テキスト ボックス: Sand in the Wheels
N° 157 - Wedneday 18 December 2002

大きな企業と小さな人権
BIG BUSINESS - SMALL PEOPLE

ATTACニュースレター「サンドインザホイール」日本版2002年第48号(1218日)

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目次

 

1. 米国貿易交渉のウラ製薬業界の強欲(Pharma's Relentless Drive For Profits Explains US Trade Negotiations)

・・・「TRIPS(知的所有権貿易)協定と公衆衛生に関するドーハ宣言」第6項に関するTRIPS評議会における米国の交渉姿勢が、特許薬産業の利益に奉仕するものだということを具体的に明らかにべき時だ。また、製薬業界が米国通商代表部(USTR)に対して、TRIPSと知的所有権条項を地域及び二国間通商条約や、知的所有権に対する立場を修正しようとしている途上国に対する技術支援に組み込むよう促すことで自己の利益を保護しようとしていることを暴露すべき時だ(2240)

2. 民営化と残業手当廃止(Privatization, Assault on Overtime Pay)

企業団体は、残業と有給休暇に関する「公正労働基準法」の規定の一部を取り除くための立法を求めてロビー活動を行っている。90年半ば以降、企業は、週40時間を超える労働に対して1.5倍の支払いをするのをやめて、comp-time[平日の代替休暇]やフレックスタイム制を導入するための法律を成立させようとしてきた(862)

3. 貧困による流浪(Uprooted by Poverty)

「不法移民斡旋者」の活動や、「本当」の避難民と「経済的移民」の区別という瑣末な問題に焦点を当てることで、金持ち国は、貧困による流浪の世界規模での増大という悲惨な現実から目をそらそうとしている。このレポートは、その原因 - 支配的な個人・企業・国家が他人の犠牲の上に繁栄することを原因とする絶望的な状況に根ざしている - を明らかにし、「違法な移民」の影響(しばしば、受け入れ国に利益をもたらす)について分析する。可能な解決策(トービン税の導入を含む)についても検討する(3892)

 




米国の貿易交渉のウラは製薬業界の強欲

Pharma's Relentless Drive For Profits Explains US Trade Negotiations

By Brook K. Baker. Health GAP

 

米国通商官僚が「米国高官はすべての製薬業界をバックにしている」という通り、最大の陳情団体であり、最も収益力があり、世界的キャンペーンを張っている米国製薬業界の実態を白日のもとにさらさなくてはならない。ドーハ宣言第6章は重要な薬品を国内生産できない国が直面している問題を確認したが、現在またペンディングとなっているWTOの知的所有権のルールは、権利所持者の認可を得ずに無商標(ジェネリック)で薬品を合法的に製造できる国をさらに劇的に減らすものだ。TRIPS31章(f)により、特許薬品のライセンスを押し付けられた場合、生産高は国内消費量に適応しなくてはならないため、緊急時の薬品の無商標生産は国によって格差が大きく例えばマラワイなど全く生産能力がない国も現れる。したがって生産能力が困難をきたしている国には、合法効率的な製造の認可とインド、タイ、韓国、中国など薬品生産国との間の輸出入を認めるべきである。一方、ドーハ宣言における「TRIPSの合意は、加盟国の公衆衛生を守る手段をさまたげない」という内容に反して、米国は制約条件の強化を主張している。

 

病気の定義の制約は、一般的薬品の利益と一致:

 

昨年11月、オーストラリアとジュネーブの会合で、米国は途上国の薬品へのアクセスを認可する病気としてHIV/エイズ、結核、マラリアに制限することが論議された。一方、製薬業界は三大病に対する独占的利益を失うことを認めると同時に、ほかのすべての病気に対しては引き続き特許料に絡む利益確保を主張した。売上の20%をアフリカ、南米、中東で上げている製薬業界は、その他の病気に対する薬品でも引き続き独占価格で購買力に困難がある国においても販売を希望している。

 

生産の制約は、診断とワクチンによる利益と一致

 

米国、スイス、EU、日本などは、輸出入の認可を薬品に制約することを主張してきたが、たとえばエイズ治療の実態は薬品以上に診断や医療機器に相応のコストがかかるのである。また米国に従う日本は、TRIPS第6章はワクチンに適応すべきでないと主張した。一方、製薬業界は、HIVに関しても毎日投与の必要があり巨万の利をもたらす一時的な対処療薬の開発に投資をしてきた一方、原因究明を含むワクチンなどの研究開発を後回しにしていたのは事実である。

 

輸入国に対する制限

 

ジェネリック(無商標)の製薬会社は、ガーナやザンビアなど小さい途上国に生産基盤を広げる可能性は小さく、人口が多く相対的に所得上位にあるブラジル、アルゼンチン、南アフリカなどでの生産・販売を狙っている。欧米諸国は、安価な薬品の輸入認可を最貧国に限定し、途上国の間でもジェネリック生産のできる国とそうでない国に分断し、すべての途上国がWTO交渉などの場で共通の要求でまとまらないための工作を行っている。さらに欧米諸国は、ドーハ宣言第6章から先進国を除外すべく主張しているが、例えば昨年米国の炭疽菌騒動などで、インドから薬品輸入を拒んでいるが、先進国においても公衆衛生や緊急時に国民の生命に関わる問題でジェネリックの薬品を必要しないと言い切ることができるのであろうか。

 

途上国に手続きの複雑さを強要

 

こうした工作がジェネリック生産に歯止めをかけ先進製薬業界の利益延命に成功しない場合、米国製薬業界はさらに二つの手段を袖の下に隠している。一つは、途上国に対するすべての譲歩を一時的モラトリウムなものとすることで、ジェネリック業者の先行きに暗雲を投げかけ新たな市場参入を困難にするものだ。二つ目にジェネリックの薬品輸出の手続きを複雑にすることで手かせ足かせをかけることだ。例えば、インドがジンバブエにエイズ向け製薬を輸出するためライセンス所得を行う場合、その他のすべてのアフリカ諸国に対する関連ライセンスの同時所得をインドに義務づけるなどである。またエイズには、特効薬がなく患者は複数の薬品併用を余儀なくされるが、それぞれの種類の薬品ごとにライセンスを細分化し、輸出先ごとに異なる認可基準を複雑化させ、さらにそれぞれの特許を所有する薬品会社との法的手続きや交渉を強要するなど、時間とコストがかかるようにする方法が攻略されている。結局、ジェネリックの製薬のチケットを買うための列に並んだ患者は、その手続きの複雑さゆえに待っている間に病状が悪化して死んでしまうことが画策されているのだ。

 

地域間及び二国間協定で一層強行な特許保護により利益を確保

 

米国政府および同国製薬業界は、途上国側の攻勢が強まったこともあり、ドーハ以降のTRIPS交渉に不満を持った。その結果、TRIPS以外の交渉の場で、例えば、中南米自由貿易圏や南米自由貿易協定などの地域間協定に規制強化を持ち込む策に出た。さらにチリなど米国との二国間交渉の場でも、米製薬業界の利益温存へ圧力をかけた。その主な目的は、以下の規制に基づき米国以外の国の知的所有権の基準を米国の基準に「協調」させることである; (1) 平行輸入の禁止 (2)ライセンス発行の制限(緊急時と非商業用途のみ) (3)強制ライセンスの下での薬品輸出禁止(4) 薬品登録と特許条項の統合(5) 特許期間の延長(6) 薬効や健康への安全にかかわる機密を5-10年間保護(7)結果として、特許権侵害に相当する民間の犯罪治療を促し、権利を有する製薬会社による貿易相手国提訴の機会を促す。

 

TRIPSプラス「技術支援」が、製薬業界の独占的利益を助長

 

通商政策や貿易に絡む舞台裏での恫喝でも目的が達成できない時、米国の執拗な手段はUSAID(米国開発庁)とWIPO(世界知的所有権機構)による「技術支援」を通じて行われる。TRIPSの複雑な更新に見合う法的能力が途上国に欠如している点に足下を見る米国は、技術支援の名を借りたトロイの木馬を送り込む。「中立」を装う支援は、実際にはTRIPSの条項や舞台裏での提案を、米国政府機関やお抱えのコンサルタントに途上国が飲まされることに他ならない。最も最近の事件は、ナイジェリアで起こった。最終的な段階でNGOに暴露されるまで、TRIPSの法的抜け穴に目をつけたUSAIDの介入のためナイジェリアでは薬品へのアクセスが否定されかけていたのだ。

 

全米最大の製薬会社は昨年、利益370億ドル、株主利回り39%を計上、しかも約70億ドルの利益は途上国で上げるなど、ほかの業界に屈指の実績を見せつけた。利益に対する無尽蔵な欲望が、TRIPSなどでの米国通商政策の実相を何よりも物語るものだ。法的な対抗手段だけでは、米国型製薬戦略に対抗することは難しい。独占価格を操作する製薬業界の構造に対して、途上国は政治的な攻勢を組織し、犠牲者にされている途上国民衆とその政治的戦線は、知的所有権が死をもたらす米国=製薬産業のシステムを暴露し、反対していかなくてはならない。

 



民営化と残業手当廃止

Privatization, Assault on Overtime Pay

By Justin Jackson and Chris Kutalik

 

共和党の選挙勝利が、反戦運動の引き金に

組合は基本的に民主党支持。AFL-CIOはキャンペーンにスタッフ750人、フィールドコーディネーター4千人、関連組合はビラ1700万枚、電話5百万コール、ダイレクトメール1500万通をさばいた。資金面では昨年9月9日時点で、労働者側は6200万ドルを主に民主党候補へ、一方、財界側は7億8千万ドルうち57%を共和党に献金した。AFL-CIOのジョン・スウィーニ−委員長は、「民主党は国家ビジョンの代案を明白に語ることができなかった」と敗因を分析した。またHarry Kelber氏が Labor Educatorに記した内容によれば、AFL-CIOは増大する保険医療費や失業問題などで、投票者を喚起することができなかったと指摘している。統一電気労働組合(UE)Bruce Klipple氏は、「選挙結果は、民主党が成長する企業の力に対抗することができないことを証明してしまった」と語っている。

 

反戦の課題

民主党の軟弱な抵抗に勢いずいた共和党は、選挙結果が出た直後からホームランド・セキュリティ・ビルなど反労働法案を両院にかけた。同法案は、ブッシュ大統領に推定17万人の労働者の権利を奪うことを許すものだ。米大統領はさらに、連邦政府公務員のほぼ半数に当たる85万人の民営化の計画をブチ上げた。政府高官は、同計画に関して「市場型の政府は、競争・革新・選択を恐れない」などと述べている。また米国連邦政府従業員組合(AFGE)のBobby Harnage委員長は、ホーム・セキュリティ法は「公共サービスの労働者を雇われ専門家と権益者の集団につくりかえるもの」と指摘。しかしAFGEの戦略は、ブッシュ政権が裁判所に持ち込む動きを阻止する単なる法的戦略なのか、あるいは民営化と労働権剥奪とたたかうのかは不明である。

 

タフト・ハートレー法の適用拡大化

ホワイトハウスの経済顧問であるLawrence Lindsey氏は11月7日、選挙結果の趨勢にかんがみ、タフト・ハートレー法や鉄道労働法を適用し労働争議におけるブッシュ大統領の地位を強化すべきであると主張。航空組合との来るべき争議でも譲歩を勝ち取ることに現状を利用すべきであると語っている。また鉄道労働法は、ストライキやロックアウトの強制的な停止を課す法律で港湾闘争などへその適用が懸念された。

企業団体は、残業と有給休暇に関する「公正労働基準法」の規定の一部を取り除くための立法を求めてロビー活動を行っている。90年半ば以降、企業は、週40時間を超える労働に対して1.5倍の支払いをするのをやめて、comp-time[平日の代替休暇]やフレックスタイム制を導入するための法律を成立させようとしてきた。

 



貧困による流浪

Uprooted by Poverty

By Harry Throssell

 

Sorry

Sorry that we breathe in your air

That we walk on your ground

That we stand in your view

Sorry

ごめんなさい。

あなたの空気を吸ってごめんなさい。

あなたの地面を歩いてしまって、

あなたの視界に入ってしまって、

ごめんなさい。

(『ごめんなさいの詩』ロンドンで難民の子供によって朗読された)

 

恐ろしい飢え・病気・暴力として襲いかかり、人間として生き残るため逃げ惑わさせる経済的不平等に、グローバルな移民を引き起こす実際の姿がある。

しかしオーストラリアを含む金持ち国は、実態から目を避け表面的な問題に収支している。密入国のブローカーが、住む場所を奪われた者に寄生しているのは事実で批判されるべきだが、彼ら自身が難民を生む要因ではない。国境の取締強化は、絶望的な民衆が助けを求めている時に、「不法」越境者への取締りに問題をすり替えることだ。もう一つの問題すり替えは、「経済難民」を「本当」の難民から差別することだが、彼らも強制送還されれば拷問を含む暴力的制裁の危険にさらされているのだ。実際に明らかとなったことは、難民の定義がどう変わろうと彼らはすべて究極的に貧困の犠牲者であるという点だ。地球は全人口を養う十分な資源をたくわえているが、他人の労働で繁栄する圧倒的権限を独占する個人・企業・政府により、搾取され生地を奪われた難民が生まれる。金持ち国の非難に関わらず、移民の大部分は貧困国に最初は移るのだが、皮肉にも金持ち国がさらに繁盛するため移民を必要とするのだ。

 

亡命者と貧困の関係

 

過去30年間の難民の公式統計は、グローバルな経済的不平等拡大に正比例している。UNHCRによっても70年代初頭の3百万人前後で推移していたのが、73年から95年にかけて2000万人へ9倍化と人口膨張率を大きく超えた。73年の石油危機は、インフレや借入国の金利高騰による債務膨張など貧困国に壊滅的打撃を与えた。世銀の数字でも、19世紀のいかなる時期に比較しても70年から今日の時代ほど経済格差が拡大した時期はないことが明らかとなった。1日1ドル以下で暮らす世界人口の比率は70年台後半の56%から90年代後半の65%に上昇した。サハラ以南のアフリカでは、AIDS の影響で平均寿命が再び下がる一方、世界の上位金持ち1%は不平等拡大を受けて所得を伸ばした。難民及び亡命希望者の10大発生国は、パレスチナ、アフガニスタン、スーダン、イラク、ブルンジ共和国、ブルネイ、アンゴラ、シエラレオネ、ビルマ、ソマリア、コンゴで、年間平均所得は金持ち国の2万5千ドルに対して755ドル。パレスチナでは、65%が貧困ライン以下の生活を余儀なくされ70%が失業している。国内避難民の多数国は、パレスチナ、コンゴ、アフガニスタン、コロンビア、スーダン、インドネシア、エチオピア、エリトリア、チェチェン、シエラレオネでほとんど国連統計で最貧国に数えられている。

 

虐待

 

難民の定義は、紛争に代表される虐待から逃避してきた者であるが、過去半世紀の間、国境をまたぐ戦争の90%以上の犠牲者は一般市民と、第一大戦時の10%、第二次大戦時の50%から増加し、戦争のほとんどが貧困国で引き起こされたものであった。さらにその多くが、旧植民地国であり、統治構造がもろく、教育投資水準が低く、自国経済資源に対する支配が貧弱で、債務返済と生産悪化の悪循環を余儀なくされている。国連児童報告は、アフリカだけで70年以来、30回を超える戦争が8百万人以上の難民、帰還民、流民を生んだことを報告している。事実としては、貧困、引き続く政治不安定、欲望、リーダーシップの欠如が、これらの戦争の舞台を用意し、栄養失調、児童の死、非識字、子供への差別などを生んだのだ。世界で最も貧困な国々の半数以上が紛争に巻き込まれたことは偶然ではない。アンゴラ、コンゴ、シエラレオネ、スーダンは、石油、ダイヤモンドなどの資源に恵まれ、富をめぐり武器取引が活発化し、絶望的に貧しいスーダンでは9カ国からなる地雷が埋められていた事実が国連により発覚した。米国は全体の45%に相当する世界の武器輸出を独占、ロシア、フランス、英国などの後続を離している。カナダ人エコノミストのMichel Chossudovsky 氏は、ルワンダの94年の虐殺事件に言及。事件は歴史的不可避という論調に対して氏は、国際コーヒー市場の崩壊と世銀IMF の改革策の強要という経済的要因をメディアが見落としている点を指摘した。ワシントンの政治的圧力は、コーヒー価格の暴落をもたらし、貧困と同時に少数ツチ族への特権の集中がドイツ・ベルギーの植民地時代以来の政治的緊張をもたらした。Michel Chossudovsky 氏は、「IMFを主体とする平価切下げと一体となった緊縮策は、政治的社会的緊張が高まっていたルワンダの民衆を窮乏化させることに役立った」と指摘。さらに「民族間の憎悪のみに事件の原因を求めるのは、経済・社会・政治の複雑な影響が国家全体に与えた要因解明を誤らせる」と言明した。

 

解決へ初歩的な考察

 

スーザン・ジョージの難民流出に対する解決案は、第一にたどり着いた新しい国での生活条件を改善させること。第二に移民を引き起こす要因を減らし現地で持続的な生活が可能なような状態をつくる努力することであると指摘している。

 

例えば世界中の人口がオーストラリアの平均的生活水準で過ごすのに相応の生産高を得るには地球が五個必要である。しかしそれができないのであれば、オーストラリア人や同等の生活水準で生活している人たちが平均消費支出を落とすしかない。しかし、オーストラリアや同水準の国の低中所得層は生活を変える必要はなく、無駄で非生産的な消費を享楽している最高所得層のみが改めればそれで済むのである。

 

しかし経済のグローバル化はそうした方向に動いてはおらずノーベル経済賞を受賞した元世銀エコノミストのJoseph Stiglitz氏が述べているように世銀・IMFが途上国を国際金融機関の力で抑えつける「ゲームのルールを設定した」結果、途上国は「新しい植民地体制に組み込まれた」という通りの現状がある。ワシントンの経済政策研究センター [CEPR] は、「世銀・IMFが政策採用が成功をもたらしたと指摘できる世界の地域はどこにもない」と結論づけている。

債務の帳消しのほかに考えられるほかの方法としては、トービン税があり得る。為替取引きに0.25%以下をの税率を課すだけで、年間1千〜3千億ドルの基金が環境や貧困対策に積み立てられることになる。