【劣化ウラン研究会声明】

劣化ウラン兵器を使う米英軍は断じて許せません。湾岸戦争の悲劇を繰り返しているのです。イラク戦争即時停戦のためにあらゆる努力を行うよう求めます。

2003年3月31日 劣化ウラン研究会

〜イラク攻撃を即時中止し、米英は全軍撤退せよ〜
〜日本政府はイラク戦争への支持を即時撤回し停戦努力を行え〜
〜劣化ウランを含む広域破壊兵器を使う米国等はジュネーブ条約に違反〜

【イラク攻撃は不当】
「空襲が始まると、子どもたちは怖がって真っ暗闇の家の中を泣きながら逃げまどてるんだよ」
「家中のガラスは全部、かなり遠くに落ちた爆弾の振動や爆風で木っ端みじんになってるよ」
「爆弾の落ちた後には、いままで嗅いだことのない異様なにおいのする粉のような煙が、家中を覆って息するのも苦しいんだ」
「家の母や姉妹たちは、夜中泣き叫んでいるよ。聞こえるだろ、爆音も」
「お願い!私たちは逃げられないの!外の国からこの戦争を止めて!」
バグダッド市内に電話をすると、悲痛な叫びがかえってきます。

 3月20日に開始されたイラク空襲、日本のテレビでは、大統領宮殿付近の映像しか流れていませんでしたが、市民の住む地域もたいへんな被害を受けています。
 今度の湾岸戦争は「フセイン政権の転覆」を目標とするものです。
 あらゆる国際法規に照らしても、特定の国の政権を武力で打倒することが認められるはずもありません。そのむき出しの暴力は、イラクのフセイン政権が「大量破壊兵器を隠し持っていて、米国などに使う恐れがある」ことを口実にしています。また、アル・カーイダなどのテロ組織に大量破壊兵器を渡す危険性もあるといいます。
 ところが、98年まで国連査察団の責任者だった米国のスコット・リッター氏は、イラクが持っていたとされる生物化学兵器は95%以上が破壊され、残りの5%も「使用期限切れ」で使い物にはならないだろうと証言しています。
 アル・カーイダとの関係も、9.11事件の3日後にホワイトハウス内で行われた米国の安全保障会議の席上、ラムズフェルド国防長官が「イラク攻撃の機会が来た」と発言し、「アル・カーイダとイラクのフセイン政権との関係を徹底的に洗い出せ」と命じたにもかかわらず、それから1年半もたつのに、状況証拠一つ見つからない有様です。
 イラク攻撃と9.11事件の関係で言うのならば、むしろ9.11事件を契機に米国の指導層は、普通ならばできるはずもないイラクへの攻撃を「対テロ戦争」の名目で強行しようとしたのだと考えるのが常識です。初めから「イラク攻撃ありき」だったのです。
 実際に米軍は、1997年段階から、現在使われているバンカーバスターなどの「対強化目標兵器」の開発を本格化させています。主なターゲットはイラクの地下に作られていると言われる司令部施設や兵器貯蔵所だったとされています。
 タリバーンとアル・カーイダへの攻撃に最初に使われることになるこれらの兵器は、イラク戦争をにらんだ「新型兵器の実験場」にされたのです。
 イラクが主目標だった米国の軍事戦略は、国連安保理の場で抵抗に遭い、国際合意のない米英による「合同軍」の攻撃となりました。
 前回の湾岸戦争は、湾岸諸国も加わった「連合軍(日本はでなぜか多国籍軍と呼んでいますが)」を形成したし、ボスニア、ユーゴスラビアへの武力介入では「NATO軍」として出動したのですが、今回のイラク戦争では、とうとう英国以外はどこもついてこない結果となりました。
 91年湾岸戦争から今日に至る米国の中東、アジア戦略の向く先が、いかなる世界を出現させるかを目の当たりにした欧州諸国やアジア諸国は、9.11事件を経ているからこそ、戦争では何も解決しないばかりか、戦争こそが問題を破局に向かわせると、危機感を持って米国の軍事主義的単独行動を止めようとしました。
 しかし米国はイラク戦争に突入し、あろうことか日本もこれに支持表明をしました。

【子どもたちを殺すな】
 軍民合わせて20万人以上の犠牲者を出し、その後の経済制裁で150万とも160万とも言われる人々の命が奪われた湾岸戦争、戦争は実は、91年から今日までずっとイラクの地で続いていました。
 98年には「査察を妨害した」として、米英軍による爆撃が行われましたし、昨年一年間で主なものだけでも40回以上の爆撃が行われ、多くの市民が殺されました。
 ユニセフは、経済制裁が続いているために、イラクの5歳以下の子どもたち4人に一人は栄養失調にあると警告しています。
 91年以前のイラクの医療水準は「欧米並み」とWHOは評価していました。中東一の医療大国だったのですが、今では医薬品も制裁のために輸入できず、小児白血病の子どもたちは「医療が受けられないために」退院を余儀なくされるという現実です。
 バスラには子ども専用の墓地がありますが、毎日何人もの子どもたちが埋葬されていきます。
 イラク戦争で米英軍が包囲し、爆撃しているバスラは140万都市です。水道も電気も攻撃により使用不能となっているそうです。
 多くの子どもたちが、ただでさえ生命の危機に瀕している町を、米英軍は兵糧責めにし、空襲を繰り返しているのです。
 大量破壊兵器であろうとテロであろうと、この子どもたちにいったいどんな責任があるというのでしょうか。
 劣化ウランの影響は、子どもたちほど大きくなります。放射線感受性が成人よりもはるかに高い子どもたちは、大人の何十倍も放射性物質の被害を受けます。さらに劣化ウランの粉塵は、地表に近いほど高い濃度で存在します。大人よりも身長が低い子どもたちは、より高い濃度の劣化ウラン汚染空気を吸い込みます。相乗的に子どもたちに大きな被害が出ます。チェルノブイリ原発事故でも、大きな被害を受けたのは子どもたちでした。
 湾岸戦争後の小児白血病の発症率は、最大17倍にも達しています。しかも91年以前は治療薬も手に入りましたが、現在ではただベッドで死を待つだけです。残酷な戦争を始めた米英は、少なくてもすべての子どもたちの死に全責任があり、将来その責任を問われると肝に銘じるべきでしょう。
 「人道主義を強制することができる」と主張したのはユーゴスラビアのミロシェビッチ政権を打倒した米英、NATOでした。ならばイラクにおける非人道的行動について、米英は国際社会から相応の「制裁」が課されてしかるべきなのです。

【ペンタゴンの劣化ウラン説明はでたらめと脅迫】
 米国国防総省は、3月14日に突然劣化ウランに関する記者会見を開きました。この時期にこんな記者会見を開く理由は一つしかありません。
 イラク戦争に劣化ウランを使うため、事前にメディアに対して劣化ウランを使った際に「間違った報道をしないように」というつもりだったのでしょう。でたらめと脅迫に満ちた記者会見です。
 もっともすさまじい発言は、劣化ウラン弾がタングステンと比べていかに相手の戦車などを効率的に破壊するかを図を見せながら説明した後、「このような有効な兵器である劣化ウラン弾の廃絶を訴えるものは、イラクなど米国に反対する勢力の手先」とまで言い放ちました。「劣化ウラン兵器反対」を主張しただけで、テロリストにされかねない恐るべき発言です。
 さらに「劣化ウランは健康被害を起こさない」などととんでもない発言を繰り返していたのです。
 このときの説明が、どれだけ非科学的であるかの例をあげてみます。説明を行ったキルパトリックは「環境中には天然ウランも存在する」と、劣化ウランがとりわけ重大な環境汚染をしないかのような説明を行いました。しかし天然中のウランは希薄にしか存在しません。具体的にはppb単位、つまり10億分の一という濃度でしか存在しないのです。劣化ウランはまさしくウランの固まりですから、100%ウランでできています。この違いさえ分からない「専門家」というのは一体何なのでしょう。
 彼らが行っているとする「科学実験」にも大きな疑問があります。「15年間にわたり我々が米国内で行った実験では、土壌に残留している劣化ウランは地下水には移行しないことがわかっている」と言いました。ところが既にコソボ自治州で使われた劣化ウランから、地下水に汚染が広がっていることがUNEPの調査で明らかになっています。とっくに立証されているにもかかわらず、都合の良い部分だけはUNEPの調査を引用しているのに、こういった都合の悪い情報は全く無視しているのです。
 米国の劣化ウランについての研究、主張は、科学的にも全く見るべきものはなく、劣化ウラン兵器使用を正当化するためだけになされた、悪質な世論操作であることはこれだけ見ても明らかです。

【再びイラク攻撃は不当】
 米国などは「大量破壊兵器を開発している」との名目で、イラク攻撃を行おうとしています。しかしイラクが大量破壊兵器を開発している証拠は、明らかにされていません。まして、湾岸戦争から経済制裁に至る過程で、イラクはまさに「大量破壊」を受けています。イラクで今行われていることは、イラクが開発しているという大量破壊兵器でさえも足元にも及ばない規模の破壊と犠牲です。それを正当化するいかなる理由も存在しません。
 さらに、イラク攻撃の正当性は、戦後の資源支配という観点から見ても到底容認できるものではありません。
 既にイラクの石油資源をめぐり米国などの石油産業が動き出しています。米英軍はイラク戦争の緒戦でルメイラなどの油田を押さえました。
 さらに、信じられないことに、戦争がまだ始まってもいない段階から、イラク戦争の復興特需を、入札により募集し、チェイニー副大統領が最高経営責任者を務めていたハリバートンの系列会社が落札しています。この入札は、米国の大手軍需産業でなければ決して落札できない条件が付けられていたと、英国紙が非難しています。
 この戦争が何を狙って行われているのかがよく分かるエピソードではないでしょうか。しかも復興コストはイラクの石油を売却した金でまかなうというのです。それが「イラクの石油はイラク人のもの」というブッシュ大統領の発言の意味でした。
 考えるまでもないでしょう。91年湾岸戦争は「イラクによるクウェート侵略」が問われた戦争でしたから、イラクには賠償が課せられました。米国は湾岸諸国やドイツや日本から莫大な戦費を集金し、ほとんどそれでまかなったと言われています。
 つまり、巨大軍需産業に厖大な戦費が流れていったのです。
 今回のイラク戦争では、莫大な戦費を投じて、湾岸戦争時に破壊され、イラク自身が石油を売った金で復興した道路や鉄道やインフラを破壊しています。そして破壊の後にはイラクの石油を売却した金で、米国の巨大軍需産業がイラクにインフラを建設します。何が「イラク人の油田」でしょうか。売却代金は復興資金と称して米国に吸い上げられてしまうのです。しかも、インフラなどの建設費は軍需産業の側の言い値で作られるでしょう。際限なくイラクの石油は米国に流れていくでしょう。これは標準的に見ても「略奪」以外の何物でもない行為です。

【劣化ウラン使用の責任を問う】
 私たちは、イラク攻撃の即時停止と、戦争犯罪人の処罰を求めます。
 具体的には、戦争計画を立案し、実行に移し、そのために劣化ウラン兵器を開発し、使用し、さらにその影響を隠蔽し、情報を偽造したものたちです。
 ジョージ・W・ブッシュ、ドナルド・ラムズフェルド、ディック・チェイニーらは、その中でも重大な責任があります。
 戦争犯罪とは、無差別大量殺戮兵器の使用と民間人への無差別攻撃を禁じた、ジュネーブ条約に違反していることを指しています。
 日本政府には、このような戦争を始めた米国政府、英国政府への支持を直ちに取り消し両国政府に攻撃中止と犠牲者への補償を行うことを促すよう要求します。

 この声明に賛意をもたれた方は、是非、地方議会、国会、報道機関などに働きかけて下さい。
 この戦争は止められます。そして止めなければならないのです。

[以上]


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