[劣化ウラン研究会]寄稿:安倍陽子'99.9.5


「武器に滅びる国あれど、武器に栄える国はなし。」(岩波新書、82ページ)という言葉が阿波根昌鴻さんの闘いの記録、『米軍と農民』に出てきますが、まさに核軍拡のつけがアメリカの住人をじわじわと苦しめています。

核兵器実験のアトミックソルジャーや風下住民、ウラン鉱山の労働者、プルトニウム人体実験等は核軍拡競争による直接の国内被害者ですが、今度は汚染された金属や放射性物質の焼却によって苦しめられる状況が深刻化しています。

以下はいくつかのウェブサイトから集めた情報を織り交ぜ、部分的に訳したものです。《カッコ内は私が付け足しました。》

米国、エネルギー省(DOE)は 1998年の6月から10月にかけて、劣化ウラン ヘクサフローライド(hexa‐flouride) 管理計画に、 産業界の参入を推し進めるための説明会をメリーランド、オハイオ、ケンタッキー、テネシーの四州で開きました。

この計画の一番の目的は、余りすぎる劣化ウランを産業界が商業用に利用することで、管理、処分にかかる莫大な支出を防ぐところにあるようです。

ウランからプルトニウムを生産することが重要な国策でなくなった現在、工学関係者一般に劣化ウランについての適切な情報《長所のみ》を提供することで、《DOEにとって》有利な市場をつくりだそうというわけです。

担当者のひとり、スティブン・ベ−カー博士(StevenBaker,Ph.D.)は 「ウラン金属の強力な市場を築くことは、不必要な支出を回避し、様々な製品の値打ちを上げるという、人類にとって大変有益なことなのです。」などと説明しました。《ベ−カ−博士は、社会責任など考えていては飯は食えないという科学者のひとりでしょう。》
http://www.ead.anl.gov/~web/duf_mgmt/presentations/abstract.html

説明会の開かれた四州は軍需産業に深い関わりのある州です。ケンタッキー州での軍需工場については、労働者が工場を告訴するところまで発展しています。この訴訟とは、どういったものでしょうか。少し説明させていただきたいと思います。
http://ens.lycos.com/ens/aug99/1999L-08-30g.html

ケンタッキー州のパドウカ、気体拡散工場(the Paducah Gaseous Diffusion Plant in Paducah, Kentucky) は国のウラン濃縮工場のひとつで、以前はウラン塵から核兵器の原料を製造していましたが、現在では商業用原発のウランを供給しています。

またこの工場では1950年代より、核兵器から金を取り出す作業を行ってきました。解体される予定の核弾頭が夜間、厳重な警戒態勢でこの工場に運び込まれ、その後核弾頭のめっき張りや電気回路からはずされた金やその他の金属が、製錬過程を経て金の延べ棒などに姿を変えたのです。この件についてはつい最近 “ワシントンポスト”が報道したばかりです。

問題なのは、ここで働く人たちが、危険性について全く知らされておらず、強い放射線から身を守ることすらできなかったことです。製造された金の延べ棒は放射線を検査することなく市場に出回り、アルミ、ニッケルなどが検査されるようになったのも、随分経ってからでした。検査が開始されてからはあまりにも汚染がひどく、工場外に出すことは不可能な状態だったと言います。

1998年にはひとりの労働者が、延べ棒を造っていた古い型に残る放射線を帯びた金の薄片を発見しました。不安になった彼は工場に報告したのですが、工場関係者は何事もなかったかのように、彼の訴えを無視しました。放射能汚染の金やアルミ、ニッケルがどれほど市場に出回っているのか、誰にもわかりません。以上のようなことから、労働者たちは工場を告訴しているのです。

1980年代初頭、ニューヨーク州の衛生局が調べた160,000の宝石類のうち、170個が放射能汚染されていました。そして同じ時期、放射能汚染された指輪をしていた人々14名が、指に癌をわずらったり、指や手の一部を切断していたのです。

しかしこれは過去だけの出来事ではありません。今も原発や核兵器産業などから出される数百万ポンドあまりの放射能汚染金属が売却され、ナイフ、フォーク、ベルトのバックル、ジッパー、めがねの縁、歯のつめ物、避妊リングといった生活用品に形を変えてます。しかし一般消費者には何も知らされていないのです。
http://www.ens.lycos.com/ens/aug99/1999L-08-16g.html

テネシー州、オークリッジの国立研究所とイギリス核燃料会社(British Nuclear Fuels Ltd.)の米国子会社との新しい契約は、十万トン以上の汚染金属を加工し、市場に出すというものですが、これはDOE、エネルギー省が支援しています。

産業再生《つまり放射能汚染金属の商品化》を肯定する発言をしてきたゴア副大統領ですが、彼もこの契約を支持する可能性があります。契約の中にはオークリッジの核施設の浄化 《浄化という言葉も使う人によって意味が変わります。現に政府は放射能汚染浄化の財源を大幅にカットしています。》 も含まれています。《オークリッジ核汚染問題後述》

米国核調整委員会(The Nuclear Regulatory Commission)、エネルギー省(DOE) や金属産業界の代表は、低レベル汚染金属の商業利用を更に推し進めるため、放射能許容基準値を緩和するよう環境保護局(EPA)に働きかけています。

身の回りの冷蔵庫や家の柱、乳母車などにそういった汚染金属が使われているとしたら、被爆量は無視できるものではないでしょう。低レベル放射線を長期にわたってあび続けることは、高レベル放射線を短期間浴びるよりも危険であるという研究結果もあります。

人間を含めた生物の安全と健康、環境を守るのがEPAの本来の仕事ですが、「クリーン メタル計画」とやらをうちたて、産業界が放射能で汚染された金属を入手し易くする措置を考えているのです。

金属会社の中にはさらに莫大な量の汚染金属を合法的に生活用品として商品化するために、年間許容基準値10ミリレムを要求しているところもあります。

NRC自身、1990年の研究で、そのような基準値では一万人に4人が致命的な癌を患う可能性があるという報告しています。つまりアメリカだけで癌で死亡する人々が年間92,755人増えるわけです。《老朽化が激しい原発を抱える日本でも似たような状況が生まれつつあるのではないでしょうか。解体される原発の廃材を商業用としてリサイクルする法案が出ていたように思います。》

1993年から96年にかけて、放射能汚染された5.5百万ポンドもの鋼鉄スクラップが中国と台湾に輸出されました。中国に輸出された放射能汚染金属の中には一時間2000マイクロレム、自然界に存在する放射線の400倍に達するものもあるということですが、1998年1月の時点で、汚染金属を利用して建設されたアパートは1573に上ります。

台湾では、放射能汚染金属の大半はアメリカからの輸入ですが、旧ソ連からもかなりの量で輸出されています。こうしたアパートの住人がそういった事実を前もって知らされてきたわけはなく、近年癌や奇形、染色体異常などを患う人が目立ってきました。

テネシータイムスが、核軍拡競争の負の遺産に苦しむ地域や人々を1997年から調査報告していますが、この件に関しましては、また後日、投稿いたします。

資料インデックスページに戻る