N° 164 - Wednesday 26 February 2003    3

不平等
INEQUALITIES

「サンド・イン・ザ・ホイール」日本語版2003年第6号

2003年2月26日号(通巻164号)

目次

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1. 市民として戦争に反対するTo be citizens, against the war)
戦争は避けられないのか? 何をすることができるか? 一般市民は現実を受け入れるか、あきらめるかしかないのだろうか? 私はヨーロッパの公務員として(78年12月15日に採用されて以来)、慎重にふるまうという義務に従ってきた。しかし、戦争という怪物の前に、私たちは沈黙するか、私的な場で(たとえば家族の会話で)だけ意見を述べるかしかないのだろうか?(547)

2. 米軍は10万人分の遺体収容袋と6千人分の棺をシシリアへ輸送したSources have revealed that the U.S.A has transferred thousands of body bags and coffins to Sicily)
レナト・マルティノ大司教(ローマ法王代理)は、イラクでの戦争を阻止するための精力的な政治的説得の中で、戦争が「信じがたい数の死者」をもたらすだろうと訴えている。バチカンによると、シシリア島にある米軍のシゴネラ基地に10万人分の遺体収容袋と6千人分の棺が届いた(556)

3. 世界中の闘いがポルトアレグレに集まったThe global fight let us face)
1月末に開かれた第三回世界社会フォーラムに参加するため、10万人がポルトアレグレに集まった。これは昨年の2倍、一昨年の4倍だ。世界規模の会合にこれだけ多くの市民が結集したことはかつてない。これだけ多くの職業団体、労働組合、NGO、宗教団体、研究グループが、環境・軍備・人権などのグローバルな問題に関心を向けたことはかつてない(1734)

4. 「ワシントン・コンセンサス」を葬ろうBurying the "Washington Consensus")
この「コンセンサス(合意)」は、一握りのエコノミスト、米国政府の官僚、世界銀行、国際通貨基金(IMF)によって書かれたものである。非常に限られた人たちの間でのコンセンサスである。公開の討論に付されたこともないし、投票に付されたこともない。それどころか、その実施対象となる国で正式に批准されてさえいない。それはこれまでも、現在も、貪欲で冷淡な権威主義的方法であり、その提唱者はこのガイドラインの「疑いもなく経済学的・科学的な性格」なるものを根拠にそれを正当化しようとしているのだ(959)

5. 農業交渉「草案」はダンピングと失業と飢えを加速する(Agriculture Proposal Will Increase Dumping, Unemployment And Hunger)
草案は、生産物をダンピングから守り、農村における失業と食糧不安--多くの途上国に広がっている--の問題に取り組むために途上国が行ってきた多くの提案を意図的に無視しているようだ。「フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス」は途上国に対して、この提案を拒否するよう呼びかける。この提案は農業貿易における不平等を是正するものでない(948)

6. 不平等の王国での農村の苦しみRural agony in the midst of inequality's Kingdom)
1月に、NAFTAの域内貿易において21品目の農産品に対する障壁が撤廃された。この中には、ジャガイモ、小麦、リンゴ、タマネギ、コーヒー、鶏肉、子牛肉が含まれる。この合意はNAFTAで合意された3段階での農産品市場開放の第2段階である(594)

 

市民として戦争に反対する
To be citizens, against the war
By Riccardo Petrella

イラクに対する戦争の危機が差し迫っている。国連はすでに戦争による死者の数を計算しており、イラクの何百万人もの人々がこの戦争のために恐ろしい被害--物理的損害、生命・身体への被害、精神的な打撃--を蒙るだろう。
ヨーロッパでは8カ国の政府代表が戦争支持を公表。最も好戦的な姿勢を示した英国首相は、平和を望む88%の国内世論を無視し、市民の声に背を向ける本性を露にした。

戦争は避けられないのか?
何をすることができるか? 一般市民は現実を受け入れるか、あきらめるかしかないのだろうか? 私はヨーロッパの公務員として(78年12月15日に採用されて以来)、慎重にふるまうという義務に従ってきた。しかし、戦争という怪物の前に、私たちは沈黙するか、私的な場で(たとえば家族の会話で)だけ意見を述べるかしかないのだろうか?
ヨーロッパで過去50年間、数百万人の公務員が生活・理想・希望をささげたのは戦争のためではない。市民が沈黙し尊厳を捨てて戦争を許すことはヨーロッパにふさわしくない。

ヨーロッパ議会は、僅差の過半数とはいえ、戦争反対を決議して、欧州連合(EU)の創設の精神に沿って、生命の価値と平和の追求を再確認した。
しかし、戦争支持を表明した8カ国は、EUが克ち取った歴史的勝利を破壊した。
ヨーロッパの公務員(EU職員)は、戦争支持を表明した8カ国に対して明白に反対の意思を伝えよう。

 


米軍は5千人分の遺体収容袋と棺をシシリアへ輸送した
Sources have revealed that the U.S.A has transferred thousands of body bags and coffins to Sicily
By Elisabetta Pique

レナト・マルティノ大司教(ローマ法王代理)は、イラクでの戦争を阻止するための精力的な政治的説得の中で、戦争が「信じがたい数の死者」をもたらすだろうと訴えている。

ローマ法王の平和問題に関する最高顧問の一人、レナト・マルティノ大司教は、米国の「ナショナル・カトリック・レポーター」紙(週刊)とのインタビューで「シゴネラ基地に
10万人分の遺体収容袋と6千人分が届いた。これらはイラクの兵士のためのものではない! 数千床のベッドを備えた医療船も準備されている。信じられない規模の人命損失が予想される」と述べた。

◆米兵死者1万5千人を予測
レナト・マルティノ大司教はまた、「米国は自軍の死者1万5千人を予測している。イラクでの紛争はテロの増加と中東の不安定化をもたらす」と述べた。
さらに「不当な戦争であり侵略である。キューバのミサイル危機にさいして米国が1962年に証拠を提示した状況に比して、今回のイラクへの対応は説得力がない」と付言している。

 ◆外交使節
1991年当時のように、バグダッドとワシントンで外交活動が活発化しており、実際、敬虔なカソリックでもあるTarek Azizイラク副首相の訪問をローマ法王は受け入れた。

1998年5月18日に経済封鎖の解除の問題でローマ法王と面会したことのあるイラクの副首相であるTarek Aziz氏は、今回も訪問を打診し即座に認可された。
ブッシュの盟友であるベルルスコーニ伊大統領の抵抗に関わらず、ドイツの外相訪問を受け入れるなどローマ法王は今後も外交活動を活発化させていくだろう。

 


世界中の闘いがポルトアレグレに集まった
The global fight let us face
By Jan Aart Scholte, researcher at Warwick University, United Kingdom.

1月末に開かれた第三回世界社会フォーラムに参加するため、10万人がポルトアレグレに集まった。これは昨年の2倍、一昨年の4倍だ。世界規模の会合にこれだけ多くの市民が結集したことはかつてない。これだけ多くの職業団体、労働組合、NGO、宗教団体、研究グループが、環境・軍備・人権などのグローバルな問題に関心を向けたことはかつてない

市民による国際動員の規模として前例のないスケールだ。1920年の世界の共産党によるインターナショナルにしてもソビエト共産党の支援を受けながらも数千人の規模に過ぎなかった。

世界社会フォーラムの規模は明らかだが、この運動を単数形で表現するのは不正確だ。この市民社会は、種々の自主的組織が社会生活のルールをモデル化しようとする政治的空間である。


このパッチワークを構成しているのは、専門家、ビジネスマン組織、開発
NGO、労働組合、教会、エコロジスト、人権活動家、慈善団体、女性ネットワーク、青年組織、消費者組織などである。この新しい力は、集団としてのアイデンティティーが帰属意識をますます規定するようになっている世界で起こっている運動の高揚から生み出されている。この多くは、世界政府が存在しないことに起因している。環境破壊は国境を超え、為替投機は抑制がきかず、多国籍企業は課税を逃れ、移民の流動に法は効かない状況で、伝統的な国家は意味をなさなくなっている。

欧州連合・アセアンなど国家間の集合体や、国際通貨基金・世銀など国家を超えた機関や、地方・都市・州など国内の要素が、良くも悪しくもその役割を補っている。

国際的な市民運動が高揚している時に、国家の介入は全く意味をなさない。多くの市民組織が、欠けた空間を埋め、声なき声を国際舞台にとどけようと努力している。


地雷禁止・温暖化防止・途上国債務軽減などに取組むと同時に市民組織は、国際機関に世論を反映させようとしている。

「グローバル市民社会」の構成者は一様でなく、既存の世界秩序の擁護する者に対して、もう一つのグローバリゼーションを唱える者の中にも現体制の「協調」を訴える人たちと、現体制の「変革」を訴える人たちがいる。前者は、社会構造をかえずに既存機関の改革を目指し、後者は社会秩序の変革を目指している。

市民運動を代表する者は、およそ高学歴で社会的エリートを代表する面もある。市民組織の民主性に関して90年代半ばの調査に対して、「私たちは政府ではなく選ばれる必要はない」「組織の目的が問題であり、プロセスは問題ない」という答えが返ってきたが、今、組織のリーダーの多くがこれらの問題に気がついた。同時にさらに、代表する人々と関係をさらに改善することができる余地もある。

また北側と南側それぞれに存在するNGOの間で、主導権争いが起こる場合もあったが、女性が主導する組織、また南側諸国にもNGOが多く存在するようになり、公平な関係が築かれるようになった。

カール・ポランニー『大転換』を引用すれば「資本主義は、道義的にも社会的にも受け入れられる状態から逸脱した時、改革を誘発する
<対抗運動>を呼び寄せる。これが現在、世界的規模で、私たちの前で起こっていることの意味であるかもしれない。今日さまざまに表現されている世界の<社会民主化>の提案--世界規模での公共資産の管理、グローバルな社会契約、ILO<ディーセントワーク(まともな仕事)>プログラムは--はそのことの証明である。」

 


「ワシントン・コンセンサス」を葬ろう
Burying the "Washington Consensus"
By Xavier Cano Tamayo

ダボスで開催された世界経済フォーラムは、この10年にわたって私たちの生活を破壊してきた経済・金融理論(不適切にも「ワシントン・コンセンサス(合意)」と呼ばれている)への忠誠を強要せず、すべての国がそれぞれに最も適した経済社会政策を採用するべきであることを確認した。この変化の原因は、このドグマの下での10年を経て、経済的破綻が明らかになったことである。
「ワシントン・コンセンサス」は、緊縮財政、貿易自由化、外資への開放、民営化、規制緩和などの方策を処方した。

この「コンセンサス」は選ばれた一部の人々によって作成された。財務長官であるロバート・ルービン氏は歴代の前任者同様、ウォール街の出身であり、彼らはすべて、それまで投資銀行に勤めていた。また、世銀の
Ernest Stein前総裁は、J.P.モルガンの取締役であり、現総裁のジェームズ・ウォルフェンソン総裁も投資銀行取締役である。

この「コンセンサス」は、一握りのエコノミスト、米国政府の官僚、世界銀行、国際通貨基金(IMF)によって書かれたものである。非常に限られた人たちの間でのコンセンサスである。公開の討論に付されたこともないし、投票に付されたこともない。それどころか、その実施対象となる国で正式に批准されてさえいない。それはこれまでも、現在も、貪欲で冷淡な権威主義的方法であり、その提唱者はこのガイドラインの「疑いもなく経済学的・科学的な性格」なるものを根拠にそれを正当化しようとしているのだ。


しかしながら「コンセンサス」は、その適用により経済成長をもたらし、貧困が解消され、雇用が拡大すると主張してきたが、正反対に自然資源の集中的な消費は、環境にとりかえしのつかない破壊を生んできた。


「コンセンサス」の犠牲となったラテン・アメリカを例に取ると、貧困者の人口は1980年の1億2千万人から、2億2千万人に急増した。債務は1991年の4億9200万ドルから2001年には7億8700万ドルに増加し、鉄道・通信・航空・水・エネルギーの分野は、巨大な米欧企業に経営権を奪われた。


 教育・健康・住宅・社会的補助は切り詰められ、物価抑制策は放棄させられ、賃金凍結と民営化された企業の下で数百万の人々が雇用機会を失った。
ILOによると、「コンセンサス」の黄金時代に創られた就業機会の84%は一時的で、低賃金の雇用であった。
ポルトアレグレの世界社会フォーラムで、ブラジルのユネスコを代表するJorge Wertheim氏は、「コンセンサスは、不平等の劇的な拡大と世界的な貧困の未曾有の悪化をもたらした」ことを改めて明らかにした。

 ブラジルのルラ大統領は、新自由主義のドグマである「コンセンサス」を拒否。軍用機の購入資金を飢餓とのたたかいに転用し、教育・環境保護・自然保護への支出を増大させた。


 破滅的な結果をもたらす新自由主義に対して、世銀のウォルフェンソン総裁は2002年11月、ダボス世界経済会議を前にしてラテンアメリカの準備会議で「ワシントンコンセンサスは死んだ」と告白せざるを得なかった。

 


農業交渉「草案」はダンピングと失業と飢えを加速する
Agriculture Proposal Will Increase Dumping, Unemployment And Hunger
By Aileen Kwa. Research associate with Focus on the Global South, based in Geneva

途上国はハービンソン提案を拒否しなくてはならない
WTO農業委員会議長のスチュアート・ハービンソンは、東京での25カ国貿易相会議に先立ち農業問題に関する草案を提出した。

ハービンソンの提案は、多国籍企業のアグリビジネスに途上国の市場を差し出すものであり、ダンピングされた食品輸入の強要と同時に中国・インド・アフリカ諸国・ラテンアメリカの小農の無数の失業を生み出すものだ。

それはブッシュ大統領が米国農業法案提案にさいして明らかにした農産物輸出業者の目的と軌を一にするものだ;「我々は、我々の牛肉・とうもろこし・豆を世界で食を必要としている人々に売りたい」。


草案は、生産物をダンピングから守り、農村における失業と食糧不安
--多くの途上国に広がっている--の問題に取り組むために途上国が行ってきた多くの提案を意図的に無視しているようだ。

「フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス」は次の理由で、途上国に対して、この提案を拒否するよう呼びかける。

1)
ダンピングがさらに拡大する:間接的な輸出補助金が合法化される。「グリーンボックス」(貿易を歪める度合いが小さいとみなされ、削減対象から除外される補助金)の総額に上限を設けるべきとする途上国の提案が無視された。この種の補助金は農業関連企業に対して、北の生産者から安く買い上げ、途上国に安く売ることを可能にし、その結果、途上国の生産者が農業を続けられなくなる。

2)
「戦略的産品」を増やし、飢えや食糧供給の不安定を解消しない。草案は、戦略的産品の関税を10%〜5%に引き下げることを提案している。途上国の主要産品の大部分は、米国やヨーロッパで多額の補助金を受けている産品と一致する(とうもろこし、小麦、米、大豆、酪農品、砂糖、牛肉など)。

3)
南側諸国が要求していたリバランシング(収支の補正)、相殺関税(補助金の効果を相殺するための関税)メカニズムを拒絶
OECD諸国における1日当たり10億ドルの補助金から途上国の生産者を守り、農業貿易の構造的不均衡を是正するために提案されていたリバランシング、相殺関税メカニズムが拒否された。このメカニズムは、穀物などに対してOECDの補助金に比例して関税を課すというもの。

4)
北側諸国に対して実質的な「特別かつ差異のある待遇」(SDT)!
構造的な不均衡のため、実質的なSDTが北側諸国に与えられることになる。たとえば、途上国の産品に市場アクセスを拡大するという努力規定(義務ではない)、グリーンボックスの途上国への拡大は、途上国の閣僚を騙すためのものである。

5)
途上国側は、輸入増加や価格下落に備え全品目に緊急セーフガードの適用を主張した。
現在、セーフガードを発動できるのは、ほとんどが北側諸国で占められるわずか30カ国に限られている。しかも途上国が発動できる特別セーフガードは、一カ国当たり2〜3品目の戦略産品に限られている。

 


不平等の王国での農村の苦しみ
Rural agony in the midst of inequality's Kingdom
By Diego Ceballos

米経済誌『フォーブス』の富裕者リストに掲載されたメキシコ人12人の資産は同国のGNPの4.9%に相当する。

巨大な社会的不平等は20世紀初めの農村革命以降も続いた。この革命の継承者を代表する農村組織は、フォックス政権から農村を守るための緊急計画を求めて運動を続けてきた。


2000年に大統領に就任したフォックス
--PRI(制度的革命党)に属さない初めての大統領--は、農業生産者との対話の継続を約束し、今週末に会合が予定されていた。

農村労働者は、NAFTAのパートナーである米国とカナダとの間の農業貿易の仕組みの変更を要求している。


1月に、NAFTAの域内貿易において21品目の農産品に対する障壁が撤廃された。この中には、ジャガイモ、小麦、リンゴ、タマネギ、コーヒー、鶏肉、子牛肉が含まれる。この合意はNAFTAで合意された3段階での農産品市場開放の第
2段階である

Chihuahua Autonomous
大学のVtor Quintana氏は、NAFTAを要因とする不平等と所得格差は時限爆弾であると指摘した。

公式統計によると、メキシコの貧困の75%は地方で発生したものであり、居住者1億人の半数は貧困の状況にひんしている。

世銀報告によると、メキシコ人口の最貧20%の所得は全体の3.8%、最富20%の所得は全体の20%を占める。

一方、フォックス大統領は、貧困問題と
NAFTAの間につながりはなく、逆に雇用を伸ばし生活水準を向上させたと主張する。

しかし、
10年前に設立された農業関連上級裁判所によると、州境・コミュニティ・農業入植地・私有地等に関連する土地所有権の問題をめぐり3万件近くの係争がある。そして過去10年間のうちに少なくとも1千人が、農業関連の争議で死亡した。

メキシコ最大の農村組織である常任農業評議会は、PRI政権の時代には政権に協力し、大衆動員を組織しなかった。しかし、最近ではこの評議会が、他の左翼グループと共に、フォックス政権の交代を求めて大衆運動を組織している。