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<ATTACニュースレター日本語版2002年第2号/転載歓迎>
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ATTACニュースレター「サンド・イン・ザ・ホイール」(週刊)
2002年1月2日号(通巻第111号)
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Sand in the wheel
 Weekly newsletter - n°111 - Wednesday 02 January 2002.
  PROFITING FROM POVERTY(貧困を儲けの種にする者たち)
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■□おしらせ■□

 ★ATTAC(首都圏)WTO学習会&例会;2月19日(火)午後6時30分/文京シビックホール3階会議室1/佐久間智子さん・元市民フォーラム2001事務局長

 ★ATTAC(首都圏)第2回世界社会フォーラム(ブラジル・ポルトアレグレ)報告会;3月9日(土)午後1時30分/労働スクエア東京601会議室

 ★ATTAC 関西第2回学習会;1月20日(日)午後2時スペースAK/「遺伝子組換え作物の何が問題か」(平川秀幸さん・京都女子大学) [一部の方に「1月13日」という案内が送られたかもしれません。1月20日のまちがいです。おわびします]

《 も く じ 》

1−アルゼンチン危機とその影響

(After the Fall: The Argentine Crisis and Possible

 Repercussions)

 避け難いことがついに来た。デラルア大統領政権の戦略は、今回も

IMFの融資と外国投資によって経済を再生することであり、IMFとウォー

ル街をなだめようと妥当性を失った「三点セット」を維持することに

した。三点セットとは、過大評価されたペソを守ること、莫大なドル

債務の返済義務を完全に履行すること、失業率の急上昇と生産の落ち

込みにもかかわらず財政を均衡させることだった(2262語)。

2−米国流の戦争(The American Way of War)

 対テロ十字軍兵士がトラボラ地区のビンラディンの隠れ場所に迫ろ

うとしている現在、至るところで爆弾が破裂して然るべきだというの

が米政府の論理だ。しかし、ヨーロッパは冷めており途上国は不安を

感じ、アラブおよびモスレム諸国の多くが落胆している(3348語)。

3−WTOあれこれ(WTO Tidbits)

 ドーハで確認された議題に関する交渉が始まった。しかし、現在の

ところ、サービス貿易一般協定に関するセイフガード措置、環境、食

糧援助、市場アクセスに関する途上国優遇措置、エコラベルについて

はほとんど何も合意されていない。インドは、ムーアWTO事務局長が

貿易交渉の議長となることにあけすけに反対した(955語)。

4−世界経済フォーラムに反対する全米規模の学生動員の呼びかけ

(USA‐A Call for a National Student Mobilization Against the

WEF)

 民主主義、経済的公正、グローバルな反帝国主義闘争、そして地球

の名において、私たちは全ての学生、活動家、民衆運動のリーダー、

関心のある市民に対して、構想、恐れていること、インスピレーショ

ン、戦術を共有するよう呼びかける。国家の「リーダー」たちは決し

て必要な変革をしない。変革は私たち自身の手にかかっているのだ

(922語)。

《 要 約 版 》

●アルゼンチン危機とその影響

After the Fall: The Argentine Crisis and Possible Repercussions

 By David Felix(ワシントン大学名誉教授)

 避け難いことがついに来た。デラルア大統領政権の戦略は、今回も

IMFの融資と外国投資によって経済を再生することであり、IMFとウォー

ル街をなだめようと妥当性を失った三点セットを維持することにした。

三点セットとは、過大評価されたペソのレートを守ること、莫大なド

ル債務の返済義務を完全に履行すること、失業率の急上昇と生産の落

ち込みにもかかわらず財政を均衡させることだったが、あらゆる面で

惨めな失敗に終わった。つまり、債務不履行に陥り、為替市場でのペ

ソ離れが進み、 IMFとウォール街に追加融資を要請したが拒否された。

[アルゼンチンのたどった破局への道]

 1990年代、アルゼンチンはIMFの優等生で、それは金融市場を開放

し、公共資産を民営化したからだった。こうした構造調整を支えたの

は1991年の金融改革であり、それを代表する「兌換法」はペソとドル

の交換レートを固定し、ペソの通貨供給量をドル準備高に厳格に連動

させるものだった。ウォール街の信頼を更に得ようとした政府は、

1991年、非同盟主義から全面的な米国よりの姿勢へと、外交政策を大

きく転換した。

 こうして、ウォール街とIMFのアルゼンチンに対する評価はA+とな

り、民営化の機会を狙って欧米からなだれ込んだ直接投資が、停滞し

た経済を強烈に煽った。1990年代中期までには民営化する資産が少な

くなったので直接投資の勢いも弱まったが、それにも拘らずポートフォー

リオ資本が流入し続けた。それはドル建債券を買うためだった。アル

ゼンチンの政策に喜んだIMFは、ポートフォーリオ資本の逃避を防ぐ

ために迅速に緊急融資を行い支援した。しかし、1995‐96年のメキシ

コ・テキーラ危機の際には効果のあったこの方法も、1998年のブラジ

ル危機以来再三行われた融資注入のために、民間資本の流入ないし経

済の再活性化を実現することができず、政策は行き詰まった。

 政策の要だった兌換法と資本に対する規制撤廃が、外国資本を引き

付ける磁石から経済を衰えさせる石臼に、また外国資本に対する忌避

剤に変わってしまった。1995年以後、アルゼンチンの主な貿易相手で

あるヨーロッパやブラジルを中心とする近隣諸国の通貨に対してドル

が強くなると、ペソは著しく過大評価されることになった。工業製品

の輸出が減り、割安となった輸入品が国内製品に取って代わり、失業

率は2桁になった。

 更にドルを借りることで経済を浮揚しようとする試みは、リスクプ

レミアムが上がったにもかかわらず、暫くは効果を発揮し、拡大する

貿易赤字と増大する債務返済義務を賄った。しかし、過大評価された

ペソが輸出を抑制すると、債務の返済額が増大していき持続不可能と

なる「債務の罠」にアルゼンチンが向かっていることが明らかとなっ

た。債券市場は急いでアルゼンチン債のリスクプラミアムを上げたが、

1999年までには実質的にアルゼンチン債に対する市場は閉鎖してしま

った。IMFは1999年と2000年に救済のための融資を行ったが効果はな

かった。

 アルゼンチンのジレンマは、一方で経済の再生には通貨切り下げを

して対外債務返済の負担を減らすことが不可欠でありながら、他方で

は資本自由化が民間のドル債務を大きくしたために、通貨切り下げに

よって債務返済の負担が増大することだ。資本の規制とIMFなどから

の資金援助によって移行期間の混乱を最小限に抑えないと、経済的に

も政治的にも通貨切り下げは成功しまい。しかし、ワシントン、従っ

てIMFはそのような援助を拒否した。

 デラルアには政策を転換する可能性が開けていた。1999年、前任の

メネム大統領が汚職と、財政赤字を賄うためにドル債券を発行しすぎ

たことによって景気の後退と債務危機を招いたことを糾弾されたとき、

デラルア率いる中道左派連合は汚職対策と経済復興政策を掲げて決定

的な勝利を収めた。デラルアが、この政治的気運を兌換法の撤廃とワ

シントンとIMFから移行期間に支援を得て、三点セットを廃止するこ

とにうまく活用できたかどうかは誰にも分からない。ただ事実は、デ

ラルアは結局、中道左派連合と袂を分かち三点セットを苦い終局に向

けて遂行したということだ。

[今後どうなるか]

 経済政策を形成している政治的変数が民衆の暴動によって劇的に変

化した結果、3つの政策転換が確実となった。つまり、債務の不履行、

緊縮財政の変更、為替レートの切下げだ。他方、通貨切り下げの代替

手段としてアルゼンチンの保守派エコノミストや政治家が推奨する正

式なドル化は、今や選択肢ではない。現在議会の主導権を握るのはペ

ロン党であり、ロドリゲスサア暫定大統領もペロニストだが、共にド

ル債務の返済中断を誓う傍ら、債権者と最低でも30%の債務取り消し

交渉を行っている。

 連邦政府と地方政府あわせて1550億ドルの債務を全て棚上げすれば、

約280億ドルを新年度の雇用対策その他の緊急社会政策にまわせるだ

ろう。しかし、ドル債務のうち少なくても640億ドルは地方銀行と国

民年金制度を民営化した年金基金が保有しているので、完全棚上げは

ありそうもない。カバーリョ大蔵大臣が最後に施行した法律の中には、

連邦政府債券をより低利のものに借り換えることをこれらの組織に認

めるものが含まれており、これによってこれらの組織のキャッシュフ

ローは弱体化した。このような債権者に対して支払を中断すると、多

くが支払不能に陥り、国内の経済危機を深め、恐らく再度民衆の爆発

を招くだろう。これは、間違いなく新政権が大いに苦悶しなくてはな

らない問題だ。

 通貨切り下げについては、ロドリゲスサアの混乱した声明からする

と、秩序を欠いたものとなる可能性が高い。ペソを切下げると実質賃

金を下げるので、彼は兌換法の撤廃に反対で、その変わり非兌換性の

新通貨、アルヘンティーノを発行して通貨供給量を2倍にすることを

提案している。既に財政難に陥った州の中には類似の通貨、レコプ

(lecops)を賃金の支払に使っているところもある。現在レコプは額

面価格よりかなり安く流通していて、レコプで支払を受けた労働者は

既に実質賃金がカットされたことになるため、大規模な抗議運動が起

きている。更に、レコプは地方政府と連邦政府への支払いには額面価

格で通用するので、税金を抑えるために企業間ではかなりの割引価格

で流通している。アルヘンティーノを大量に発行すると、財政収入と

実質賃金を更に引き下げることになろう。

 ロドリゲスサアの混乱した金融政策の発表は、たぶん経済音痴とい

うよりも、政治的扇動を反映したものだろう。兌換法は、特に大量の

ドル建て債務を保有している企業や個人から未だに支持されており、

ペロニストは彼らとの対立を恐れている。通貨切り下げが債務者に与

える痛みを緩和するために、民間のドル債務を一部帳消しする方法を

検討していると報道されている。しかし、政治的扇動によって為替レー

トが切り下げられる可能性が高い。そして、レートは安定せず、延々

とした経過を辿ることになろう。

 しかし、兌換法は廃止の方向に進んでいる。アルゼンチン人がドル

に逃避したので、中央銀行のドル準備はペソの発行高を下回ってしま

ったが、これは兌換法に抵触している。外為市場では1ドル1.65ペソ

にも達した。兌換法を執行するには、ペロンニスト政権としては国内

の通貨供給量を拡大するのではなく縮小すべきなのであり、兌換法を

守ろうという政治的扇動にのると、兌換法は正式な廃止よりも無視さ

れることによって死ぬことになろう。

 ペソは、中央銀行が減少したドル準備で放出したペソを買い上げる

のに十分となるまで切り下げられねばならいないだろう。中央銀行の

ドル準備をIMFやG7からの新規融資で補完することはドル化を意味す

るが、ワシントン、従ってIMFは、まずアルゼンチンが財政赤字を削

減するために更に厳しい緊縮政策をとならない限り、新たな融資には

断固として反対している。ドル化支持者は現在、まず通貨切り下げを

してそれからドル化することを提案しているが、ドル化はペロニスト

の財政拡大政策の妨げとなるので、暫定政権が関心を示すことはない

だろう。もしその可能性が出てくるとすれば、経済を再生しようとし

てインフレが手に負えなくなり、財政が混乱し、右派が票ないし銃弾

によって政権を得た場合だろう。

 ブッシュ2世政権とIMFは、アルゼンチンの要求を愛の鞭で拒否す

ることに満足している。というのは、アルゼンチンの債務不履行が直

接世界に及ぼす影響は限られていると認識しているからだ。その理由

は、アジア危機と比べて、債務不履行に至るまでに十分な時間がとれ、

債権者が対策を講じることができたからだ。

 しかし、この楽観主義も徐々に広がる影響の大きさを過小評価して

いる可能性がある。一つには、過去3年間にソブリンボンドの債務不

履行が続き、最も新しいのがアルゼンチンであり規模的に突出してい

るが、こうした債務不履行とIMFの融資条件の引締めが国際金融市場

に対する危険信号となってきた。IMFによると、途上国に対する債券

のネットの流れは1998年以後ゼロとなり、2001年中期からはマイナス

となっているが、主に途上国の大企業を対象とする銀行団融資も同じ

傾向を示している。1997年のアジア危機に比べると、債務返済負担の

増大を相殺するめに輸出を奨励するのも厳しい状況にある。つまり、

主な貿易相手国の景気がみな悪く、これまで最後の頼みだった米国も

今は再び選択的保護貿易主義に傾いている。第一次産品とローテク工

業製品の輸出条件は悪化しており、輸出の推進は事態を一層悪化させ

るだろう。先進工業諸国の景気がすぐに回復しない限り、輸出主導の

成長政策はほとんどの途上国を疲弊させるだろう。

 ペソの切り下げの世界貿易に対する直接的影響は限られているとし

ても、地域的な影響は大きいだろう。アルゼンチンは、ブラジル、チ

リなど近隣諸国にとっては十分に大きな貿易相手だ。もしブラジルを

初めとするメルコスール加盟国からの輸入品に高い関税を課したなら

ば、ペソ切下げの影響は更に深刻化するだろう。反対に、ペロニスト

達が輸出主導の成長を部分的に代替するものとして、地域的な輸入代

替政策をとり、メルコスールの再生と強化を図ることも考えられる。

しかし、これは米国が推進する自由貿易と自由な資本移動政策を損な

うことになる。

 3つめは政治的な影響だ。アルゼンチンの債務不履行戦略が、持続

可能な経済を実現しようとして財政支出の拡大と保護主義路線をとっ

た場合、それは債務に苦しむその他の途上国に対して、やっかいな自

由市場や不安定な外国資本に大幅に依存した輸出主導の成長に代わる

ものとしてアピールするだろう。

 これはブッシュ政権に選択の余地のない対応を迫ることになる。ブッ

シュ政権はアルゼンチンに緊急融資をしない態度を貫き、アルゼンチ

ンの新自由主義からの離反が失敗に終わる可能性を高めようとするだ

ろう。それによって経済が混乱に陥ると、政治的な混乱を引き起こし、

圧政が復活する危険が高まるだろう。また、IMF内に、米国がIMFの途

上国政策を牛耳っていることへの反発が高まり、グローバル新自由主

義の主要機関として、米国に対するIMFの有用性を更に損なうことに

なろう。

 フランス、イタリア、スペインは、IMFに対してアルゼンチンを支援

するよう公に要請している。ブッシュ政権にとっての代替案は、強硬

な単独行動主義からソフトなクリントン主義に戻ることだ。すなわち、

アルゼンチンが政治的な離反を止めることを期待して財政支援をし、

アルゼンチンの民主主義を守り、IMF内の緊張を緩和することだ。

●米国流の戦争

The American Way of War

 By Walden Bello(Focus on the Global South事務局長、フィリ

 ピン大学教授)

 対テロ十字軍兵士がトラボラ地区のビンラディンの隠れ場所に迫ろ

うとしている現在、至るところで爆弾が破裂して然るべきだというの

が米政府の論理だ。しかし、ヨーロッパは冷めており、途上国は不安

を感じ、アラブおよびモスレム諸国の多くが落胆している。

 その理由は明白だ。少なくても4000人が死亡し、その多くが民間人

であり、400万人の難民が中心の権力がばらばらとなり混乱した部族

環境の中に帰るのだ。ビンラディンと彼が率いる組織がしたことは恐

ろしいことで釈明の余地はないが、正義の名の下にこのようなことを

ある国に対してすることはどうだろう。米国は町を救ったのではなく

破壊してしまったのだ。

 しかしワシントンは、こうした事実によって戦勝気分に水を注され

るのを放ってはおかいないだろう。タリバンとアルカイーダは抹消さ

れてしまったが、今回の勝利はペンタゴンにとって大きな意味がある。

圧倒的な、空からの精密照準攻撃によって、ほとんど地上部隊の支援

なしに、従ってほとんど死傷者を出さずに、戦争に勝つことができた。

もちろん地上部隊が全く不要だったのではないが、それは攻撃よりも、

炎の雨ようなミサイル攻撃にショックを受け士気を失った兵士の掃討

作戦に必要だったのであり、それは北部同盟など地元兵士の役割を盗

んだものだ。

[ベトナム症候群を埋める空からの攻撃力]

 1999年のコソボ紛争で真先に試みられたことが、今度のアフガニス

タンで確実となった。今回の戦争は、「ベトナム症候群」の棺桶に打

ち込む最後の釘だったのだ。

 圧倒的な火力、ハイテク、完璧な勝利という「米国流の戦争」に自

信を取り戻したワシントンは、イエメン、スーダン、ソマリア、イラ

クなど他のテロ支援国家に対して同様の介入を行うことを現在真剣に

検討している。また、アフガニスタンでの出来事は、コロンビアの対

麻薬戦争における米軍の役割を強化する力となるだろう。

[新たな信託統治]

 米国流の戦争に自信を取り戻すと共に、途上国の問題への直接介入

が改めて見直されている。9月11日の前でさえも、多くの途上国が既に

「失敗した社会」として特徴づけられていた。1994年にThe Atlantic

に掲載されたロバート・カプランの論文もその一つだが、植民地の解

放がアフリカと中東に安定した国家の出現ではなく、世界全体の不安

定という脅威をもたらす「アナキー」に繋がったことを説得力をもっ

て説くいくつかの重要な論文が出た。

 9月11日後は、ワシントンとロンドンで、国家の主権と自決権が更に

尊重されなくなった。保守派の知識人が、強大国がまだ明言できない

でいる見解を述べるようになったが、一例を挙げると、Modern Times

の著者のポール・ジョンソンは次ぎのように述べている。

―――――引用―――――――

 最良の中期的な解決策は旧国際連盟の委任統治システムであろう。

それは両大戦の間、植民地主義の"りっぱな"様式としてよく機能した。

シリアとイラクはかつて非常に成功した委任統治国だった。スーダン、

リビア、イランもまた同じように国際条約によって特別な体制の下に

置かれた。近隣諸国と平和に暮らすことができない国や、国際社会に

対して密かに戦争をしかけるような国が完全な独立を期待することは

できない。安保理の全ての常任理事国が、多かれ少なかれ米国主導の

政策を支持している現在、テロ国家を監視下におく新たな形態の国連

委任統治システムをつくることも困難ではないだろう。

――――――――――――――――――

 驚くには当らないが、こうした意見の中で、テロのような極端な対

応に至る根本原因に目を向けるものはほとんどない。例えば、植民地

の境界線が独立後の対立を引き起こしたこと、グローバル経済の不完

全な秩序の下で新しく生まれた諸国が辺縁化され続けてきたこと、石

油・エネルギー集約的な西洋文明を支えるために先進諸国が石油とガ

スのある地域を支配し続けてきたこと、などがある。

 アフガニスタンの次ぎの段階は、1993年にソマリアの反抗で失敗し

た最初の主要な試みに続いて、新たな信託統治ないし委任統治システ

ムの実験に入ることだ。EUは英国の指揮の下に占領軍を永続的に派遣

することを求められ、国連は政治の空白を埋めるために対立する部族

集団を調停して「代表者の政府」をつくるために引き出された。アフ

ガニスタンの最近の出来事を観察すると、ワシントンは、軍事行動で

は単独で、しかし政治的には協調して(もし政治構造が崩壊した場合

に、別の国や組織が責任をとらせるように)、という原則に従って行

動している。

[国境のない戦争]

 テロに対する戦争には国境はない。従って国内での戦争も同じよう

な姿勢で行う必要がある。9月11日は第2の真珠湾だったのであり、ブッ

シュ政権は米国人に向かって、今や第2次世界大戦のような全面戦争の

中にいるのだと言う。冷戦でさえテロに対する戦争ほどには全体主義

的な言い方はされなかった。プライバシーと行動の自由に対する権利

を制限する法律や行政命令が驚くべきスピードで定められた。今回の

戦争が始まって9週間のうちに、次ぎのような法律が可決され、行政命

令が発効している。つまり、外国人を裁判にかけるための秘密軍事法

廷の設置、検事総長に容疑だけで外国人を無期限に拘留する権利の付

与、盗聴や秘密捜査の拡大、入国管理手続きにおいて外国人が反証等

できない秘密証拠の使用を認めること、依頼主と弁護人との間のプラ

イバシーに政府が介入することを認めること、人種ないし部族プロフィー

ルの制度化、などである。

 ヨーロッパでもワシントンに続いて、反テロのムードを利用して、

9月11日までは脇に置かれていた多くの法案を一気に通そうとした国が

多かった。ただ、英国も含めて、各国の国民と議会は米国ほどおとな

しくはない。

 9月11日以降の米国の法律は国内的にばかりでなく、国際的にも懸念

されるが、それは単独主義政権の法的制度化だ。つまり、一連の新た

な法律と行政命令は、標的とするテロリストを仕留めるためには国外

においてもほぼ何でもできる権限をワシントンに与えるものだ。この

ことを示したのが、アラビア海にいたシンガポールの船に同意なしに

乗り込み、無駄にテロリストの捜査を行った米軍の海賊まがいの行為

だ。もし容疑者が発見されていたら、国防総省はその容疑者を例えば

ドイツの米軍基地に連行し、秘密の軍事法廷にかけることができた。

そして、もし容疑が固まれば、恐らく名前を公表されることなく彼は

死刑にされるか米国で収監されたかもしれない。

[救いの神]

 9月11日は古代演劇に登場するような急場を救う出来事であり、アル

カイーダのニューヨーク攻撃は米国と世界の支配層にとって最高の贈

り物だった。その数週間前には、反企業グローバリゼーション運動

(anti-corporate globalization movement)の盛り上がりを示す、

30万人というこれまで最大規模のデモがジェノバで行われた。ジェノ

バの抗議運動によって、グローバル経済システムの主要機関である

IMF、世銀、WTOの正当性がこれまでになく失われたことが明らかにな

った。

 資本主義グローバリゼーションを担う機関の正当性の危機が一触即

発の状態に陥ったのは、その危機がグローバル経済の根本的、構造的

危機と交錯したからだ。構造的危機の主な特徴は、工業分野の過剰生

産、企業の独占化傾向、金融市場における無統制の投機行為だ。いわ

ゆる「ニューエコノミー」が消滅し景気が後退すると、2000年度末か

ら2001年度初めにかけて、米国のGDPの半分にあたる460億ドルが工業

部門から消えてしまった。景気後退の世界的な波及とその深刻さを示

す「世界同時不況(synchronized downturn)」という言葉も生まれた。

 9月11日以前に正当性の喪失に悩まされていたのはグローバル経済シ

ステムを支えるの機関ばかりではなく、米国を中心とする北側の政治

システムもそうだった。米国の自由主義的民主主義が、金権政治と呼

ぶに値するほど完全に企業のマネー政治によって腐敗してしまったこ

とを、次第に多くの米国人が気付くようになっていた。

 2000年の大統領選挙のとき、ジョン・マッケイン上院議員は、世界に

類を見ない規模で行われている、企業が選挙制度を支配するシステムの

改革という1点に焦点を当てて選挙運動を行ったほどだ。

[運命の転換]

 一般の人々をテロリストに変えてしまう不正義に対する感覚は理解

しつつも、進歩主義者は常にテロを非難してきた。それは罪の無い人

々の命を奪うからだけではなく、反革命の機会となるからでもある。

実際、9月11日以降の出来事は、歴史の書物に書かれた通りに展開して

いる。

 世界貿易センターの廃墟から鼻を突く煙が今だもうもうと立ち上っ

ているときに、米通商代表はその機会をとらえて企業主導のグローバ

リゼーションに推進力を取り戻そうとした。昨年11月にカタールのドー

ハで行われた第4回WTO閣僚会議で、米通商代表、EUの貿易担当委員、

WTO事務局長が先頭となって、途上国に貿易自由化の新たな段階に入る

のを認めるよう駆りたてた。ドーハ宣言によって、シアトルで倒れた

WTOの貿易自由化の自転車が再び動きだした。

 IMFと世銀も新たな戦争をそれぞれの機関が直面する危機を脱する機

会と捉えた。 IMFはパキスタンやインドネシアといったワシントンが

戦略国家とする国に資金を振り向け、破産の危機に瀕するアルゼンチ

ンのような非戦略国家からは手を引きさえした。左と右から挟撃の脅

威にされされていた世銀は、9月11日の機会を捉えて、テロの温床とな

る貧困に対処する「ソフト」な役割を果たす機関として、世銀がテロ

に対する戦争でペンタゴンの主要パートナーだという姿勢を打ち出し

た。

 米国政治については、9月11日によってブッシュは弱小大統領から

近年最強の大統領となり、最近のニューヨーク・タイムズ紙の世論調

査によれば86%の支持率を得ている。リベラル派は全く怖気づいてし

まった。

[ロックからホッブスへ]

 ジョン・ロックとトマス・ジェファーソンが述べた線に沿って、個

人の自由を最大にしそれを守る政治システムを有していることを、米

国人はしばしば誇りにしてきた。しかし、その伝統はここ数週間の間

に手荒に覆されてしまい、秩序と安全を守るという名のもとに、個人

の権利を凌駕する新たな権限を政府に与えさせられてしまった。米国

の限られた民主主義は、17世紀のロックから、市民は市民の安全を守

る国に対して無条件に忠実でなけくてはならいないとするリバイアサ

ンの著者、16世紀のホッブスに逆戻りしてしまった。

[未来のための戦い]

 11月9日まで盛り上がりつつあった反企業グローバリゼーション運

動は、現在その勢いを取り戻そうと必死に戦っているが、特に脅威と

なる点が3つある。まず、ジェノバでおとり戦術のようなことをして

さらし者になった警察が、再び自信を取り戻していることがある。警

察の新たな攻撃的姿勢が余すところ無く示されたのは、昨年11月18〜

19日に行われたIMF・世銀会合のことだ。完全装備のカナダ警察が平

和的に行われている反企業グローバリゼーションの抗議行動を急襲し、

デモに参加していた若者を逮捕したのだが、新聞は全て知りながら抗

議をしなかった。

 第2に、欧米の法律で使われている「テロリスト」の定義があまりに

曖昧で、不服従運動を信望する非暴力グループにも適用可能なことだ。

 第3は、反グローバリゼーションの大規模なイベントでは、何十万人

という人々が国境を越えて集まるが、これが今や、外国人は新たな法

律によってテロ関連容疑で取り調べを受け、拘留、国外退去、入国拒

否などの措置によって簡単に阻止される可能性があることだ。

[ダース・ベーダーか、ルーク・スカイウォーカーか]

 ワシントンは勝利の味を堪能しているだろうが、抑圧的なタリバン帝

国からアフガニスタンの人々を解放したという、スター・ウォーズのルー

ク・スカイウォーカーのような自己イメージを望んでいるのに反して、

多くの途上国では悪漢ダース・ウォーカーのイメージの方が勝っている

だろう。実際、死が見ることのできない遠くから降ってくるといった米

国流の戦争のやり方がこの傾向を強めている。

 しかし、1つ確かなことは、帝国は常に抵抗を生むということだ。

米国が一方で勝利を収めたとしても、中東や南アジアの戦略的状況が

それによって損なわれてしまった。パキスタンでは、原理主義者の政

権の可能性が出てきた。ワシントンが支援してきたサウジアラビアの

エリート層はこれまでになく一般大衆から離れていおり、批判的な若

者の集団はビンラディンを米国に立ち向かうヒーローと見ている。ア

フガニスタンへの爆撃とイスラエルへの偏向によって、北アフリカか

らインドネシアまでのモスレム社会に深い怒りが広まっており、親米

政権から権力を奪う動きの土壌となっている。

 自由、公正および南側の人々の主権に対する、この時代を画する闘

いにおいて、決定的な要素は最新技術か、大衆動員か。その結果はア

フガニスタかベトナムか。生き残るのはダース・ベーダーかルーク・

ウォーカーか。

 反企業グローバリゼーション運動に関しては、9月11日は一時的には

逆風だが、そこから一層の勢いが得られるだろう。世界のエリートの

集まりと並行して行われる大規模なデモは今や限界に達したが、これ

によって大衆戦術、法的戦術、議会戦術とも結びついた新たな運動の

展開に向かうのではなかろうか。

 9月11日後の状況に明るい面があるとすれば、それは従来独立してい

た平和運動、人権運動、反企業グローバリゼーション運動という3つ

の運動の相互協力が重要だと分かったことだ。これは、力関係を中長

期的に変えるのに多大な貢献をし得る力強い同盟だ。

●WTOあれこれ

WTO Tidbits

1)サービス貿易一般協定(GATS)に関する作業部会

 3月15日の期限の控えて、セーフガード措置を設けるかどうかをめ

ぐって議論が行き詰まっている。GATSの別の小委員会では、国内法規

がサービス貿易に影響する場合に「必要性テスト(necessity test)」

を適用するかどうかをめぐって議論が行われている。

2)インド、貿易交渉委員会の議長としてマイク・ムーアを拒否

 インドは、WTO事務局長のマイク・ムーアが、ドーハ会議を受けて

行われる交渉を監督することになる、貿易交渉委員会(Trade

Negotiation Committee)の議長になることに反対している。インドは

「ムーアにどんな形態であっても議長権限が与えられる場合には、

OECDの先進諸国が交渉の方向を握りたいと望んでいる決定的な印」と

理解するとして、総会(General Council)議長のS・Harbinsonだけが

容認可能だとしている。米国とEUは既にムーア支持を表明している。

3)農業委員会

 環境:環境に好影響を与える農家に対する政府援助について、どの

程度までの貿易の歪みを合法とするかについて議論が集中している。

 食糧援助:EU、日本、ナミビア、ノルウェーなどと途上国7ヶ国が、

受入国の農業生産にも生産国の輸出にも影響しない食糧援助のあり方

について議論した。

 その他、市場アクセスに関する途上国優遇措置、エコラベルについ

てはほとんど何も合意されていない

詳細は:omc.marseille@attac.orgまで。

●世界経済フォーラムに反対する全米規模の学生動員の呼びかけ

USA‐A Call for a National Student Mobilization Against the

WEF

 By Columbia Student Solidarity Network

1)世界経済フォーラム(WEF)の背景

 例年、世界を代表するビジネス界のリーダー1000人が一堂に会して、

世界的課題を議論するのがWEFであるが、その年次会議が1月31日か

ら2月4日にかけてニューヨークで開催される。

 民主主義、経済的公正、グローバルな反帝国主義闘争、そして地球

の名において、私たちは全ての学生、活動家、民衆運動のリーダー、

関心のある市民に対して、考えや心配やインスピレーションや戦術を

共有するよう呼びかける。私たちの「リーダー達」は決して必要な変

革をしない。変革は私たち自身の手にかかっているのだ。

2)学生の全国的動員と会議

 4日間にわたる会議期間中にワークショップと討論会が行われるが、

週末に計画されているWEFへの直接的な妨害行動と対立しないように、

コロンビア大学においてだいたいが夕方および火曜と金曜日に予定さ

れている。

3)参加の仕方およびお問い合わせ

 参加費5〜10ドル。登録とお問い合わせは:

globaljustice@peopleforpeace.orgま

で。−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

◆英語版の購読申込みは newsletter@attac.org まで、

 閲覧は http://attac.org/

◆ATTAC Japan 事務局:

〒113-0001 東京都文京区白山1-31-9小林ビル3F ピースネット気付

Tel(直)03‐3813‐6492 (留守の時;携帯 090-3598-3251)

**************************************<ATTACニュースレター日本語版2002年第2号/転載歓迎>

%━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━%

ATTACニュースレター「サンド・イン・ザ・ホイール」(週刊)

     2002年1月2日号(通巻第111号)

 --------------------------------------------------------

          Sand in the wheel

 Weekly newsletter - n°111 - Wednesday 02 January 2002.

  PROFITING FROM POVERTY(貧困を儲けの種にする者たち)

%━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━%

■□おしらせ■□

 ★ATTAC(首都圏)WTO学習会&例会;2月19日(火)午後6時

  30分/文京シビックホール3階会議室1/佐久間智子さん・元

  市民フォーラム2001事務局長

 ★ATTAC(首都圏)第2回世界社会フォーラム(ブラジル・ポルト

  アレグレ)報告会;3月9日(土)午後1時30分/労働スクエア

  東京601会議室

 ★ATTAC 関西第2回学習会;1月20日(日)午後2時スペースAK

  /「遺伝子組換え作物の何が問題か」(平川秀幸さん・京都女子

  大学) [一部の方に「1月13日」という案内が送られたかもしれ 

  ません。1月20日のまちがいです。おわびします]

《 も く じ 》

1−アルゼンチン危機とその影響

(After the Fall: The Argentine Crisis and Possible

 Repercussions)

 避け難いことがついに来た。デラルア大統領政権の戦略は、今回も

IMFの融資と外国投資によって経済を再生することであり、IMFとウォー

ル街をなだめようと妥当性を失った「三点セット」を維持することに

した。三点セットとは、過大評価されたペソを守ること、莫大なドル

債務の返済義務を完全に履行すること、失業率の急上昇と生産の落ち

込みにもかかわらず財政を均衡させることだった(2262語)。

2−米国流の戦争(The American Way of War)

 対テロ十字軍兵士がトラボラ地区のビンラディンの隠れ場所に迫ろ

うとしている現在、至るところで爆弾が破裂して然るべきだというの

が米政府の論理だ。しかし、ヨーロッパは冷めており途上国は不安を

感じ、アラブおよびモスレム諸国の多くが落胆している(3348語)。

3−WTOあれこれ(WTO Tidbits)

 ドーハで確認された議題に関する交渉が始まった。しかし、現在の

ところ、サービス貿易一般協定に関するセイフガード措置、環境、食

糧援助、市場アクセスに関する途上国優遇措置、エコラベルについて

はほとんど何も合意されていない。インドは、ムーアWTO事務局長が

貿易交渉の議長となることにあけすけに反対した(955語)。

4−世界経済フォーラムに反対する全米規模の学生動員の呼びかけ

(USA‐A Call for a National Student Mobilization Against the

WEF)

 民主主義、経済的公正、グローバルな反帝国主義闘争、そして地球

の名において、私たちは全ての学生、活動家、民衆運動のリーダー、

関心のある市民に対して、構想、恐れていること、インスピレーショ

ン、戦術を共有するよう呼びかける。国家の「リーダー」たちは決し

て必要な変革をしない。変革は私たち自身の手にかかっているのだ

(922語)。

《 要 約 版 》

●アルゼンチン危機とその影響

After the Fall: The Argentine Crisis and Possible Repercussions

 By David Felix(ワシントン大学名誉教授)

 避け難いことがついに来た。デラルア大統領政権の戦略は、今回も

IMFの融資と外国投資によって経済を再生することであり、IMFとウォー

ル街をなだめようと妥当性を失った三点セットを維持することにした。

三点セットとは、過大評価されたペソのレートを守ること、莫大なド

ル債務の返済義務を完全に履行すること、失業率の急上昇と生産の落

ち込みにもかかわらず財政を均衡させることだったが、あらゆる面で

惨めな失敗に終わった。つまり、債務不履行に陥り、為替市場でのペ

ソ離れが進み、 IMFとウォール街に追加融資を要請したが拒否された。

[アルゼンチンのたどった破局への道]

 1990年代、アルゼンチンはIMFの優等生で、それは金融市場を開放

し、公共資産を民営化したからだった。こうした構造調整を支えたの

は1991年の金融改革であり、それを代表する「兌換法」はペソとドル

の交換レートを固定し、ペソの通貨供給量をドル準備高に厳格に連動

させるものだった。ウォール街の信頼を更に得ようとした政府は、

1991年、非同盟主義から全面的な米国よりの姿勢へと、外交政策を大

きく転換した。

 こうして、ウォール街とIMFのアルゼンチンに対する評価はA+とな

り、民営化の機会を狙って欧米からなだれ込んだ直接投資が、停滞し

た経済を強烈に煽った。1990年代中期までには民営化する資産が少な

くなったので直接投資の勢いも弱まったが、それにも拘らずポートフォー

リオ資本が流入し続けた。それはドル建債券を買うためだった。アル

ゼンチンの政策に喜んだIMFは、ポートフォーリオ資本の逃避を防ぐ

ために迅速に緊急融資を行い支援した。しかし、1995‐96年のメキシ

コ・テキーラ危機の際には効果のあったこの方法も、1998年のブラジ

ル危機以来再三行われた融資注入のために、民間資本の流入ないし経

済の再活性化を実現することができず、政策は行き詰まった。

 政策の要だった兌換法と資本に対する規制撤廃が、外国資本を引き

付ける磁石から経済を衰えさせる石臼に、また外国資本に対する忌避

剤に変わってしまった。1995年以後、アルゼンチンの主な貿易相手で

あるヨーロッパやブラジルを中心とする近隣諸国の通貨に対してドル

が強くなると、ペソは著しく過大評価されることになった。工業製品

の輸出が減り、割安となった輸入品が国内製品に取って代わり、失業

率は2桁になった。

 更にドルを借りることで経済を浮揚しようとする試みは、リスクプ

レミアムが上がったにもかかわらず、暫くは効果を発揮し、拡大する

貿易赤字と増大する債務返済義務を賄った。しかし、過大評価された

ペソが輸出を抑制すると、債務の返済額が増大していき持続不可能と

なる「債務の罠」にアルゼンチンが向かっていることが明らかとなっ

た。債券市場は急いでアルゼンチン債のリスクプラミアムを上げたが、

1999年までには実質的にアルゼンチン債に対する市場は閉鎖してしま

った。IMFは1999年と2000年に救済のための融資を行ったが効果はな

かった。

 アルゼンチンのジレンマは、一方で経済の再生には通貨切り下げを

して対外債務返済の負担を減らすことが不可欠でありながら、他方で

は資本自由化が民間のドル債務を大きくしたために、通貨切り下げに

よって債務返済の負担が増大することだ。資本の規制とIMFなどから

の資金援助によって移行期間の混乱を最小限に抑えないと、経済的に

も政治的にも通貨切り下げは成功しまい。しかし、ワシントン、従っ

てIMFはそのような援助を拒否した。

 デラルアには政策を転換する可能性が開けていた。1999年、前任の

メネム大統領が汚職と、財政赤字を賄うためにドル債券を発行しすぎ

たことによって景気の後退と債務危機を招いたことを糾弾されたとき、

デラルア率いる中道左派連合は汚職対策と経済復興政策を掲げて決定

的な勝利を収めた。デラルアが、この政治的気運を兌換法の撤廃とワ

シントンとIMFから移行期間に支援を得て、三点セットを廃止するこ

とにうまく活用できたかどうかは誰にも分からない。ただ事実は、デ

ラルアは結局、中道左派連合と袂を分かち三点セットを苦い終局に向

けて遂行したということだ。

[今後どうなるか]

 経済政策を形成している政治的変数が民衆の暴動によって劇的に変

化した結果、3つの政策転換が確実となった。つまり、債務の不履行、

緊縮財政の変更、為替レートの切下げだ。他方、通貨切り下げの代替

手段としてアルゼンチンの保守派エコノミストや政治家が推奨する正

式なドル化は、今や選択肢ではない。現在議会の主導権を握るのはペ

ロン党であり、ロドリゲスサア暫定大統領もペロニストだが、共にド

ル債務の返済中断を誓う傍ら、債権者と最低でも30%の債務取り消し

交渉を行っている。

 連邦政府と地方政府あわせて1550億ドルの債務を全て棚上げすれば、

約280億ドルを新年度の雇用対策その他の緊急社会政策にまわせるだ

ろう。しかし、ドル債務のうち少なくても640億ドルは地方銀行と国

民年金制度を民営化した年金基金が保有しているので、完全棚上げは

ありそうもない。カバーリョ大蔵大臣が最後に施行した法律の中には、

連邦政府債券をより低利のものに借り換えることをこれらの組織に認

めるものが含まれており、これによってこれらの組織のキャッシュフ

ローは弱体化した。このような債権者に対して支払を中断すると、多

くが支払不能に陥り、国内の経済危機を深め、恐らく再度民衆の爆発

を招くだろう。これは、間違いなく新政権が大いに苦悶しなくてはな

らない問題だ。

 通貨切り下げについては、ロドリゲスサアの混乱した声明からする

と、秩序を欠いたものとなる可能性が高い。ペソを切下げると実質賃

金を下げるので、彼は兌換法の撤廃に反対で、その変わり非兌換性の

新通貨、アルヘンティーノを発行して通貨供給量を2倍にすることを

提案している。既に財政難に陥った州の中には類似の通貨、レコプ

(lecops)を賃金の支払に使っているところもある。現在レコプは額

面価格よりかなり安く流通していて、レコプで支払を受けた労働者は

既に実質賃金がカットされたことになるため、大規模な抗議運動が起

きている。更に、レコプは地方政府と連邦政府への支払いには額面価

格で通用するので、税金を抑えるために企業間ではかなりの割引価格

で流通している。アルヘンティーノを大量に発行すると、財政収入と

実質賃金を更に引き下げることになろう。

 ロドリゲスサアの混乱した金融政策の発表は、たぶん経済音痴とい

うよりも、政治的扇動を反映したものだろう。兌換法は、特に大量の

ドル建て債務を保有している企業や個人から未だに支持されており、

ペロニストは彼らとの対立を恐れている。通貨切り下げが債務者に与

える痛みを緩和するために、民間のドル債務を一部帳消しする方法を

検討していると報道されている。しかし、政治的扇動によって為替レー

トが切り下げられる可能性が高い。そして、レートは安定せず、延々

とした経過を辿ることになろう。

 しかし、兌換法は廃止の方向に進んでいる。アルゼンチン人がドル

に逃避したので、中央銀行のドル準備はペソの発行高を下回ってしま

ったが、これは兌換法に抵触している。外為市場では1ドル1.65ペソ

にも達した。兌換法を執行するには、ペロンニスト政権としては国内

の通貨供給量を拡大するのではなく縮小すべきなのであり、兌換法を

守ろうという政治的扇動にのると、兌換法は正式な廃止よりも無視さ

れることによって死ぬことになろう。

 ペソは、中央銀行が減少したドル準備で放出したペソを買い上げる

のに十分となるまで切り下げられねばならいないだろう。中央銀行の

ドル準備をIMFやG7からの新規融資で補完することはドル化を意味す

るが、ワシントン、従ってIMFは、まずアルゼンチンが財政赤字を削

減するために更に厳しい緊縮政策をとならない限り、新たな融資には

断固として反対している。ドル化支持者は現在、まず通貨切り下げを

してそれからドル化することを提案しているが、ドル化はペロニスト

の財政拡大政策の妨げとなるので、暫定政権が関心を示すことはない

だろう。もしその可能性が出てくるとすれば、経済を再生しようとし

てインフレが手に負えなくなり、財政が混乱し、右派が票ないし銃弾

によって政権を得た場合だろう。

 ブッシュ2世政権とIMFは、アルゼンチンの要求を愛の鞭で拒否す

ることに満足している。というのは、アルゼンチンの債務不履行が直

接世界に及ぼす影響は限られていると認識しているからだ。その理由

は、アジア危機と比べて、債務不履行に至るまでに十分な時間がとれ、

債権者が対策を講じることができたからだ。

 しかし、この楽観主義も徐々に広がる影響の大きさを過小評価して

いる可能性がある。一つには、過去3年間にソブリンボンドの債務不

履行が続き、最も新しいのがアルゼンチンであり規模的に突出してい

るが、こうした債務不履行とIMFの融資条件の引締めが国際金融市場

に対する危険信号となってきた。IMFによると、途上国に対する債券

のネットの流れは1998年以後ゼロとなり、2001年中期からはマイナス

となっているが、主に途上国の大企業を対象とする銀行団融資も同じ

傾向を示している。1997年のアジア危機に比べると、債務返済負担の

増大を相殺するめに輸出を奨励するのも厳しい状況にある。つまり、

主な貿易相手国の景気がみな悪く、これまで最後の頼みだった米国も

今は再び選択的保護貿易主義に傾いている。第一次産品とローテク工

業製品の輸出条件は悪化しており、輸出の推進は事態を一層悪化させ

るだろう。先進工業諸国の景気がすぐに回復しない限り、輸出主導の

成長政策はほとんどの途上国を疲弊させるだろう。

 ペソの切り下げの世界貿易に対する直接的影響は限られているとし

ても、地域的な影響は大きいだろう。アルゼンチンは、ブラジル、チ

リなど近隣諸国にとっては十分に大きな貿易相手だ。もしブラジルを

初めとするメルコスール加盟国からの輸入品に高い関税を課したなら

ば、ペソ切下げの影響は更に深刻化するだろう。反対に、ペロニスト

達が輸出主導の成長を部分的に代替するものとして、地域的な輸入代

替政策をとり、メルコスールの再生と強化を図ることも考えられる。

しかし、これは米国が推進する自由貿易と自由な資本移動政策を損な

うことになる。

 3つめは政治的な影響だ。アルゼンチンの債務不履行戦略が、持続

可能な経済を実現しようとして財政支出の拡大と保護主義路線をとっ

た場合、それは債務に苦しむその他の途上国に対して、やっかいな自

由市場や不安定な外国資本に大幅に依存した輸出主導の成長に代わる

ものとしてアピールするだろう。

 これはブッシュ政権に選択の余地のない対応を迫ることになる。ブッ

シュ政権はアルゼンチンに緊急融資をしない態度を貫き、アルゼンチ

ンの新自由主義からの離反が失敗に終わる可能性を高めようとするだ

ろう。それによって経済が混乱に陥ると、政治的な混乱を引き起こし、

圧政が復活する危険が高まるだろう。また、IMF内に、米国がIMFの途

上国政策を牛耳っていることへの反発が高まり、グローバル新自由主

義の主要機関として、米国に対するIMFの有用性を更に損なうことに

なろう。

 フランス、イタリア、スペインは、IMFに対してアルゼンチンを支援

するよう公に要請している。ブッシュ政権にとっての代替案は、強硬

な単独行動主義からソフトなクリントン主義に戻ることだ。すなわち、

アルゼンチンが政治的な離反を止めることを期待して財政支援をし、

アルゼンチンの民主主義を守り、IMF内の緊張を緩和することだ。

●米国流の戦争

The American Way of War

 By Walden Bello(Focus on the Global South事務局長、フィリ

 ピン大学教授)

 対テロ十字軍兵士がトラボラ地区のビンラディンの隠れ場所に迫ろ

うとしている現在、至るところで爆弾が破裂して然るべきだというの

が米政府の論理だ。しかし、ヨーロッパは冷めており、途上国は不安

を感じ、アラブおよびモスレム諸国の多くが落胆している。

 その理由は明白だ。少なくても4000人が死亡し、その多くが民間人

であり、400万人の難民が中心の権力がばらばらとなり混乱した部族

環境の中に帰るのだ。ビンラディンと彼が率いる組織がしたことは恐

ろしいことで釈明の余地はないが、正義の名の下にこのようなことを

ある国に対してすることはどうだろう。米国は町を救ったのではなく

破壊してしまったのだ。

 しかしワシントンは、こうした事実によって戦勝気分に水を注され

るのを放ってはおかいないだろう。タリバンとアルカイーダは抹消さ

れてしまったが、今回の勝利はペンタゴンにとって大きな意味がある。

圧倒的な、空からの精密照準攻撃によって、ほとんど地上部隊の支援

なしに、従ってほとんど死傷者を出さずに、戦争に勝つことができた。

もちろん地上部隊が全く不要だったのではないが、それは攻撃よりも、

炎の雨ようなミサイル攻撃にショックを受け士気を失った兵士の掃討

作戦に必要だったのであり、それは北部同盟など地元兵士の役割を盗

んだものだ。

[ベトナム症候群を埋める空からの攻撃力]

 1999年のコソボ紛争で真先に試みられたことが、今度のアフガニス

タンで確実となった。今回の戦争は、「ベトナム症候群」の棺桶に打

ち込む最後の釘だったのだ。

 圧倒的な火力、ハイテク、完璧な勝利という「米国流の戦争」に自

信を取り戻したワシントンは、イエメン、スーダン、ソマリア、イラ

クなど他のテロ支援国家に対して同様の介入を行うことを現在真剣に

検討している。また、アフガニスタンでの出来事は、コロンビアの対

麻薬戦争における米軍の役割を強化する力となるだろう。

[新たな信託統治]

 米国流の戦争に自信を取り戻すと共に、途上国の問題への直接介入

が改めて見直されている。9月11日の前でさえも、多くの途上国が既に

「失敗した社会」として特徴づけられていた。1994年にThe Atlantic

に掲載されたロバート・カプランの論文もその一つだが、植民地の解

放がアフリカと中東に安定した国家の出現ではなく、世界全体の不安

定という脅威をもたらす「アナキー」に繋がったことを説得力をもっ

て説くいくつかの重要な論文が出た。

 9月11日後は、ワシントンとロンドンで、国家の主権と自決権が更に

尊重されなくなった。保守派の知識人が、強大国がまだ明言できない

でいる見解を述べるようになったが、一例を挙げると、Modern Times

の著者のポール・ジョンソンは次ぎのように述べている。

―――――引用―――――――

 最良の中期的な解決策は旧国際連盟の委任統治システムであろう。

それは両大戦の間、植民地主義の"りっぱな"様式としてよく機能した。

シリアとイラクはかつて非常に成功した委任統治国だった。スーダン、

リビア、イランもまた同じように国際条約によって特別な体制の下に

置かれた。近隣諸国と平和に暮らすことができない国や、国際社会に

対して密かに戦争をしかけるような国が完全な独立を期待することは

できない。安保理の全ての常任理事国が、多かれ少なかれ米国主導の

政策を支持している現在、テロ国家を監視下におく新たな形態の国連

委任統治システムをつくることも困難ではないだろう。

――――――――――――――――――

 驚くには当らないが、こうした意見の中で、テロのような極端な対

応に至る根本原因に目を向けるものはほとんどない。例えば、植民地

の境界線が独立後の対立を引き起こしたこと、グローバル経済の不完

全な秩序の下で新しく生まれた諸国が辺縁化され続けてきたこと、石

油・エネルギー集約的な西洋文明を支えるために先進諸国が石油とガ

スのある地域を支配し続けてきたこと、などがある。

 アフガニスタンの次ぎの段階は、1993年にソマリアの反抗で失敗し

た最初の主要な試みに続いて、新たな信託統治ないし委任統治システ

ムの実験に入ることだ。EUは英国の指揮の下に占領軍を永続的に派遣

することを求められ、国連は政治の空白を埋めるために対立する部族

集団を調停して「代表者の政府」をつくるために引き出された。アフ

ガニスタンの最近の出来事を観察すると、ワシントンは、軍事行動で

は単独で、しかし政治的には協調して(もし政治構造が崩壊した場合

に、別の国や組織が責任をとらせるように)、という原則に従って行

動している。

[国境のない戦争]

 テロに対する戦争には国境はない。従って国内での戦争も同じよう

な姿勢で行う必要がある。9月11日は第2の真珠湾だったのであり、ブッ

シュ政権は米国人に向かって、今や第2次世界大戦のような全面戦争の

中にいるのだと言う。冷戦でさえテロに対する戦争ほどには全体主義

的な言い方はされなかった。プライバシーと行動の自由に対する権利

を制限する法律や行政命令が驚くべきスピードで定められた。今回の

戦争が始まって9週間のうちに、次ぎのような法律が可決され、行政命

令が発効している。つまり、外国人を裁判にかけるための秘密軍事法

廷の設置、検事総長に容疑だけで外国人を無期限に拘留する権利の付

与、盗聴や秘密捜査の拡大、入国管理手続きにおいて外国人が反証等

できない秘密証拠の使用を認めること、依頼主と弁護人との間のプラ

イバシーに政府が介入することを認めること、人種ないし部族プロフィー

ルの制度化、などである。

 ヨーロッパでもワシントンに続いて、反テロのムードを利用して、

9月11日までは脇に置かれていた多くの法案を一気に通そうとした国が

多かった。ただ、英国も含めて、各国の国民と議会は米国ほどおとな

しくはない。

 9月11日以降の米国の法律は国内的にばかりでなく、国際的にも懸念

されるが、それは単独主義政権の法的制度化だ。つまり、一連の新た

な法律と行政命令は、標的とするテロリストを仕留めるためには国外

においてもほぼ何でもできる権限をワシントンに与えるものだ。この

ことを示したのが、アラビア海にいたシンガポールの船に同意なしに

乗り込み、無駄にテロリストの捜査を行った米軍の海賊まがいの行為

だ。もし容疑者が発見されていたら、国防総省はその容疑者を例えば

ドイツの米軍基地に連行し、秘密の軍事法廷にかけることができた。

そして、もし容疑が固まれば、恐らく名前を公表されることなく彼は

死刑にされるか米国で収監されたかもしれない。

[救いの神]

 9月11日は古代演劇に登場するような急場を救う出来事であり、アル

カイーダのニューヨーク攻撃は米国と世界の支配層にとって最高の贈

り物だった。その数週間前には、反企業グローバリゼーション運動

(anti-corporate globalization movement)の盛り上がりを示す、

30万人というこれまで最大規模のデモがジェノバで行われた。ジェノ

バの抗議運動によって、グローバル経済システムの主要機関である

IMF、世銀、WTOの正当性がこれまでになく失われたことが明らかにな

った。

 資本主義グローバリゼーションを担う機関の正当性の危機が一触即

発の状態に陥ったのは、その危機がグローバル経済の根本的、構造的

危機と交錯したからだ。構造的危機の主な特徴は、工業分野の過剰生

産、企業の独占化傾向、金融市場における無統制の投機行為だ。いわ

ゆる「ニューエコノミー」が消滅し景気が後退すると、2000年度末か

ら2001年度初めにかけて、米国のGDPの半分にあたる460億ドルが工業

部門から消えてしまった。景気後退の世界的な波及とその深刻さを示

す「世界同時不況(synchronized downturn)」という言葉も生まれた。

 9月11日以前に正当性の喪失に悩まされていたのはグローバル経済シ

ステムを支えるの機関ばかりではなく、米国を中心とする北側の政治

システムもそうだった。米国の自由主義的民主主義が、金権政治と呼

ぶに値するほど完全に企業のマネー政治によって腐敗してしまったこ

とを、次第に多くの米国人が気付くようになっていた。

 2000年の大統領選挙のとき、ジョン・マッケイン上院議員は、世界に

類を見ない規模で行われている、企業が選挙制度を支配するシステムの

改革という1点に焦点を当てて選挙運動を行ったほどだ。

[運命の転換]

 一般の人々をテロリストに変えてしまう不正義に対する感覚は理解

しつつも、進歩主義者は常にテロを非難してきた。それは罪の無い人

々の命を奪うからだけではなく、反革命の機会となるからでもある。

実際、9月11日以降の出来事は、歴史の書物に書かれた通りに展開して

いる。

 世界貿易センターの廃墟から鼻を突く煙が今だもうもうと立ち上っ

ているときに、米通商代表はその機会をとらえて企業主導のグローバ

リゼーションに推進力を取り戻そうとした。昨年11月にカタールのドー

ハで行われた第4回WTO閣僚会議で、米通商代表、EUの貿易担当委員、

WTO事務局長が先頭となって、途上国に貿易自由化の新たな段階に入る

のを認めるよう駆りたてた。ドーハ宣言によって、シアトルで倒れた

WTOの貿易自由化の自転車が再び動きだした。

 IMFと世銀も新たな戦争をそれぞれの機関が直面する危機を脱する機

会と捉えた。 IMFはパキスタンやインドネシアといったワシントンが

戦略国家とする国に資金を振り向け、破産の危機に瀕するアルゼンチ

ンのような非戦略国家からは手を引きさえした。左と右から挟撃の脅

威にされされていた世銀は、9月11日の機会を捉えて、テロの温床とな

る貧困に対処する「ソフト」な役割を果たす機関として、世銀がテロ

に対する戦争でペンタゴンの主要パートナーだという姿勢を打ち出し

た。

 米国政治については、9月11日によってブッシュは弱小大統領から

近年最強の大統領となり、最近のニューヨーク・タイムズ紙の世論調

査によれば86%の支持率を得ている。リベラル派は全く怖気づいてし

まった。

[ロックからホッブスへ]

 ジョン・ロックとトマス・ジェファーソンが述べた線に沿って、個

人の自由を最大にしそれを守る政治システムを有していることを、米

国人はしばしば誇りにしてきた。しかし、その伝統はここ数週間の間

に手荒に覆されてしまい、秩序と安全を守るという名のもとに、個人

の権利を凌駕する新たな権限を政府に与えさせられてしまった。米国

の限られた民主主義は、17世紀のロックから、市民は市民の安全を守

る国に対して無条件に忠実でなけくてはならいないとするリバイアサ

ンの著者、16世紀のホッブスに逆戻りしてしまった。

[未来のための戦い]

 11月9日まで盛り上がりつつあった反企業グローバリゼーション運

動は、現在その勢いを取り戻そうと必死に戦っているが、特に脅威と

なる点が3つある。まず、ジェノバでおとり戦術のようなことをして

さらし者になった警察が、再び自信を取り戻していることがある。警

察の新たな攻撃的姿勢が余すところ無く示されたのは、昨年11月18〜

19日に行われたIMF・世銀会合のことだ。完全装備のカナダ警察が平

和的に行われている反企業グローバリゼーションの抗議行動を急襲し、

デモに参加していた若者を逮捕したのだが、新聞は全て知りながら抗

議をしなかった。

 第2に、欧米の法律で使われている「テロリスト」の定義があまりに

曖昧で、不服従運動を信望する非暴力グループにも適用可能なことだ。

 第3は、反グローバリゼーションの大規模なイベントでは、何十万人

という人々が国境を越えて集まるが、これが今や、外国人は新たな法

律によってテロ関連容疑で取り調べを受け、拘留、国外退去、入国拒

否などの措置によって簡単に阻止される可能性があることだ。

[ダース・ベーダーか、ルーク・スカイウォーカーか]

 ワシントンは勝利の味を堪能しているだろうが、抑圧的なタリバン帝

国からアフガニスタンの人々を解放したという、スター・ウォーズのルー

ク・スカイウォーカーのような自己イメージを望んでいるのに反して、

多くの途上国では悪漢ダース・ウォーカーのイメージの方が勝っている

だろう。実際、死が見ることのできない遠くから降ってくるといった米

国流の戦争のやり方がこの傾向を強めている。

 しかし、1つ確かなことは、帝国は常に抵抗を生むということだ。

米国が一方で勝利を収めたとしても、中東や南アジアの戦略的状況が

それによって損なわれてしまった。パキスタンでは、原理主義者の政

権の可能性が出てきた。ワシントンが支援してきたサウジアラビアの

エリート層はこれまでになく一般大衆から離れていおり、批判的な若

者の集団はビンラディンを米国に立ち向かうヒーローと見ている。ア

フガニスタンへの爆撃とイスラエルへの偏向によって、北アフリカか

らインドネシアまでのモスレム社会に深い怒りが広まっており、親米

政権から権力を奪う動きの土壌となっている。

 自由、公正および南側の人々の主権に対する、この時代を画する闘

いにおいて、決定的な要素は最新技術か、大衆動員か。その結果はア

フガニスタかベトナムか。生き残るのはダース・ベーダーかルーク・

ウォーカーか。

 反企業グローバリゼーション運動に関しては、9月11日は一時的には

逆風だが、そこから一層の勢いが得られるだろう。世界のエリートの

集まりと並行して行われる大規模なデモは今や限界に達したが、これ

によって大衆戦術、法的戦術、議会戦術とも結びついた新たな運動の

展開に向かうのではなかろうか。

 9月11日後の状況に明るい面があるとすれば、それは従来独立してい

た平和運動、人権運動、反企業グローバリゼーション運動という3つ

の運動の相互協力が重要だと分かったことだ。これは、力関係を中長

期的に変えるのに多大な貢献をし得る力強い同盟だ。

●WTOあれこれ

WTO Tidbits

1)サービス貿易一般協定(GATS)に関する作業部会

 3月15日の期限の控えて、セーフガード措置を設けるかどうかをめ

ぐって議論が行き詰まっている。GATSの別の小委員会では、国内法規

がサービス貿易に影響する場合に「必要性テスト(necessity test)」

を適用するかどうかをめぐって議論が行われている。

2)インド、貿易交渉委員会の議長としてマイク・ムーアを拒否

 インドは、WTO事務局長のマイク・ムーアが、ドーハ会議を受けて

行われる交渉を監督することになる、貿易交渉委員会(Trade

Negotiation Committee)の議長になることに反対している。インドは

「ムーアにどんな形態であっても議長権限が与えられる場合には、

OECDの先進諸国が交渉の方向を握りたいと望んでいる決定的な印」と

理解するとして、総会(General Council)議長のS・Harbinsonだけが

容認可能だとしている。米国とEUは既にムーア支持を表明している。

3)農業委員会

 環境:環境に好影響を与える農家に対する政府援助について、どの

程度までの貿易の歪みを合法とするかについて議論が集中している。

 食糧援助:EU、日本、ナミビア、ノルウェーなどと途上国7ヶ国が、

受入国の農業生産にも生産国の輸出にも影響しない食糧援助のあり方

について議論した。

 その他、市場アクセスに関する途上国優遇措置、エコラベルについ

てはほとんど何も合意されていない

詳細は:omc.marseille@attac.orgまで。

●世界経済フォーラムに反対する全米規模の学生動員の呼びかけ

USA‐A Call for a National Student Mobilization Against the

WEF

 By Columbia Student Solidarity Network

1)世界経済フォーラム(WEF)の背景

 例年、世界を代表するビジネス界のリーダー1000人が一堂に会して、

世界的課題を議論するのがWEFであるが、その年次会議が1月31日か

ら2月4日にかけてニューヨークで開催される。

 民主主義、経済的公正、グローバルな反帝国主義闘争、そして地球

の名において、私たちは全ての学生、活動家、民衆運動のリーダー、

関心のある市民に対して、考えや心配やインスピレーションや戦術を

共有するよう呼びかける。私たちの「リーダー達」は決して必要な変

革をしない。変革は私たち自身の手にかかっているのだ。

2)学生の全国的動員と会議

 4日間にわたる会議期間中にワークショップと討論会が行われるが、

週末に計画されているWEFへの直接的な妨害行動と対立しないように、

コロンビア大学においてだいたいが夕方および火曜と金曜日に予定さ

れている。

3)参加の仕方およびお問い合わせ

 参加費5〜10ドル。登録とお問い合わせは:

globaljustice@peopleforpeace.orgま

で。