沖縄県自然保護課に対する回答
平成16年1月10日
山里 清
辺野古沖地質調査等に対する意見要約
1. 辺野古沖サンゴ礁埋め立て計画は、サンゴ礁の本体(=心臓)を埋め立てる計画であり、サンゴ礁は消滅することになるので、中止すべきである。

2. 上記理由により、環境影響評価も、地質調査等も不要となる。

3. 地質調査等についてみると、計画地のサンゴ礁は、本来のサンゴの密生地であり、現時点では、サンゴは死滅しているが、埋め立て、ボーリング等による撹乱がなければ復活、再生するものであるので、埋め立て、ボーリング調査は避けるべきである。


1. 地質調査等に対する意見の前に
 普天問代替基地埋め立て予定地に対する意見
 同予定地は、辺野古地先のサンゴ礁の本体を、184ヘクタールに渡つて埋め立てて立地する予定のようであるが、この計画に対する環境影響評価をしようとすることは、ちょうど人間の心臓を刺してその影響を評価しようとするようなもので、サンゴ礁も人間も死んでしまうことはわかりきったことであるので、どちらの影響評価も意味のないものであるので、止めたほうが良い。なお、埋め立て予定地の面積は、沖縄海岸国定公園内の沖縄島における海中公園地区(恩納村・名護市)の140ヘクタールにくらべると、いかに大きいものであるかということがわかる。

 環境影響評価を止めるということは、サンゴ礁の埋め立てそのものを止めることを前提としてのことである。沖縄県内では、過去に多くの海岸域を埋め立てて土地を造成してきた。しかしこれまでの埋め立ては、サンゴ礁の後背地、いわゆるイノウの埋め立であり、サンゴ確の本体は残り、サンゴ礁としての機能が完全に失われるような埋め立ではなかった。しかし今回の埋め立て計画は、サンゴ礁の本体を埋め立てようというのであるから、サンゴ礁を完全に消滅させようという計画になっているからである。

 サンゴ礁の地形は、場所によりいろいろ異なるが、普通には、海岸に連なって礁池(イノウ)があり、その先に岩礁性の本体(礁環)がある(参照, 図1の1,3の外礁を本体また礁環、礁湖を礁池と読み替える)。ここは、サンゴ礁のうちで最もサンゴが密に分布し、サンゴ礁が活発に作られるところである。サンゴ礁の中では最も重要なところである。

(1)サンゴ礁の構造と生物の帯状分布
 礁環(サンゴ礁の本体)は、大まかに言えば、礁池より高くて、干潮時に干上がる礁原があり、その海側が礁縁と呼ばれ、更に海側こ向かって、傾斜する礁斜面が続く。礁縁から礁斜面にかけては、くしの歯状に沖に向けて突出する、縁脚が並び、縁脚と縁脚の間には巾1メートルくらいの溝(縁溝)がはさまれる。サンゴ礁の本体(礁原から礁縁を経て礁斜面にかけて)は、地形が複雑で、サンゴも、サンゴ以外の動物や海藻・草も多くの種類が生育する。そのうえ、ここは、サンゴ礁が、沖合いに向けて成長していくところでもあるので、サンゴ礁では最も重要なところである。

 造礁サンゴは、礁原から礁縁、礁斜面に密に生育するが、浅い礁原から礁縁には、テーブルサンゴの頑強なサンゴが多く生育し、礁斜面にはエダミドリイシなどの樹枝状のサンゴが多く生育する。礁斜面の深いところには、盤状の繊細なサンゴが多くなる。礁原の陸側は少し低くなり、ここにもエダミドリイシ、エダコモンサンゴ、エダハマサンゴなど樹枝状サンゴが生育する。巾の狭いタイプのサンゴ礁では、このまま海岸の岩礁に連なる(図1の7と8)が、巾が広くてイノウ(礁池)が発達する場合には、礁原に近い部分にサンゴが成育し、岸側には砂礫底、砂浜が続き、海草帯が形成される(図1の1と3)。辺野古沖の場合には、ここがジュゴンの餌場となつているのである。礁池には、小型の岩礁(離礁)が飛びとびに分布することがあり、それらにサンゴや海藻が生育する。

 このように、サンゴ礁は、岸から外海に向けて、地形的にも、サンゴその他の生物の分布の点でも、一定の構造(帯状構造という)をもつ。

(2)サンゴ礁:最も生物多様性の高い生態系
 サンゴ礁には、サンゴだけでなく、多くの動物や植物が生育する。非常にたくさんの種類の生物が生息するので、サンゴ礁は、熱帯雨林などと同様に生物多様性の高い生態系だといわれる。生物多様性には種多様性や生息場所(ハビタート)の多様性も含まれる。多くの種が分布しているが、それは生息場所が多様であることによって支えられている。サンゴ礁は、石灰岩によってできているが、石灰岩は岩石としては柔らかいし、酸に容易に溶かされるので、多孔質である。生物の物理的な働きと化学的な働きによつて、無数の穴があき、その中に多くの動物がすんでいる。

 他方、造礁サンゴは石灰質の骨格を持っているので、硬く、形がいろいろと複雑であるので、ちょうど森林の植物のように、枝の間にいろいろな動物が生息する。サンゴが死滅すると、サンゴだけでなく、それを生息場所とする動物にも影響を及ぼし、種多様性が減少してしまう。サンゴが死滅すると、有機物の生産がなくなるので、まずそれを摂食の場とする動物が去る。サンゴは死減すると、骨格が海藻に覆われたり、穿孔動物に穴をあけられたりして弱り、ついには崩壊して、最終的には、砂礫と化してしまい、それを隠れ家とする動物も去つてしまう。サンゴが死滅すると、生活場所も減少し、そこに住む動植物も減少することになるのである。

 現在は、埋め立て予定地のサンゴ雅のサンゴは死滅してしいる。しかし、サンゴ礁を撹乱したり、埋め立てたりしなければ、サンゴ群集は復活、再生するものである。復活、再生は、条件によって早いこともあれば、遅いこともある。だから、サンゴが死滅したから埋め立てても差し支えないというわけには行かないのである。

 以上の記述で、サンゴ礁のいわゆる本体(礁原から礁斜面にかけて)の重要性が理解できたと思う。人間でいえば、心臓にあたるところで、そこを埋め立てるということは、心臓を刺すことであり、サンゴ礁を殺すことになるのである。

 本体が重要であることを強調したからといつて、それ以外の場所は大切ではないと言つているのではない。サンゴ礁は、そのすべての部分が有機的に連携しあつてネットワークをつくっている。そのどの部分がかけても、本来の機能を十分に果たすこはできない。サンゴ礁の礁原の部分が適当な高さの堤防になつて、礁池に及ぼす波浪の働きを調節して、イノウ特有の動物、海藻、海草の生育を可能にしている。これが埋め立てられたり、破壊されると海草の生育も撹乱されることになる。


2 地質調査等のための潜水調査の結果について
 潜水調査報告によると、調査点の1ー1から1ー16、2−1までは、礁池(イノー)の砂地であり、3ー12、4−1,4−3から4−13は、礁斜面下の砂地の斜面である。それ以外の調査点のおかれているところが、ここでいうサンゴ礁本体である。写真で判断すると、サンゴ礁本体のうち礁原の一部(2ー11、2−12,2−13)は、波蝕面で、本来サンゴが生育しない部分と思われるが、それ以外の部分は、もともとサンゴが群生していたところで、最近になつて、おそらくオニヒトデ食害や白化により死亡したところと思われる。死サンゴに混じって、生サンゴも分布しているようであるので、サンゴ礁の撹乱がなければ、そのうちにサンゴ群集が復活することが予想される。もし、自然に復活するのに時間がかかるならば、そして早く復活させたいと望むならば、人為的に復活させることも可能であるので、早く復活させることもできる。だから、サンゴが死滅しているのだから、埋め立ててよいということにはならない。ボーリング調査には、多額の経費がかかると思われるが、その経費をサンゴ群集の復活やそのための調査に当てれば、環境の破壊ではなく、環境の再生に役立つことになる。

3. 地質調査等の計画について
 サンゴ礁の埋め立てを止めると、環境影響評価も必要なくなるので、地質調査等も必要なくなる。しかし、せっかく意見を求められているので、全く意見を述べないわけにもいかない。現段階で、予想される影響について述べておく。

(1)岩礁池におけるボーリング
 計画によると、サンゴが死滅しているので、計画通りにボーリング調査を進めても差し支えないないとの意見があるが、サンゴ群集はサンゴ礁を撹乱しなければ再生することは間違いないので、撹乱は避けなければならない。ボーリングのやぐらを設置し、ボーリング作業を行なうと、ボーリングの穴を中心に相当な面積の部分が撹乱されると思われるので、サンゴの再生を妨げる可能性がある。ボーリングのやぐらを、一発で予定地に設置し、さんご礁の表面に全く触れずに作業を行なうことができれば、撹乱はやぐらの設置面だけですむかもしれないが、そういう限定された作業ですむことはないと思われる。また、干潮時に、干出する礁原を踏み荒らしても、サンゴが死滅しているので、サンゴを踏み潰す心配はないからと、やぐら設置やボーリングエ事のために礁原を踏み荒らすと、死サンゴ体を破壊し、次代のサンゴの着底を妨げ、サンゴ群集の再生の妨げになると考えられる。

(2)砂地、砂礫地におけるボーリング
 礁池(イノウ)や、礁斜面下の砂地、砂礫地には、樹枝状サンゴやハマサンゴ、海藻、藻類が生育する。予備調査によると、ボーリング予定地には、サンゴは分布していないようだが、何らかの原因によりサンゴが死滅してしまったところであるのかもしれない。写真だけでは判断できない。海草の分布帯はないようであるが、ホンダワラなどの海草は分布しており、それを捕食する魚類や底生動物は分布すると思われる。底質中には、普通は、二枚貝その他の埋在性動物が生息するので、ボーリング作業により、これらの動植物群集が撹乱されることは十分に予測される。危害がないとか少ないとは必ずしもいえない。

 ボーリング予定地には、海草が分布していなくても、礁池の陸地側には海藻帯が分布し、ジュゴンの餌場となっていると思われるので、ボーリング作業により、ジュゴンの生活は撹乱されることになると予想される。しかも、作業期間は半年の長期にわたるようであるので、なおさらである。