ATTACニュースレター日本版2002年第45

Sand in the wheels

Weekly newsletter - n°154 – Wednesday 27 November 2002.

 

ヨーロッパと南北アメリカ

EUROPE - AMERICAS

「サンドインザホイール」(週刊)

20021127日号(通巻154)号

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目次

1.フィレンツェからコペンハーゲンへFrom Florence to Copenhagen

「リスボン戦略」と呼ばれる欧州連合(EU)の新経済戦略により、経済・軍事スーパーパワーを確立するための戦略として民営化と競争入札が使われる。多国籍巨大企業がEUの国際競争力を高めるために国内外の公共サービスを乗っ取ろうとしている。サービスは独占的な企業コミュニティに有益に働き、連帯と福祉は後回しにされる(1363)

2.フィレンツェでのESFの報告 The ESF in Florence: a preliminary report.

フィレンツェで11610日に開催された欧州社会フォーラム(ESF)は大成功を収めた。参加費を払った参加者32000人。金曜には6万人近くが参加した(1348)

3.IMFがブラジルの民主主義を脅かすFund threatens Brazilian democracy

ブラジルの新政府と市民社会は、新政権がIMFの契約を変更するための機会をつかまなければならない。特に重要なのは、市民社会に支持された、主権を代表する民主的政府と、IMFなどの金融機関との関係を変えるプロセスをつくることだ(793)

4.FTAA、対外債務、軍事化は同じプロジェクトの3つの側面だFTAA, External debt and militarization: three axes of the same project

19972000年の間に、南米・カリブ海地域は対外債務の支払い5830億ドル、金利1920億ドルを支払った。しかし債務はいまだ増え続け、社会的投資用の私達の国際的な積立金を使って支払われている(1256)

5.自由貿易協定―大陸規模の巨大な蜘蛛の巣Free trade agreements: threads of a giant continental spider web

「貿易の促進」という表現は、二国間の商品取引きを指す場合、(特にメキシコと米国のように本質的に生産条件が違う二国間の場合、)現実を隠している。産業的インフラと最新技術に欠く国が提供する製品は付加価値に欠く。原料と農業製品が主な製品だ。これが「貿易量の増加」だ。私達は、資本主義の始まりのときから、ほとんど利益を生み出さずほとんどの人の手に届かない価格の製品を、取引きしてきたし、これからもし続けるだろう(1939)

 

[要約版]


フィレンツェからコペンハーゲンへ

From Florence to Copenhagen

By ATTAC Denmark

フィレンツェでの欧州社会フォーラム(ESF)の成功にATTACデンマークは勇気づけられた。今度のコペンハーゲンでのEUサミットでのテーマはEUの拡大だろう。EU加盟候補国に難しい要求をつきつけることで、農業分野だけでなく、EUへの加盟は中央・東ヨーロッパに社会問題を引き起こす。ATTACデンマークは、中央・東ヨーロッパの運動とのつながりを強めてEU拡大に挑戦する。「違う欧州に向けたイニシアチブ」とNGOフォーラムの枠組みに則って、EU内・国際的に起きている公共セクターに対する攻撃に焦点を当てる。

「リスボン戦略」と呼ばれる欧州連合(EU)の新経済戦略により、経済・軍事スーパーパワーを確立するための戦略として民営化と競争入札が使われる。多国籍巨大企業がEUの国際競争力を高めるために国内外の公共サービスを乗っ取ろうとしている。サービスは独占的な企業コミュニティに有益に働き、連帯と福祉は後回しにされる。GATS(サービスの貿易に関する一般協定)交渉でEUは、途上国での水供給の民営化を推すなどネガティブな役割を担っている。私達はこの動きに反対する。私達の求めるヨーロッパは違う!私達はもっと重要な討論を求め、また民営化と競争入札に反対する運動を強める。目標はよりよい民主主義と福祉だ。

対イラク戦争の脅威に対して、コペンハーゲンの各国参加者全員は抗議するだろう。トニー・ブレアその他戦争屋はここには支持者がいないことを思い知らされるだろう。

サミット中の活動は私達の運動を盛り上げ、ヨーロッパにおけるいい傾向、悪い傾向に光を当てるだろう。教育的・創造的な活動は、人々に違う民主的ヨーロッパの中身を示すだろう。

企業による支配、公共サービスの商品化にNoを!ヨーロッパと世界に民主主義を!収益ではなく連帯のためにサービスを!

■人種差別と要塞ヨーロッパに抗議するデモ

サミット中、各国地域の首脳・多くのジャーナリストがコペンハーゲンに集まる。歴史上ヨーロッパ中に外国人嫌いが広がり右翼政党がデンマーク、イタリア、オーストリアで政権を握り難民・移民政策を支配しているときに。デンマーク右翼政府は少数民族の人権を差別・侵害し、平等な権利を持つデンマーク市民として溶け込むことを困難にしている。同政府はサミット議長国として(難民流入をより困難にする)EU共通の避難所政策を進めると宣言した。「違う欧州に向けたイニシアチブ」は、ヨーロッパのすべての進歩的な力を結集する必要があると示したい。私達は、「ヨーロッパの最も外国人嫌いが顕著な国」ではない、もっと忍耐と責任のあるもう一つのデンマークを世界に発したい。1212日には移民の権利とヨーロッパ要塞形成に関する市民大会議を行う。13日には人種差別に対する抗議デモを開催する。デモの場所と時間: 1213 (金)pm500 Enghave Plads

■コペンハーゲン女性のイベント(121315日)

ヨーロッパの女性のネットワーク「違う欧州に向けた女性達」とATTACウーマン(デンマーク)参加のグループが、女性のイベントを企画。121315日に、セミナー、交流会、市民会議がある。北と南、ヨーロッパの各地域の女性の状況について、私達の知識と経験、私達を取り囲む条件を改善する可能性について情報交換する。EUの展開、および新自由主義と市場経済の広がりが与える影響を背景にして。日曜に北欧、東欧、南欧、イギリスから報告者が発表し、その後参加者の間で討論する。特に東欧と西欧の女性間での対話を深めてほしい。限りがあるが東欧の女性に旅費補助がある。西欧の女性は自己負担。金曜には、市民会議でインドの環境活動家であるバンダナ・シヴァ、デンマークのフェミニスト研究家・EU批判者・キャンペーナーのDrude Dahlerupが話し、新自由主義のグローバリゼーションが与える女性への影響について、北と南で違う点と類似点に焦点を当てる。セミナー使用言語は英語。【女性イベントの問い合わせ:Gitte Pedersen gitteped@mobilixnet.dkInger Johansen inger.v.johansen@gt2net.dk

詳細情報:http://www.ngoforum2002.dk

 


フィレンツェでのESF―報告

By Pierre Khalfa

フィレンツェで11610日に開催された欧州社会フォーラム(ESF)は大成功を収めた。参加費を払った参加者32000人。金曜には6万人近くが参加。デモには50万人が参加。参加者はフランス、スペイン・ギリシャ・イギリス・ドイツ、ベルギー、ハンガリー、ポーランド・スウェーデン、ロシアと各国から(多い順)。ATTACはヨーロッパネットワークとして参加。116日のヨーロッパATTAC参加者の会議では、統一した考えができつつあること、将来の活動の方向が明らかになった。デモでは何千人もの人々がATTACと行進した。残念なのは、会議で排除された人々・移民の参加が少数な中で排除・移民の問題が議論されたことだ。

平和的性格と巨大デモを伴ったフォーラムの成功は、「野蛮な流民」は一掃されると宣伝してきたベルルスコーニ政府には大きな侮辱となった。事件は一つも起こらなかった。

成功の要因の一つは動員が活発な最近のイタリアの状況にある。4月に行われたイタリア最大の労働組合連合CGIL主催・反グローバリゼーション運動協賛のローマでのデモには、70万人が集結。反戦キャンペーンの大規模デモもあった。また、司法制度を劣位に置くことに抗議するデモがあった。

デモの先頭がフィアット社労働者の行進だったこと、CGILの参加、組織のつながりのない数多くの若者の参加しは、反グローバリゼーションの活動家がイタリア社会の懸念と調和した内容を打ち出したことを示した。ESFの一つ目の教訓は、「自由主義グローバリゼーションに反対する闘いは、それに意味をもたらす国内レベルの政治的・社会的闘いの中に根をおろして初めて発展する」ということだ。

もう一つの成功の要素は、何カ月もの綿密な準備である。このことで、ESFは地理的・政治的に広がった。地理的には、準備会議が大都市で持ちまわりされ、東欧・西欧のネットワークの参加が促された。政治的には、多くの人を巻き込むプロセスで、会議の度に活動をともにすることに慣れていない組織をつなげていった。これにより各組織の政治的違いに対応し必要な妥協を見出す枠組みを確立できた。ESFの二つ目の教訓は、「私達が蓄積してきた運動は雑多で、このことは強みである。組織化の効果は、多様な運動を一緒に活動させる能力によって測るべきだ」ということだ。

ESFではまた、労働組合運動との活動が進展した。大規模な労働組合がもはや私達の運動の強さを無視できなくなった。今度は、主要なヨーロッパでのイベントのために一緒に行動する際、この進展を実行に移す必要がある。

イタリアの左派のESFへの対応は割れた。ESFが自由主義グローバリゼーションに反対しているため、社会民主党の一部はESFを批判したが、フィレンツェ市長とトスカナ州知事、共産主義と極左の一部が結集する緑の党と共産党再建派はESFを支持した。社会運動と政党の対立についての討論もフォーラム中に行われた。

今後の主なイベントについても議論された。215日ヨーロッパ反戦デモの日、6月エヴィアンでのG8でのイベント、9月カンクンWTOサミットの準備として3月開催されるGATSに関するヨーロッパ会議、コペンハーゲンとテサロニカでの欧州協議会会議。2003年にローマで結論が出る憲法改正プロセスでも、私達は「もう1つのヨーロッパ」を求める。多くのネットワークがこのセミナーをヨーロッパレベルでのキャンペーン準備に使った。

ジェノバ・バルセロナに続いたフィレンツェESFの成功は、自由主義のグローバリゼーションに反対する運動が恒久的に強固にヨーロッパの政治舞台に根を張ったことを示した。この運動が大規模な動員・討論・行動・代替案の確立をつなげることができることを示した。総会では一般的なアクションと特定の問題に対するキャンペーンの両方について決定できた。これらの提案の未解決部分は、フィレンツェ後も継続する。まとめると、私達はほんとうのヨーロッパの社会運動の形成に向けて、質的に飛躍的な向上を果たした。私達はこれを基にパリのサンドニで開催される次のESFを積み上げる必要がある。

【この記事に関する問い合わせ:attacfr@attac.org

 


IMFがブラジルの民主主義を脅かす

Aurelio Vianna Jr(多国間金融制度に関するブラジル・ネットワーク[Brazil Rede]の政策アドバイザー)

 

IMF(国際通貨基金)は20029月、ブラジルに30億ドルの借款を承認した。これに続いて同12月に30億ドル、2003年に約240億ドルの借款が供与される。これにともなうブラジル政府とIMFの間の合意の主要な目的は(a)(通貨)市場の変動に対するブラジルの脆弱性を軽減する、(b)新政権への移行をスムーズに行う、(c)債務のレベルの悪化を食い止める条件を整えることである。これらの目的は、現状を作り出す原因となった構造的な問題を強調していない。ブラジルはIMFに処方された一連の政策に従ったためにより脆弱になった。また、「政権の移行を促す」と親しげな表現をしているが、IMFは実際には民主的制度と国内の主要な問題に関する自由な議論を阻害している。

何年もの間、IMFは運営の透明性の部分で進歩してきた。多少は世界中の市民社会グループとの対話を確立しようともしてきた。また少なくとも理論上では、政府が合意された政策の主体となることを確認してきた。

しかし、こうした変化とは裏腹に、IMFは自分達が処方した一連の政策に固執しつづけてきた。ブラジルへの「助け」は選挙の準備期間になされた。IMFの代表はブラジルを訪れ、カルドーゾ大統領と主要な大統領候補から、合意の背景となる基礎部分について支持を取り付けた。しかしブラジルには民主的な体制がある。連邦議会が外国からの借款契約を裏書する優先的権限を持つのだ。IMFは、この民主的な政治的プロセスを阻害しようとしたことになる。

さらに、行政府が草案をつくり議会が通した予算ガイドライン法は、毎年一年間の法律で、連邦政府の財政目標を定めている。そのためIMFと合意した目標は関連した議論が終わったあとで予算ガイドライン法に組み込まれる。新合意のもとでは、予算目標は四半期ごとに財政担当省によって見直される。このため予算法は無視されかねない。この結果、民主的な予算編成プロセスと予算周期は、絵にかいたもちになってしまう。

IMFとの合意の内容だけでなく、IMFの民間セクターに向いた後退的な政策の処方についても、包括的できびしい見直しが必要だ。IMFが推奨した政策に従ったすべての国(アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル)は、開発と貧困に関するワシントン合意の最悪の結果を示した。

ブラジルの新政府と市民社会は、新政権がIMFの契約を変更するための機会をつかまなければならない。特に重要なのは、市民社会に支持された、主権を代表する民主的政府と、IMFなどの金融機関との関係を変えるプロセスをつくることだ。

【この記事に関する問い合わせ:Rede Brazil(多国間金融機関に関するブラジルネットワーク) http://www.rbrazil.org.br  この記事はブレトンウッズ・プロジェクト「ブレトンウッズ・アップデート No.31 20021112月」に掲載された。「ブレトンウッズ・アップデートは次のウェブサイトで。http://www.brettonwoodsproject.org/update

 


FTAA、対外債務、軍事化は同じプロジェクトの3つの側面だ

FTAA, External debt and militarization: three axes of the same project

Martha Celia Ruiz

昨日「FTAAに反対する大陸抵抗のラウンド」の一部である「大陸 遭遇・反映・相互交換」会議がキトで始まった。会場ではFTAA(米州自由貿易圏)形成に抗議する声が溢れ、「もう一つのアメリカ大陸は可能だ」と宣言された。ラウンドは10月中、米大陸で、議員の会議、企業のフォーラム、経済担当相会議などFTAA関連のイベントと平行して行われる。102830日のエクアドルでの「熟考のための大陸会議」では、FTAA、対外債務、南米とカリブ海地域の軍事拡大について議論される。

今年5月のジュビリー南アメリカ主催のイベントでも、FTAA、対外債務、軍事化の関係が分析された。ここではこの3つが「北米帝国拡大プロジェクトのための相互補助的で戦略的な軸」だと説明された。まずFTAAにより「米国支配の地域ブロックを作り、欧州連合(EU)・アジアブロックという世界の経済的・文化的・地理的覇権との競争力をつける」。さらに対外債務は「財政ルートを通した南米諸国の余剰資金の専有者」の役割を果たす。軍事拡大は「武器を持つことで米国の西半球および全世界的な覇権を保障する」のだ。

会議では、米国がエクアドルのマンタ、キュラソー、エルサルバドル、アルバの4つの軍事基地を設置したこと、さらにブラジルのアルカンタラ、フエゴ島の2つの基地設置計画があることを説明。また米軍主導のコロンビア計画は、麻薬輸送と闘うことが名目だが、オルタナティブ南米法律サービス機関(ILSA)のメンバーは実際には「反対分子(=体制反対者全員)に対する軍事プロジェクト」だと話す。

チアパスでの紛争解決策を研究しているLopez y Rivas氏は、今ビセンテ・フォックス政府は、これまでPRI政権がサパティスタ国民解放軍(EZLN)に使ったのと同じ戦略を踏襲していると説明。リバス氏はこれを市民に対する小規模軍事行動と、先住民の生活における戦争だと言う。メキシコ政府はこの戦争に、先住民の準軍事的組織を使うというグアテマラのモデルを採用している。またNAFTA(北米自由貿易協定)施行後の1994年から、メキシコ人が米国の軍事学校に多く在籍し、反乱行為の抑え方を学んでいる。

発表者達は「抵抗がなくてはオルタナティブはない」と強調、FTAAと米大陸の軍事化に対抗するNGO間のつながりを求めた。ボリビアの元大統領候補Evo Moralesは、先住民が自治の復活に成功した例を出し、共同のオルタナティブ作りを呼びかけた。

19972000年の間に、南米・カリブ海地域は対外債務の支払い5830億ドル、金利1920億ドルを支払った。しかし債務はいまだ増え続け、社会的投資用の私達の国際的な積立金を使って支払われているとMarcos Arrudaは説明した。

エクアドル経済学者のAlberto Acostaは債務が支配のための道具で、構造調整の政策導入を導くと指摘。対外債務の帳消しという行動がこの地域の国々の共同のアクションとなるべきだと主張。また、先日この地域の組織が集まる会議で、対外債務の帳消しの提案を強める法的枠組みの可能性を話し合ったと説明した。目標は、このような権利や法律を導入できる国際法廷だ。今は債務者が犯罪者に見られ債権者が判事のように振舞う。もう一つの目標は、なるだけ早く現存の債務の監査プロセスを促進することだ。Acostaは「債務者は、その支払いの要求と条件がその人を残酷な状況に陥れる場合、債務を取り消すことができる権利を持つ」と説明。代替案は、この権利を導入し、債務の問題を政治舞台で取り上げ、明確なパラメーターと条項を作り、債務支払いが社会的プロジェクトを危機に陥れないようにすることだ。

これら発表者の今後の挑戦は、自分達でより平等で連帯した社会を促進する開発プロジェクトを作ることだ。そうでなければ、対外債務の圧力と米国主導の軍事的介入を通してFTAAが現実となりかねない。アルゼンチンのノーベル平和受賞者Adolf Perez Esquivelは、「私達は奴隷になることを拒否するのだから、南米に現在ある統合の欠如に打ち勝ち、共同のオルタナティブをつくるべきだ」と話した。

【この記事に関する問い合わせ:Grano de Arena informativo@attac.org

 


自由貿易協定―大陸規模の巨大な蜘蛛の巣

Free trade agreements: threads of a giant continental spider web

Carlos Powell

(社会コミュニケーションの研究者・教授)

 

「企業の米国」の上級代表者が数日前、自由貿易協定(FTA)を持参してパートナーに会うためマナグアを訪れた。クリオール人達の首都のメンバーはこれを歓迎。ここ2030年、最も信頼された機関(UNECLACAMWFPWHO)が報告するように、新自由主義政策の破壊的な影響が明らかになっても、彼らはFTAを売り続ける。

最近私は、その著者が米国とニカラグア間のFTAを正当化するため、NAFTAがメキシコに与えた圧倒的なメリットが強調された文を読んだ。「米国とメキシコ間の自由貿易が3倍になった」と。

私はグローバリゼーションをすばらしい潜在力を持つ武器だと考える。しかし歴史上のすばらしい潜在力を持つもの全てと同様、その利用は両刃の剣だ。そのものが問題なのではなく、運用する人、目的、法的枠組み、誰にそれが向けられるかが問題なのだ。

ある国のGNPを人口で割るとその国の一人当たりの収入が出る。ニカラグアの一人当たり年収は500ドル。しかしランダムなサンプルを取ると分かるが、自由貿易の量の増加と同様GNPの増加が自動的に大多数の人々の利益にはならない。歴史上で見ても、資本主義的役割分担の枠組みの中では、原料の輸出国にとってそうなったことはない。

「貿易の促進」という表現は、二国間の商品取引きを指す場合、(特にメキシコと米国のように本質的に生産条件が違う二国間の場合、)現実を隠している。産業的インフラと最新技術に欠く国が提供する製品は付加価値に欠ける。原料と農産物が主な製品だ。これが「貿易量の増加」だ。私達は、資本主義の始まりのときから、ほとんど利益を生み出さずほとんどの人の手に届かない価格の製品を、取引きしてきたし、これからもし続けるだろう。

さらに非加工生産物は国際貿易の権力拡大の中で最も悪影響を受ける。技術を持たない労働者が仕事を探すとき、同じ状況の非常に多くの労働者と競争しなくてはならない状況を想像してほしい。彼の技術は「付加価値」に欠けるため、失業者が多く法的保護がない中で、労働者市場での価値が下がる。これが世界中の何十億人もの労働者の状況だ。

さらに、世界の最も富裕な国々は、自分達以外の人々に禁止している「食の支配」を行う。食は、「健康→人間の発展→国の発展」の基礎だ。だからこそ富裕な国々は毎年合計4,000億ドルを保護主義と補助金に費やしている。これが変わらない限り、これらの国とどんな貿易交渉をしても、フェアではない。

メキシコがNAFTA後に「貿易量を3倍に増やした」のは確かだ。ただしそれはメキシコの上位20%の富裕層に利益を与え、彼らは自分達の株を多国籍企業に渡し、これらはメキシコ内に再投資されることはなく、地域の生産性の環を作ることもない。彼らは価格の低い他の市場(特にアジア)から大量の製品を輸入するからだ。同時に国内で何百、何千という仕事が失われ、特に農業分野では、技術を持たない労働者が失業し、債務の残る土地を失い、米国人が同じ仕事をして得る給料より2000%少ない時間給0.25ドル以下で部品組立工場で働くしかない。

これら部品組立工場は、「自由貿易」の哲学を持つ他の投資資本と同様、地域にちょっとした問題があれば、また世界のどこかに貧困で「条件のよい」労働者がいる地域が見つかれば、とんずらする。メキシコの平均的労働者は、NAFTA施行後、購買力が16%落ちた。これが「貿易の増加」の事実だ。

米スポーツ選手が何百万ドル獲得した上、大農場の農家としても何百万ドルも稼いだという雑誌の記事があった。彼らはスポーツのように公平な条件でプレイしているわけではないようだ。富裕な国々の農業生産では人工的な市場価格設定がなされる。ダンピングや関税を自由に行う。何トンもの製品を貧しい国々から買って低価格の製品で市場を飽和させる。中国の綿と地域の綿、ヨーロッパのビートとカリブ海地域の砂糖、日本の米と私達の米、米国の主要な穀物とコーンやキドニー・ビーンズ。アルゼンチンでは最近、米国の市場が低価格の製品で飽和するまではちみつ生産量を増加し続けた。米生産者が脅威を感じ始め、保護対策を求めた。米国はアルゼンチンの製品に65%の関税をかけ、「自由市場の挑戦」を受け入れた何千人もの生産者を破産させた。

カナダでは?カナダのカトリック司教は公開文書でNAFTA11条に反対を表明。11条によって政府がその地域の占有権に関する戦略的ビジョンを多国籍企業に適用することができず、しかも同企業は政府に補償を支払わせた。多国籍企業はすでに裁判でカナダ政府・メキシコ政府から何百万ドルもの補償を勝ち取った。NAFTAの実施後、国の20%の最貧困層の収入は3.8%から3.1%に減り、20%の最富裕層の収入は41.9%から45.2%に増加した。

コリン・パウエルは言う。「私達は障害、制限なしに米国の商品、技術、サービスを売りたい」。また、ロバート・ズーリックは言う。「アジア太平洋地域、アフリカ、中東にも、米国と協定を結びたがっている国がある。」多国籍企業がアジアに時給0.25ドル以下の労働者を見つけるとうことだ。しかし米国の多国籍企業にとって輸送コストは中央アメリカからの方が安い。そこでプエブラ−パナマ計画(PPP)の議論が重要な役割を担うことになる。

中央アメリカの統合とEUの統合が比較されるが、これは不可能だ。EUは、新しく加盟する国が加盟国と同様の条件で競争できるよう、社会経済レベルに注意しながら、国内の展望をもとに統合を行ってきた。この長いプロセスでは多くの納税者が参加したため国民投票が必要になった。しかし巨大な大陸のくもの巣を紡ぐFTAAFTANAFTAPPPIIRSA(南米で交渉中の戦略)の軸は、民間資本かIMFに支配された世界の銀行による投資だ。ここでは多国籍企業が要素で自由市場が統治する。またEUでの交渉の中心軸の一つは労働者の自由な移動だが、FTAA関連の協定はその逆で、労働者の自由な移動を阻むものだ。