【報告】

反劣化ウラン兵器国際会議

2000年11月4-5日英国マンチェスター市市議会ホール

 英国マンチェスター市が英国初の「反核自治体」を宣言してから20周年の今年、そのマンチェスター市の後援を受けて、「反劣化ウラン兵器国際会議」が、2日間にわたって市議会ホールで開催された(主催:Campaign Against Depleted Uranium)。市長の挨拶で始められた会議には、世界中から、科学者や退役兵、活動家など約200名が参加。劣化ウラン研究会からも、伊藤と田中が参加した。以下、会議の概要を報告する。

11月4日午前
 4日は、科学者や退役兵による基調報告。第一の報告者は自身も湾岸戦争退役兵であるダグ・ロッケ博士(米国)で、劣化ウラン兵器の説明、地上戦の危険性評価、彼のチームが湾岸戦争中にイラクとクウェートで行った汚染除去活動、そして1991年以降アメリカ政府がつき続けている嘘の証言について報告を行った。「湾岸戦争退役兵センター」のウェブサイトや、ユーゴスラビアの巡航ミサイルによる爆撃跡で劣化ウランを採取したというパトリシア・アクセルロッドの研究に言及しながら、A-10機用弾丸や戦車装甲への使用以外に、巡航ミサイルのバラストや操縦システムにも劣化ウランが利用されているとも話している。
 次は、ラカ財団のハンク・ヴァン・デ・クール(オランダ)で、世界中で保管されている劣化ウランの量や、湾岸戦争以前の、イスラエルのレバノン侵攻やフォークランド紛争などでの劣化ウラン弾使用疑惑について報告した。フォークランド紛争では、劣化ウラン弾を発射できるファランクス砲(米国製)を英海軍が使っていたという。公開情報から知り得る、世界中で行われたの劣化ウラン弾演習についても説明がなされた。
 その後、湾岸退役兵への影響についての報告に移ると、英退役兵のレイモンド・ブリストウが、車椅子から立ち上がって壇上に上り、彼や他の退役兵が劣化ウランに被曝した時の状況と現在の健康問題について語った。難聴、視神経の異常、頬や指先の麻痺、突然起こる無意識の体の動き、バランス感覚の喪失、下血、下痢、肝臓肥大、呼吸困難、動機、記憶障害など数え切れないほどの不可解な症状に悩まされており、毎日11種類23錠の薬を服用しているという。医療兵として地上戦に派遣されたブリストウは、おそらく被曝していたであろう負傷兵の看護や戦闘地域の移動によって自らも被曝したのではないかという。彼はつい最近、ヨーロッパ議会でも証言しており、ヨーロッパ内での劣化ウラン兵器使用禁止を目指して、この問題をヨーロッパ司法裁判所へ持ち込むようにヨーロッパ議会議員に対してロビー活動を行うことを促している。
 英国の湾岸退役兵アドバイザーであるマルコム・フーパー医化学名誉教授(英国)による報告は、退役兵の劣化ウラン毒性被害について、いくつかの原因を推測したものだった。残念ながらこれら原因として疑われるもののほとんどは、研究が進んでいないか、全く研究されていいないという。フーパー教授はまた、最近実証された、アルファ線によって一つの細胞が受けたダメージが、生体運動によって近辺の他の細胞にもダメージを引き起こし、損傷をひどくしているという研究結果の重要性を強調。現在の医学調査と退役兵が直面している現実との間にある、「見るな、見つけるな」と呼ばれる問題について言及した。体内アルファ被曝やさまざまな原因(劣化ウランや他の化学物質など)による複合的被害についての基礎的な研究の不在は、劣化ウランを使用した戦闘での本当の被害の的確な評価を不可能にしているのだ。
 劣化ウラン兵器の市民への影響については、バクダッド大学のフーダ・アマーシュ分子生物学教授(イラク)が、イラク政府による劣化ウラン被害調査について報告した。これは、1996年以降、200箇所から集められた土壌や水、空気、そして野生動物を調査したものである。さらに、アマーシュ教授は、ガン発生率の増加を表を用いて報告しながら、そのデータは国立病院のみの記録であり、私立病院の患者や病院に来ずに亡くなった人たちは含まれていないと説明した。また、劣化ウラン弾が集中して使われたバスラ地方は、湾岸戦争以降のイラクでのガン発生増加率の3分の2を占めているという。しかし、劣化ウラン以外の化学汚染問題もイラクには混在しており、それが経済制裁によって悪化させられているということだった。
 続いて、ユーゴスラビアから、スネザナ・パブロヴィックと他2人が自国の劣化ウラン汚染について話した。ユーゴスラビア政府の調査によれば、NATOが認めた地域の2分の3以上の場所で、劣化ウラン弾使用の痕跡があったという。

11月4日午後
 昼食を挟んで、劣化ウラン被曝についての科学的な説明に入った。ロザリー・バーテル博士(カナダ)は、ウラン粒子を吸入した場合と飲み込んだ場合、さらに天然ウランのように溶解性酸化ウランの場合と、今問題となっている劣化ウランのように高温で燃焼した不溶解性酸化ウランの場合とでは、生体に及ぼす影響は異なることを詳しく説明。広島や長崎の原爆生存者の体内被曝線量は過去に一度も調査されなかったことについても、指摘した。続いてクリス・ブスビー博士(英国)が、体内の劣化ウラン粒子が、損傷を受けた細胞が有糸分裂の際に影響することで、その細胞の持つDNA修復機能を破壊する経緯について説明した。これは放射線の人体への影響を説明する「バイスタンダーエフェクト」説と合致している。
 次は、国際法の観点からみた劣化ウラン問題についての報告である。国際弁護士のカレン・パーカー(米国)は、これはおそらく報告者の中でも彼女唯一の見解だったと思われるが、新しく劣化ウラン兵器を禁止する国際条約を制定することを否定した。既存の国際人道法の下で、劣化ウラン兵器は既に、間違いなく違法(無差別性、戦争後の継続性、環境汚染、中立国への影響など)なのに、新条約を制定することで、現在の時点では「合法」であるということにもなりかねない。また、新条約を制定したところで、劣化ウラン兵器を保持する国が調印しなければ意味はないというのが彼女の理論である。パーカーは国連事務局で働いており、事務局長に劣化ウランに関する報告を出すよう要求している。それに対し、アルヴィル・マクドナルド(アイルランド)は、現在得られる科学・医学的研究結果では、劣化ウラン兵器の「違法性」を証明するのは困難であり、劣化ウラン兵器を明確に禁止する国際条約が必要であると強く主張した。
 この日の最後のセクションでは、劣化ウランに関する一般市民への情報という点について報告が行われた。湾岸戦争以降のイラクについて書き続けているジャーナリストのフェリシティ・アーブスノット(英国)は、彼女の見たイラクの現状について語り、ピーター・ベイン博士(ポーランド)は、NATOの心理操作とその目的について説明し、それがどのように劣化ウランに関する真情報の公開を妨げているかについて話した。彼はさらに、コソボ紛争中にNATO機が撃墜されたことについて、これらの戦闘機のカウンターウェイトに劣化ウランが利用されていたのではないかと心配していた。1991年にイラクから30ミリ口径の劣化ウラン不発弾を持ち帰り逮捕された経歴を持つシグワート=ホルスト・ギュンター博士(ドイツ)は、健康への影響についての彼の調査結果について報告。また、「英国が倉庫から劣化ウラン弾を撤去する」という情報を、最近あるルートから入手したと語った。次に、ソランジェ及びミシェル・フェルネックス博士(フランス)が、世界保健機構(WHO)と国際原子力機関(IAEA)の間の古い取り決めについて説明した。これは、WHOの放射線に関する調査あるいは調査結果の公表にはすべてIAEAの許可が必要というもので、劣化ウランの人体影響に関して必要な調査を妨げているという。ニューメキシコで長年にわたって劣化ウラン反対活動をしているダマシオ・ロペス博士(米国)は、米政府による調査の結果として、反対運動の中に扇動者が送り込まれ、運動内で意見の相違が生まれていると訴えた。劣化ウランに反対する人々や運動の構成および活動内容に関する政府の調査の後、劣化ウラン反対運動の間でさまざまな摩擦が生まれたというのだ。またロペス博士は、先週のベルギーでのある会議で、ベルギー軍の医療サービス担当者から、NATO軍では巡航ミサイルとクラスター爆弾にも劣化ウランが使われていると聞いたと話しており、劣化ウラン兵器の使用が疑われる地域の活動家に対し、土壌や瓦礫のサンプルを集めるように促した。彼の国際劣化ウラン研究チームが契約している(政府から独立の)研究所で調査してくれるらしい。

11月5日午前
 5日は、世界各国からの活動報告で始まった。シアロン・オーレイリーは、オーストラリアのウラン鉱山反対運動について報告。プエルトリコのエルネスト・ペナはヴィエケス島での米軍基地問題と劣化ウラン演習、さらに劣化ウランによるものと疑われる地元住民の健康被害について報告した。ヴィエケス島におけるガン発生率は、プエルトリコ本当よりも30%も高いという。韓国のレブ=キユル・チャン博士もメイヒュンリ島での米軍基地問題について熱心に語り、日本の米軍基地から移送された劣化ウラン弾についても言及した。劣化ウラン研究会の伊藤政子もこのセクションで日本の劣化ウラン問題とイラクの白血病の子供たちについて報告している。その後、イタリアのマルコ・サバが民間・軍用航空機のカウンターウェイトに使われている劣化ウランの問題について説明し、こうした航空機が墜落し、炎上した場合の危険性を訴えた。さらに、ユーゴスラビアの大学院生ニコラ・ボズィノヴィックが、昨年のユーゴスラビア空爆に際して彼が設立した「DU in Yu」について、また劣化ウラン弾が使用された地域とその住民について報告。続いてアルバニアから「平和と自由のための女性国際連盟」のフリダ・トピックが昨年のユーゴ空爆でも最も劣化ウラン使われたコソボに隣接するアルバニアでの活動について話し、最後に米国のジャック・コーエン=ジョッパが、「Military Toxic Project」の劣化ウランネットワークに所属するNGOやグループによるさまざまな活動について報告した。
 最後の報告は、英国内の地方自治体などの反応に関するものだった。まず、「反核自治体(Nuclear Free Local Authority)」のケン・ワット議員が、英国国内で続々と発見される劣化ウランスクラップを巡る問題や、多くの自治体に対して「反核自治体」が行っているコンサルティングなどについて説明、その後、消防組合のディヴィッド・カーターとピーター・ゴールドが、1999年2月に起こったウーバーハンプトン市での火事について詳細を報告した。火事の起こった工場に4kgの劣化ウランが保管されていたため、通常の火事とは全く異なる様を見せ、消防士や近隣住民への影響が心配されているという。また、火事そして消火活動の性質上、煙や消火に使用された水を通してどこに影響がでるかもわからない。彼らの経験は、英国に限らず、世界各国の自治体と共有されるべきである。

11月5日午後  午後は、5つのワークショップに分かれて討論が行われ、各々のテーマについての今後の戦略が練られた。
 まず、国際法ワークショップでは、政府や産業界に対して今まで以上に働きかけ、市民の目に付くよう行動することが提案された。たとえ失敗したとしても、一般市民に少しでも多くの情報を提供することになるはずである。劣化ウラン禁止国際条約の草案を作成することにも、参加者のほとんどが賛成した。署名運動を行う際に、どうやって劣化ウランを禁止するのか、明確に示すことができるようになるだろう。
 退役兵支援ワークショップでは、退役兵がより適切な検査を受け、調査を行えるよう、もっと情報が必要であるということが指摘された。「科学を科学で在らしめ、事実を事実で在らしめよう」とブリストウは言う。このワークショップでは、2001年2月10日にロンドンで「涙の行進」を、退役兵未亡人と共に行うことを決定している。
 科学・医学研究ワークショップは、劣化ウランの影響を検査し、結果を理解し、被害者を治療するためのより適切な方法に関する情報を広めることの必要性を認識し、ウランのさまざまな形態、とりわけセラミック状ウランについての研究と、低レベル放射線による体内被曝の影響についての情報の公開の重要性について合意している。
 草の根活動ワークショップは、湾岸戦争地上戦開始の10周年にあたる2001年3月3~4日に、国際的に連携された反劣化ウラン行動を、米国防省前やウーバーハンプトンの工場前を含め、世界中で行うことを提案した。さらに、ワークショップは、ヴィエケス島で逮捕された活動家の裁判が今後数ヶ月にわたって行われることから、各国の米大使館前でデモを行うことも提案している。
 環境汚染問題ワークショップでは、環境NGOがそれぞれの地元市民に説明する際に利用できるような劣化ウランによる環境汚染に関するレポートを発行することを、この会議の主催者であるCADUに要求した。

終わりに
 この会議では、劣化ウラン兵器を巡る問題の重大性と、この兵器を禁止すること、またすでに被害を受けた人たちを支援することの必要性が認識された。国際的にこの反対運動がどのような戦略を取っていくのかを決めることは、この会議の目標ではなく、世界中の反劣化ウラン活動家や科学者そして劣化ウラン被害者に会い、話を聞くこと自体に意味があったと言えるだろう。

会議に参加して(伊藤政子)
 マンチェスターの会議は、とても実り多いものでした。例えば、オランダのLAKA財団による、DU弾は湾岸戦争以前にも使われていたのではないかという報告や、ポーランドのピーター・ベイン博士による、撃墜された多くのNATO軍機にはDUカウンターバランスが使われていたのではという報告、1999年に起きたDUを保管していた工場での火災と、その体験に基づいて英国消防組合が行っているDU事故の危険性に対する活発な取組みなど、私には初めて知ることがらもたくさんありました。また、韓国の報告者による、鳥島事件の後に日本から移送されたDU弾についての告発は、耳に痛いものでした。
 DUCJからの日本の劣化ウラン問題についての報告(伊藤)も、鳥島での演習のことしか知られていなかったので、皆さんにとても関心を持ってもらえました。同時に60点程の写真を展示していたのですが、こちらに対しても大きな反響がありました。特に、森住さんのイラクの砂漠に転がっているDU弾の写真、藤田先生が提供して下さったユーゴスラビアのDU弾の写真、琉球新報の「DU」と明記されている沖縄の薬莢の写真など、始めてみた方も多く、伊藤のイラクの白血病や先天性奇形の子どもたちの写真、藤田先生のユーゴスラビアの子どもたちの写真と合わせ、参加者たちはとてもショックを受けていました。
 参加に対しての皆様のご協力、本当にありがとうございました。

<写真>
 ・会場の様子(29キロバイト)
 ・韓国からの報告(51キロバイト)


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