上、書きたくないなあ、と思ったのですが、アルジャジィーラがはっきりと書いたので、また書きました。もうたくさんだな、というのがいまの気持ちです。もちろん、これをお読みのみなさんも、そうお思いかもしれない。
 アルジェリア戦争のときも、刑務所内での女性活動家へのビール瓶を使った集団強姦事件が問題になり、シモーヌ・ド・ボーボワールが序文を書いて、そのドキュメントが出版されていました。ベトナム戦争のときは、ソンミ村虐殺の報道があった。そんなことを思い出します。いまが、歴史的な瞬間なのだという認識が、日本の新聞報道にはない。
 もっとも、大統領候補のケリーにそれがあるかというと、疑わしい。まったく失望。

 追伸。発表された写真は、デジタルカメラで撮られたものです。それがラップトップコンピュータにコピーされ、電子メールで送られたり、CDに焼かれたりしてほかの兵士にわたり、結局、ひとりの兵士がそのCDをCBSに送った。

室 謙二

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