ATTACニュースレター日本版2002年第37

Sand in the wheels

Weekly newsletter - n°146 – Wednesday 25 September 2002.

 

地球規模の海賊行為

GLOBAL PILLAGE

 

「サンドインザホイール」(週刊)

2002925日号(通巻146)号

  ホームへ

目次

1- 誰が大金を支配しているのか(Who Controls the Loot)

IMFと世銀の取締役会の構成を知っている人がいるだろうか。このリポートでは、これら国際金融機関の意志決定の過程と、それがいかに途上国に対して不利になっているかを分析する。2002年の国連人間開発報告をもとに、途上国の投票権を拡大し、国際金融貿易機関の責任性と透明度を高めるための提案を行っている(2635)

2- なぜシドニーでWTOの会議が開催されるのか(Why is the WTO meeting in Sydney?)

1114−15日、世界貿易機関WTOの非公式会合がシドニーで開催される。144カ国のうち25カ国の政府だけが招請されている。WTOは、経済力で圧倒する米国、カナダ、ヨーロッパ、日本などによって支配されている。オーストラリアもその仲間に加わり、選ばれた国の政府が、多国籍企業が立案した議題を飲むよう圧力をかけようとしている(1367)

3- WTO事務局がルールを破る( WTO Secretariat’s Chef De Cabinet Breaks the Rules)

WTOの一般理事会議長に新たに任命されたスチュアート・ハービンソン氏は、あからさまにWTOのルールを破り、農業委員会の議長を兼任する(696)

4- 戦争反対:8つの論点(The Case Against War)

米国のイラク侵略は中東全体で広範な反米デモを引き起こす可能性があり、米国企業に対する攻撃が起こる可能性すらある。一部の西寄りの政権は、国内の急進派に対して脆弱性を示すかもしれない。米国政府がイスラエル右派政権によるヨルダン川西岸およびガザ地区の占領を強力に支持していることに対して反米感情が渦巻いている。イスラエルとイラクに対するダブルスタンダード(二重基準)、国連安保理事会の決議の無視、大量破壊兵器の保持をめぐって、米国政府への怒りが沸点に達している。戦場で米国を敗北させることができないことがわかっているため、この地域に対する米国の覇権に反対するますます多くのアラブおよびモスリムの人々が、通常の方法でないない方法で攻撃しようとするかもしれない。昨年の9月11日に悲劇的に示されたように(3589)


[要約版]


誰が大金を支配しているのか

Who Controls the Loot

By Harry Throssel

 

IMFにおいては、米国、日本、ドイツ、フランス、英国、サウジアラビア、中国、ロシアの8カ国を代表する8人の理事が48%の投票権を独占し、残りの176カ国を代表する16人の理事で残りの52%を分けている。世銀では、このうち中国を除く7カ国が46%の投票権を持つ。WTOは形式的には全加盟国に発言権を認めているが、実際にはグリーンルームと呼ばれる事務局長が主催する少数国の会議で決定が行われる。

 

ブレトンウッズ体制

1944年のブレトンウッズの合意に基づき設立されたIMFと世銀は、米国外交政策に従属させられた。歴史家のEric Hobsbawm氏によると、1950年に米国だけで先進資本主義国の株式資本の60%を独占し、生産高でも60%を占めている。ブレトンウッズの合意は、米国の軍隊と企業に鉱山、石油、安価な労働力に無制限のアクセスを与えた。米国財務省と「ヘソの緒」の関係を結ばされた世銀とIMFはその戦略を下支えしているに過ぎない。

またFrederic Clairmont氏は、ブレトンウッズ体制が遺したものは、世界市場分割の全体主義の青写真であると明記している。さらにスーザン・ジョージは、WTOの前身であるGATT の交渉は、途上国の債務削減提案を脇に追いやることを意図していたと書いている。債務国に投資増加や北の市場へのアクセスに関するニンジンをぶらさげ、見返りに債務返済のゲームを続けさせているのだ。

 

代表権

国連の人間開発報告書(HDR)は、IMFと世銀が第二次大戦後の力の均衡を反映しているかぎり、その使命を十分にこなすことはできないと指摘した。IMFにおける投票権は2つの要素から構成される。第1に各加盟国に各250の基本的な投票権が割り当てられ、第2に経済力に比例して投票権が割り当てられる。その結果、富める国ほど優位に立つことになる。米国17%、ドイツ6%、英国5%に対して、例えばサハラ以南のアフリカ23カ国はグループとしてわずか1%の投票権しか持ち得ないのだ。HDRが提唱している点は、債務国の声を反映させるためにも途上国の投票権を世銀・IMFのいずれにおいても拡大させ、途上国のために常任理事のポストを増やすことである。

 

説明責任

2001年9月の世銀による情報開示方針の見直しによって、より多くのプロジェクト関係の情報に市民がアクセスできるようになった。しかしHDRによると、世銀とIMFのいずれにおいても理事会の議事録は公表されず、加盟国の市民に対して理事は説明責任を果たしていない。HDRは、国際金融機関にその責任を果たさせるためオンブスマンによって市民が政府の責任を問うことを可能とする裁判所方式を提唱している。

 

WTOに民主主義を

「全加盟国のコンセンサスに基づく決定」を掲げながら、WTOの舞台裏で大国による根回のコンセンサス造りはしばしば不満を買ってきた。2000年には、アフリカ諸国15カ国がWTOジュネーブ本部に代表者のポストがない時、小国のモーリシャスが5人の代表を送るなど待遇に格差があり、同本部は対策に迫られている。

WTOの意志決定過程は大幅な改革が求められるとしてHDRは、第一に透明性、参加、民主主義を保証すること。第二に途上国に対する公平な扱いを尊重し、事務局の上級ポストに代表を送れるようにする。第三に民主的プロセスをいっそう透明化すること――を主張した。とりわけシアトル閣僚会議の中止、ウルグアイラウンドに対する1993年のインド・バンガローの農民50万人のデモ、WTOの農業合意に対するフランスの25農民グループの抗議などの直接行動が、この間のWTO改革に向けた動きの契機となってきた。

 

参加型交渉のモデル

コロンビアのJuan Mayr Maldonado環境大臣は1999年2月のCartagenaの生物安全性の会議の議長を務めたさいに革新的な運営方法を取り入れた。主な点は、地理的あるいは国の所得水準による格差による従来の区分けを取りやめ、関心やpositionなどが類似するグループ分けを取り入れた。その結果、途上国の交渉過程への参加の可能性が広がり、それまでのグループ77の傘下から抜け出し、各グループのスポークスパーソンもより公平にグループを代表することが可能となった。

またウィーンで議長は、NGOと産業界の代表者それぞれと個別に会い、NGOに別室を設け交渉内容をオーディオ機器で同時進行で聞き取りができるようにした結果、交渉のフォローが可能となった。またモントリオールでは、メディアを含む全傍聴者が全体会議に参加できるようにしたため議題の交渉は成功のうちに結論を結んだ。

[IMF世銀総会に対する926- 29日の行動の詳細はhttp://www.globalizethis.org/ を参照]




なぜシドニーでWTOの会議が開催されるのか

Why is the WTO meeting in Sydney?

By Patricia Ranald

オーストラリア・フェアな貿易と投資のためのネットワーク(AFTINET)

 

144カ国が加盟し2年に一回、来年はメキシコで閣僚会議を開くWTOがなぜ来月14−15日、シドニーでしかもわずか25カ国の選別された政府間の「非公式縮小閣僚会議」を開く必要があるのだろうか。これは俗に「4極」と呼ばれる米国・カナダ・ヨーロッパ・日本の四大貿易大国・地域が実質的な運営権を握り、全加盟国によるコンセンサスづくりという名目と裏腹にWTOの民主主義に問題があることを示している。

1995年のWTO成立前のGATTで扱われていたのは製品の貿易だけだったが、その範囲は今や農業、知的所有権、サービスの分野に拡大し、特に貿易サービス協定(GATS)などは各国国内法の主権を超えうるものであり、地域キャンペーンにより1998年につぶされた多国間投資協定(MAI)の事実上の復権をもくろむものだ。WTOには、政府が政府を訴えることを可能にする牙があり、貿易法の専門家は一方の当事者に貿易制裁を強要する。

国連はもちろん完璧ではないが、少なくとも公開の討論、多数決、非政府組織へよりオープンであることなどの点が保証され、これと比較してWTOの国際機関としての欠陥は明白である。WTOで多数決が採用されることはなく、四大貿易大国・地域がしばしば決議の草案を作成し、恣意的に選ばれた20〜30カ国が参加する「グリーンルーム」で討議が行われる。加盟100カ国に及ぶ途上国は、貿易と援助をちらつかされ、草案署名の圧力がかけられるのだ。

例えばオーストラリアでは、WTOの協定は議会に提出され委員会で審議が行われるが、批准するかどうかは内閣に委ねられるなど、調印前の国民的また国際的な公共の議論はほとんど行われない。WTOは知的所有権に対するパテント料の20年間支払いを義務付けており、製薬会社は昨年、米国政府を説得。ブラジルのAIDS治療薬の低価格生産をWTOを通じて中止させようと働き、地域の反対キャンペーンが起こりようやく提訴を引き下げたこともある。WTOはようやく各国政府に対して、購入可能な医薬品生産を認める一方、農業補助金の低減を提示し途上国に打撃を与えている。またドーハ閣僚会議以降の交渉が遅れている要因の一つは、米国政府が対外的には自由貿易を主張する他方、国内的には農業補助金増額の国内法を推進していることだ。

AFTINETは、労働組合・環境団体・教会グループ・人権団体を組織し、WTOの非公式会議に対抗して、11月10日に教育セミナー、11月14日に平和集会を組織する。

[AFTINET55の団体と多くの個人が参加するネットワーク。 11/14-15に向けた行動についてはhttp://www.aftinet.org.au/ を参照]




WTO事務局がルールを破る

WTO Secretariat’s Chef De Cabinet Breaks the Rules

フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス(Focus on the Global South)

 

9月10日付けでWTO一般理事会議長に就任した前香港大使のスチュアート・ハンビンソン氏が、はなはだしくルールを破り、本来、公平が求められるべき農業委員会の議長に一方的に就任した。

 

多くの途上国が危険な前例を懸念

事務局のスタッフが直接に交渉過程に関わる危険な前例をつくるものだとして、途上国の多くは一般理事会議長の介入に懸念を表明した。今年1月には、マイク・ムーア事務総長の貿易交渉会議の議長就任が問題となり、総会はその措置がルールにない例外的な措置であると認めた。

 

WTOの規則の第VI. 4項は、「事務総長と事務局スタッフの責任は、もっぱら国際的な性格のものでなければならない」と明記している。ただしこの問題が表面化されない理由として加盟国代表者の一人は「多くの強大国がこの問題に関わり、途上国は9月11日以降、我々につくかさもなくば敵か、という圧力をかけられている」と指摘した。

 

ドーハ会議の悪い前例

前回のドーハ会議に向けたハービンソン氏との関係に関して、アフリカ代表が明かしたところでは「彼はあなたの意見を聞いているかのごとく印象を与える。しかし最終的に草案に現れる文面にあなたの意志は反映されない傾向がある」と指摘した。またフォーカス・オン・ザ・グローバル・サウスのアイリ‐ン・カー氏は、「彼が農業委員会の議長に就任し、WTOのルール違反がもみ消しにされることは偶然ではない。彼は工業諸国から言わば道義的権威を託されているのだ」と述べた。ドーハ会議の前例を引き継ぎ、最も論争点が多い農業委員会でカンクンの会議に向けて途上国を説得し妥協を強要する彼の外交技術が必要とされているのだ」と明言している。




戦争反対:8つの論点

The Case Against War

By Stephen Zunes

 

米国内外で高まる戦争反対の世論にもかかわらず、ブッシュ大統領は、米国の利害に対立する国家には先制攻撃による政府転覆をも正当化する重大な前例の認可を求め議会工作を強めている。戦後国際秩序の正統性が危機にさらされるなか、米国対外政策の検証は重要な意味があり、以下の8項目は、イラク侵略の提唱者が主張する論点とそれに対する反論である。

 

1. 「イラクはアルカイダに支援を提供し反米テロリズムのセンターである」

 

FBICIA、チェコの諜報機関は、9月11日のハイジャック犯の一人とイラク側工作者が2001年春にプラハで密会したとの噂を裏付ける何らの証拠も提示することができず、イラクからアルカイダへの資金還流の何がしかの形跡を見つけ出すことができずにいる。国内ムスリムを激しく弾圧したフセイン大統領率いるバース党独裁政権がオサマ・ビン・ラディン及びそのグループと親密な関係があることはほとんどあり得ない。実際、米国務省の世界のテロリズムの傾向に関する年次調査報告書は、イラク政府と深刻な国際テロリズムとの関係について全く例証をあげられない有様だ。

 

2. 「兵糧攻めは失敗に終わった」

 

人道的理由から対イラク経済封鎖を解く国もあるが、軍事輸出の禁止は強固に続いている。その結果、イラクの軍事力は湾岸戦争時に比して、わずか三分の一に低下し、兵器の破壊と経済崩壊から軍務に就く人員は激減し、海軍は事実上、存在せず、空軍は前回戦争時比で名目だけの存在となり、軍事支出は80年代の10分の1に過ぎない。米国が密かに軍事支援をした当時の恐れ得る軍事脅威があったピーク時に比してその数パーセントの軍事力しか持たない現在の同じ政権をなぜ今、転覆させなければならないのか、ブッシュ政権は口を閉ざしている。

国際原子力機構は1988年、イラクの核兵器開発計画が完全に解体したと公表。国連イラク特別委員会(UNSCOM)は、化学兵器の95%は破壊されたとし、イラクの攻撃ミサイルシステムは機能停止の状態にあると指摘している。

 

3. 「大量破壊兵器を所有するサダム・フセインに対して抑止力は効果がない」

 

湾岸戦争で米国及び同盟国に対して大量破壊兵器を使用せず、逆にイランやクルド族に化学兵器で攻撃する意志があったのは、サダム・フセインが自身の保護を戦争の最優先課題としており、報復による自らの破壊を招く攻撃は、相手が米国など強大である場合に限り抑制していることを示すものだ。サダム・フセインの延命策は部下を信用しないことであり、イスラム原理主義者などにより自身に向けられることになり得る大量破壊兵器の開発を行う可能性は小さい。

 

4. 「国際査察官は、大量破壊兵器の不所持を証明できない」

 

湾岸戦争の後、査察の結果を受け、イラクのすべての大量破壊兵器は処分、またその開発能力は破壊され、約8年間のうちに国連イラク特別委員会(UNSCOM)は、3万8千個の化学兵器、48万リットルの化学毒薬、48個のミサイル、6台のミサイル発射台、生物化学毒薬を搭載可能な30個のミサイル弾頭、100件の化学兵器を生産可能な関連施設の破壊を監督した。

 

イラク側の査察官に対する妨害でも、後に明らかになった点は、米国査察管が内密に設置した機器により、イラク軍の電波コードを監視するなどの諜報工作があったためである。戦争のきっかけを欲した米国政府は1998年、UNSCOM の理事であるリチャード・バルター氏に挑発工作を指示。国連安保理事会を無視した同氏は、イラク側が合意を無効にしようとしていると発表し、バグダッドのバース党本部‐‐大量破壊兵器の貯蔵は考えにくい‐‐の無制限査察を要求した。当然、イラク側は拒否し、クリントン前大統領は査察官を引き返らせた後、4日間の爆撃を開始した。

 

5. 「米国は軍事力で政権交代をさせる法的権利がある」

 

国連憲章41・42条は、すべての安保理決議に違反した国に対してすべての非軍事的手段が使えなくなったすえに特別に軍事力の行使が認められない限り、いかなる加盟国も軍事力に訴える権利がないことを明記している。イラクのクウェート占領に対して1990年11月、国連安保理決議678号が取った措置も本来同条項を根拠とするものだが、91年3月のイラク撤退以降は無効となり、また同決議内容は同理事会の歴史上かつてなく、上記41・42条の軍事行使の条件を省いた内容であった。

 

安保理決議に違反したための軍事力を認めるのは国連安保理事会であり、単独で米国の軍事力行使が認められるとするなら、例えば同様にロシアはイスラエル、フランスはトルコ、英国はモロッコにそれぞれ侵攻することも許容されることになる。米国の攻撃認可は、集団安全保障と国連の統治能力を著しく低下させることになる。

 

6. 「政権転覆の恩恵は軍事コストを相殺する」

 

イラクの攻撃力は兵糧攻めにより低下したが、軍事的抵抗力は、依然として強いため、米国が侵攻した場合、昨年秋以来のタリバンに対する戦闘のように無傷でいることは難しい。米軍は政権転覆のためには、人口5百万以上のバグダッドに侵攻せざるをえず、砂漠で地の利とハイテクを活かした湾岸戦争の時と異なり、かつての南ベトナムより広大な国で、密集地における建物‐家ごとの戦闘を余儀なくされる。犠牲を省みない抵抗に対して、米国側は自軍の死傷者を抑えるため、近郊住宅地への爆撃を行う可能性が高く、民間犠牲者の増加は避けられないだろう。すでに財政赤字を計上する米国経済にそうした軍事支出が負担を与えることは明白であり、石油価格の高騰は世界経済や関係国に打撃を与えることになる。

 

7.「政権転覆はイラクで支持を受け域内に米軍との共同歩調を生む」

 

クウェ‐トを占領した当時と異なり、同国の主権と国境をイラクが認めている現在、米国の新たな侵攻を域内で支持する声はない。サウジのアブドッラー王子は、「イラクを攻撃すべきでない。中東の米国に対する敵対感情を助長するだけだ」と明言。また3月末のベイルート開催のアラブ同盟でも満場一致でイラク侵攻の脅威を強く非難する決議を採択した。さらに9月はじめ、カイロ開催アラブ諸国外務大臣会議は、「アラブ諸国とりわけイラクへの侵攻に全面的に反対」する意志を表明した。

 

8「政権転換は、域内の安定と民主化に寄与する」

 

アフガニスタンでも明らかになったように、新たな政権をつくることは破壊するほど簡単にはいかない。例えば、新たにイラク政府を担う最有力候補に米国が想定している人物は戦争犯罪にも加担した元イラク軍指導者であり、フセイン支持派・クルド族は内戦を引き起こし、さらに米国のみならず同盟関係にある西側諸国に対しても攻撃が行われる可能性もある。

[本稿は"The Nation" http://www.thenation.com/ に掲載されている]