304. 戸井十月さんの新著『カストロ 銅像なき権力者』刊行(03/06/25掲載)

 戸井十月さんの新著『カストロ 銅像なき権力者』が新潮社から刊行された。定価1,500円+税。
 昨年までの忍野パーティでは、戸井さんからキューバへの思いがたびたび語られ、また、カストロにぜひ会いたいという熱い希望ものべられていたが、ついにそれが昨年の暮れに実現、そのときの会見記を含め、何度もキューバを訪れてきた戸井さんのカストロ像がこの本には綴られている。
 「あとがき」で戸井さんは、「この本を書き終えた今、私は、自分が何について書こうとしてきたかに遅ればせながら気がついた。私が書こうとしてきたこと――それは、“希望”についてであった」と書いている。そう、今の私たちには、希望というものがなかなか持ちにくくなってきた。50年代から70年代にかけ、それぞれの人は、人生や、日本や世界の未来について、理想や期待や希望というものをもっていた。だが、それらはつぎつぎと挫折したり、崩壊したり、消滅してきた。社会主義もその一つだ。戸井さんは、しかし、例外と思える国が少なくとも一つはある、それがキューバだという。権力につく者が必ず腐敗、堕落し、民衆を裏切ってゆく中で、巨大な肖像写真や銅像などで権力者を飾ることを堅く禁止している珍しい国キューバの実態と、その国の権力者カストロの実像を戸井さんは描き、そして、そこに日本やアメリカが失った「希望」があると書く。本書を読み、そして昨年出た樋口篤三さんの『めしと魂と相互扶助』(第三書館)に収められているキューバ関連の論考などを読むとき、この世界はまだ捨てたものではない、という感を確かに強くする。ソ連の崩壊、そして以前から続くアメリカの敵対包囲の中にあって、社会主義キューバは90年代、大変な困難に直面し、カストロの失脚や国家それ自体の崩壊を予測するものも少なくなかったのに、この国はどう、その難局(1993年の国内生産成長率はマイナス13.6%、財政赤字50億ペソ以上)を乗り越え、民衆が平等で豊かに暮らしてゆける国として存在しているのか、まずは本書をひもとき、そして本書の終りにあげてある参考文献をたどる、いや、戸井さんが強く勧めるように、この国を訪れてみるようにしたい。

ニュース欄先頭へ placarhome.gif (1375 バイト)