ATTAC日本版2002年第19

Sand in the wheels

Weekly newsletter - n°128 – Wednesday 15 May 2002.

 

持続する問題

SUSTAINABLE PROBLEMS

 

ATTACニュースレター「サンドインザホイール」(週刊)

2002515日号(通巻128)号

目次

<日本版刊行1周年を迎えました>

1- WTO の動き(WTO Tidbits)

いくつかの二国間貿易協定のほかには、何も合意はなかった。市場アクセスや技術支援という分野でも、おなじみの金持ち国と途上国間の亀裂が起こり、金持ち国は「持続可能な発展のための世界サミット」の足を引っ張ろうとしている。EUは、近海での過剰な漁猟の制限を検討している(836)

2-土地改革: 世銀戦略の評価(Land Reforms: An Evaluation of World Bank strategies)

国家がすべての市民に最低限の生活を保障する上で、土地の再分配は基本的な前提条件である。単なる技術革新や、改良された種子・肥料・トラクター・灌漑などの利用だけでは、世界中の無数の零細農民に1日2食の食事すら供給できなかった(1271)

3- 企業は、インターネット上で敵を葬るテクニックを発明した(Corporations are inventing people to rubbish their opponents on the internet)

最も効果的なマーケッティングは、人々の意識に入り込み、私たちが自発的にある意見に到達し、ある選択を行ったと思わせる。このアプローチは人類の歴史と同じぐらい古いものだが、この数年間にインターネットの助けによって高度化し、「ウィルス性マーケティング」と呼ばれるテクニックに発展した。この結果、世界でもっとも有力な科学誌の1つが先月、前例のないことをする羽目になった。発表したレポートを撤回したのである!(1286)

4- IMFと世銀の横暴に歯止めなし(IMF and World Bank: Out of Control)

・・・世銀とIMFが害悪をなすことを制限するためのこれら改革が、米国議会から要求されなければならないことは悲しく痛ましい。貧困一掃を掲げるこれらの機関が、そのような外部からの統制を必要としていることは悲しいことだ。しかも、それら機関の政策に影響を及ぼすことができるのが、直接の被害を被る国の人々ではなく、米国の市民だけだというのは、痛ましいことだ(811)

5-世界のアタックの会合(省略)


[要約版]

WTO の動き

WTO Tidbits

By the Attac work group on international treaties, Marseilles

 

1)  (非農産物に関する)市場アクセス交渉委員会の非公式会議 (48)

ケニヤ・インド・エジプト・マレーシア・中国は、他の途上国の支持を得て、ドーハ宣言ではモダリティー*に関する合意の具体的な期限が設定されていないと主張。2003年3月31日を期限とするというスイス案に反対。

一方、オーストラリア・ニュージーランド・米国・EU・日本・カナダの各国は、スイス案支持を表明した。

[*モダリティー:各国に共通に適用される取り決め]

 

2)  米国、途上国への技術支援を強調

米国通商代表補佐は「グローバル・ビジネス・ダイアログ」と「全米貿易評議会」が主催するフォーラムで、「WTO加盟国が途上国への技術支援に合意することはドーハ宣言の確認事項の1つである」と強調。彼によると、これは途上国が次の閣僚会議で、技術援助が不十分であるという理由で新ラウンドへの積極的参加をためらうことを防止するためである。

 

3)  ASEANUS : 自由貿易地域に向けての進展の可能性なし

バンコクの会議で米国通商代表のR. Zoellick 氏は、ASEAN加盟国の経済水準は国ごとに大きな相異があるため域内のグローバル自由貿易構想はあくまで長期的な構想に過ぎない点を認めた。米国とASEAN間の貿易取引は90年代に三倍増の1200億ドルで米国側の赤字320億ドル。米国とシンガポール間では自由貿易協定に調印予定で、情報技術製品などで近隣インドネシアもその恩恵を受け、低賃金にたかる米国企業は東南アジアで一層の現地化を促すと見られる。

 

4) 「持続可能な発展のための世界サミット」に向けた第三回準備会合で進展なし

米国、カナダ、日本、オーストラリア、OPEC諸国は、ヨハネスブルグ・サミット(8・24−9・4)を失敗させることを目的に、議題と目標リストについての合意を妨害してきた。国連も交渉の進め方について批判されている。

 

5) 6月のG8でテロが主要議題に

カナダのクレティエン首相は、南アのムベギ大統領との会談の中で、6月サミットの3つの主要議題は経済問題、アフリカの開発、テロ対策であると語った。

 

6)  EU委員会、ヨーロッパ海域の漁業制限を検討

ヨーロッパ海域で絶滅危機にある魚の生物を守るため漁船の規模減少と年間漁獲クォータ削減が計画されている。WWF は、ヨーロッパでは少なくとも40%の漁獲過剰にあり、水揚げされる60種の漁獲物のうち40種が過剰に漁獲されていると警告した。

 

土地改革: 世銀戦略の評価

Land Reforms: An Evaluation of World Bank strategies

By IDEAs

 

国家がすべての市民に最低限の生活を保障する上で、土地の再分配は基本的な前提条件である。単なる技術革新や、改良された種子・肥料・トラクター・灌漑などの利用だけでは、世界中の無数の零細農民に1日2食の食事すら供給できなかった。その結果、多くの国で土地改革が実施され、中間搾取の撤廃、借地契約の改革、土地所有権の授与、余剰地の土地なし層への分配などが行われた。

土地改革の成果は国によって異なる。ジェームズ・プッツェル氏によると、韓国、台湾では経済成長に大いに貢献し、中国でも貧困解消に貢献した

http://www.lse.ac.uk/Depts/destin/workpapers/asiasubmission.pdf

 

一方、インドなどの国では、地主への補償が土地再配分の条件にされるなどの問題もあり、多くの国で土地改革は失敗に終わった。地主への多額の補償金支払いは、国家財政の負担を重くすることや、有力政治家自身が限度を超えた土地所有者であるなどは、インドなどで土地改革が進まない障害となった。

 

土地の独占に基づく地代高騰が、生産性や投資の障害になることは、各国のみならず世銀ですら認めている事実である。

http://econ.worldbank.org/docs/1194.pdf

 

こうしたなか「緑の革命」の胎動は、土地改革を逆戻りさせ、富農に技術的優位性を与えますます豊かにした。一方、土地改革が遂行され、政府が緩やかな融資を供与し、集団農業への移転が可能であれば、「緑の革命」は貧農にも富をもたらしただろう。しかし実際にはそうした工面はなく、小さな土地所有者はしばし土地を富農に売却し農業労働者の列に加わった。世銀を含む国際ドナー機関から「緑の革命」の技術導入へ財政支援を受けた国では、土地改革が挫折した。

その後、世銀も土地改革の意義を認めざるをなくなり、南ア、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、コロンビア、ブラジル、フィリピン、タイ、インドネシア、インドなど無数の国で土地改革が重要な課題となっている。

http://www.nu.ac.za/csds/donor_13.PDF

 

世銀の強調する市場メカニズムに沿った土地再配分計画は、市場価格で地主を利するものとして問題が指摘されている。

http://www.globalexchange.org/wbimf/ips040601.html

 

フード・ファーストのディレクターであるピーター・ロセット氏は、市場メカニズム型の土地改革は貧農に過大な借金返済の負担を背負わせ、地主を肥やす機能があると批判した。

http://www.foodfirst.org/pubs/backgrdrs/2001/w01v7n1.html

 

世銀やIMFが進める市場優先型政策は、南アの土地改革を挫折させ、マレーシアの伝統的コミュニティにおける土地保有制度を破壊した。

http://www.nlc.co.za/pubs/sacountryrep.htm

http://www.geocities.com/kk_abacus/mnpapua.html

 

 Susana Lastarria-Cornhielは市場優先型土地改革と私有化は、女性の利益にひときわ大きな打撃を与える点を指摘した。

www.aucegypt.edu/academic/src/conference/papers/Privatization%20of%20Land%20Rights.pdf

 

IDEAのサイトは; http://www.networkideas.org/

 

企業は、インターネット上で敵を葬るテクニックを発明した

Corporations are inventing people to rubbish their opponents on the internet

By George Monbiot

 

最も効果的なマーケッティングは、人々の意識に入り込み、私たちが自発的にある意見に到達し、ある選択を行ったと思わせる。このアプローチは人類の歴史と同じぐらい古いものだが、この数年間にインターネットの助けによって高度化し、「ウィルス性マーケティング」と呼ばれるテクニックに発展した。この結果、世界でもっとも有力な科学誌の1つが先月、前例のないことをする羽目になった。発表したレポートを撤回したのである!

 

過去に企業は、批判者への対策として森林破壊や河川汚染を支持する「市民団体」を偽造したが、いまはニセモノの「市民」を捏造し、メーリングリストなどで情報操作の工作を行っている。

モンサント社は97年、遺伝子改良食品の宣伝に失敗した教訓から、対策としてインターネット・ロビイングを専門にするBivings Group と契約を交わした。

Bivings Groupのウェブサイトは「ウィルス性マーケティング」戦略について解説している。「どのように世界を感染させるか」の項目では、「視聴者にあなたの組織が関わっていることが知られると逆効果になるキャンペーン」においては、「最初はインターネット上で話されていることをよく聞き、事情に精通した後、第三者の立場を装ってそこに投稿することができます」、「ウィルス性マーケッティングの利点は、あなたのメッセージが真剣に検討されることです」と述べている。モンサントの高級幹部は同サイト上でBivingsの業務を「傑出した実績」と賞賛している。

 

昨年、11月29日、カルフォル二ア大学の二人の研究者は、『Nature』誌上において、メキシコのコーンが遺伝子改良の花粉により汚染されていると報じ、遺伝子改良穀物の拡販を狙うバイオテク企業に打撃を与えた。

この号が発売される前に、著者の一人であるIgnacio Chapela氏にあるメキシコ企業幹部が接近し、はじめは、この記事を撤回すれば好条件で研究員として迎えると提案し、その後は同氏の子供の居場所をつきとめることも可能であると脅迫した。

同誌が発行された後、記事内容は科学者3千人が加入するAgBioWorld というML上で取り上げられた。すぐさま"Mary Murphy"なる者は、Chapela氏が「農薬アクションネットワーク」のディレクターをつとめるため「偏見なき著者とは言いがたい」とメール。続いて"Andura

Smetacek"なる者は、著者が「何よりもまず活動家」であるため、環境保護家との結託のもとに研究結果が公表されたと指摘。翌日には"Smetacek"という者が「Chapela氏は、偏見に満ちたキャンペーンによる情報操作のため、講演料から旅行費用までいくらを稼いだのか」と投稿して来た。

その後、彼らの投稿によって唆された多くの人々が著者批判のメールを投稿し、バイオテクの有力研究者の一人は、Chapela の大学からの解雇を要求、さらにAgBioWorld は、同誌の「決定的欠陥」を指摘するキャンペーンを開始した。

圧力に屈した『 Nature』誌の編集者は創業133年の歴史をくつがえして、著者二人に意志を無視して、問題となった記事の撤回を同誌上で公表した。

それにしても"Mary Murphy" "Andura Smetacek"なる人物は誰か。Bivings Groupはこれら人物との関係を否定。前者と同様のホットメールのアカウントから2年前に投稿されたメールアドレスはbw6.bivwood.com.を含み、これはBivings Groupの子会社が所有するアカウントと同一であることが判明している。

 "Andura Smetacek"に関しては、投稿先とされるロンドンあるいはニューヨークでも身元は明らかにされず、また幾たび同人物が投稿で宣伝している"the Centre For Food and Agricultural Research"は、環境保護家の暴力をウェブサイト上で不当に非難するのみで、実在しない。しかし同組織のアカウントであるCffar.org の下にManuel Theodorov なる人物の登録は事実であり、同氏はBivings Woodell の幹部である。

Bivingsは「我々は賞を受けることもある。クライアントしか我々が果たした役割を知らないこともある」と高言している。すなわち「時々」実際の人々は「偽者」に操られていることに気がつかないということになる。

 

IMFと世銀の横暴に歯止めなし

IMF and World Bank: Out of Control

By Russell Mokhiber and Robert Weissman

 

IMFと世界銀行は、歯止めのない機関である。1つの例として、これらの機関の債務返済プログラムを取り上げてみよう。

これらの機関の重債務貧困国(HIPC)向けプログラムにより、最貧国は6年間にわたって厳密な監視の下で「構造調整」を進めるという条件で、対外債務の3分の1の返済を免除される。

 

構造調整策とは、無差別な私有化、労働市場の規制緩和、政府支出の削減、貿易と金融自由化、経済規制緩和、輸出重視、医療費の増加などを含むものだ

 

しかし4月のIMFと世銀の会合では、構造調整の最初の3年間に経済が悪化し債務返済が本来なら免除され得る途上国に対して、救済措置の変更が促された。「構造調整を十分かつ積極的に実施していない」という理由のためだ。世銀とIMFは世界最貧国からも生き血を吸おうとしている。

しかし、これらの機関の暴走に歯止めをかける可能性もある。世銀は今年、最貧国への貸し手である国際開発協会(IDA)にさらなる資金注入を要求した。これに対して米国の環境・開発・宗教・労働など各分野の市民団体が広範に結集し、米国政府がIDA に資金供与をするのであれば、IMF と世銀の権限を制限すべきであるとの要求をつきつけている。

この運動は、2000年の運動の成果を継承している--2000年に米国議会は、世銀とIMFの米国代表は債務国における初等教育と医療の費用にしわ寄せが行くような融資案件に反対しなければならないという法律を可決した。

米国財務省の抵抗に関わらず米議会の影響力により、世銀は15年目にしてようやく教育費の有償化を撤回した。その結果、例えばタンザニアにおいて、150万人の児童が学校に通えるようになった。

この広範な運動は、米国政府が有害な融資条件に反対することを要求している。詳細は下記のサイト(英語)を参照されたい。

http://www.essentialaction.org/imf/worldbank_report/IDA_FINAL_REPORT.pdf

 

世銀とIMFが害悪をなすことを制限するためのこれら改革が、米国議会から要求されなければならないことは悲しく痛ましい。貧困一掃を掲げるこれらの機関が、そのような外部からの統制を必要としていることは悲しいことだ。しかも、それら機関の政策に影響を及ぼすことができるのが、直接の被害を被る国の人々ではなく、米国の市民だけだというのは、痛ましいことだ

 

著者のRussell Mokhiber が関わる多国籍企業モニターは; http://www.multinationalmonitor.org/

 

■翻訳グループより

「サンド・イン・ザ・ホイール」日本版は、昨年5月22日号(82号)を「準備第1号」として配信して以来1年を迎えました。準備第1号の最初の記事は「バルセロナからジェノバへ(Barcelona to Genoa)」でした。今号で通算47号となります。これからもよろしくお願いします。「サンド・イン・ザ・ホイール」翻訳グループ:南恵(東京)、高橋信之(香港)、柿元えり子(熊本)、長棟一展(大阪)、喜多幡佳秀(大阪)