| ┃横帯・奥付┃はしがき┃発行時の目次┃ |
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本書は、湾岸戦争を『謀略』的側面から描くドキュメントの試みであると同時に、私自身と湾岸戦争に関する未曾有の情報洪水、特に大手メディアが次々に生み出す虚像との、一年余にわたる精神的格闘の記録である。もちろん、情報収集と整理の作業は、それなりに苛酷な肉体労働でもあった。 私は、日本のテレヴィ放送会社では一番古い歴史を持つ日本テレビ放送網株式会社に、二十七年半在籍した。メディア論は企業内告発として始めたものだが、退職後も新たな角度から書き続けてきた。だが、今度の湾岸戦争報道に対しては、「日本のメディアがアメリカにはずかしめられている」という気分が優先するのを禁じ得なかった。やはり一種の業界人であり、日本人としての感情の枠組みから逃げられないのだ。しかし、単に憤ってばかりいても仕方がない。自分の出遅れの反省もあった。ともかく気を静め、可能なかぎりの情報を集め、ファイルし、書きながら分析を続けた。 湾岸戦争の余震は今も続いている。今春早々、ニューヨーク・タイムズは二度にわたり、アメリカ国防総省(通称ペンタゴン)作成の内部文書をスクープ報道した。二月十七日には「今後十年に七つの地域戦争を想定した作戦計画」、続いて三月八日には「アメリカの第一の戦略目標は、新たなライバルがふたたび台頭するのを阻止することである」という趣旨の「国防計画指針」である。これらの計画は、アメリカが世界中の「地域紛争」に国連を飛び越えて介入する方針を露骨に示したものとして、日本の大手メディアでも報道され、世界的な反響を呼んでいる。 本書の第九章で決定的な証拠を指摘するが、アメリカの「世界憲兵」復活への道は、突然はじまったものではない。すでに十数年も前から着実に準備されてきた。公開文書による研究も暴露も可能であった。湾岸戦争も突然起きたものではなかった。私自身、やっとこの一年半の歳月をかけて確認したことだから、誰をも責める資格はない。歴史の歯車は、えてしてこんな「報道されざるブラックホール」の引力によって、強引に折り曲げられてきたのかもしれない。そう痛感しているだけだ。 問題は、虚実ないまぜの情報洪水をいかにしてさばき、どうやって一刻も早く真相を解明するかである。常に最大限の疑いを抱いて大手メディアの報道に接し、だまされず、しかし、適確に部分的事実を拾い上げ、さらに別途、それらの事実の背景に隠された核心的事実に迫ること。これが、この一年半に再確認した教訓である。 「誠は嘘の皮、嘘は誠の皮」ということわざがある。私はこれを、ある弁護士から教えられたのだが、彼にとってはこのことわざが、法廷に出された虚実ないまぜの証拠・証言の中から、真相を組み立てる際の指針となっているのだろう。 私にとっての法廷は、大小のメディアがおりなす言論報道界であり、相手方の被告は、アメリカなどの戦争屋たちである。敵の情報機関は膨大な国家予算を持ち、何十万人もの人員を擁している。その巨大機構に較べれば、私のペンはまさに「蟷螂(カマキリ)の斧」かもしれない。現場で無数の人や機械が生の情報を拾い、それら様々な手段で収集された複数の情報を比較検討し、さらに他の分野の情報と総合し分析するという、最先端のスーパーコンピュータまで駆使する集団作業を思えば、しばし無力感に襲われる。しかし、私らが軍国少年時代に教え込まれた「みなもとの義経、ひよどり越え」の一節、「鹿も四つ脚、馬も四つ脚」をもじれば、「敵も人なり、我も人なり」である。いかに巨大な機構を擁しようとも、最後の判断を下すのは個人の脳ミソである。私の作業を敵側と比較すれば、本国でデスクワーク中のCIA分析官のそれでもあろうか。一人ですべての機能を満たすことは不可能だから、おこがましくも、「総合分析」を目指すこととした。私は、分析作業の一部をいくつかの雑誌記事として発表しながら、本書を構想し準備してきた。そういう作業を一人で行なってみた結果の一応の区切りが、本書である。 謀略宣伝にかかわる新しい情報は、その間、次々に入ってきた。たとえば、写真報道家広河隆一の「戦慄のクウェイト・レポート/偽りの戦争/油田を爆破したのは誰か!?」(『エスタミネ』91・11創刊号)は、こう伝えている。 「クウェイトの環境問題の専門家アル・フレイベト博士は、三十五の油井の爆破はアメリカ軍を中心とした多国籍軍によって行われたと証言した。他の関係者に確めてみたが本当らしい。イラク軍はたかをくくっていたというのだ。油井のそばに高射砲やミサイルの基地を設けたら、アメリカは油井の破壊と環境破壊を恐れる余り、決して攻撃してこないだろうと。しかしその考えは甘かった。アメリカは環境への配慮をするほど、お人好しではなかった。これらの基地がじゃまだった。こうして三十五の油井が瞬時に爆破された。イラクの中の製油所も、破壊炎上した。『大変な被害が起こっているのに、政府はアメリカと結託して何でもないと言おうとしている』。これは民主フォーラムという組織の週一回の会合(ドゥワニエ)で聞いた、環境専門家の発言である」 ブッシュ大統領は、ソ連提案の停戦条件を拒絶して地上戦争に突入する直前に、ホワイトハウスの庭のテレヴィ記者会見スポットに駆け寄り、「イラク軍がクウェイトの油井を破壊している」と指を振り立てて告発した。「だから」、イラクの停戦合意、クウェイトからの撤退の約束は「信用できない」と言明したのだ。テレヴィは続いて、米軍提供のヴィデオを流した。確かに何本もの油井から炎と黒い煙が上がり、空を焦がしていた。だが、その少し前には、アメリカ軍が地上戦の準備段階としてナパーム爆弾による攻撃を始めたという報道もあった。油田地帯でナパーム爆弾を使うと、いったいどういうことになるのだろうか。恐ろしい予感を抱いていた私は、ブッシュの演説を聞いた瞬間、「これも黒い水鳥と同じデマ宣伝ではないか。やったのはアメリカ軍ではないのか」と感じた。その一方、イラク軍が撤退を始めているとすれば、石油は重要な戦略物資である。関係施設を敵に渡さないために破壊することは、むしろ軍事常識であり、爆破工作は十分にあり得た。半信半疑というのが実状だった。クウェイトで破壊されていた油井の数は「七百三十二本」という報道があるから、先の「三十五本」はまだほんの一部にすぎない。だがこの難問題にも今や、一定の回答が出始めたのだ。 「戦争のさなか、イラク兵士がクウェイト市内の住宅を荒らし、車やエアコンや種々の電化製品を略奪している、というニュースがさかんに伝えられた。しかし、いまドバイで聞くと、むしろ家宅侵入して荒らしまわったのは出稼ぎにきていた外国人だった、というのが定説になっている。……低賃金でこき使われた彼ら出稼ぎ労働者の憤懣が、あの空き家荒らしという形で爆発したというのだ」 本書の目的は、こうしたイラク「悪魔化」宣伝の一つ一つの真相を確かめ、さらにその奥に潜む歴史の深層に迫ることにある。広河隆一も、先のルポの最後で、こう訴えている。 国際的な人権擁護団体としての評価を受けているアムネスティ・インタナショナルの報告書に関しても、日本支部事務局の岩井信が「戦争の影の人権侵害」(『世界』91・4)の中で、こう警告している。 「日本政府やアメリカ政府のように、この資料を『戦争の正当化』の文脈の中で使うところも出てきた」 さらには、アメリカ軍が犯した戦争犯罪の数々がある。ブルドーザーによるイラク兵「生き埋め」報道に関しては、当初、「戦闘行為」として擁護する論者も現れた。だがその後に、太刀川正樹は、「〈湾岸戦争1周年、現地スクープ・レポート〉ブッシュ『戦争犯罪』に燃えさかる怒り」(『現代』92・3)で、「両手を後ろ手に縛られて目隠しをされたままうつぶせに倒れている数十のイラク兵隊の“死体”」が写った「カラー写真」の存在、つまりは「捕虜虐殺」の可能性を報じている。イラク「悪魔化」の化けの皮が剥げると、その下からは、さらにおぞましいアメリカの「悪魔」の所業が、次々に掘り出されてくるのかもしれないのだ。 湾岸戦争における「報道操作」の事実については、すでに色々な場で色々な側面から論じられている。 そこで私は本書を三部構成とし、比較的に単純で継続期間が短い問題から出発し、そこからより複雑で長期的な全体像に迫ることとした。 既発表の文章の一部は、その時点での分析の可能性を示す証拠として提出する。 最後の第三部では、戦争当事国アメリカの支配層の正体を、その一端なりとも明らかにしようと考え、「報道」されざる「隠蔽」事実の典型ケース・スタディを試みた。これによって、湾岸戦争の背後には、まだまだ未知の巨大な帝国主義的および謀略的な衝動が潜んでいたのではないか、という疑問が深まれば幸いである。 文中「CIA」は、この種の文献の慣行に従い、アメリカ秘密情報機関の総称として用いた。CIA長官の権限は、CIA本体の他に、その十倍の規模で世界最大の電子情報機関NSA(国家安全保障庁)などにもおよんでいる。ターナー元長官は退任後の著書『CIAの内幕』で、「軍情情報機関しかない小国を除いて、国の情報活動の頂点に単一の接触点を設けた国はない」とし、「権限拡大を阻止せよ」と訴えたが、CIAは、それほど古今東西に例をみない最強力の組織体制なのである。失敗した計画のスキャンダル報道が多いために、CIAを軽く見る向きもあるが、やはり、想像を絶する暗闇の力であることに変わりはない。 ジョージ・ブッシュが元CIA長官(1976.1.30〜1977.3.9)だったことの意味は、本文中でも追及するが、最初に最も象徴的なブッシュの業績を紹介し、読者の想像にゆだねたい。 ブッシュはCIA改革の一端として、「Aチーム」と「Bチーム」の実験を行った。CIA内部と外部のブレーンを競争させるという、いわば日本の「民活」に似た試みなのだが、「Bチーム」(「チームB」の訳語もある)の背後には、財界タカ派もしくは軍産複合体などの意向があった。この種の「外部民間チーム」に関するその後の情報は不足しているが、私は、これに類した「チーム」の暗躍は、その後も続いていたに違いないと確信している。たとえば、軍事評論家の藤島宇内は「『日本のハイテク』に触手をのばす国防総省」(『エコノミスト』91・4・23)の中で、「全米製造業者協会」が「ブッシュ大統領に緊急書簡を送り、」「新たな対日戦略研究班『チームB』を設置することを要求した」と記している。この要求の結果は、その後、『CIA委託報告書/日本2000年』となって世間の表面に現れた。湾岸戦争は、こうした「チーム」の最高の活躍舞台だったのではないだろうか。 本書に収録した既発表の文章は、その時点での判断の可能性を示すことを一つの目的としているので、基本的には原型を保つようにしたが、無駄な重複を避け論旨を明確にするために、一部を書き改め、削除し、入れ換えたりした。文章の構成上、重複をそのままにした部分もあるし、若者が主体の雑誌読者向けに簡略化した文章の欠陥も見えると思うが、その点はご容赦願いたい。執筆時点での記述が不十分だったり誤りがあった場合、論旨上意味のある部分はそのままにした上で注釈を加えたが、その他のミスは繁雑を避けるために省くか、訂正した。 ★印入りのカッコや縦線の区切りは、本書で書き加えた注釈部分を示す。引用文中の漢字とかな使いは原文のままとし、不適当と考える用語には(ママ)と注記した。 本文中では敬称は略させていただくので、最初にお許しをお願いする。 貴重な情報をいただいた諸兄姉の中には、ことの性質上、名を伏せざるを得ない方が多い。岡田治氏には、編集者としてのみならずデータ調査の上でも甚大な御協力をいただいた。合せて深く感謝の意を表する。 |
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