[劣化ウラン研究会]寄稿:山崎八九生 2001.4.8


劣化ウラン弾概説

〔劣化ウランとは〕
 天然ウラン中に僅か0.7%しか含まれていない核分裂反応するウラン235(残りの99.3%は、通常では核分裂反応を起さないウラン238が殆どを占める)の濃度を高めた濃縮ウラン(ウラン235の濃度が2〜4%のウランが軽水炉型原発の核燃料、90%以上がウラン型原爆の素材になる)を作る際に生じる、言わば絞り滓のウランが劣化ウランと言われるもので、成分的には事実上ウラン238である。
 尚、文献によっては、「劣化ウラン」と表記すべきところを「減損ウラン」と誤記、あるいは「劣化(減損)ウラン」と併記してあるのを時折見掛ける。減損ウランはウラン235の濃度が低下した使用済み核燃料のウランを指し、ウラン235の含有率は0.8%程。一方、劣化ウランの場合は0.2%程で当然ながら天然ウランよりも低い。ただ、日本の法律では、この両者を生成過程ではなく、ウラン235の濃度で区別している。このような不正確な表記が生じた原因として、劣化、減損ウラン共に、英語ではdepleted uranium(DU)と称されているため、訳語の区別をよく理解せずに、混同して使ったためと考えられる。

〔劣化ウラン弾とは〕
 この劣化ウランに少量のモリブデンとチタニウムを混ぜて、高温を発するマグネシウムで焼き固めると金属状に変化する。これを主に戦車の装甲を貫通させる徹甲弾の弾芯に用いたものが劣化ウラン弾である。
 戦車の装甲を貫通させる砲弾には、剛性と質量の大きい(=硬くて重い)物質をできるだけ高速で衝突させる運動エネルギー弾と、バズーカ砲の様に炸薬の爆発エネルギーを利用した化学エネルギー弾(一部の文献に、爆発時に生じる高熱によって装甲を溶かすとの記述があるが、これは誤解である。あくまで集束された爆風の衝撃力でもってせんこう穿孔《穴を開けるの意》するのである)に大別されるが、劣化ウラン弾は前者に該当する。
 劣化ウランを用いた砲弾は、それまでのタングステンを素材にしたものと比べ、比重が大きい(=密度が高い)ため、貫通効果が1割程向上する。しかも、命中時の摩擦熱により、1100度以上になると発火するため、しょうい焼夷効果による乗員の殺傷や砲塔内の砲弾の誘爆が期待できる。その上、タングステン製よりも遥かに安い。
 そのため、米陸軍、海兵隊のM1A1戦車の120ミリ砲を始め、海兵隊のAV8Bハリアー攻撃機が沖縄の鳥島に誤射した25ミリ機関砲、湾岸戦争でイラク軍戦車の上面装甲を撃ち抜いて「活躍」した米空軍のA10対地攻撃機の30ミリ機関砲、米海軍の対艦ミサイル迎撃用の「ファランクス」20ミリ機関砲にも劣化ウラン弾が用いられている。
 しかし、劣化ウラン弾が配備され始めた頃から環境への放射能汚染の危険性が指摘されていた。そのため、劣化ウラン弾の使用に際しては、「ヨーロッパでの使用は許可しない」「実戦以外では使用しない」旨の注意書きがあるそうである。それが、無人の射爆場とは言え、わが国の沖縄の鳥島で使用された。

〔劣化ウラン弾の毒性〕
 先天性異常児の生まれる確率が非常に高いと言われる湾岸戦争症候群の原因として、神経ガスの予防剤(臭化ヒリドスチグミン)と殺虫剤(ディート)の混用で生じた化学反応の相乗効果も考えられているが、それよりも劣化ウラン弾微粉塵吸引による体内被曝が考えられている。
 鳥島に1520発撃ち込まれた、重さ215グラムの25ミリ機関砲弾には147グラムの劣化ウランが含まれているが、僅か192発が回収されただけで、残りは地中と周辺海域に放置されたままだ。
 金属状のウランが燃えると、微粒子状の八酸化三ウラン(U3O8)になるため、大気中のチリなどに付着して、放射能汚染がかなり広範囲に広がっていることも考えられる。
 ウランはアルファ線(注1)を出す半減期45億年の放射性元素であるが、化学的毒性も強く、吸引すると鉛毒と同様の症状を起すと言われている。
 環境にどのような影響があるのかについては、現段階でははっきりしたことは言えないが、劣化ウランによる直接の体内被曝は考えにくであろう。しかし、米側の「人または環境に対する危険はなかった」との報告は鵜呑みにはできない。周辺海域ので採れた魚貝類が生物濃縮されたウランにもし汚染されていて、それを摂取して間接的に体内被曝を生じたら致命的である。現に米国は湾岸戦争中に味方に誤射された戦車(注2)を「放射能廃棄物」として厳重保管していたという。
 原子力発電で生じる高レベル放射性廃棄物と同様、「使用された後のことを考えずに開発された兵器」と言えよう。
 米国は戦車用の120ミリ劣化ウラン砲弾は製造を中止している。しかし、イギリスとロシアは劣化ウラン弾の破壊力に魅了されたのか、その製造、販売に積極的だという。

(注1)アルファ線の正体はヘリウムの原子核で、陽子2個と中性子2個で構成されている。透過力は大気中で僅か数センチと極めて弱い。従って体外被曝の危険性は少ない。しかし、エネルギーは大きく(シーベルトで表される、人体への影響力は中性子線の2倍、ガンマ線の20倍とされている)、体内に吸収されて体内被曝を生じれば、数ミリ周囲の細胞の遺伝子が損傷され、発ガン性が極めて強い。

(注2)米陸軍のM1A1戦車は、砲塔の正面装甲に劣化ウランを組み込んでいる。

 この文章は、4年前の1997年4月に、武田邦太郎参議院議員(当時)の依頼により、「劣化ウラン弾事件と沖縄」のタイトルで武田平和研究所の会報誌に掲載された拙論の前半部分に若干の加筆、訂正を施したものです。劣化ウラン(弾)についての参考にでもなれば幸いに存じます。


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