郵政民営化をとめろ!
公共サービス研究会 2004年9月24日
郵貯・簡保からみた
郵政民営化の問題点

─郵政民営化に対抗する─

もうひとつの郵政改革は可能だ! (ATTAC Japan首都圏 2004/10/18)


荻窪郵便局のワンネット方式は誰のため? (ATTAC Japan首都圏 2005/1/19)


創ろう市民プロジェクト「郵政民営化を監視する市民ネットワーク」の呼びかけ (郵政民営化を監視する市民監視ネットワーク2004/9/26)


いったい誰のための、何のための民営化か? (郵政労働者ユニオン2004/11/5)


「郵政民営化基本方針」に対する見解 (郵政労働者ユニオン2004/9/15)


トヨタ方式で郵便現場は
大混乱
白川 真澄さん
『ピープルズプラン研究』編集長
田中英樹さん
郵政労働者ユニオン越谷支部

■民営化の基本論理

政府や自治体の財政支出の増大という状況の中で、競争原理を導入し、コスト削減、サービス向上できるというのが民営化の基本論理だ。これを仮に民営化における財政の論理とする。たとえば、道路公団の民営化の際には、道路は民営化によって採算性を明らかにすることによって道路拡張をストップする可能性がでる、というのが道路公団民営化推進派の主張だったが、実際にはそうはならなかった。

■金融ビッグバンの総仕上げ

しかし郵政民営化ではそのような論理は前面には出てこなかった。それはこれまでも異常な労務管理とコスト削減が進められコストをさらに下げるというふうにはならなかったこともあるだろう。「赤字でもないのになぜ郵政民営化なのか」という疑問は一般市民の間にも広がっている。理由は竹中担当大臣自身が、郵貯・簡保を廃止して資金を民間へ流すとはっきり語っている。郵政民営化は金融の論理で進められると言えるだろう。

経済財政諮問会が七月に出した中間報告では、資金を官から民間へ流すことで経済の活性化を目指すとした。これは九〇年代から進められてきた金融ビッグバンの総仕上げであるといえるだろう。

■ハイリスク金融商品へ資金をながすために

現在、郵便貯金残高と簡保総資産はあわせて三百五十兆円にのぼり、これは日本の個人金融資産千四百兆円の約二十五%にのぼる。しかし個人資産は、いわゆるハイリスク、ハイリターンの金融商品へはほとんど流れていない。アメリカではハイリスク金融商品に流れる個人資産は五割を越すといわれ、日本で大量に眠っている個人資産をハイリスク金融商品へと流すことが経済活性化につながる、というのが竹中の主張だ。金融課税の一本化など税制改革など、グローバル競争で日本企業に力をつけさせるための法改正が今後国会に上程される。これは簡単に言えば、大企業や金融機関が株式投資で損を出しても税金で面倒を見てやるというものだ。

安心した貯蓄を通じた老後を考えている一般の市民には郵政民営化でなんら得をすることはない。いわば抽象的な「日本経済」のためにおこなわれる民営化である。その実体はもちろん大企業や大金融資本である。

■財政投融資――問題はどのようにメスを入れるのか

しかしなぜ民営化がここまでクローズアップされてきたのか。それは他でもなく公的な金融資産の使い方があまりにでたらめを極めてきたことにあるだろう。無駄な高速道路の建設に対する批判を背景に小泉は道路公団の民営化すすめ、いま郵政民営化ではその流れに乗って進められている。これまでの公的な資金の使い方を整理してみる。いま流行している考え方は「官が管理している金の使い方は非効率的」というものであり、これ自体は事実である。問題はそこにどのようにメスを入れるか、ということだ。

なぜ郵貯や簡保に庶民の貯蓄が流れているのか。それは九十年代の金融機関の倒産、ペイオフ解禁など、民間金融機関に対する市民の不信が端的に現れているといえるだろう。

では公的資金の使い方はどうだったのか。二〇〇一年までは郵貯などで集められた資金は旧大蔵省の資金運用部に預託することが義務付けられており、そこを通じて財政投融資や国債購入に当てられてきた。地方自治体などにも低利で長期資金として貸し付けられてきた。株式など投機には運用することが禁止されていた。財政投融資資金は第二の予算といわれるほど金額が膨張してきた。国の一般予算は使い方が非常に限定されていた。国債は建設国債以外には発行できなかったことから、財政投融資を通じて他の事業の資金を確保してきた。その残高は四百兆円にのぼる。民間金融機関の融資総額が六百兆円であることからもその巨大さがわかる。このことから確かに「官」の金が膨大になっている。しかし問題は道路公団や住宅金融公庫など、特殊法人が行ってきた事業自体を見直すべきであり、郵貯自体の問題ではない。

たとえば道路公団は需要予測を過大に行い道路を作りづつけてきたことが道路公団民営化の世論を強めた。高速の六割が料金収入だけでは建設費用をまかなえない状況である。本州四国連絡橋は、料金収入のみでは利子すら支払えない。道路公団は四十兆円の累積赤字である。ダム建設でも同じように過大な需要予測に基づいて建設計画が作られてきた。資金運用部からの貸付を返済できず不良債権化した。九十年代から特殊法人改革がおこなわれ、特殊法人の数は減ったが流れる資金の額は変わらないままだった。

そこで小泉は「民営化だ」ということで進めた。「官」の資金の流れの出口である特殊法人改革、そして資金の流れの入り口である郵政民営化というわけだ。しかし特殊法人の問題を解決するのに、集まった資金である郵貯を批判するのは筋違いだ。使い方の問題である。財政投融資自体のしくみは非常によくできている。必要であるが市場原理では資金の流れない事業などの資金を確保することが可能だ。問題はどのように使うのか、ということであり、真の犯人は大蔵省および国土交通省をはじめとする他の省庁だ。

■国債を引き受けてきた郵貯

二〇〇一年四月から、中央省庁改革にともなう財政投融資システムが変わった。それまで旧大蔵省の資金運用部から直接資金が流れてきたが、それが特殊法人自身が財投機関債を発行し自ら資金を調達することが前提となった。しかし公共性はあっても収益性の低い事業の財投機関債は評価が低くなり、資金の調達が困難になることが予想されることから(初年度は一兆円程度しか調達できなかった)、財政融資金特別会計が財投債という国債を発行し、金融市場で資金を調達して特殊法人に貸し付けることになった。現在、この財投債の半分を郵貯が引き受けている。財投規模は縮小してきており、郵貯はそれを見越して二〇〇八年度以降は引き受けをないことを明言している。

ではそれ以降、この巨大な資金をどのように使うのか。民間への融資などに運用すると民間金融との競争が激化する。これに対しては金融業界が懸念を表明している。五百兆円にのぼる巨大な国債は誰が引き受けるのか。民間金融機関にそのような力はないことから、これまで郵貯が国債を引き受けてきた。とくに大量の書き換え債が発行される〇八年には大きな問題になる。大量の国債の発行が民営化推進を阻害している。

■金融業界の不満

問題は「官」か「民」ではなく、公共性をどのように考えるのかということだ。九月に閣議決定された「郵政民営化の基本方針」は、民営化スタートの二〇〇七年度から四事業に分社化する、郵貯と簡保は二〇一七年度までに完全民営化する、「事業間のリスク遮断」原則から郵便事業と窓口ネットワークを切り離す、金融サービスのユニバーサルサービスを廃止する、職員は公務員からはずれるといったものだ。

郵貯と簡保では、小泉・竹中の方針が通った。銀行業界は不満を隠さない。郵貯においては当面は取り扱い上限を一千万円を上限とするが、これが今後緩和されていくことを批判している。各社の地域分割については、今後の経営者の判断に任せるということで、スタート時は全国的な巨大会社が誕生する。資金が民間に流れないという金融業界の不満。

■市民が金の使い方を決めよう

われわれはどうすべきなのか。郵貯や国債を通じて集まった資金は公共性のある資金である。社会的必要性をこれまでは政治家や官僚たちが決めてきた。高速道路がよい例だ。いま地域経済や地域社会が崩壊の危機にある。地域金融を支える役割が公共性のある資金にはある。全国から集まった資金を地域につかう。地域の市民と労働者が参加して使い道を考えるシステムを作っていくべきだろう。

■トヨタには3億円支払った

越谷郵便局にトヨタ方式が導入され一年半が経過した。越谷市の人口は約三十二万人、越谷郵便局では正規職員が約四百名、非正規が約三百名働いている。二〇〇二年十二月はじめにトヨタ物流システムから七名が越谷局にきて、今年三月まで常駐していた。トヨタには一億七千万円のコンサルティング料を支払い、その他さまざまな経費を含めると三億円近くをトヨタのためにつかったのではないか。

■トヨタ方式で業務は大混乱

トヨタシステムはジャパンポストシステム=JPSと呼ばれている。それは作業の平準化とジャストインシステムを基本としている。作業の平準化のためにまず労働者の勤務時間の管理が必要になってくる。郵便物を集配する集配課では昨年の九月から椅子がいっせいに撤去され、すべて立ち作業になった。昼休みと配達のバイクに乗るときだけ座れる。腰痛で入院した労働者や慢性の腰痛に悩む労働者も出た。トヨタは「座っての作業は無駄」という。当初、人は減らさないといっていたが結局はコスト削減の人減らしが目的だった。この一年間は、常態的残業、サービス残業、配達時間の遅れなど、利用者に迷惑をかける状態になっている。これまでは遅くとも五時には配達が終わっていたが、いまでは六時や七時になることもざらだ。遅配はレアなケースではない。一般の市民や企業からの苦情が増えている。また職員の交通事故も増えている。年賀の時期は最悪だった。年賀状が元旦に届けられない。三日、四日にも届かない。各課の課長など総動員で年賀に対応して七日から八日にやっと混乱が落ち着いたという状況だった。

■トヨタ方式で集荷回数が減る

トヨタ方式が導入されたことは利用者はよく知っているが、部内の効率化のためだけに遅配などが続出していることはサービス向上ではないという指摘もされた。いってみれば郵政公社とトヨタは地域利用者をつかって実験をしている。郵便の鉄則である「迅速で正確」な作業ができなくなっている。

またより具体的なサービスの低下は、一日の郵便物の回収回数がおおくのポストで減ったことだ。トヨタ方式導入で、利用頻度が多いと考えられる駅前などのポストは回収回数を増やしたが、利用頻度が低いと判断されたポストは回収回数を三回から一回に減らされた。回収が一回に減らされたポストは集配の職員がポストを開けている。これまでは日逓など下請けの会社に委託していた。この改革によって下請けに委託料を支払わなくてもよくなったが、利用者の利便性は大いに低下した。自分が一日一回開けるポストは、郵便でいっぱいになっていることもある。

■ムリ・ムダ・ムラのトヨタ方式

また労働条件が厳しくなっている。欠員が出ても補充されないなかで、労働が強化されている。五月三十日には集配の労働者が一人亡くなっている。混乱した年賀を終え、欠員が出たままそれをカバーするために労働強化の状態が続いた。また残業が常態化している。労使で協議してきめる三六協定でさだめた残業時間を大幅にオーバーする状態が続いたことから二回も三六協定を結びなおしたという前代未聞の事態も起こっている。

トヨタ方式はムリ、ムダ、ムラをなくすのではなかったのか。トヨタ方式は誰にでもすぐに平準化された作業を実現するのではなかったのか。結局トヨタ方式は命令と服従の労務管理でしかなかった。トヨタの工場で働く労働者も大変な状況であることが容易に想像できる。

■全国に拡大するトヨタ方式

郵政民営化の防波堤としてトヨタ方式導入によるコスト削減と労働強化を導入した。かつて全逓が強かったときはこんなめちゃくちゃな労務管理を職場には導入させなかった。橋本行革以降、民営化を回避するために労働組合自体が労働強化に協力してきたことの現われだろう。しかし結局、利用者には迷惑しかかけなかった。これがトヨタ方式の本質だ。JPSは今年度から全国十五局に拡大し、さらに全国の各局に拡大させようとしている。



内田正さん
郵政労働者ユニオン中央執行委員長


郵政労働者ユニオンは、基本方針に対する「見解」をだした。基本方針では四つの子会社化とされているが、これではユニバーサルサービスは維持できないだろう。また基本方針の論議の中で民営化準備室が唯一示した窓口ネットワーク会社の「9,000億円の利益」についても、5,000局程度の廃局が前提になっている。窓口ネットワークについても地域や利用者の立場から考え出されたものではない。逆に利用者の利便性は失われていくと考え
る。

郵政公社は、国内およびアジアの物流へのシェア拡大を狙っている。現在国内シェアの10%を目指すとして躍起になっている。一方で、雇用は非常勤化が進められている。公共サービスを担う職場として、賃金や福祉、労働条件が低下し続けている。

「郵政民営化基本方針」に対する見解