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郵政民営化って本当にいいことなの?

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Q1 小泉内閣は「民間にできることは民間でやる」べきだという理由から郵政を民営化しようていしています。しかし本当に郵政は「民間にできる」のでしょうか。

Q2 郵政民営化で何がどう変わるのでしょうか。私たちの身近な生活の中で郵便局はどう変わるのでしょうか。

Q3 政府は、郵政民営化のメリットを「官から民に資金が流れる」と説明していますが、抽象的でよく分からないのですが。

Q4 では、政府の言う「見えない国民負担が減る」とはどういうことでしょうか。


Q1.
小泉内閣は「民間にできることは民間でやる」べきだという理由から郵政を民営化しようていしています。しかし本当に郵政は「民間にできる」のでしょうか。

A.郵政は、所得や住んでいる地域という条件によらず誰もが等しくサービスにアクセスできる形でサービスを提供しています。現代の社会生活に欠かせない、書物をやり取りする通信手段である郵便やお金をやり取りするための口座を利用する権利を、誰に対しても保障しているのが郵政のサービスなのです。では、果たして民間は、国に代わってこうしたサービスを担えるのでしょうか。

 結論から言えば、「ノー」です。民間には「できないこと」があるのです。民間は、購買力の裏づけのない(商売にならない)ニーズに対してはサービスを提供できないのです。株主という出資者に利益をもたらすことを最大使命とする株式会社は、そうしたサービスは避けなければならないのです。だからこそ民間は、マーケティングを実践し顧客の選別・差別・序列化を行っているのです。民間にとっては、購買力に裏付けられたニーズを見極めてそのニーズに応える商品を提供することが何よりも重要なのです。

 一方、公営である郵政は、購買力の裏づけがなくてもニーズが存在する限りサービスを提供します。だから、全国津々浦々に郵便局を設置し、利用者の多い地域も少ない地域も同料金でサービスを利用できるようにしたり、第三種郵便物を設けて障害者団体をはじめ公共性の高い団体が低料金で郵便を利用できるようにしたり、あるいは小さなニーズに対応している小規模事業者の負担を軽減する郵便振替、郵便為替、私書箱といったサービスを提供したりしているのです。

 民間は、他社との競争の中でサービスの質を上げていくからいいとよく言われますが、民間の競争は、購買力の裏づけのあるニーズを巡る競争なのです。ですから、民間ではカバーできないニーズに対応するためには、収益性ではなくニーズそのものの重要性を優先して考える公営事業として、郵便局を存続させることが必要なのです。

Q2.郵政民営化で何がどう変わるのでしょうか。私たちの身近な生活の中で郵便局はどう変わるのでしょうか。

 郵政民営化とは、要するに郵便局を、普通の銀行、普通の保険会社、普通の配送業者にするということです。購買力の裏づけのある(商売になる)ニーズを巡って他社とサービスの競争ができるようにし、逆に営利事業を圧迫するような、もうからないサービスは廃止、ないしは事業本体から切り離していこうというのが民営化の中身です。以下、具体的に見てみましょう。

大口顧客が優遇され、小口顧客の負担が増えていく

 まず第一に、「郵便貯金法」と「簡易生命保険法」が廃止されます。つまり、これによって郵貯も簡保も民間と同じように営利ビジネスとしての色を強めていきます。小額預金者(郵便局に貯金している人の半数近くは貯金額が100万円以下)への政府保証はなくなりますし、民間と同様に保険加入者に職業制限を設けることになるかもしれません。

 加えて郵貯法の廃止に伴い、障害者・遺族・高齢者の経済的負担を軽減するための「ニュー福祉定期貯金」や「介護貯金」、そして「国際ボランティア貯金」や「災害ボランティア貯金」なども廃止されます。さらに、営利性を高めるということは、民間と同じように大口顧客と小口顧客を差別していくことにもつながります。商売にならない小口の預金者からは手数料を多めにとるというようにです。郵貯はこれまでATM手数料をとっていませんでしたが、民間と同じように105円とることが予想されます。また、郵貯が民間並みになることで民間全体が大口顧客と小口顧客の差別化を強めていく可能性もあります。ちなみに世界最高益を誇る銀行であるシティバンクは、月末の口座残高が50万円以下の場合は2100円の口座維持手数料をとっています。

郵便為替や郵便振替など低料金サービスが廃止される

 第二に、「郵便為替法」と「郵便振替法」が廃止されます。その結果、一般の銀行に比べ安い手数料で行っていた現行の郵便局の送金サービスである「郵便為替」と「郵便振替」がなくなるため、一般の銀行並みに手数料をとって送金サービスを行うことが予想されます。民営化・分社化によって、税金を払ったり、郵貯銀行が窓口会社にというように関連会社同士で手数料を払ったりするようになるので、その分のコストが料金に上乗せされる可能性は高いでしょう。

もうからない地域の料金は値上げへ

第三に、郵便法の改正によって、従来「認可制」だった郵便料金が「届出制」へと大きく変わります。現行では、「能率的な経営の下における適正な費用を償うものである」とあった条件が、「適正な原価を償い、かつ適正な利潤を含むものであること」と変わるのです。つまり、利潤をあげるためには、いつでも簡単に料金値上げの届けを総務大臣に出せば、すぐ新料金が適用されることになるのです。現に小泉首相は「料金は下げることもあれば、上がることもある」とはっきり答弁しています。利益追求の考え方からすれば、利用者の多い都内で出す郵便物は値下げをして、逆に利用者の少ない地方で出す郵便物は値上げをすることは十分に考えられます。

第三・四種郵便の切り捨て

第四に、これまで郵便局は、郵貯・簡保・郵便の三事業を一体経営することで、収益性の高い部門から収益を移転させることによって、全体として黒字経営を維持し、それ自身では利益が出なくてもニーズの高いサービスを継続してきました。しかし、民営化後は各部門が独立して利益を上げ株主に配当をもたらすことを目指さなければならないため、不採算部門は切り捨てざるを得なくなります。ただ、それではあまりに乱暴だということで、妥協案として「地域・社会貢献基金」が出されました。が、実際には基金では必要額はまかなえません。現在、赤字局は約1万4000局ありますが、仮に1局当たりの赤字を600万円した場合でも、赤字を補てんできるのは2000局にとどまります。また、第三・四種郵便のうち、基金の対象になっているのは、「心身障害者団体の発行する定期刊行物」と「点字郵便物」に限られ、他の第三種定期刊行物や第四種種苗・学術郵便物については大幅な料金値上げや対象除外とされることが考えられます。


Q3.政府は、郵政民営化のメリットを「官から民に資金が流れる」と説明していますが、抽象的でよく分からないのですが。

 「官から民に資金が流れる」の、「官」とは国あるいは国の行政を担っている官僚のことであり、「民」とは民間企業のことです。そして、資金とは郵便貯金、簡易保険という国民資産のことです。つまり、郵政民営化によって、郵貯・簡保の資産を国の活動のための資金ではなく、民間企業の活動のための資金に使えるようにし、そうすれば市場は活性化され日本の経済成長率はアップするだろう、というのが小泉「構造改革」の建前です。ただし、民間企業に豊富な資金が集まり、仮に民間企業の収益が上がり、数字として経済成長が達成されたとしても、国民一人一人の生活が豊かになるとは限りません。というのは、前のQ1やQ2で説明しましたように、利益を追求する民間企業は商売にならないニーズを切り捨ててしまうからです。利益を追求する民間企業の性質上、民間市場に流れた資金は、商売になるニーズに向けて注ぎ込まれます。ですから、もうかる分野においては経済が活性化されても、人々の多様なニーズが満たされるようになるわけではないのです。郵政民営化の最も憂慮すべき問題は、商売になるニーズを巡って市場が活性化される一方で、社会生活の最低条件である書物をやりとりする通信手段や口座をもてない人たちがたくさん生まれるということです。

 実際、日本に先駆けて郵政事業を民営化した国々ではこのことが大きな社会問題となりました。ドイツでは、10年間で郵便局数が半減してしまい、事態を重く見た政府がユニバーサル令を定めて、12,000局以上の郵便局設置を義務付けています。また、ニュージーランドにいたっては、郵便貯金の再国有化に踏み切ってきます。

 それから、「官から民に資金が流れる」には、無駄な公共事業を行う特殊法人への資金の流れを絶つという意味が込められているともしばしば紹介されます。確かに無駄な公共事業をなくさなければなりませんが、その手法として、代わりに営利を追求する民間企業に資金を振り向けるという方法を採用しているところに問題があります。本来やるべきことは、まず、無駄な公共事業を行っている特殊法人そのものにメスを入れることです。そして、財投改革以後も特殊法人に郵貯・簡保の資金を流している財務省理財局にメスを入れることです。これらの問題を解決しなければ税金の無駄遣いはなくなりません。小泉内閣は、これら問題に対しては何ら解決策をもっていなかったのです。結局のところ、郵政民営化は、官僚がコントロールする特殊法人への資金の流れを温存しつつ、新たに民間企業への資金の流れをつくろうという政策なのです。そして、それにあたって犠牲になるのが、公社が供給していた公共サービスであり、その利用者なのです。


Q4.では、政府の言う「見えない国民負担が減る」とはどういうことでしょうか。

 これを主張しているのは小泉内閣や銀行業界などです。彼らは、もし民営化されれば税金を払うようになるのだから、公社であるがゆえに払っていない税金分(民間会社として換算した納税額分)は国民負担なのだと主張しているのです。これは行政サービスを提供する役所が税金を払っていないのはおかしいというようなもので、かなり無理のある主張です。おそらく郵政公社が人件費も含めて税金を投入しない独立採算で成り立っており、しかも黒字経営で国民負担がないことから、苦肉の策として出してきた民営化のメリットなのでしょう。そもそも銀行業界の主張ですので、税金を負担したくないのに負担させられているという銀行業界の不満から出てきたものと受け止めた方がいいでしょう。それに、おかしなことに「見えない国民負担」を気にかける銀行業界には、この10年間で40兆円もの公的資金が投入されているのです。そのうちの20兆円近くは返ってきません。また、民間の銀行が破綻したときの備えである預金保険機構も、民間が保険料を払っているというものの、実際は国が巨額の資金提供をすることで成り立っています。銀行の方こそ、巨額の国民負担で支えられてきた経営を正すべきです。

 「見えない国民負担」を論じるのであれば、本来問われるべきことは、ここ10年の間に景気対策と称して行われてきた、法人税率の引き下げ、高所得者層を優遇する所得減税や税制優遇、そして無駄な公共投資です。これらの政策はすべて、政策の対象とはならない納税者にとっては(将来の納税者にとっても)、税収が減少した分だけそれを補う国の借金が増えたり、公共サービスへの歳出が抑制されたりしたという意味において、国民負担を増大させられているのです。郵政民営化推進派には、こうした視点が欠落しています。

 このように、今、政府と銀行業界が投げかける「見えない国民負担」は、一人一人の納税者の立場から税負担を検討する中から出てきたものではなく、民営化によって市場拡大・顧客獲得のチャンスが得られる経済界、特に銀行・保険業界の立場から出てきたものなのです。

「官から民へ」も「見えない国民負担が減る」も、実際には公共サービスの切り捨てであるにもかかわらず、さも多くの国民にとってメリットがあるかのように思わせ、民営化を納得してもらうための広告戦略上のコピーなのです。