平成16年1月12日  
沖縄県文化環境自然保護課御中

 鳥羽水族館では27年前からジュゴンの飼育研究を続けています。御依頼の那覇防衛施設局の作業計画、ジュゴンに関する「専門家からの助言内容」についての意見は飼育下のジュゴン、そして海外でのジュゴン生息域での調査等から得られた知見をもとに述べさせていただきます。

1 調査地点の位置等の決定
 ボーリング用足場、海象機器の設置に聞する内容については、形状、設置期間等から海草藻場への大きな影響はないと考えます。またこれらの設置でジュゴンが寄って来なくなるということもないと思います。部分的に海草が損傷を受けた場合でも環境が適合していれば比較的早く再生します。鳥羽水族館では10年近く、野生のジュゴンが餌としている海草を展示のために育てていますが、生長して殖えていく速度は温帯性の海草であるアマモよりも早いといえます。しかし海草藻場は陸側の環境、海の構築物による潮流の変化などの影響で短期間に衰退することがあります。そのためこの調査による影響というだけでなくもっと広い範疇で考えていく必要があると思います。フィリピンでの調査時に陸の環境変化の影響で海域が富栄業化し、海草藻場が衰退した例を確認したことがあります。

2 作業時間帯
 ジュゴンが行動する時間帯はこの内容に書かれているように決まつているものではありません。私たちの調査では夜、朝方、日中等全ての時間帯での摂餌行動が確認されています。古い文献にはジュゴシは夜行性であるという記述がありそのように信じられていたようです。夜間にも摂餌行動がみられますが飼育下、自然海での観察からジュゴンが夜行性、とくに夜にだけ餌を食べるということはありません。飼育下では環境の影響もあると思われますが夜間は日中に比べるとよく眠っているのが観察されています。沖縄ではジュゴンの観察例が少ないためこのような意見になるものと思われますが、その海域がジュゴンの重要な餌場であれば作業を日中に行ってもジュゴンにあまり影響のない作業であれば摂餌に来ることもあると思います。来ない場合は夜間、朝方に来ることが考えられます。そのため作業時間帯を何時にするかという議論は必要のないことで日中の作業で構わないと思います。しかし、このようにジュゴンや自然環境に配慮して対処するという心構えはたいへん重要なことと考えます。
 
3 ボーリジグ足場、海象割査機器の設置位置等
 この内容に関しては十分な配慮がなされており問題はないと思います。

4 調査実施手順
 この内容に関しても問題はないと思います。

5 標識灯
 標識として使用される表示灯、浮標所については問題ないと思います。鳥羽水族館で行った調査で同様の器具をジュゴンがよく来る海草藻場に設置したことがありますが、そのことによる影響は認められず海草を食べに来るジュゴンを確認しています。

6 作業者等
 作業音についてはとくに注意を払う必要があります。ジュゴンは音の種類、その時の状況によつて非常に驚くことがあります。しかし、オーストラリアでは港で船の発着場所にジュゴンが泳いそいるのと、舷の下から浮上するジュゴンに遭遇したことがあります。またフィリピンでも村の前の海に海草藻場が広がつており、ジュゴンがよくみられる海域がありますがそこは船の多い騒がしい場所です。そこはマツバウミジグサなど軟らかい種類の海草が多いので仔連れのジュゴンもよくやって来ます。しかし、これもフィリピンの例ですが、行くと必ずジュゴンをみることの出来る海域があります。そこは周辺に村落がなく静かな環境で生活排水の影響を受けないこともあり、状態のよい海草藻場が形成されています。ジュゴンに限らず野生動物が生息する環境は、人の活動の影響を受けないことが理想ですが非常に難しいことです。これまでの調査で様々な状況下でジュゴンを確認しています。そのためジュゴンはある程度の異状には慣れるものと思っています。これらのことから、この調査における作業音についてはジュゴンの生息を脅かしたり、寄り付かなくなったりするものではないと考えています。
以上 
 
鳥羽水族館飼育研究部 浅野四郎 

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