
フランスとオランダの市民はなぜEU憲法を拒否するのか
スーザン・ジョージ
エリック・ウェッセリウス
5月29日にフランス、6月1日にオランダで行われたEU憲法条約をめぐる国民投票で、批准反対が過半数となった。ATTACフランスの副代表であるスーザン・ジョージさん、オランダの「ノーに投票を」委員会の事務局長であるエリック・ウェッセリウスさんとの以下のインタビューは、投票日が近づいていた5月21日にアムステルダムで開催されたTNI(トランスナショナル・インスティチュート)会員の会合でのプレゼンテーションをもとに編集された「仮想」インタビューであり、TNIのウェブに掲載されている(原文は英語)。
現在の時点でのフランスとオランダの世論の状況はどうですか?
 |
Erik Wesselius |
エリック:オランダでは、最新の世論調査によると、条約反対が過半数を少し上回っているという程度ではありません。先週の段階では、世論は賛成と反対がまだ50対50でしたが、昨日と今日発表された世論調査では反対が60%から64%の間です。つまり、この1週間の間に大きな発展があったということです。これはオランダ政府が非常に強力に憲法を支持するキャンペーンを行っているという事実に大いに関連していると私は思います。私は世論調査をあまり信じませんが、条約反対が本当に多数になりつつあるという確信をますます深めています。条約反対のキャンペーンを始めたとき、このように発展するとは想像していませんでした。
 |
Susan George |
スーザン:まだ態度を決めていない人の数は徐々に減っていますが、フランスでも世論調査の結果は大接戦です。人々は国民投票の後に何が起こるかを心配しています。なぜなら、政府は条約が否決されたら混乱が起きるという議論にますます強調を置くようになっているからです。この議論に対する私たちの反論は、「そんなことはない、(条約が否決されても)今の状態に戻るだけだ。今ではニース条約があるし、これまでも約3年ごとに新しい条約が締結されている。だから、それがこれまで通り行われなくなると考える理由はない」ということです。しかも今回は、私たちは後戻りするのではありません。なぜなら、大きな公開論争が行われ、人々は今ではヨーロッパの政策が実際にはどういうものなのかを、これまでよりもはるかによく知るようになっています。だから、今では私たちがどの方向へ進むべきなのかについて、本当の論争をすることができます。
あなた方のEU憲法に対する主な批判点は何ですか?
スーザン:フランスの元大統領のヴァレリー・ジスカールデスタンがこの文書を作成した憲法会議の議長に指名されました。この会議を構成する105人の委員は、上から指名されました。彼らは任命されたのです。このうち約3分の2はヨーロッパ議会の議員か国会議員でしたが、憲法会議の委員として選挙で選ばれたわけではありません。そのほかに、市民社会の代表とされる人たちが委員に任命されました。これが批判の第1の点、非民主主義という側面です。憲法制定会議というものは、普通は選挙で選ばれた機関であり、ある意味で人々の代表によって構成されます。EUの憲法会議は人々の代表ではなく、任命された人々から成っています。
エリック:この点について話せば何時間でもお話できますが、主要かつ基本的なことは、この憲法は民主的でなく、もしそれを受け入れるなら私たちは今後20年ほど、全く無力な状態に取り残されるかも知れないということです。それは将来のヨーロッパの協力にとって非常に危険だと私は考えます。2つ目の基本的な問題は、憲法というものは人々が読むことができ、アクセスできるものでなければならないということです。それは480ページもあり、しかも400ページ以上もの付属文書や宣言が付いている文書であってはなりません。それは全く常軌を逸しています。
スーザン:憲法会議のメンバーは約2年間作業を行いました。当初は、通常の憲法制定の作業の場合と同様に、もっぱら力のバランス(権限の配分)を扱うと想定されていました。そのほかに、憲章、つまりニース条約に組み込まれたけれども、それ以上には制度化されていない基本的権利の宣言を憲法として制定することも想定されていました。その後、私にはよくわからない理由で、ジスカールデスタン自身が、第3部を憲法に組み込むことを決めました。これは全体の4分の3にあたり、非常に詳細な政策のリストになっています。
 |
エリック:この文書は。多くの政策を含んでいます。それはヨーロッパを基本的に新自由主義の枠組みに固定する一連の経済政策を含んでいます。その種のものは憲法に含めるべきではありません。なぜなら、後にヨーロッパの政府がその政策を変更しようと思っても、変更は不可能になるからです。憲法に違反するからです。だから、これは非常に危険であり、人々に説明するのが非常に簡単でした。新自由主義的政策に関する膨大な章を憲法に含めようとしていることが、私たちの主要な批判点の1つになりました。もう1つの重要な批判点は、EUの軍事化でした。この文書にはEU加盟国は毎年軍事能力を向上させるという重要な条文があります。これは一部の左翼の、能力の向上は必ずしも支出の増大を意味しないという主張によって修正されたものですが、こうした提案がどこから来たのかを知れば、困ったことだと思うでしょう。これらはヨーロッパの軍事産業の何人かの代表を含む作業委員会が起草したもので、彼らは自分たちの商品を売りたいと考えているのです。だから彼らはヨーロッパ憲法にこのような条文が組み込まれたことを大歓迎したのです。
スーザン:第3部には農業、環境、警察の協力、司法、中央銀行などのすべての領域についての一連の政策が含まれています。しかし、主要な問題は、「EUの目的」の中で、EUは商品、サービス、人と資本の移動の自由があるスペースであり、競争が自由で、妨げられないスペースであると定義されていることです。「競争」という言葉が47回、「世界市場」という言葉が78回使われているのに対して、「社会的進歩」については全く述べられていません-1回だけ述べられているかも知れません。「失業」については全く述べられていません。この文書の内容について多くの異論がありますが、重要な点は、この条文が修正できないこと、改定できないことです。修正できないというのは、修正するためには3つの段階において25カ国すべての同意が必要だからです。憲法を修正するには、まず、憲法会議が開かれて、合意に達しなければなりません。次に、そこで生まれた草案を各国政府の首脳に提出して、すべての首脳が同意しなければなりません。その次に、今行われているように、議会または国民投票による批准が必要とされ、これもすべての国での批准が必要です。それ以外の方法では憲法を改定できません。だから、この文書を読んだ人は誰でも、憲法の修正は事実上不可能になると考えています。
フランスとオランダの政府は、批准反対のキャンペーンに対してどのように対応しましたか?
スーザン:フランス政府は「B案」などというものはない、フランスが「ノー」と言えば他の政府が再交渉に応じるということではないという議論に訴えています。この議論に対する私たちの反論は、誰かがこれを止めなければならない、法律的に言って、フランスが否決すればこの文書は終わりです。誰にとっても終わりです。シラク大統領はまた、「われわれはヨーロッパの黒い羊(のけ者)になる」と言っています。政府は、フランスが他のヨーロッパ諸国とは別の法律の下で生活し、他の人々がEU憲法を持っているのにフランスが別の法律を持つようになると人々を信じさせようとしています。彼らはこのことと、どの国もEUを離脱する権利を持つという新しい条文を混同させようとしてきました。彼らはこの点についての混乱を煽ってきました。しかし、実際には、国民投票が終わった後、論争のための時間はたくさんあるし、力関係も大きく変化しているだろうと私たちは思っています。私たちが勝利すれば、それは社会党のリーダーシップが威信を失うことを意味するし、首相の威信も失われます。その結果、フランスの政治の全般にわたって、大きな変化が起こるでしょう。また、私たちは他の国の仲間たちと、次に何を望むのかについて本当の論争を行うことができるでしょう。それこそが必要なことです。しかし、その前に、私たちは「ノー」と言う必要があります。この憲法は私たちがヨーロッパや世界で実現したいモデルではありません。
エリック:オランダでは、政府は「イエス」のキャンペーンのために400万ユーロの特別予算を承認しました。「ノー」への投票を大変恐れていたからです。私たちはこの予算の執行を停止するか、「ノー」のキャンペーンにも同等のメディアの利用と同額の予算を抵抗することを求める訴訟を起こしました。というのは、全く平等を欠いているからです。「ノー」のキャンペーンは全体で40万ユーロの資金を持っていますが、それが多くのグループに分散されています。私のグループは「ノー」のためのキャンペーンを行っている主要な活動的グループですが、3万ユーロしか持っていません。私たちの3万ユーロと彼らの400万ユーロを比べれば不平等は明らかです。いずれにせよ、私たちは政府が現時点でオランダの人々からこれほど嫌われているということをうれしく思います。なぜなら、この政府は強硬な新自由主義的社会政策を実施してきたからです。昨年末には労働組合による多くのデモがありました。現在起こっている「ノー」への支持の増大という明らかな変化は、ある種の鬱憤晴らしであると私は考えています。
スーザン:私は前の欧州委員で、オランダ政府の閣僚だったフリッツ・ボルケスタインがフランスにやってきて、彼の「指令」を擁護する発言をしてくれたことに感謝しています。彼の指令は、サービスの移動の自由に関するものであり、サービスが提供される国の法律ではなくサービスを提供する会社の本社がある国の法律が適用されると規定しています。彼は、こんな国民投票を重視しない、こういう問題を議決するために議員が選ばれているのであり、彼らにはそれを進めることだけを考えさせるべきであり、一般の国民をこの論争に関与させるべきではないと発言しました。この発言は本当に役に立ちました。それによって私たちへの支持が大幅に増えたのです。
エリック:オランダ政府は多くの広報活動上のミスを犯しました。主要与党の1つである自由党が制作したテレビ広告は、アウシュビッツとスレブレニカの虐殺(オランダ人にとって大きなトラウマになっている)の写真を示し、次にマドリードでの爆弾事件を示し、最後に「より良く、より安全なヨーロッパのためにEU憲法が必要です」というメッセージを流しました。後になって自由党は、「この広告を流すのはいい考えではないかも知れない」と思い直したのですが、不運なことに、この広告はすでにインターネット上に流れていました。これは政府が憲法を売り込むための論拠を全く持っていなかったことを示す1つの好例です。
スーザン:フランス政府はすべての抑制を取り払いつつあります。彼らはパニックに陥っています。当初、事業家たちは「キャンペーンに積極的に関与するつもりはない。それは賢明でないし、生産的でない」と言っていました。しかし、今週になって100人以上の有力なビジネス・リーダーたちが「イエス」への投票を呼びかけるアピールに署名しました。国防相は、「イエスに投票しないとヨーロッパは地獄へと撃ち落とされる」と言いました。彼らは本当にパニック状態です。シラク大統領は、慎重に選んだ若者たちのグループと一緒にテレビに出演しました。ATTACの2人のメンバーは追い出されました。考え方が偏っているというのがその理由です。だから残った若者たちは大変従順で、礼儀正しいはずでした。しかし彼らは私たちの未来に対して質問し、シラクは答えられませんでした。その後、世論調査で「ノー」への支持率が上がっています。だから私たちはシラクにも感謝しています。次にラファラン首相です。彼がテレビに出るたびに私たちへの支持が上がりました。人々はフランスにおける新自由主義の表れに対して反対の票を投じようとしているのです。彼ら、彼女らは2002年に現在の政府が選ばれて以降、それによって苦しめられてきたからです。
国民投票に関わる活動を始めた背景と理由は何ですか?
エリック:私たちは約1年半前に始めました。基本的には、私たちは長年にわたってEUの問題について活動してきた広い意味での左翼に属している人々のグループです。私は1990年代半ばからEUの問題に関わっており、1997年にアムステルダム条約の交渉に対するオルタナティブ・サミットに関わりました。私たちは一堂に会して、この国民投票の問題に対してアプローチする戦略を検討しました。「ノーと言う者は排他主義者だ」という政府の宣伝を成功させないためにどうすればいいかを検討しました。そのような宣伝は私たちを右翼ポピュリストと同じように描こうとするからです。
スーザン:フランスでの憲法に関する論争は、当初はやや低調でした。最初の1年半ほど、私たちは取り組んできませんでした。しかし私たちは昨年の夏から取り組んでいます。ATTACは2004年の政府間会議に向けて21項目の要求を提出しました。両性の平等がEUの目的に中に含められたほかは、どの要求も満たされませんでした。21項目の要求のうち取り上げられたのはこの1つだけでした。その後、論争が始まりましたが、それについて十分には説明できません。なぜなら、それはフランスでは1968年以来最大の論争となったからです。何が原因か、私にはわかりません。それは、この13年間、誰もヨーロッパについての自分の意見を表明することを求められたことがないという事実に関係していることは間違いありません。最後に意見表明を求められたのは、1992年のマーストリヒト条約をめぐってでした。彼ら、すなわち政府と、ジスカールデスタンやその他の憲法起草に関わった人たちは「第3部について心配することはない、これは大した問題ではなく、これまでの条約に書かれていたすべてのことを要約しただけであり、あなた方はこれまでもそのような規則の下で生活してきたのであり、これからもその下で生活するだけだ」と言い続けてきました。しかし、人々はヨーロッパのすべてが要約され、すべてが1つの文書に書き出されていたことを知りませんでした。私たちの論敵は、決して条文を引用しません。ひとたび引用を始めて、人々が実際に何が書かれているのかを知り、何が憲法として制定されようとしているのかを知り、それが改定も修正もできないということを知れば、人々は死ぬほど驚きます。反対運動の組織化について言えば、それは「200人の呼びかけ」から始まりました。この呼びかけはさまざまな左翼を代表する200人の人々が署名しました。社会運動や労働組合や政党の代表も含まれます。この呼びかけに呼応して、全国に委員会が組織されました。今では県や市のレベル、あるいはもっと下のレベルに到るまで、800−900の草の根の委員会ができています。このような委員会が全国で論争を組織してきました。私は参加者が100人から5000人までのさまざまな討論集会に参加しました。右翼にはこのような大衆動員はできません。
エリック:キャンペーンを始めたとき、私たちは社会運動団体やNGOが参加することを望みました。1997年の対抗サミット、「下からのヨーロッパ・サミット」の時のような構造を作ろうと考えたのです。しかし、どのNGOも憲法について明確な態度を取ろうとしませんでした。この人たちは特に、公然と「ノー」を支持するのをためらいました。したがって、そのような連合を形成することは不可能でした。そこで私たちは、論争の争点を明確にすることに重点を置くことにしました。私たちは始めに、憲法に関する論文を書き、政治的立場が異なる人たち、たとえば社会民主党や緑の党の人たちにも論文を書くことを要請しました。「イエス」を支持している政党の党員が書いた論文も掲載し、憲法の内容の分析と批判と合わせて1冊の本を作りました。また、憲法に対する主要な批判点をまとめたパンフレットや、その他の資料を作りました。それは非常に重要だったと思います。なぜなら、右翼の宣伝はほとんど内容がなかったからです。これは私たちに非常に有利に作用したと思います。
スーザン:私たちはたくさんの資料を作りました。憲法に関する何冊かの本はベストセラーです。ATTACは小さな本を作り、表紙にニコラス・サルコジ(新自由主義の信奉者、次期大統領になりたがっている)と社会党書記長のフランソワ・ホランドの写真を使いました。前に大衆向け週刊誌「マッチ」が表紙にこの2人が並んだ写真を掲げ、「2人は互いにイエスと言った」という見出しを付けました。フランスでは誰でもこの写真を知っています。私たちの本の表紙では、彼らが腕を組んでアイススケートをしている写真に「2人は互いにイエスと言った」という見出しが付いています。このブックレットで私たちは社会党や中道右派UMP(国民運動連合)のすべての議論に反論しています。このブックレットは発売から1週間で3万8千部が売れました。次に、憲法について逐語的に解説した本を刊行しました。
憲法に対する反対は進歩的陣営からだけではありませんでした。他にどのような勢力が「ノー」を支持しましたか?
エリック:右翼の一部がこの問題をめぐって運動をしています。彼らも「ノー」の投票を呼びかけるキャンペーンを行っています。しかし、これまでのところ、私たちの方が彼らよりもメディアの注目を集めています。今週まで、メディアでは私たちだけが「ノー」の投票を呼びかけてきました。今では右翼ポピュリストの政治家、ヘールト・ウィルダーがバスでキャンペーンのためのツアーを行っており、少しはメディアの注目を受けていますが、この程度では政府が憲法に反対するのは右翼の排外主義者だと強弁することは不可能です。
スーザン:私は「イエス」陣営は純粋な、強硬な新自由主義の提唱者であると考えています。彼らはヨーロッパをアメリカ・モデルに引き入れようとしています。そこには社会保障はほとんどなく、万人の万人に対する競争があるだけです。公共サービスは大幅に切り下げられ、無償の教育や医療は非常に激しい攻撃を受けるでしょう。「イエス」陣営は実際にはアメリカ・モデルの競争を提案しているのであり、そこでは市場がものごとを決定し、政策が介在する余地はほとんどありません。人々は多く決定に関与する可能性を奪われます。
この問題をめぐってヨーロッパの左翼は分裂しています。左翼のいくつかの政党はなぜ「イエス」を支持しているのですか?
エリック:オランダでは、緑の党が「イエス」の投票を呼びかけています。したがって、左翼で「ノー」の投票を呼びかけているのは社会党だけです。緑の党は、これは理想の条約ではないが、EUレベルでの民主主義の拡大という点では一定の前進であると言っています。また、彼ら、彼女らは現在の政治的条件の中では、条約の再交渉ということになった場合に、これよりも良いものが出てくる可能性はほとんどないと見ています。彼ら、彼女らは、この条約はヨーロッパがより効果的に失業問題に取り組むことを可能にし、環境政策でも多くの改良が含まれていると言っています。私たちはこのような主張を疑わしいと考えていますが、これが彼ら、彼女らの考え方です。
スーザン:オランダとフランスには多くの類似点があります。社会党は党内で党員投票を行い、執行部は早い段階で「イエス」の立場を表明していました(党員投票の結果は約60対40)。その結果、社会党は現在、分裂しており、2人の有力なリーダーが「ノー」の立場を表明しています。1人は前首相のローレント・ファビウスで、もう1人のアンリー・エマニュエリは党内最左派のリーダーです。党の執行部は彼らが極右ファシストに加担していると非難してきました。彼らは自分の党によって誹謗され、中傷されています。しかし、「イエス」の方針は一般党員の間ではそれほどうまくいっていません。どの世論調査でも、社会党支持者の50%以上が「ノー」に投票すると答えています。緑の党にも同じことが言えます。
憲法のいわゆる進歩的側面を擁護するという議論に対して、どのように対応していますか?
スーザン:憲法の第1部は、権限の配分に関するものであり、そこには軍事に関する条項も含まれています。そこでは非常にはっきりと、NATOはEU加盟国の防衛の主要な構成要素となると書かれています。これは第1部です。その一方で、ヨーロッパ議会は法案を提出したり、増税を決定したりする権限を持たず、通常の国の通常の議会が持っているような権限を持っていません。第2部は、基本的な諸権利の憲章です。多くの人々がこれに問題を感じています。とくにフランスではそうです。なぜなら、それはフランス憲法やその他の18世紀以降書かれてきた憲法や最初の人権宣言と比べて後退しているからです。たとえば、この章の1つの条項には、「仕事を探す権利」があると書かれていますが、「仕事をする権利」については書かれていません。仕事は基本的権利として扱われていません。しかし仕事の権利は、失業補償を受け取るための基本的な根拠となるものです。だからこれは非常に重大な後退です。ほかにもあります。多くの女性は、種々の国において女性が獲得してきた成果について触れることなく単に「すべての人は生きる権利がある」と書かれていることは重大な欠落であると感じています。また、この条文がそのような表現になっているのは、ポルトガルやアイスランドなどの国で、出産に関する決定権や中絶の権利が認められていないからだと感じています。ほかにも、私たちには後退であると思われるさまざまな問題があります。しかも、権利の憲章の最後には、この憲章はEUに新たな権限や任務を定めるものではない(「この憲章は、EU法の適用分野をEUの権限を越えて拡大するものではなく、EUに新たな権限や任務を定めるものではなく、また、憲法の他の部分で規定されている権限および任務に変更をもたらすものではない 」、II-111条)、「この憲章の規定で、原理に関わる規定は、EUの機構、機関、事務所、部局によって行われる立法および行政の行為によって、また、加盟国によるその権限の行使によるEU法の施行の行為によって実現される。それらはそのような行為の解釈およびその合法性に関する判断においてのみ司法権の及ぶところとする。」(II-112条)と書かれています。つまり、裁判所は請求可能な権利を強制できず、憲法が適用されているかどうかを判断できるだけです。
エリック:私たちの主要な論点は民主主義に関わるものです。だから、緑の党が言っていることとの関係では、私たちはいくつかの小さな改善があることを認めます。たとえば、欧州議会はいくつかの分野ではEUの政策決定に対する発言権を少し強化しました。閣僚評議会の透明性も、少し改善されるでしょう。しかし - このような改善には必ず「しかし・・・」が付きます - 評議会の透明性について言うなら、評議会の決定の大部分が委員会によって準備されていることを考えなければなりません。1000近くもある委員会は、これまで通り不透明なままです。これらの委員会が何をしているのかは全く監視されておらず、この状態は憲法によっては変わりません。欧州議会は長年の間に権限を強化してきましたが、まだ各国の国会と比較できるものではありません。第1に、本来の意味での政党が存在しません。欧州議会には「グループ」が存在し、それを政党だと考えている人たちもいます。たとえば社会民主主義グループやキリスト教民主主義グループです。しかし、それらのグループは実際には政党として機能しておらず、1つの傘の下で活動する各国別の党派の集まりにすぎません。いくつかの試み、たとえば緑の党による「ヨーロッパ緑の党」設立の試みがありましたが、ごく一時的なものでした。その意味で、非常に奇妙な形態の政治が行われています。もっと奇妙なことは、政党によって構成される政府が存在しないということです。各国が委員を任命し、委員会が政府のように振舞いますが、代議制民主主義に見られるような政権党と野党の間の一般的な力学的関係がありません。
スーザン:私たちも民主主義をめぐる議論と、経済政策を憲法のような文書に含めるべきではないという点を主張しました。憲法では2つの執行権力が規定されています。1つは委員会です。これは共通の利益を定義できる唯一の機関でり、それが委員会の仕事です。次に、1名の大統領が存在します。彼または彼女は選挙で選ばれ、任期は2年半で、再選できます。これは2つの執行権力の間の対立への対処策のように見えます。言い換えれば、これは6カ月交替の議長国方式、つまりフィンランドの次にギリシャ、次にアイルランド・・・という方式をやめるということです。このやり方をやめるのはいいことかもしれませんが、その代わりの方法としてはあまり生産的でないように思えます。しかし、全体的には、私たちの論点は新自由主義の問題に戻ります。憲法が憲法会議から各国の首脳および政府に提出された後に各国によって行われた追加や削除によって、新自由主義が当初の憲法会議の案よりも一層強まりました。それはおそらく、現在のヨーロッパ各国の政府の政策を反映しているのでしょう。しかし、この憲法を改定するのは非常に難しいので、このことは重要な問題になっています。1793年のフランス憲法が言うように、「1つの世代は将来の世代をその法律に従属させてはならない」からです。政府や金融機関やメディアによる「イエス」への投票を呼びかける宣伝では、「この憲法はこれまでのものよりも民主的だ」と言っていますが、実際に憲法の条文を読んだ人の大部分は、その苦行のあと、批准反対に投票することを決心します。フランスで私たちが負ければ、それは歴史的な敗北になるでしょう。しかし、私はフランスの人々の知性を信頼しています。私は勝利を確信しています。
|

|