2004/1/9
那覇防衛施設局(平成15年11月)の「地質調査及び海象調査のための潜水調査(事前踏査)結果について

元沖縄県海洋深層水研究所所長 
当真 武        

 海産植物からみた所感
 まず、本報告書は、全体的に粗い感じを受け、生物に詳しいスタッフが欠如した内容という印象を受けている。理由としては、対象海域の沿岸域(岸から200〜250m)は確かに常時濁っている傾向にあるが、目を海底に近づければ対象生物の識別は可能である。それを不鮮明な多量の写真の羅列は、踏査したという実績づくりのつもりならそれでもよいであろうが、第3者に納得させ得る科学的根拠資料とはなりにくい。そのような場所は写真に換えて、たとえは枠内を図示(スケッチ等)で表示した方がよいのではないだろうか。不鮮明な写真の羅列は調査の簡略化の印象を与えている。

 次に、踏査を動植物に詳しくない調査員が実施したとした理由としては、褐藻のフトモズクは沖縄島には生育していないが、驚いたことに同報告書にそれが繰り返し出てくる。これは明らかにオキナワモズクの間違いであろう。さらに分類が比較的容易な種類であるアミジグサ類が科のレベルで表示されている(同様なことは造礁サンゴ類の面からもいえると思う)。海域の生物環境評価には、小型藻類の有無が重要であるが、調査条件に小型藻類は含まれないという断りを挿入して、被度0と表示した個所があまりにも多く、これでは、対象域の生育環境や生産力の過小評価につながるおそれがある。この方法では生育量や種類数が出てこない。海藻類の被度についていえば、それは時間的経過で生長するので(季節的変化)、被度は大きく変動することは容易に理解できることである。ただし、小型藻類には周年マット状に生育する種もあるが、その多くは季節的消長をしめすので、海藻類を調査することで、それらと礁池(イノー)の地形的特長との関係、さらに生育環境との関係が捉えるのに優れた指標になりやすい。なぜならば、植物はいったん根をおろすと動かないことから、その組成はその位置の環境特性を表現することが多いからである。

 同海域の今後の評価について少し言及しておきたい。海産植物の中で、季節的消長の変化がほとんどない海草類に加えて、海藻類のホンダワラ類(藻場)についても注目する必要があると思う。事前踏査報告書の中で、礁原域に無数のホンダワラ幼体の写真を表示してあるが、そこは広大なホングワラ藻場が形成される場所である。繁茂する時期は8〜9月で高さが70cm〜1m以上になる大型種である。この種類は国頭村安田から知念村久高島までの礁原に生育する種類と同じである。ただし、3・4年に一度藻場、視野から消える(形成されない)年があるが、その後、次第に回復してくることを認めている。したがって、今後、同海域の評価には注意が必要である。なお、1990年前半の私の調査では岸辺のホンダワラ類と礁原付近では繁茂期も種類も違つていたが、そのような現象はおそらく現在も同じであろう。

 以上述べた理由から、このような状態で踏査した資料で環境を評価するには、実施期間が平成15年6月から平成15年7月4日までの1回では少なぃのではないだろうか。ところで「地質調査及び海象調査」が実施される時期を、現時点では私は分かっていないが、これで踏査が終了とするならば実施された事前調査時期は「地質調査及び海象調査」が実施される時期に限定しているであるだろうか。少なくともそのような配慮が必要であろう。
以上

追記
 ジェゴンについて、参考になるかどうかはわりませんが記述しておきます。
 昭和20年〜25年ごろまで大きなジュゴンが恩納村山田(現在ホテル裏)に生息していた。それは、日中、礁池の水深3〜4mの深みで待機し微動だにしないことから、それをジュゴンであると気づいたのはかなり後になってからになってということを、聞き取り調査で得ている(2002年)。そのことは、本来、ジュゴンは海草藻場が静穏な環境なら礁池に住みつく動物であろうと想定できる。したがって、ジュゴンの生息場所が制限されていることは騒音に対しかなり敏感に反応し行動する動物であろうとする一つの根拠になる。