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<ATTACニュースレター日本語版2002年第10号/転載歓迎>
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ATTACニュースレター「サンド・イン・ザ・ホイール」(週刊)
     2002年3月13日号(通巻第119号)
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          Sand in the wheel
 Weekly newsletter n°119 - Wednesday 13 March 2002.
   FEASIBLE(実現可能?)
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金融取引への課税の提唱者であったジェームズ・トービン氏(84歳)が3月11日に死去した。エール大学経済学部名誉教授、ケネディー政権の最高顧問、1981年にノーベル経済学賞を受賞。

《 も く じ 》

1−極秘メモが証拠を示している

(Eyes-only memos show who done it)

「ラテンアメリカのパリ」と称せられるブエノスアイレスで、警察は昨年12月に、飢えよりも銃弾に立ち向かうことを選んだアルゼンチンの20数人の市民を射殺した。この国の通貨は崩壊し、失業率は16%から統計を数百万人上回る数にまで増加した。経済は無慈悲に葬られたのだ。犯人は誰か? 犯人は死骸の上に指紋を残していった (1765語)。

2−ポルトアレグレの意義(Porto Alegre Significance)

次の「もう1つの世界は可能だ」の会議は、2003年始めに、再度ポルトアレグレで開かれることになった。今から2003年までの間に、多くのことが起こるかも知れない。ポルトアレグレIIIがポルトアレグレIIからさらに前進することを期待する(1072語)。

3−WTOをめぐる動き(WTO Tidbits)

マイク・ムーアが9月まで、貿易交渉委員会の議長を務めることになった。「発展途上国」が彼の就任に同意したことの見返りとして、いくつかの要求が満たされた。中国がEUを相手にWTOに提訴。米国は中国とEUの遺伝子組換え作物に関する決定に対して警告(593語)。

4−よくわかる(?)アルゼンチン経済の話

(How to explain the Argentina economical situation to children)

ボクは緑のビー玉を10個持ってたよ。ボクはそれをジョーに預けたの。ジョーは近所の大きなお家に住んでて、ジョーのお家なら、ビー玉をしまっておく所があるから、なくなる心配がないんだ。ジョーのママは、子どもは緑のビー玉で遊ばずに、茶色いのに交換しましょうねって言うんだ。それで、ビー玉の公式レートっていうのがあって、おばさんはボクに茶色のビー玉を14個くれたよ・・・(515語)。

5−通貨取引税の実現可能性について

(On the feasibility of a Currency Transaction Tax)

2月20日に、ドイツ開発省の委託を受けたPaul B. Spahnによる研究報告「通貨取引税の実現可能性について」が刊行された。この研究報告は金融市場の規制をめぐる論議に新たな刺激を与えている。本稿の執筆時点で、この報告書はドイツ語でしか入手できない。英語版は国連「開発のための金融」会議までに完成する予定である(2406語)。

《 要 約 版 》

●極秘メモが証拠を示している

Eyes-only memos show who done it

グレッグ・パラスト(Greg Palast)

「ラテンアメリカのパリ」と称せられるブエノスアイレスで、警察は昨年12月に、飢えよりも銃弾に立ち向かうことを選んだアルゼンチンの20数人の市民を射殺した。この国の通貨は崩壊し、失業率は16%から統計を数百万人上回る数にまで増加した。経済は無慈悲に葬られたのだ。犯人は誰か? 犯人は死骸の上に指紋を残していった。 2000年9月5日付の「合意事項についての覚書」("TechnicalMemorandum of Understanding")は、アルゼンチン中央銀行総裁のペドロ・ポウからIMFの専務取締役のHorst Kohlerに宛てられたもので、私はこの全文コピーを入手した。

「合意事項」はアルゼンチン政府に財政赤字を53億ドル(2000年)から 41億ドルに減らすよう求めている。深刻な不況に直面していたアルゼンチンで、財政支出を20%も減らせという無謀な要求だった。

IMFはアルゼンチンに、緊急雇用政策の下で支払われていた月200ドルの賃金を20%カットするよう指示した。公務員の賃金の12〜15%の引き下げ、年金の「合理化」(高齢者年金の13%引き下げ)も指示されている。・・・この指示に従った結果、アルゼンチン経済は崩壊に進んだ。 もう1つの機密文書は、[2001年]6月25日付けの「国家支援計画」("Country Assistance Plan")である。これは世界銀行総裁のJamesWolfensohnが署名しており、今後4年間のアルゼンチンに対する支援計画に関わるものである。

私はレポーターの義務として、この「計画」が残忍さと自己欺瞞に満ちたものであることを明らかにしておきたい。Wolfensohn は、アルゼンチン経済が崩壊に進んでいるさなかに、「景気後退にもかかわらず、昨年のレポートで設定した目標は依然として有効であり、適切な戦略のため、2001年後半には[経済は]大幅に好転するだろう」と主張している。Wolfensohnはとくに、政府が金利支払いの増加に対応するために歳出を30億ドル削減したことを賞賛している。また、危機の「明るい面」として、「時代遅れの労働協約が廃止され、労働市場の柔軟化によって労働コストが削減された」と述べている。

ところで、IMF・世銀はこうした政策を条件として200億ドルの緊急援助を提供した。しかし、このレポートの時点でアルゼンチンの対外債務は1280億ドルで、金利と為替レート維持のための費用(ドルとの交換の際のリスク割増の支払い)を合わせると270億ドルである。つまり、この緊急援助はアルゼンチンの市民の手には一文も渡らないのである。

Wolfensohnが要求した労働コスト削減の犠牲者の一人がAnibalVeron(37歳)だ。彼はバス会社を解雇された。彼は失業者の街頭バリケード闘争に参加し、2000年11月に、バリケードを撤去しようとしていた警官隊によって頭を銃撃され、死亡した。[2001年]6月17日にはデモに参加していたCarlos Santillan(27歳)とOscar Barrios(17歳)が教会の中で警察によって射殺された。しかし、西側の報道では12月にアルゼンチンが対外債務を支払えなくなった時にはじめて、アルゼンチンが「危機」にあると報道された。[筆者は英国「オブザーバー」誌に「インサイド・コーポレート・アメリカ(企業が支配する米国の内側)」というコラムを掲載している。筆者のHPは: http://www.gregpalast.com/]

●ポルトアレグレの意義

Porto Alegre significance

SEATINI(Southern and Eastern African Trade, Information andNegotiations Initiative、「南・東アフリカ貿易・情報・交渉イニシアチブ」)のブレティンVol V - n°3より 第1回世界社会フォーラム(ポルトアレグレI)は、ダボスの世界経済フォーラムに集まった数百人の金持ちや有力者の対する挑戦を象徴した。それは多国間投資協定 (MAI)に反対する闘争やWTOシアトル会議に反対する闘争の成功の後に開催された。第2回世界社会フォーラム(ポルトアレグレII)は、9・11の攻撃とその後のアフガンへの「報復戦争」、そしてドーハでの第4回WTO会議の後に開催された。

ポルトアレグレIとポルトアレグレIIの間に大きな変化が起こった。ドーハは人々の運動、そして南の諸国にとって敗北だった。また、9・11以降のアフガンの爆撃と「テロリズムに対する戦争」、そして米国を含む全世界的な民主主義的権利の侵害は人々に大きな影響を及ぼした。エンロンの倒産は9・11に劣らない大きな衝撃を与えた。会計の公正さを保証するはずの会計監査役が不正に関与していたという意味で、それは資本主義システムの空洞化を明らかにした。次に、アルゼンチン経済の崩壊である。アルゼンチンは IMFによって「発展のモデル」として賞賛された国だった。これによって構造調整政策を通じた発展というモデルは信用を失った。

この一連の出来事は、ポルトアレグレIから開始された努力、つまり「もう1つの世界」の現実性を具体的に考えていこうとする努力が意義あるものであることを示している。 次の「もう1つの世界は可能だ」の会議は、2003年始めに、再度ポルトアレグレで開かれることになった。今から2003年までの間に、多くのことが起こるかも知れない。ポルトアレグレIIIがポルトアレグレIIからさらに前進することを期待する。

●WTOを巡る動きWTO Tidbits 編集:「Attac 国際条約作業グループ」(マルセイユ)

1)マイク・ムーアが貿易交渉委員会の議長に選出される 中国を含む発展途上国グループはムーアの選出に反対していたが、交渉プロセスで加盟国による監視を保証するための措置を導入することが明らかにされたため、態度を変更した。ムーアの任期は9月1日までで、それ以降は次期WTO理事長のSupachai Panitchpakdi氏(タイ出身)に代る。

途上国の要求によって、交渉委員会議長から監視機構に定期的に送られるレポートは、問題に関する合意を反映させ、合意がない場合は異なる意見を併記することが確認された。また、小国もすべての会議に出席できるように、一度に1つのグループの会議だけを行うことも合意された。交渉は既存のグループ(農業、サービス、紛争処理、知的財産権)の特別セッションから始まる。2つの新しいグループ(市場アクセス、実施規則)が設立される。また、貿易・環境委員会はこれまでは勧告に限定されていたが、格上げされる。

2)中国がEUを提訴(1月24日) 中国はEUが蜂蜜、エビその他の中国製食品の輸出規制を行っている(禁止されている抗生物質の使用が理由)ことに関してWTOに提訴した。これは中国による初めてのWTO提訴である。 WTOの規則では、健康に有害な食品の輸入禁止は認められているが、今回の問題の争点は、EUの通告期間が十分だったかどうかである。

なお、EUの中国に対する輸入超過は400億ドル(貿易相手国別では最大)である。3)米国が遺伝子組換え作物の輸入規制に関連して中国に警告した。

●よくわかる(?)アルゼンチン経済の話
How to explain the Argentina economical situation to children
By Billy

ボクは緑のビー玉を10個持ってたよ。ボクはそれをジョーに預けたの。ジョーは近所の大きなお家に住んでて、ジョーのお家なら、ビー玉をしまっておく所があるから、なくなる心配がないんだ。
ジョーのママは、子どもは緑のビー玉で遊ばずに、茶色いのに交換しましょうねって言うんだ。それで、ビー玉の公式レートっていうのがあって、おばさんはボクに茶色のビー玉を14個くれたよ。
ママにそのことを話したら、よその子とも遊びたかったら緑のビー玉がなくっちゃ、と言って、ボクをお店に連れて行ったの。その店のおじさんは、緑のビー玉に換えてあげると言って、緑のビー玉を7個くれた。
そのあとボクはママについて来てもらって、ジョーの家に行って、ボクの緑のビー玉を返してって言ったけど、ジョーは、別の子に貸してしまったから返せないって言うんだ。ジョーのおばあちゃんは、緑のビー玉を借りたら、茶色いビー玉を同じ数だけ返さないといけないよと言ってたっけ。茶色いビー玉を10個返しなさいと言うことなんだね。

ジョーからビー玉を借りた子は、ボクの緑のビー玉をお店に持っていって、うまく話をして、茶色いビー玉17個と換えてきたんだ。そのうち10個をジョーのママに返して、残った7つを近所の女の子に見せていたよ。

よく考えてみたら、お店のおじさんは、その子たちが持っていた緑のビー玉10個と、僕が持っていた茶色のビー玉14個を、緑のビー玉7個と茶色のビー玉17個に換えたんだから、緑が3個増えて、茶色が3個減ったことになるね。
ああ、わからなくなっちゃった。
- なんでジョーのママやおばあちゃんまで出てきたんだろう?
- ジョーのママは茶色のビー玉を10個返してもらって、ボクには14個くれたということは、4個はどこにあったんだろう?
- ジョーのおばあちゃんがあげたんだと思うけど、おばあちゃんはどうしてそれを買うお金を持っていたんだろう?

- ビー玉を7個儲けた子たちは、何にもせずに儲けたんじゃないの!
- お店のおじさんは、どういうわけか、3 つの茶色のビー玉を緑のビー玉に換えて、得をしたんだね。こういうのって、錬金術って言うんだね!
- ボクは緑のビー玉を3個、損しちゃった。
- ジョーのママは4個の茶色いビー玉を損しちゃった、それとも損したのはジョーのおばあちゃんかな?
それからしばらくして、ジョーのおばあちゃんは、損を取り戻すために税金をかけたんだ。それでジョーのママに貸していたお金もチャラにしたんだって。・・・あとから聞いた話なんだけど、ジョーのママとお店のおじさんは仲良しだったんだって。 それで、みんな得して、ボクだけ損したってわけ。

●通貨取引税の実現可能性について

Paul B. Spahnによる研究報告「通貨取引税の実現可能性について」への評注
On the feasibility of a Currency Transaction Tax
By Peter Waldow and Peter Wahl. WEED(「世界経済・エコロジー・発展協会」)

◎研究報告「通貨取引税の実現可能性について」の要点

1. 中心的な主張: 通貨取引税(いわゆる「トービン税」)は実現可 能である。
1) 通貨取引税は通貨レートの安定のために有効
2) 通貨レートの安定は、とくに発展途上国にとって有益
3) 通貨取引税は技術的には実現可能
4) 1地域だけでも導入可能(EUプラススイスだけでも可能)
5) 発展途上国、移行期の諸国、主要通貨圏に属していない国に対しては、投機防止のための措置と組み合わせるべき
6) 税回避が容易である等の批判は当たらない

この報告書の内容は、通貨取引税を提案している人たちに有力な論拠を提供するものである

2. 研究の現況とその政治的背景

Paul Bernd Spahn はフランクフルト大学教授(金融理論)で、90年代

初めにIMFの顧問だった。

ドイツ環境省が2002年3月にメキシコで開催される国連「発展のための金融」会議に向けて、この研究を委託した。これは開発省の公式の見解を反映しているわけではない。開発相の Mrs. HeidemarieWieczorek-Zeul は公式には通貨取引税への賛意を示していない。

ドイツ政府内での通貨取引税への支持が広がっており、外務次官のLudger Volmerは ATTACとWEEDの呼びかけに署名している。フィッシャー外相の緑の党も、この税に賛成している。しかし、財務省ではこの税に対する反対が強い。この状況の中で開発省は態度表明に慎重になっている。しかし、国連「発展のための金融」会議では通貨取引税が正式の議題に上っており、この会議は開発省の管轄下にある。

3. Spahnの研究の限界

彼の議論の前提は、通貨取引は有益であり、投機だけが問題だということである。 Spahn の議論は、新しいものではなく、たとえば技術的可能性の問題については Rodney Schmidtなどの議論にほぼ全面的に依拠している。

また、Spahnは新自由主義的グローバリゼーションに反対する市民社会の運動とは距離を置いていることを繰り返し表明している。

4. 発展途上国への影響

a. 集中的投機の防止

彼の構想の中心は、「2段構えの課税」、あるいは「為替レート安定化税(ERND)」という考え方である。これはすでに90年代に提唱され、「Spahn税」として知られている。通常は低い税率をかけ、為替レートが激しく変動する時にだけ、より高率の ERNDをかける。発展途上国は一方的にERNDを発動できるようにする。

b. 南北の所得再分配の手段

南の諸国が通貨レート維持のために莫大な出費(これらの諸国が受け取るODA援助の額を大幅に上回っている)をしなくてもよくなる。重要な税収源ともなる。

c. ERNDは資本流入を促す

ERNDは通貨の信用を高めることによって、外国資本の流入を促進する。

5. 一地域での導入

Spahn は、通貨取引税をEUとスイスだけで実施しても効果があると論じている。

6. 税率と課税対象

Spahn は税率は 0.01% が適当だと考えている。課税対象には、すべてのスポット取引およびデリバティブ、先物、オプションが含まれる。

7. 金融市場安定化への効果

Spahnによると、ごく低率の税でも、ノイズ取引[実勢を無視した取引]を排除し、金融市場を安定化させるのに役立つ。一方、低率の税は流動性資産の取引を抑制する要因にはならない。

8. トービン税への誤った先入観への反論

a. 技術的現実性について

b. 法律上の問題

Spahn は、ヨーロッパ議会の作業グループの研究に言及し、通貨取引税はマーストリヒト条約やその他の条約と全く矛盾しないと論じている。経済的には、国際的な課税の方が、従来の各国ごとの通貨政策よりも、市場経済の法則に適っている。

c. 脱税の問題

通貨取引は取引場所が集中しており、脱税の影響は小さい。脱税のために大きなコストがかかる。

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