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VAWW-NET JAPANの国連女性差別撤廃委員会「カウンターレポート」 教科書の「慰安婦」記述問題など最近の教育・教科書をめぐる状況について
日本の歴史教科書は、1950年代半ばから80年代半ばまで、戦争の事実、特に日本の侵略戦争や加害の事実が正しく記述されてこなかった。これは、政府・文部科学省(文部省)による教科書検定によって、これらの記述が削除や修正を強制されてきたためである。しかし、80年代半ばから、日本の歴史教科書は改善されるようになってきた。これは、32年間(1965年〜1997年)の家永教科書裁判のたたかいと、80年代初頭からはじまった日本政府の教科書検定による歴史歪曲に対する国際批判によって、政府・文部省が歴史を歪曲するような教科書検定ができなくなったためである。
こうして、例えば、南京大虐殺についていえば、中学校歴史教科書では1984年度版の全(8社8種)て、高校日本史教科書では1985年度版の全て(8社10種)のはからである。小学校社会科(歴史)教科書では1992年度版の全て(8社8種)に記述されるようになった。
こうした歴史教科書の改善は、政府・文部省によるものではなく、教科書の執筆者・編集者・教科書出版社の努力によるものである。
こうした教科書の改善は90年代になっていっそう促進された。その要因は、日本の侵略戦争記述を主要な争点とした家永教科書裁判第3次訴訟の運動(84年〜97年)、80年代末からの研究者・教師・市民運動のアジアとの交流の活発化、90年代になってから次々に提訴された戦後補償裁判、それらと深く関係した歴史研究の発展などを教科書記述に反映させようとする機運の高まりによる。
こうした経過の中で、94年度版の高校日本史教科書10社20種中9社19種に日本軍「慰安婦」の記述がはじめて登場した。1986年度にはじめて検定に合格した右翼組織の日本を守る国民会議(現・日本会議)が発行した、歴史を歪曲する教科書『新編日本史』の改訂版である『最新日本史』には日本軍「慰安婦」の記述はない(これは2003年版も同様である)。日本軍「慰安婦」の記述は、日本史以外の世界史、現代社会、倫社、地理、政治経済などの教科書にもかなり記述されている。次いで、97年版の中学校歴史教科書(7社7種)すべてに「慰安婦」が記述されるようになった。
他方、こうした侵略戦争記述の改善、とりわけ「慰安婦」記述の登場に対する逆流も90年代半ばから強まってきた。これを主導したのは自民党である。自民党は、1993年〜95年に主要な幹部を委員に任命して歴史検討委員会を設置し、「大東亜戦争」(アジア太平洋戦争)の総括を行った。そこでの結論は次の4点に要約できる。
(1)大東亜戦争はアジア解放戦争であり侵略戦争ではない。日本の戦争は正しかった。(2)「慰安婦」や南京大虐殺などの加害はデッチ上げで事実ではない。日本は戦争犯罪など犯していない。(3)教科書の侵略戦争・加害記述を削除させるたたかい(教科書偏向攻撃)が必要である。(4)前記(1)、(2)のような歴史認識を国民に定着させるために、学者を使って歴史修正の国民運動を展開する。
この自民党の提起を受けて、96年夏から教科書の侵略戦争・「慰安婦」・南京大虐殺などの記述を「自虐史観」「偏向」と攻撃して、教科書から削除を求める運動がはじまった。この運動は、地方自治体議会での意見書採択、一部マスコミを使ったプロパガンダとして展開され、右翼は教科書出版社や執筆者を脅迫した。こうした「国民運動」の中で97年1月に新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)が結成され、歴史を歪曲し戦争を肯定する中学校歴史・公民教科書を発行し、文部科学省の検定に合格した。これに呼応して、「つくる会」と連携し支援するために、97年2月、自民党内に「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」という議員連盟が結成された。この議員連盟の中心議員は今日、安部晋三官房副長官をはじめ政府の中枢に入っている。
98年6月、町村信孝文部大臣は国会で、「教科書は偏向している。検定提出前に出版社に是正させるよう検討する。また採択を通じて是正することも検討する」と答弁した。これを受けて、99年1月、文部省幹部が中学校歴史教科書出版社の経営者に対して、内容の是正と著者の見直しを要請した。さらに、中学校教科書は2000年4月から検定が行われたが、検定申請図書を編集中の99年12月、内閣官房から中学歴史教科書出版社の社長宛に「慰安婦の記述は慎重に扱うよう」電話があった。こうした政府の圧力によって、これまで「慰安婦」を記述していた7社の教科書の内、4社が完全に「慰安婦」記述を無くしてしまった。「慰安婦」記述を残した3社の場合、それまでよりもさらに正確に、「朝鮮などアジアの各地で若い女性が強制的に集められ、日本兵の慰安婦として戦場に送られました」と記述したのは1社(日本書籍)のみである。他の2社は「戦地の非人道的な慰安施設には、日本人だけでなく、朝鮮や台湾などの女性もいた」(清水書院)、「戦時中、慰安施設へ送られた女性や、旧日本軍人として徴兵された韓国・台湾の男性などの補償問題が裁判の場に…」(帝国書院)と「慰安婦」という言葉をなくした。「慰安婦」を削除した4社の内1社は、「多くの朝鮮人女性なども戦場に送り出された」と「慰安婦」をにおわせる記述をしていたが、検定によって、「戦場」を「工場」に修正させられた(教育出版)。なお、日本書籍の歴史教科書は、「つくる会」などから激しく攻撃され、2001年の採択で半減し、2004年度までで廃刊に追い込まれることになった。
2002年度の検定に合格した高校日本史教科書のなかにも、これまで記述していた「慰安婦」をなくしたものが出てきている。このように、政府・自民党の圧力や「つくる会」など右翼勢力の攻撃によって、日本の侵略戦争・加害の記述、特に「慰安婦」記述が削除・改悪されるという問題が起こっている。
日本政府・文科省は、教育における憲法である教育基本法を改悪し、「国を愛する心」や「日本人としての自覚」など国家主義的な理念を盛り込もうとしている。これは、「個人の尊厳」「人格の完成」をめさす教育から、「愛国心」や「日本人のとしての自覚」をもった「たくましい日本人」の育成、国家戦略に基づく国策・国益を最優先した教育に転換するねらいである。また、子どもの心を国家が管理・統制し、「国を愛する心情」を培うために、法的な手続きを経ることなく、国定の道徳副読本(事実上の国定教科書)『心のノート』を作成し、2002年4月から全ての小・中学生(1200万人)に配布し、その使用を強制している。さらに、日本の11府県28市町172の小学校で「愛国心」や「日本人としての自覚」を3段階で評価する通知表が使われている。政府は、国家に対する忠誠心を培うために、かつて日本の侵略戦争のシンボルだった「日の丸」「君が代」を国旗・国歌とする法律を制定して、憲法が保障する「精神の自由」を侵害して、子どもや教師、市民にこれを強制している。
右翼や国会議員による攻撃は歴史教科書だけではなく、最近では、家庭科教科書のジェンダーフリーなどの記述に対しても、「日本の伝統的な家族(制度)を崩壊させる」などという攻撃がなされている。
政府は、有事法制(戦争法制)の制定をめざしているが、これと一体のものとして、前述した教科書問題や教育基本法改悪をはじめとした様々な問題が起こっている。歴史教科書を攻撃し、歴史を歪曲する「つくる会」などの教科書によって、子どもや市民の歴史認識を歪め、「日本の戦争は正しかった。『慰安婦』などは事実ではない」という歴史認識を定着させ、さらに、教育の場で愛国心など偏狭なナショナリズム、国家への忠誠心を植え付けようとしているのは、「戦争をする国」の国民をつくりあげるためである。
俵 義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長)
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