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対話はいかに可能性と未来を拓くか −第2回歴史認識と東アジア平和フォーラム−
西野留美子(「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク・共同代表)
「記憶の中にこそ再生への可能性が秘められている」
ナチの戦犯を追及し続けたサイモン・ヴィーゼンタール氏のこの言葉が共感を呼ぶのは、人類は平和と安定を普遍的願いとしているにも関わらず、それを課題にしてなお越えられない現実に生き続けているからだ。
「平和な東アジア」へ教科書論争が進化
ここ数年、東アジア各国の日本の歴史教科書問題に対する関心は、単なる「過去を顧みない、反省しない日本叩き」の反日感情を接点にしたアジア連帯という図式を大きく様変わりさせている。扶桑社の歴史教科書問題は確かに日本の歴史認識を問う端緒となった。しかし、戦争に向かう力と平和に向かう力が一層、そして強力にせめぎ合う東アジアにおいて、日本の歴史教科書、歴史認識問題は単に「日本の問題」ではなく、平和をいかに構築していくかという東アジアの平和な地域共同体を志向する上で、東アジア全体の問題として注目されるようになってきた。この位相の変化こそ、旧来の教科書論争とは異なる点だ。
「歴史認識と東アジ平和フォーラム」は昨年3月、南京において第一回フォーラムが開かれた。東アジアという地域共同体に生きる人々が平和と安定の時代を望む今、まずもって互いに共有できる歴史認識の土台を作っていくことから始めようというコンセンサスから開かれたものだった。この提起は、一昨年7月に北京で中国社会科学院主催の学術討論会において議論されたものである。
第二回フォーラムは2月27日から3月1日まで、東京フォーラム実行委員会(実行委員長:荒井信一、事務局長:俵義文)の準備の下で、早稲田国際会議場にて開催された。「グローバル化と人権・教科書」をサブテーマにしたこの会議には、中国から16名、韓国から37名の代表団が参加し、日本からの参加者を含め3日で延べ900名が集った。
荒井信一氏(茨城大学名誉教授・日本の戦争責任資料センター代表)は記念講演で「戦争の危機、国家の役割の変化、グローバル化で人の移動が激しくなるなど流動化する社会のなかで、人権、ジェンダーを含むアイデンティティの模索は歴史認識の問題と深く関わり、必然、重要な課題になってきた」と述べた。
各国の報告はこの視点を共有し、歴史認識は民族・国家・ナショナリズム・ジェンダーを超えることが必要だとの議論が様々な語り口で述べられ、歴史認識を巡る議論は新しい一歩を踏み出したといえる。
例えば韓国の成均館大学教授徐仲錫氏の、「北朝鮮の日本人拉致事件に対する日本の世論と歴史認識」の報告もその一つだった。徐氏は「日本人の間では日本人拉致事件のみを強調する雰囲気があった」が、「ここには受けた被害ばかりを強調する特異な歴史観が潜んでいる」と指摘。その上で「北朝鮮と日本が東アジアで最後の敵対関係を終息させることは、東アジアにおいて和解と協力の関係を築くのに必須であり、それは東アジア住民の間に『悔い改めと和解』をもたらすことに有意義な磁石になり、北朝鮮が自ら変化する上で大いに貢献するだろう」と述べた。
また、中国の劉燕軍氏(侵華日軍南京大屠殺遇難同胞祈念館館員)の報告(「南京大虐殺の南京市民生活に対する影響」)は、従来の南京大虐殺の「否定論」を巡る議論の上塗りではなく、大虐殺が市民に与えた心理的影響、PTSDの根深さに注目した、新しい中国の過去への志向を思わせるものだった。
更に、韓国と日本の間の過去の清算のあり方に注目した金漢宗氏(韓国教員大学校教授)は、「過去史の克服と和解という問題は、必然的に望ましい新日・韓関係の模索へと繋がっていくが、韓国の現代史教育では韓国と日本の『過去史』問題を意味あるものとして扱ってこなかった。そのため過去史の清算に基づく新しい日・韓関係の模索も見えてこない」「韓国の近現代史の教科書もベトナム戦争の問題を、反戦や平和のための模索までは展開させていない」と指摘した。
「受難」教育の改善と「追悼」の政治的意味
第一回フォーラムで残された課題は、歴史認識を巡る議論にジェンダーの視点をきちんと組み込むということだった。今回は「教科書とジェンダー」のセッションが設けられ、大きな反響を呼んだ。日本側報告者は歴史教科書に留まらず公民教科書、家庭科教科書の分析・検討を行い、米田佐代子さんが昨今勢いを増しているフェミニズムや男女共同参画への攻撃、凄まじいバックラッシュの現況を報告した。韓国からは梁美康さん(日本の教科書を正す運動本部常任共同運営委員長)が報告に立ち、自国の歴史教科書における日本軍「慰安婦」問題の記述内容と韓国史教育の現況を分析・検討した。韓国でこのような動きが出てきたのは日本の「慰安婦」記述削除問題がきっかけであったという。
梁さんは「韓国の教科書の体制が政治史、民族史中心の枠を維持しているので、女性はほとんど現れてこない問題がある」と語り、「慰安婦」問題を「民族受難の歴史面ばかりからアプローチすることは、この問題の本質を単純化しすぎる恐れがある」と指摘し、「過度に民族的感情をかき立てる用語」についても批判を加えた。
教育実践では、生徒たちの中に「知れば知るほど日本人が憎くなり、ハルモニがかわいそう」といった反応がみられ、「慰安婦問題を通して日韓関係を改善しようと考えた教師の意思とはうらはらに、現状から一歩も踏み出すことができず、もどかしかった」という教師の実践例も報告された。
今後の課題は、教科書の記述をジェンダーの観点から正確に記述すること、生徒にバランスのとれた視覚を持つようにさせることだと言い、「むやみな反日感情に傾かないようにすることが必要だ」と述べた。
一方、小泉首相の靖国神社参拝問題は、参加者の大きな関心であった。高橋哲哉氏(東大助教授)の「靖国問題の諸相」と題する発言はパターン化している靖国問題の議論に新風を吹き込む発言だった。
靖国問題はA級戦犯が合祀されているから問題であるというのは、それ以外は問題にしないということであり、この立場は戦後、中国政府が「少数の日本軍国主義者」と「一般の日本人」を区別し、中国侵略戦争の責任は前者にあり後者にないとする戦争責任論と合致するものだが、日本側にとってはA級戦犯に戦争責任を押し付け、「天皇の神社・靖国」を不問に伏す政治決着にもなりかねないと指摘。政教分離問題、「合祀是絶止」の正当性について論じ、「国民国家という宗教を超えられるか」を論じた。また、新たな国立追悼施設を作ることは死者を国家へと再び囲い込むことになりかねないという指摘はオルタナティブな議論の提起であった。
フォーラムは第三回をソウルで開くことが予定されているが、今後は三国に留まらず東アジア各地域の人々の参加を模索していく。また、共通歴史副教材作りも三カ国で進められており、次回フォーラムでの報告が期待される。
(※この報告は『アジアネットニュースno.4』(2003年6月15日)に掲載したものです。)
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