<沖縄県第三準備書面> 
第九 駐留軍用地特措法に基づく本件立会・署名を求めることの違憲・違法性



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 一 駐留軍用地特措法の違憲性
   本件立会・署名の根拠法たる駐留軍用地特措法は、違憲・無効な法律であるか
   ら、原告が知事に本件立会・署名を求めることは許されない。
  1 法令違憲論
    駐留軍用地特措法は、国が、「駐留軍の用に供する」という軍事目的を実現
   するために国民の私有財産を、強制的に使用または収用することを内容とする
   ものである。従って、憲法前文、九条及び一三条によって宣言・保障された平
   和主義、平和的生存権を侵すものである。のみならず、軍事目的の強制収用は、
   私有財産を「公共のために用いる」場合にあたらないから、憲法二九条三項に
   違反するものである。さらに、駐留軍用地特措法は、土地収用法に比較し、著
   しく収用手続が簡略されており、適正手続を保障しているものとはいえないか
   ら、憲法三一条にも反するものである。
 (一) 憲法前文、九条及び一三条違反
  (1) 憲法前文、九条及び一三条は、平和主義を宣言し、国民の平和的生存権
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     を保障する。その平和的生存権生成の由来、人権と平和の不可分一体性、
     平和的生存権の具体的内容、平和主義及び平和的生存権が裁判規範性を有
     する効力規定であること等については第八の一で述べたとおりである。
      憲法前文及び九条は、「戦争放棄」「戦力不保持」「交戦権の否認」を
     内容とする平和主義を規定するが、これは、国民の平和的生存権を具体的
     に制度化したものである。
      その個人の尊厳に基づく平和的生存権は、人間が、人間としての生存と
     尊厳を維持し、自由と幸福を求めて社会生活を営むことを、戦争によって、
     阻害されない権利であるが、具体的には、広い意味での戦争行為(狭義の
     戦争行為のみならず、戦争類似行為、戦争準備行為、戦争行為、基地の設
     置管理などを含む。)によって、平穏な社会生活を営むことを阻害されな
     い権利を中核とするものである。
      平和的生存権は、「今日においては、平和に徹した人権保障を統合する
     実定憲法上の権利として社会的に承認されたものとしてすでに確立してい
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     る」(吉田善明「逗子・三宅島問題と日米安保」法律時報一九八九年三月
     号四二頁)ものである。
      しかも、「核兵器の登場によって、戦争の及ぼす破壊力が驚異的に増大
     した結果、戦争はある政治目的を達成する合理的な手段としての有用性を
     失った」(高柳信一「国家の自衛権より人民の平和権へ」法学セミナー増
     刊「憲法と平和保障」所収)という今日的状況のなかで、この平和的生存
     権・平和主義を理解すると、それは、憲法体系の中核をなす基本原理・憲
     法上の他の価値体系の基礎であって、個々の事件の解決の基準となる法規
     範性を有する効力規定であるというべきである。
  (2) 憲法九条一項は「戦争放棄」、二項は「戦力の不保持」「交戦権の否認」
     を規定するが、一項で自衛のための戦争が放棄されていないとしても、二
     項で、侵略及び自衛のためを問わず全ての戦力の保持が禁止されているか
     ら、結局、九条全体で、自衛戦争をも放棄し、自衛戦力の保持を禁止する
     ことが、国の義務として規定されているものである(佐藤功「日本国憲法
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     概説」学陽書房発行八〇頁参照、これは憲法学会の通説である。)。
      憲法九条のこのような徹底した平和主義及び国民の平和的生存権保障の
     趣旨からして、憲法前文、九条及び一三条は、日米安保条約及び地位協定
     によって、国が、わが国の国土の一部を、米国軍隊が軍用地として使用す
     ることを許すことができるとしても、国民の権利・利益を犠牲にしてまで、
     米国へ軍用地を提供することは許さないものといわなければならない。
      従って、駐留軍用地特措法は、国が、「駐留軍の用に供する」という軍
     事目的を実現するために、国民の私有財産を、強制的に使用または収用す
     ることを内容とするものであるから、平和主義、平和的生存権を侵すもの
     であり、憲法前文、九条及び一三条に違反するものである。
  (3) なお、仮に、砂川事件の最高裁判決がいうように(最判昭一九五九・一
     二・一六刑集一三・一三・一六六)、憲法九条が「その保持を禁止した戦
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     力とは、わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦
     力をいうものであり、結局わが国の戦力を指」すとしても、世界一の軍事
     力を誇る米軍及びその部分を構成する駐留軍が、一般的意味での「戦力」
     にあたるのを否定することはできない。
      そして、前述したように、駐留軍が、憲法九条二項の「戦力」に該当す
     るか否かにかかわりなく、駐留軍用地特措法に基づき、わが国に駐留して
     いる在日米軍の具体的な存在形態が、平和的生存権を侵害しているかどう
     かを独自に検討すべきである。
      この観点から検討すると、駐留軍用地特措法は、国が、「駐留軍の用に
     供する」という軍事目的を実現するために、国民の私有財産を、強制的に
     使用または収用することを内容とするものであり、在日米軍基地の一部
     (特に本件土地)は、この駐留軍用地特措法によって強制的に使用されて
     いる実態を考慮すると、仮に、在日米軍基地が憲法九条二項の「戦力」に
     あたらないとしても、駐留軍用地特措法が、国民の平和的生存権を侵害し、
     憲法前文、九条及び一三条に違反するものであることは明らかである。
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 (二) 憲法二九条違反
  (1) 駐留軍用地特措法に基づく財産権制約の憲法上の根拠の不存在前述した
     ように、仮に、日米安保条約が合憲であり、米国軍隊の日本国内への駐留
     が憲法上許容されるとしても、憲法に、米国軍隊の駐留目的実現のための
     国民の人権制約を認める条項が存在しない以上、人権を制約することはで
     きない。これは、仮に、自衛隊の存在が憲法九条に違反しないとしても、
     憲法に、自衛隊の存在目的実現のために、人権を制約しうる条項が存在し
     ない以上、例えば、自衛隊への徴兵制度を設けることは許されないこと、
     自衛隊用地取得のために、個人の所有地を公用収用することは認められて
     いないこと等と比較すれば明らかである。
      従って、憲法上の根拠なくして、国民の財産権を制約する駐留軍用地特
     措法は、憲法二九条に違反することは明らかである。
  (2) 米国へ駐留軍用地を提供する条約上の義務の不存在
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      原告は、「本件土地の使用は、日米安保条約上の義務を履行するために、
     駐留軍用地特措法に基づいて行われる」(三五頁)と主張するが、国が、
     国民の所有地の私用権原を強制的に取得し、米国軍隊に提供する条約上の
     義務を有しないことについては、第八の三で詳細に述べたとおりである。
      日米安保条約六条一項は、米国は、日本国において、米国軍隊のために
     「施設及び区域を使用することを許される。」と規定し、地位協定二条一
     項は、米国は「日本国内の施設及び区域の使用を許される。」と規定する
     のみであり、国が、国民の所有地の私用権原を強制的に取て、米国に提供
     する義務を有するとまでは規定されていない。もし、国がそのような条約
     上の義務を有するというなら、それは国民の人権制約を伴うのであるから、
     日米安保条約及び地位協定に明確に規定されてしかるべきである。そのよ
     うな規定がない以上、国はそのような義務を負担しないということである。
     国の条約上の義務は、国民と賃貸借契約を締結し、任意に使用権を取得し
     て、米国へ提供するというのが限度である。
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      従って、国は、国民の所有地を強制的に取得して、米国に提供する義務
     を負わないのであるから、国民の所有地の強制収用を内容とする駐留軍用
     地特措法が、憲法二九条に違反することは明らかである。
  (3) 財産権の法的性格
      憲法二九条一項は、国民の財産権を保障する。その財産権保障の歴史的
     沿革、その法的性格、憲法二九条三項の「公共のために」の意義、行政府
     の活動に実質的正当性を付与する「公共性」と人権制約原理としての「公
     共性」の意義は異なり、前者の肯定は必ずしも後者を認める関係にはない
     こと等については第八の三で述べたとおりである。
      財産権は、私有財産制の下において、自己の自由にできる財産を保有し
     たいという人間の当然の要求に支えられ、人間の自由なる実存を確保する
     ため必要な重要な権利である。従って、その財産権を制約する法令の合憲
     性を判断する場合には(憲法二九条二項・三項)、それぞれの制約目的に
     応じた、適切な合憲性判定基準により審査されなければならない。すなわ
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     ち、主として社会的弱者の保護、社会権の保障等、積極的・社会政策目的
     実現のための「公共の福祉」に基づく規制の場合には、国の裁量が広く認
     められ、その制約内容が不合理であることが明白な場合に限って、当該法
     令は違憲・無効となるが、その他の目的による「公共の福祉」に基づく制
     約の場合には、当該法令が合憲であるためには、当該制約法令の立法の目
     的が正当であり、制約の程度も必要最小限度のものであることを要する。
      駐留軍用地特措法の目的は、米国軍隊へ軍用地を提供するため、土地を
     国民の意思に反して強制的に使用・収用することにあり、それは、社会国
     家理念に基づく積極的・社会政策目的による制約でないことは明らかであ
     り、その他の目的による制約であるから、駐留軍用地特措法が合憲である
     ためには、駐留軍用地特措法の目的が正当であり、制約の程度も必要最小
     限度のものであることを要する。特に、土地については、人が、そこに住
     居を建て、そこで家庭を築き、そこを生活の本拠とし、そこで産業を起こ
     す等、土地が、人が人に値する生活を営む基盤となっていることを考慮す
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     ると、土地の強制使用・収用を内容とする駐留軍用地特措法については、
     尚更、厳格な基準に基づいて、その合憲性を判定すべきことが要求される。
      この見地から、駐留軍用地特措法が憲法に適合するかどうかは、
      (1)その制約目的が正当であり、 (2)制約の程度も必要最小限度のもので
     なければならない。
  (4) 駐留軍用地特措法の目的ー平和憲法の下における公共性
      平和的生存権とは、「戦争目的や軍事目的のために自由や人権を制限さ
     れない権利」であり、「徴兵あるいは軍事的役務を拒否する権利、国防・
     軍事目的による私有財産の強制収用の禁止、国防・軍事目的による集会・
     結社・言論・集団行動等の表現の自由に対する制限の禁止等がその主な内
     容である」(深瀬忠一「長沼裁判における憲法の軍縮平和主義」)が、そ
     の具体的内容、すなわち (1)公権力の軍事目的追求によって平和的経済関
     係が圧迫されたり、侵害されたりしないこと (2)公権力による軍事的性質
     をもつ政治的・社会的関係の形成が許されないこと (3)公権力によって軍
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     事的イデオロギーを鼓舞したり、軍事研究を行うことは許されないこと等
     については、第八の一で述べたとおりである。自己の所有する土地・その
     他の財産を軍事目的のために使用されない権利も、当然にその内容に含ま
     れる。
      第八の一で述べたように、平和主義・平和的生存権は、憲法上の他の価
     値体系の基礎であり、憲法体系の中核をなす基本原理であって、法規範性・
     実効性を有する効力規定であり、これに優越し、これを制約するような
     「公共性」は存在する余地がないというべきである。
      従って、憲法の下において、「駐留軍の用に供する」という軍事目的の
     実現のために、国民の所有する土地を強制的に使用または収用することが、
     「公共性」をもちえず、憲法二九条三項の「公共のために用いる」ことに
     あたらないのは当然であって、駐留軍用地特措法が、憲法二九条三項に違
     反することは明らかである。
      このように、軍事目的を実現するために、国民の私有財産を強制的に使
     用または収用することが、「公共性」をもちえないことは、旧土地収用法
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     (明治三三年三月七日法律第二九号)と現行土地収用法(昭和二六年六月
     九日法律第二一九号)の規定を対比してみても明らかである。旧土地収用
     法二条は、「土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業」の筆頭に「国防ソ
     ノ他軍事ニ関スル事業」を掲げていたが、平和主義に基づき「戦争の放棄」
     「戦力の不保持」を国の義務とする現行憲法制定の必然的結果として、そ
     れは削除されている。
      この点について、当時の建設省渋江管理局長は、その提案理由を、国会
     において、「なお、実質的に事業の種類につきまして若干申し上げますと、
     従来の規定におきましては、国防・その他軍事に関する事業、それに皇室
     陵の建造ないし神社の建設に関する事業が、公益事業の一つとしてあがっ
     ておりましたが、新憲法の下におきましては、当然不適当である考えられ
     ますので、これを廃止することにいたしております。」(「第一〇回国会
     衆議院建設委員会議録第一七号」)と説明し、更に、参議院建設委員会に
     おいても、「こういったような新憲法の下におきましては(旧土地収用法
     には)非常に妥当性を欠いております公共事業が掲げてある次第でござい
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     ますので、これらを廃止・削除することにいたしたのであります。」と、
     同様の説明がなされている。
      このような提案理由をみれば、現行土地収用法に、「国防その他軍事に
     関する事業」が掲げられていないのは、単なる立法の不備とか脱漏とかい
     うものではなく、それが憲法違反の事業として、立法者意思によってに廃
     止または削除されたことは明らかである。
      さらに、一九六四年に、第四六回国会の衆議院・建設委員会の審議にお
     いて、「公共の利害に特に重要な関係があり、かつ、緊急に施行すること
     を要する事業に必要な土地等の取得に関し」、土地収用法の特例を定めた
     「公共用地の取得に関する特別措置法」が国会で審議された際、この「公
     共の」範囲に軍事施設が入るかという質問がされたのに対し、当時の河野
     建設大臣は、「軍施設を「公共の」範囲に入れるということは適当でない。
     これはもう社会通念じゃなかろうかと私は思います。そういったことに反
     したものについてこれをやることは適当でない。こういうふうに私は解釈
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     しております。」(「衆議院建設委員会議録第三一号、一三〜一四頁」)
     と答弁し、先の政府見解が再度確認されている。
      これらにより、現行憲法・土地収用法の下において、国防・軍事に関す
     る事業が「公共性」をもちえないこと、すなわち、軍事施設を設けるため
     に、国民の所有する土地を強制的に使用または収用することができないこ
     とは明らかである。
      以上述べてきたことから、国民の所有する土地を強制的に収用または使
     用して、米国軍隊に提供することを内容とする駐留軍用地特措法の目的は、
     「公共性」をもちえず不正であり、駐留軍用地特措法が、憲法二九条三項
     に反することは明らかである。
  (5) 米軍の駐留目的と米軍基地の実態ー立法事実論
      法律は、一定の事実状態を前提として存在するものである。従って、基
     本的人権を規制する法律の合憲性を判断するためには、規制目的の正当性、
     規制の必要性、規制方法・手段の相当性を、それを裏付ける事実状況(立
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     法事実)が存するか否かと関連付け、検討・評価する必要がある。そして、
     法律の制定時のみならず裁判時において、かかる法律による規制を裏付け
     る状況が存しない場合は、当該法律は、基本的人権を不必要に制約するも
     のとして、違憲・無効となる(佐藤幸治「憲法(第三版)」青林書院三七
     二頁)。
      駐留軍用地特措法は、国民の所有する土地を強制的に使用・収用するも
     のであるが、このような財産権制約を裏付ける事実状況が存するかどうか
     が検討されなければならない。
      駐留軍用地特措法は、日米安保条約六条及び地位協定に基づいて、米国
     軍隊に軍用地を提供することを目的とするが、その在日米軍の目的は「日
     本の安全」と「極東の安全」に寄与することにある。
      しかし、在日米軍特に沖縄の米軍基地の実態は、「日本の安全」と「極
     東の安全」に寄与するという、駐留軍の目的の範囲に止まっているか、そ
     の目的の範囲を越えて、存しているのではないか。
      日米安保条約六条は、「日本の安全」のみならず「極東の安全」のため
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     にも、在日米軍の出動を認めている。これは、わが国が、「日本の安全」
     とは無関係な戦争に否応なく巻き込まれる危険が常にあることを意味する。
     しかも、近時の日米安保再定義により、日本及び米国政府が、この「極東
     の安全」を拡大解釈し、在日米軍基地を米国の世界戦略の一環として位置
     づけ、米国のアジア・西太平洋地域における国益の擁護を主たる目的とし、
     在日米軍の自由な行動を最大限保障しようとの合意が形成されつつある以
     上、この危険はいよいよ現実的かつ客観的に増大しているといわなければ
     ならない。
      今日の在日米軍は、「日本の安全」「日本の防衛」のためにあるのでは
     なく、アジアにおける米国の韓国、台湾、フィリピンとの各軍事条約やS
     EATO(東南アジア条約機構)の義務を果たすため、いいかえれば、朝
     鮮半島から東南アジアにいたる西太平洋地域でのアメリカの世界戦略を遂
     行するために、これを第一次的な任務として日本にその軍事力を展開して
     いるのである。
      その具体的な状況について、「軍事化される日本」(「世界」編集部三
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     七〜三八頁)は次のように述べている。
      「このように、米国は日本を守り、日本は基地を提供するーというのが
     この条約の表向きの構造だが、結局のところ、日本はこの条約を締結する
     ことによって、米国の戦後の世界戦略、とりわけ対中国、対ベトナムを中
     心とするアジア戦略の中で、米国の軍事力をさらに遠くに投入することを
     可能にするための「世界基地」に自らを位置づけることを選んだのである。
      実際、沖縄を含めた米軍基地は、絶大な力を発揮してきた。日本の基地
     なしには、米軍は朝鮮戦争もベトナム戦争も戦うことはできなかったし、
     今後もアジア、インド洋での戦争を行うことはできないだろうといわれて
     いる。
      日本を守るためではないー。米国にとって日本の位置が重要であり、そ
     こに軍事力を展開することが、米国の利益になるからこそ、米軍は日本に
     その最新鋭の部隊を駐留させているのである。これは、米国防省報告がく
     りかえし認めているところである。」
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      例えば、米国防省は、一九九五年二月、米国議会に、「日米間の安全保
     障についての報告」を提出したが、それによると、 「わが国の陸軍、空
     軍、海軍、海兵隊の在日基地は、アジア太平洋における米国の最前線の防
     衛線を支えている。これらの軍隊は、遠くペルシャ湾にも達する広範囲の
     局地的、地域的、さらに超地域的な緊急事態に対処する用意がある。」と
     いう。
      すなわち、在日米軍と米軍基地は、日本の防衛のためだけではなく、遠
     くペルシャ湾にも展開して、米国を防衛する役割をもっていることが報告
     されているのである(梅林宏道「情報公開法でとらえた在日米軍」高文研
     三〇〇頁参照)。
      このように、在日米軍特に沖縄の米軍基地は、「日本の安全」「極東の
     安全」を確保するために存するのではなく、米本土をはじめ米国の国益を
     守るために存し、米国本土防衛の最前線基地の機能を果たしているのが実
     態なのである。
      このような米軍基地特に沖縄の米軍基地の実態を直視すると、「日本の
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     安全」「極東の安全」のために、国民の所有する土地を強制的に収用して、
     米国軍隊に軍用地として提供するという駐留軍用地特措法を適用する前提
     事実(立法事実)を欠くというべきである。
      従って、駐留軍用地特措法は、その適用による規制を裏付ける事実状況
     が存しない以上、国民の財産権を不必要に規制するものであり、憲法二九
     条三項に違反し、違憲・無効であることは明らかである。
  (6) 結論
      以上述べたことから、駐留軍用地特措法は、憲法二九条に違反し、違憲・
     無効であることは明らかである。
 (三) 憲法三一条違反
     駐留軍用地特措法は、以下に述べるとおり、土地収用法に比してその手続
    を著しく簡略化しており、使用及び収用される土地所有者等の権利保護に欠
    けるから、適正手続を保障した憲法三一条に違反するものである。
  (1) 土地収用法一八条について
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      土地収用法においては、起業者が建設大臣または都道府県知事に事業認
     定申請書を提出する際の添付書類として事業計画書の添付を義務づけてい
     る(土地収用法一八条)。この事業計画書には、 (1)事業計画の概要、
      (2)事業の開始及び完成の時期、 (3)事業に要する経費及びその財源、
      (4)事業の施行を必要とする公益上の理由、 (5)収用または使用の別を明
     らかにした事業に必要な土地等の面積、数量などの概要並びにこれらを必
     要とする理由、 (6)起業地等を当該事業に用いることが相当であり、かつ
     土地等の適正かつ合理的な利用に寄与することになる理由が記載されるよ
     うになっている(規則三条一項)。この記載内容をればわかるとおり、事
     業計画書は申請に係る事業の内容を具体的に説明するものであり、事業の
     認定機関は、この事業計画書に記載された事項をもとにして、 (1)事業が
     三条各号に一に掲げるものに関するであること、 (2)起業者が当該事業を
     遂行する充分な意思と能力を有するものであること、 (3)事業計画が土地
     の適正かつ合理的な利用に寄与すものであること、 (4)土地を収用し、又
     は、使用する公益上の必要があるものであることの四つの認定要件に該当
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     するか否かを判断するものである。
      ところが、駐留軍用地特措法では、使用または収用の認定の申請に、こ
     のような「事業計画書」もしくはそれに相当する使用・収益の内容を具体
     的に説明した書類の添付は要求されていない。
      この点について、原告は、国が、日米安保条約の義務を履行するために、
     駐留軍用地特措法により、駐留軍の用に供するために土地を強制的に使用
     または収用するのであるから、前記 (1) (2) (4)の各要件は当然に充足さ
     れると主張している(三七頁)。
      しかし、国が、国民の所有する土地を強制的に使用権原を取得して、米
     国に軍用地として提供する義務を有しないことについては第八の三で述べ
     たとおりである。
      仮に、国が右義務を有するとしても、米軍の用に供することが当然に公
     益上の必要があるいう考え方・運用こそが、まさに国民の権利保護の手続
     上問題なのである。そして、駐留軍用地特措法は「法形式上は、防衛施設
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     局と総理大臣は、相互に独立した機関であっても、実質的に同一性を有す
     ることは事実であり、申請=認定という図式が成立する」(静岡大学、吉
     岡幹夫「米軍用地特措法」ー「法と民主主義NO .226」)といわざる
     をえないのであるから、原告の主張は、結局のところ、在日米軍の必要性
     のみによって、土地の強制的な使用又は収用を認めることに帰着し、到底
     認容し得るものではない。
  (2) 土地収用法二四条、二五条について
      土地収用法においては、建設大臣または都道府県知事は、事業の認定を
     行おうとするとき、起業地が所在する市町村の長に対して、事業認定申請
     書及びその添付書類のうち、当該市町村に関係のある部分の写しを送付し
     なければならず(二四条一項)、右書類を受け取った市町村長は公告の日
     から二週間右書類を公衆の縦覧に供しなければならず(同条二項)、また、
     事業の認定に利害関係を有する者は、右二週間の縦覧期間内に、都道府県
     知事に意見書を提出することができる(二五条一項)。
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      これに対し、駐留軍用地特措法では、この事業認定申請書、添付書類の
     送付及び縦覧の手続はなく、利害関係人の意見書の提出についての定めも
     ない。国民の権利保護手続として不十分である。
      原告は、この点については、駐留軍用地特措法は、防衛施設局長が内閣
     総理大臣に対し、使用・収用の認定を申請するときに、所有者または関係
     人の意見書を添付することを定めており(四条)、また、使用・収用の認
     定がなされた後、遅滞なく当該土地等の調書、図面等の縦覧がなされるよ
     うになっている(七条)。そこで、駐留軍用地特措法においても、土地収
     用法とほぼ同様の手続が履践されるのであるから、所有者等の権利保護に
     欠けるところはないと主張している(三九頁)。
      しかしながら、土地収用法上の意見書の提出が認められている「利害関
     係人」とは、所有者はもちろん、単に法律上の利害関係を有しているもの
     に限らず、事実上の利害関係を有するものを含んだ広いものである(例え
     ば、収用対象地周辺に居住し、当該事業によって日照や騒音等の被害を被
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     る者も含む)。これに対し、駐留軍用地特措法の「所有者・関係人」が、
     土地収用法八条で定義されている「所有者」、「関係人」と同義で用いら
     れており、土地収用法におけるような事実上の利害関係人は含まれていな
     い。駐留軍用地特措法は、土地収用法に比して、かなり狭い範囲でしか意
     見書の提出を認めていないものである。
      また、前述したように、土地収用法においては、利害関係人は、事業認
     定書及び事業計画書の添付書類を閲覧することができるから、具体的な事
     業の内容を充分に検討したうえで、有効・適切な意見書を作成して提出す
     ることが可能であるが、駐留軍用地特措法の場合、同じく「意見書」の提
     出が認められているとはいえ、その使用・収用の内容については、ほとん
     ど何も知らされない状態で意見書を提出しなければならず、現実的、実質
     的な権利保護の程度と内容は、両者間で著しい相違があるといわなければ
     ならない。
  (3) 土地収用法二三条について
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      土地収用法は、事業の認定を行おうとする場合において、必要があると
     きは、公聴会を開いて一般の意見を求めなければならない(二三条)と規
     定している。
      公聴会は、必ず開かなければならないものとはされていないけれども、
     「必要があるときは開かなければならない」ものであり、憲法三一条の適
     正手続の保障の一環として、事業認定の公正・妥当さを保障するために法
     が認めている重要な制度である(例えば、公害の発生が予測される事業や、
     あるいは本件のごとき事例を考えれば、その重要性は明確であろう)。
      ところが、駐留軍用地特措法は、土地収用法二三条の適用を除外し、公
     聴会の制度を廃止している。
      原告は、公聴会は常には開催が義務づけられているものではないから、
     権利保護に欠けるものではないと主張している(四〇頁)。
      しかし、法律上の制度として、公聴会が認められているか否かは、国民
     の権利保護の手続に重大な影響を及ぼすものであって、原告の主張はは、
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     受け入れられるものではない。
  (4) 結論
      駐留軍用地特措法において、この使用・収用の認定に至る事前手続にお
     ける権利保護の手続きが、土地収用法に比較して、形式化・形骸化されて
     いることは明白であり、適正手続を保障した憲法三一条に違反するもので
     ある。

 二 駐留軍用地特措法を本件各施設の使用のために適用することの違憲性
   前項では駐留軍用地特措法の法令違憲を主張したが、仮に同法自体が違憲でな
  いとしても、同法を本件各土地に適用して使用認定をなすことは、その適用にお
  いて違憲無効であり、従って、それに基づいてなされた本件の土地・物件調書へ
  の署名の請求も前提を欠くものというべきである。
  1 安保条約目的条項を逸脱する米軍の駐留の憲法九条、前文への違反
 (一) 砂川刑特法事件最高裁判決
     旧日米安保条約の合憲性について争われた砂川刑特法事件において、最高
    裁大法廷一九五九年一二月一六日判決は、次のとおり判示した。まず、憲法
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    九条二項前段の規定の一般的意義について、「同条項がその保持を禁止した
    戦力とは、我が国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦
    力をいうものであり、結局我が国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえ
    それが我が国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべ
    きである。」とした。次に、米国軍隊の駐留が憲法九条、九八条二項及び前
    文の趣旨に反するかどうかについて、「(同軍隊の駐留の)目的は、もっぱ
    ら我が国および我が国を含めた極東の平和と安全を維持し、再び戦争の惨禍
    が起こらないようにすることに存し、我が国がその駐留を許容したのは、我
    が国の防衛力の不足を、平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼して補お
    うとしたものに外ならないことが窺えるのである。果たしてしからば、かよ
    うなアメリカ合衆国軍隊の駐留は、憲法九条、九八条および前文の趣旨に適
    合こそすれ、これらの条章に反して違憲無効であることが一見極めて明白で
    あるとは、到底認められない。」とした。
 (二) 憲法九条及び平和的生存権に基づく外国軍隊の駐留に対する制約
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     本訴訟において被告は日米安保条約自体の憲法適合性について直接は触れ
    ていない。しかし、仮に外国軍隊の駐留の合憲性を肯定する立場に立とうと
    も、いかなる目的のいかなる軍隊であったとしても外国軍隊の駐留自体がお
    よそ憲法上禁じられていない、とまで認める見解は成り立ちえない。なぜな
    らば、憲法は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安
    全と生存を保持しようと決意し」(前文)、更に九条によって、国際紛争の
    平和的解決を選択するという徹底した平和主義を採用し、かつ「全世界の国
    民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有す
    る」(前文)ことを確認しているからである。
     すなわち、憲法九条や平和的生存権の規定があるにもかわらず外国軍隊の
    駐留が違憲ではないとしても、それは、憲法九条も主権国家に固有の自衛権
    の保持を否定しているわけでないとした上で、その権利を行使するための自
    国の防衛力の不保持ないし不足を補う目的の限りにおいて存在する外国軍隊
    の駐留であるからとしか説明できないのである。現在の政府見解をもってし
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    ても、集団的自衛権の行使は憲法上否定されていると解され、日米安保条約
    上の共同防衛の範囲が「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一
    方に対する武力攻撃」の場合に限定されており(同条一項)、、我が国わが
    国の側からすれば集団的自衛権の行使を認めたものではないと説明されるの
    は、このことと同じ文脈でとらえられるものである。
     右最高裁判決も、旧日米安保条約が、我が国と我が国を含む極東の平和の
    維持を目的としており、憲法九条にもかかわらず当然我が国が有している
    「固有の自衛権」というものを前提として、その防衛力の不足を補うもので
    あるということを根拠に、それが一見明白に違憲無効とは認められないとし
    ているのであり、そうでない外国軍隊の駐留は違憲と判断される余地を十分
    に残しているのである。
 (三) 憲法九条及び平和的生存権に基づく日米安保条約目的条項の制約の存在
     現行日米安保条約六条は、米軍による施設及び区域使用の目的を「日本国
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    の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する
    ため」と定めており、その限りにおいて旧日米安保条約の有していた目的を
    継承している。
     先に述べたとおり、仮にこの日米安保条約を合憲とする見解に立ったとし
    ても、外国軍隊の駐留に対して全く憲法上の規制がないということではなく、
    それが「日本国」の安全に寄与し、並びに「極東」における国際平和等に寄
    与する目的に限定されることによって初めて合憲といいうるのである。なお、
    我が国の自衛権行使の不足を補うという観点からすれば、この範囲を「極東」
    に拡大することに疑問無しとはしないが、一九六〇年二月二六日日本政府統
    一解釈によれば、「極東の平和と安全に寄与するということが、日本の平和
    と安全とうらはらになっている」とされており(「安保条約−その批判的検
    討」)、極東という日本に近接した地域の平和が日本の平和と安全に密接に
    結びついていること、すなわち日本の自衛権の行使に関わることがその正当
    化の根拠とされているのである。
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     右のことを裏返して言えば、日米安保条約の運用が右目的を逸脱した場合
    には、日米安保条約の合憲性についていかなる見解に立とうとも、その運用
    は憲法九条と平和的生存権の規定に反する違憲状態と判断されるのは疑問の
    余地がない。
     駐留軍用地特措法も、日米安保条約の右目的の範囲内の運用のための米軍
    用地を提供することを目的とした法律である以上、日米安保条約の目的条項
    を逸脱した運用のための米軍用地の使用に関し同法を適用することは、同法
    による「駐留軍の用に供する」との要件を欠き、ひいては憲法九条及び平和
    的生存権に違反することになるのである。
 (四) 日米安保条約目的条項を逸脱する米軍駐留の実態
  (1) 「極東」の意義について、前記日本政府統一解釈によれば、「極東の区
     域は…大体においてフィリッピン以北・ならびに日本及びその周辺地域で
     韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれている」とされてい
     る。しかし、在日米軍基地、ことに在沖米軍基地の活動の実態は、日本お
     よび極東地域に限定されてきたものでなく、むしろアメリカの世界戦略に
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     従ってアジア太平洋地域全般のアメリカの国益を擁護することにその中心
     が存するのである。
  (2) ヴェトナム戦争、湾岸戦争などにおける在日米軍基地からの出動の実態
     これを在日米軍基地の現実の利用の実態から具体的にみてみよう。
      ヴェトナム戦争において、在沖米軍基地は後方支援基地としてフルにそ
     の機能を発揮したことは周知の事実である。嘉手納飛行場からは北爆のた
     めのB52が出動し、那覇軍港からは戦闘用車両等が積み出され、牧港補
     給地区では、戦闘で破壊された戦車等の修理がなされ、また戦死した兵員
     の遺体が運び込まれるなど、まさに沖縄もその戦場にされたのであった。
      一九九一年一月一七日に始まった湾岸戦争では、在日米軍基地から、沖
     縄の約八、〇〇〇人以上、横須賀を母港とする空母ミッドウェー戦闘群六
     隻、岩国の攻撃機二個飛行中隊三一機、横田の輸送部隊など以上合計約一
     万五、〇〇〇人以上が出動した。
      なかんずく沖縄では、一九九〇年八月二日にイラクがクウェートを侵略
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     するや、同月七日(「砂漠の盾」作戦の初日である)から八日にかけて嘉
     手納基地から武装兵を乗せたC一三〇輸送機や空中早期警戒管制機(AW
     ACS)が発進したのを始め、第三海兵遠征軍第三海兵師団の第四海兵連
     隊、第九海兵連隊、第一二海兵連隊などの歩兵、砲兵、戦車、水陸両用車、
     後方支援部隊を中心に、普天間基地の第三六海兵航空群の攻撃・輸送ヘリ
     部隊、海軍工兵隊、第三七六戦略航空団のKC一三五空中給油機などの空
     中給油、組織整備部隊、そして陸軍特殊部隊グリーンベレーまで次々と出
     動した。
      ヴェトナム戦争や湾岸戦争以外にも、一九七九年三月、米韓合同演習
     「チーム・スピリット」に参加するため嘉手納基地に飛来してきたE3A
     が、南北イエメンの武力紛争に関連してサウジアラビアに発進して偵察任
     務についた事例もある。また、普天間基地の第三六海兵航空群は、緊急投
     入戦力として、湾岸戦争以前にも一九八〇年のイラン干渉の際に、ペルシャ
     湾に投入された。このような事例は枚挙にいとまがない。
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      こうして、以上のように、在日米軍基地は、これまで我が国はおろか
     「極東」にも入らない地域での戦争や紛争における米国の利益のために使
     用されてきたのである。
  (3) アメリカ政府による在日米軍基地の位置づけ
      このような在日米軍基地の存在目的と活動実態については、アメリカ政
     府ないし軍当局者からもこれまで何度となく明らかにされてきた。
      一例を挙げると、一九八二年、アメリカ上院で、日米安保条約はアメリ
     カの義務のみが規定されている片務条約であり、日本の防衛分担をもっと
     明確にすべきだ、という上院議員の主張に対し、当時のワインバーガー国
     防長官は、沖縄海兵隊の役割について次のとおり答えた。
      「米国は、日本の防衛目的だけのために、いかなる軍隊も日本に維持し
     ていない。約二万五、〇〇〇人の在日米海兵隊は、第七艦隊の海兵隊であ
     り、西太平洋、インド洋に及ぶ第七艦隊の作戦地域内のどこにでも配備さ
     れるものである。その他の在日米軍のほとんどは、東アジアや南西アジア
     に展開しているわが軍を支えている日本の基地の任務についている。」
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     「沖縄の海兵隊は、日本の防衛任務には当てられていない。そうではなく
     て、第七艦隊の即戦海兵隊をなし、第七艦隊の通常作戦区域である西太平
     洋、インド洋のいかなる場所にも配備されるものである。その海兵隊は、
     現在のところは緊急配備軍(ペルシャ湾地域を統轄する現在の米中央軍)
     には編入されていないが、将来はそういうこともありうる。」(「情報公
     開法でみた沖縄の米軍」)
      このような認識は軍当局者にはもちろん当然のことであって、例えば、
     一九七八年に在沖米四軍調整官は、「私の率いる部隊が出動する範囲に制
     限はない」と発言しており、右のことを裏付けている。
      このような在日米軍の位置づけは、後述する安保「再定義」によって、
     一層明確化されるとともに、日本政府自身も共同声明という形でその役割
     を公に認めようとしているのである。
  (4) 以上のとおり、在日米軍基地の運用の実態は、日本および極東地域の安
     全という日米安保条約の本来の目的を逸脱したものである。それは、本件
     で強制使用認定の対象となっている在沖米軍各基地についても同様である。
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     従って、米軍によるその目的を逸脱した活動のために使用する土地を提供
     するために駐留軍用地特措法を適用することは憲法九条および前文の規定
     に違反するというべきであり、ひいては、被告に同法による強制使用手続
     の一環としての本件各土地・物件調書への署名をなす義務は生ぜず、原告
     による本件職務執行命令は理由がないというべきである。

  2 安保「再定義」による日米安保条約目的条項逸脱の固定化
    前項に述べた日米安保条約の目的条項を逸脱した米軍駐留の違憲性は、現在
   進行中の安保「再定義」により、ますます鮮明になりつつある。
 (一) 安保「再定義」の動き
     日米安保条約の「再定義」とは、東西冷戦が終結して日米安保条約の存在
    の最大の論拠とされてきた「ソ連の脅威」が消滅したために、その存在意義
    が問われている今日において、冷戦後の日米安保体制のあり方を確認しよう
    という日米双方の作業を指している。「再定義」の協議は、一九九四年一一
    月に米国のジョセフ・ナイ国防次官補(当時)らと日本政府関係者らによっ
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    て開始され、一九九五年一一月二〇日に行われる予定であった日米首脳会談
    で共同宣言として発表される段取りであった。同会談は本年四月まで延期と
    なったが実務レベルではすでに「再定義」の作業は進行している。
 (二) 日米安保条約の地球的規模への拡大を目指す「再定義」
     安保「再定義」の内容は、右首脳会談で発表される予定であった日米共同
    宣言案に端的に現れている。
     同宣言案によれば、「米国は死活的な国益の存在する地域に前方展開する
    という世界戦略の一部として、東アジアにおける同盟関係を維持し、このた
    めにこの地域に約一〇万人の兵力の前方展開を続ける計画をもっている。」
    とし、日米安保が米国にとって日本の安全を遥かに超える米国の国益のため
    の世界戦略の一部と捉え、そのために戦力の削減をしないというのである。
    他方、日本政府は、それに対して「日本が米国との協力の下、二国間、地域
    的およびグローバルな安全保障を維持、強化するため引き続き意義ある貢献
    を行うことを確認」するというのであり、具体的にはPKO出動、ホスト・
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    ネーション・サポート(HNS在日米軍駐留経費負担)、装備面での相互運
    用性の進展(物品役務融通協定ACSA)などでの役割分担を強化するとい
    うものである。
     更に、同宣言案は、「二一世紀の安全保障計画の出発点として米国の『東
    アジア戦略報告』や近く公表される(注、一九九五年一一月に公表された)
    日本の新『防衛計画の大綱』を念頭に置きつつ、一層効果的な将来の安全保
    障協力のために安全保障政策の整合性を図る努力を続ける」とされている。
     そこで触れられている、米国防省国際安全保障局が一九九五年二月に発表
    した「東アジア・太平洋地域に対するアメリカの安全保障戦略」(「東アジ
    ア戦略報告」)では、「アジア・太平洋地域におけるアメリカの軍事的前方
    プレゼンスは、地域的安全保障と、アメリカの地球的規模の軍事態勢の不可
    欠の要素である。」「太平洋における前方展開戦力は、世界中の危機に対す
    る迅速・柔軟な対応能力を保障(する)」として、日本を含むアジア太平洋
    地域への米軍の前方展開の今日的根拠を明らかにし、そのために今後も「ア
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    ジアにおけるわが国のプレゼンスは、地域の必要に応じ、中東その他、地球
    的規模の安全保障上の緊急事態にこたえるのに十分な規模に維持される。」
    と宣言している。その実践的根拠として湾岸戦争が取り上げられ、「たとえ
    ば『砂漠の盾』作戦や『砂漠の嵐』作戦の時期に、アジアにおけるわが国の
    軍事機構は、アジアの地域的脅威に対する抑止力を首尾よく提供し(た)」
    と評価している。そして在日米軍基地については、「アジアと太平洋におけ
    るアメリカの安全保障政策は、日本の基地の利用や、アメリカの作戦に対す
    る日本の支援に依拠している。」と最重要視し、「太平洋地域の距離的隔た
    りの大きさからして、日本の基地の利用権の確保は、侵略を抑止し打破する
    われわれの能力において決定的役割を果たしている。」ので、引き続きその
    勢力を維持するとしているのである。これは、沖縄を含む在日米軍基地の機
    能強化と固定化を宣言するものに他ならない。この報告はまさに在日米軍基
    地の存在理由を米国側から率直に物語るものであるが、それが共同宣言案に
    盛り込まれることによって日本政府もそのような位置づけの質的転換を公式
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    に確認することとなるのである。安保「再定義」と呼ばれるゆえんである。
     また、右報告と同時期の同年三月一日に米国防総省から発表された「アメ
    リカと日本の安全保障関係に関する報告書」(「日米安保報告書」)も日米
    安保と在日米軍基地に関して同様の認識を示している。この報告は、基地縮
    小を求める沖縄の世論が契機となり、一九九五会計年度の米国防認可法にお
    いて初めて日米安保関係に絞って米議会が提出を要求したものであり、在日
    米軍基地の米国にとっての存在意義を率直に述べたものとして重要である。
    その点についての具体的記載をみると、「日本におけるわれわれの陸軍、空
    軍、海軍及び海兵隊の基地は、アジア・太平洋における防衛の第一線を支援
    するものである。これらの部隊は広範な局地的、地域的、並びにペルシャ湾
    にいたるまでの地域外の緊急事態に対処する準備を整えている。太平洋とイ
    ンド洋の横断距離は非常に長いので、アメリカは、地域的緊急事態に対応で
    きるように計画された、小規模で、機敏で、より機動性に富む部隊を重視し
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    ており、そのことが在日米軍基地の地理的重要性を大きく高めている。」と
    いうのである。更に右報告書も湾岸戦争での在日米軍の実践的な役割を次の
    ように評価している。「日本から作戦に出撃する米海軍が利用できる艦船修
    理施設は、世界でもっとも近代的なものである。これらの施設は、海軍の決
    定的な展開を維持するわれわれの能力に直接的に貢献しており、フィリピン
    共和国のスビック湾の施設からのアメリカの撤退以後はなおいっそう重要に
    なっている。この価値は、『砂漠の盾』作戦や『砂漠の嵐』作戦の期間中の
    米空母ミッドウェー戦闘群の展開のさいに実証された。ミッドウェーの航空
    団の航空機は、他のどの空母航空団よりも多く出撃し、人員あるいは航空機
    の損失もなかった。この事実は、日本におけるアメリカの施設で行われた質
    の高い訓練と優れた整備を証明するものとなっている。」
     このように米国は、冷戦後の在日米軍の位置づけについて、日本の安全や
    「極東」条項の定めを超えたグローバルな戦力展開の一部と捉え、今回の安
    保「再定義」によってその意義を日本政府とともに確認することによって、
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    日米安保条約の実質的改変を進めようとしているのである。
 (三) 在日米軍基地は、これまでも日米安保条約の目的条項を逸脱した米軍の世
    界戦略のために利用されてきたのであるが、今日の安保「再定義」は、その
    ような実態を固定化するばかりでなく、かかる日米安保条約の機能を名実と
    もに地球的規模に拡大することを確認するというものである。
     従って、右のように「再定義」が進展しているもとにおける米軍基地のた
    めの駐留軍用地特措法による本件各土地の使用は一層その違憲性を強めるも
    のといわざるを得ない。
 (四) 沖縄県は、去る大戦で国内唯一の地上戦の戦場となり民間人を巻き添えに
    して多大な犠牲者を出し、更に戦後の米軍施政権下における基地あるがゆえ
    の様々な被害を受けさせられた歴史を有している。このような過酷な歴史を
    経験してきたがゆえに、自ら二度と戦争の被害を受けないというにとどまら
    ず、反対に加害者になり、もしくは加害者に加担するようなことも決して容
    認することができないというのが沖縄県民の総意である。被告や関係自治体
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    の積極的な平和行政の推進もこのような県民意思に裏打ちされているもので
    ある。しかるに、戦後五〇年間の米軍基地の駐留は、日本や沖縄の防衛に貢
    献するというよりもむしろアジア各地での戦争による加害行為をもたらして
    きたのが現実であり、もはやこれ以上このようなあり方の米軍基地の存続は
    許容できるものではない。かかる観点からも、右安保条約の目的条項逸脱に
    よる駐留軍用地特措法適用違憲の問題は避けて通れないといえるのである。
  3 様々な基地被害ないしその危険をもたらしている在沖米軍基地の使用のため
   に駐留軍用地特措法を適用することによる平和的生存権侵害
 (一) 在沖米軍基地が、個々もしくは総体としての沖縄県民の平和的生存権を侵
    害している事実は「第四米軍基地の実体と被害」において述べたとおりであ
    る。
     そのうち若干を繰り返しつつ述べると、まず、戦後五〇年の間にも米国は
    アジア地域における戦争行為を繰り返してきており、その交戦国であった北
    朝鮮、ヴェトナム、イラクなどからの反撃として在沖米軍基地が攻撃されて
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    も何らおかしくない状況におかれてきた。沖縄県民は、かかる直接の戦争行
    為によって生命身体財産に対する危険にさらされ、具体的な平和的生存権の
    侵害を受けてきている。
     もっとも、米軍が交戦状態になれば、日米安保条約を締結して軍事基地の
    設置を容認している日本国民が平和的生存を脅かされる一般的危険はありう
    るといえよう。しかし、ヘーグ陸戦法規二五条において「防守セサル都市、
    村落、住宅又ハ建物ハ、如何ナル手段ニ依ルモ、之ヲ攻撃又ハ砲撃スルコト
    ヲ得ス」と規定され、一九二二年の空戦に関する規則二四条一項において
    「空中爆撃は軍事的目標、すなわち、その破壊又は毀損が明らかに軍事的利
    益を交戦者に与えるような目標に対して行われた場合に限り、適法とする」
    と規定されているとおり、戦時国際法にあっては、軍事的目標に対する攻撃
    とそうでないものに対する攻撃に対する区別が明確になされており、交戦状
    態になれば、米軍基地が集中する沖縄本島地域は事実上優先的攻撃目標とな
    るのみならず、それに対する攻撃は法的にも肯定される可能性が高い。従っ
    て、沖縄県内の米軍基地の集中度を考慮すると、米軍の交戦により、わが国
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    への攻撃の危険性が一般的に存在するという程度にとどまらず、少なくとも
    沖縄本島地域居住の住民についてはその平和的生存権が現実的な脅威にさら
    され侵害されているといわねばらなない。
     また、戦争準備行為のための基地の設置と演習等は様々な生活被害を及ぼ
    し、それらによる平和的生存権の侵害も継続している。嘉手納飛行場などで
    の航空機離着陸、キャンプハンセンなどでの実弾演習による爆音被害、演習
    事故による人身被害、嘉手納飛行場のPCB汚染物質の流出による健康被害
    の危険などである。
 (二) 以上のような権利侵害について、個々の権利侵害のみをとらえてその救済
    を図るだけでは、その十分な救済は図れない。ここで留意しなければならな
    いのは、基地あるがゆえのこれらの権利侵害は、およそ軍事基地を設置する
    こと自体が平和的生存権を侵害するかどうかという問題ではなく、在沖米軍
    基地が人口密集地域にしかも多数集中して設置されているという、米国本土
    の基地においては到底ありえない異常なあり方をしているがゆえのものであ
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    ることである。まさに右の被害がこのような基地のあり方に基づく構造的な
    権利侵害状態であることから、個別の生命、身体、財産に対する権利のみを
    取り上げて人権の救済を図るところに限界が生じるのであり、ここに地域住
    民の平和的生存権を法的に論じる意義が存するのである。これだけ甚大な権
    利侵害を伴う基地の立地の異常な現実については、政策的な是非の問題にと
    どまらず、人権侵害の観点から法的救済を図られなければならない。
 (三) かように在沖米軍基地の存在と運用の結果、沖縄県民の平和的生存権が日
    常的に侵害されている状態が継続しているのだから、かかる基地を米軍に提
    供するために駐留軍用地特措法を適用して本件各土地を強制使用することは、
    平和的生存権の規定に反して違憲となり、本件職務執行命令も違法というべ
    きである。
  4 嘉手納飛行場設置による憲法一三条で保障される個人の生命、身体、健康、
   自由などの利益の総体としての人格権の侵害
    ところで、前項で述べた平和的生存権の侵害は、戦争行為ないしは戦争準備
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   行為に起因する権利侵害という観点から述べたものであるが、ここでは特に本
   件強制使用の対象となっている土地が存する施設のうち、嘉手納飛行場の爆音
   公害による周辺住民への生活被害について述べる。
    個人の人格に本質的なものである生命、身体、精神及び生活に関する利益の
   総体としての人格権については、個人の尊厳に基づき、憲法一三条の「生命、
   自由及び幸福追求に対する権利」として保障されている。ちなみに大阪国際空
   港事件控訴審判決は、具体的に、「人格権は何人もみだりにこれを侵害するこ
   とは許されず、その侵害に対してはこれを排除する権能が認められなければな
   らない。すなわち、人は、疾病をもたらす等の身体侵害行為に対してはもとよ
   り、著しい精神的苦痛を被らせあるいは著しい生活上の妨害を来たす行為に対
   しても、その侵害行為の排除を求めることができ、また、その被害が現実化し
   ていなくともその危険が切迫している場合には、あらかじめ侵害行為の差止を
   求めることができる。」とした。この差止請求権が認められるかどうかはとも
   かくとして、かかる人格権の侵害をともなう処分、事実行為が違法となること
   は承認されているといってよい。
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    そして、嘉手納飛行場における爆音被害の状況、程度は第四、三、2及び第
   四、七、3で述べたとおりのもので、那覇地裁沖縄支部一九九四年二月二四日
   判決においてもその違法な権利侵害の事実は認定されているところである。こ
   れらの被害により、右に述べた憲法一三条により保障された人格権を侵害され
   ていることは明らかである。
    このような場合、被害住民が損害賠償請求権などの権利を有していることは
   明らかであるが、更に進んで、かかる被害発生源である飛行場の設置使用につ
   いて著しく公益性が欠ける場合においては、その設置にかかる行為も人格権の
   保障の観点から違憲と判断されるべきである。
    本件の嘉手納飛行場の場合、軍事公共性が基本的人権制約の根拠となりえな
   いこと、仮にこの点をさしおいても現実の在日米軍の活動が日米安保条約の目
   的を逸脱した違憲状態になっており、その意味でも公共性が欠如することなど
   からすれば、右施設の使用のための駐留軍用地特措法適用による強制使用自体
   も人格権を侵害するものとして違憲となり、右強制使用認定に基づく職務執行
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   命令も違憲無効というべきである。
  5 駐留軍用地特措法を在沖米軍基地の使用のために適用することの憲法二九条
   違反
    仮に駐留軍用地特措法がそれ自体は財産権の保障に反するものでなく合憲だ
   としても、その適用にあたっての合憲性が審査される必要があり、その場合に
   おいては、第八の三で述べたとおりの財産権制約に対する厳格な審査が求めら
   れる。そして以下にあげた諸事実からすれば、同法に基づく本件各使用認定を
   なすことは、その適用上憲法二九条三項の「公共のために用いる」場合にあた
   らず、同条項に違反し、ひいては右使用認定を受けてなされた本件職務執行命
   令も理由がないというべきである。
 (一) 日米安保条約目的条項の逸脱による強制使用目的自体の公共性の喪失
     前述の通り、今日における在日米軍基地は、日米安保条約六条の「日本国
    の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する
    ため」という米軍駐留の目的以外のため使用されている。かかる日米安保条
    約の目的外利用のための土地の収用・使用は駐留軍用地特措法も当然に認め
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    ていないのであるから、そのために同法を適用することは、その限りにおい
    て「公共のために用いる」場合にあたらず、財産権に対する違法な侵害とな
    り憲法二九条違反となるものである。
     本件の各土地についても全て、米軍が右目的のため一体となって活動する
    ための施設用地であるので、いずれに対する駐留軍用地特措法適用も適用違
    憲というべきである。
 (二) 違法に接収され、かつ約五〇年にわたって強制使用の対象となってきた本
    件各土地への新たな強制使用認定による著しい所有権侵害第八の三で述べた
    とおり、本件各土地の強制使用は、特定の国民にのみ、長期間にわたる特別
    に過大な財産権の制約をしかも違法な手続によって課してきたものであり、
    その本件各土地に対して新たに駐留軍用地特措法を適用して強制使用認定す
    ることは、財産権に対する最小限度の制約を超えるものである。
     この点に関し、原告は、「駐留軍用地特措法に基づく土地の使用は、従前
    のアメリカ合衆国の統治下における基地の使用や公用地暫定使用法に基づく
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    使用を継承するものではない」と適用法令の形式的な相違のみを主張してい
    る。しかし、 (1)対日平和条約三条に基づき国の意思で沖縄を米軍統治下に
    おいたこと、 (2)第八の三で述べたとおり、米軍統治下においても国の責任
    で米軍による違法な財産権侵害を是正すべき義務が存したこと、 (3)国が沖
    縄施政権返還時に右財産権侵害を除去する措置を何ら採らなかったこと、
     (4)その結果施政権返還後の米軍の基地利用が、一部の返還を除いては全く
    従前と同様になされて実質的な継続性が存すること、 (5)公用地法等による
    使用も適用法令の形式が異なるのみで、その適用対象、適用の効果及び現実
    の利用実態などその他全ての面において駐留軍用地特措法を適用した本件の
    場合と同一であることなどからすれば、国による「不継承」の主張は、実質
    的な根拠を欠く詭弁としかいいようがない。
 (三) 本件各土地の返還による公共性の優越
     強制使用・収用の目的そのものが「公共の利益」のためであったとしても、
    財産権制約の「必要かつ最小限度」の法理からすれば、収用のために失われ
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    る公共の利益と収用によって得られる公共の利益との比較衡量を行い、前者
    が後者よりも大であれば、結局「公共のために用いる」との要件にあたらず、
    収用することは許されないというべきである。
     本件各土地の使用によって失われる公共の利益についてみると、第四で検
    討したとおり、米軍基地による人身や財産に対する被害、地域振興に対する
    障害(健全な都市形成を図る上での制約、産業振興上の制約、交通通信体系
    上の制約等)など重大な公共性の侵害が存するのが実態である(本件各土地
    が存在する各施設の使用によるそれぞれの地域振興への障害などについては
    第四の四において述べたとおりである)。
     他方、軍事公共性が憲法上認められないことは第八の一等で述べたが、そ
    の点を措いても、冷戦後の今日においてわが国を防衛する目的において日米
    安保条約の役割が低下していること(第五の一)、現在の米軍基地が安保条
    約の目的を逸脱して運用されていること、今日地理的条件の上で沖縄に米軍
    基地を集中させる必要性がなくなったこと(第五の二)など、沖縄にこれま
    でどおりの米軍基地を駐留させる公益的必要性が失われてきていることが明
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    らかである。
     従って、これらの施設区域は「公共のために用いる」との要件を欠くので
    あるから国は米国に対して返還を求めなければならないにもかかわらず(第
    八の三)、それを怠って強制使用認定をしたのだから、かかる処分は憲法上
    保障された財産権を違法に侵害するものというべきである。
 (四) 返還予定地の強制使用の違憲
     本件各土地の存在する七施設のうち、那覇軍港は、一九七四年の日米安全
    保障協議委員会で移設条件付き返還が合意された土地である。
     従って、この土地は、もはや日米安保条約上の基地提供のためには不要と
    なったものである。にもかかわらず、返還が実現されないままその後二一年
    もの間使用が継続され、今回再び使用認定がなされている。
     しかし、返還が合意された時点ですでに「公共のために用いる」という要
    件を欠くに至ったのであるから、そのような土地に対する駐留軍用地特措法
    の適用は、やはり憲法二九条に違反するものというべきである。
     もっとも、移設条件がいまだ整っていない以上その間那覇軍港の使用を継
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    続することは公共性を有すると反論がありうるかもしれないが、それは誤り
    である。返還合意は、半ば遊休化している那覇軍港をそのまま維持するより
    も返還によって那覇市の都市振興のために利用することの方がより公益に適
    うとの判断があるからこそなされたのである。その合意の存在自体が、もは
    や基地維持の必要性の公益が返還による公益を下回ることを裏付けるものだ
    からである。また、移設が必要であるとしても、より公益を侵害するおそれ
    が少ない地域に移設するための努力を怠りながら長期間強制使用を継続する
    ことは、返還によって得られるより大なる公共の利益を侵害し続けることに
    なり、財産権保障の見地から許容されないものである。
 (五) 個人の農地や宅地として個人の自律的生存にかかわる性格を有する土地の
    強制使用は許されない。
     本件強制使用認定の対象となっている土地は、いずれも個人の農地や宅地
    として、個人の自律的生存にかかわる生存的財貨であり、これを政策的に強
    制使用することがゆるされないことは第八の三で述べたとおりである。従っ
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    て、本件各土地に駐留軍用地特措法を適用することは憲法二九条に違反する
    ものである。
  6 駐留軍用地特措法を在沖米軍基地の使用のために適用することの憲法一四条、
   九二条及び九五条違反
 (一) 平等原則違反
     沖縄県における米軍基地の遍在が沖縄県もしくは沖縄県民に不合理な差別
    をもたらしていることは、第八の二において述べたとおりである。
 (二) 憲法九二条及び九五条違反
     憲法九五条は、特定の地方公共団体のみに適用される特別法については適
    用の対象となる地方公共団体の住民投票を要求している。その趣旨は、国の
    特別法による地方自治権の侵害の防止、地方公共団体の個性の尊重、地方行
    政における民意の尊重とともに地方公共団体の平等権の尊重も含むものであ
    る(注釈日本国憲法下巻一四二九頁)。
     また、憲法九二条は、地方自治の本旨の尊重をうたっているが、そのうち
    には、地方団体に自律権を確保する団体自治の原理が含まれているところ、
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    団体自治の原理は、国からの不当な干渉を排するとともに、それぞれの地方
    公共団体に対する平等な取扱をも当然に要求しているものである。
     しかるに、駐留軍用地特措法は、その形式上はわが国すべての地域に適用
    されることになっておりながら、実質的には施政権返還前に米軍が強制的に
    接収した民有地が集中する沖縄県に所在する土地についてのみ適用されてい
    る。従って、駐留軍用地特措法がその地域的限定をすることなく一般的に適
    用されうる形式であってその立法自体に憲法九五条の住民投票が要件となる
    とまで言えなくとも、その適用場面において現実には沖縄県に対してのみ適
    用しているのだから、その適用にあたって住民投票を実施しないことは、憲
    法九二条及び九五条が保障しようとした地方公共団体の平等取扱の原則を侵
    害するものというべきである。
 (三) 従って、任意に使用権原を取得して使用している米軍基地の面積だけをとっ
    ても既に他地域よりも過重な基地用地の提供を受忍させられている上に、更
    に本件各土地に対して駐留軍用地特措法を適用して強制使用認定することは、
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    沖縄県ないし沖縄県に居住する住民を不合理に差別的に取り扱うものであり、
    憲法一四条、九二条及び九五条に違反するものであり、右違憲の使用認定に
    基づいてなした職務執行命令はその理由がないというべきである。
 三 本件強制使用認定の違法性
  1 はじめに
 (一) 本件立会・署名の根拠法たる駐留軍用地特措法が違憲・無効な法律である
    ことは既に述べたとおりである。本項は、右主張をしばらくおくとして、本
    件立会・署名に先行する使用認定行為が駐留軍用地特措法三条に違反するこ
    とを述べるものである。
     原告は、本件各土地に対して、駐留軍用地特措法三条及び五条にもとづい
    て使用認定をなし、その旨を一九九五年五月九日に告示した(以下、本件使
    用認定という)。本件土地・物件調書への立会・署名は、本件使用認定を前
    提としてなされる駐留軍用地の強制使用手続の一環であるところ、先行行為
    たる本件使用認定行為が違法であれば、その違法性は後続行為たる本件立会・
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    署名にも承継され、本件立会・署名も違法となる。
     従って、本件訴訟においては、本準備書面第一において詳述したように、
    当然に先行行為たる本件使用認定行為の適否が審査されるべきであるところ、
    本件使用認定行為は以下に述べるように駐留軍用地特措法三条の要件を欠い
    て違法であり、従って、本件立会・署名を求めることもまた違法である。
 (二) ところで、日本国憲法は、国民の財産権を基本的人権として保障しており
    (二九条一項)、この財産権は「正当な補償の下にこれを公共のために用ひ
    る」(同条三項)場合にのみ、法律の定める手続に基づき制限されるのであ
    る。
     強制使用は、本人の意思に反して国民の財産権を制限するものであるから、
    その要件は法律により厳格に規定されなければならないだけでなく、その解
    釈もまた厳格でなければならない。
     とりわけ駐留軍用地特措法は違憲性の疑いの免れない法律であり、日本国
    憲法の制定にともない軍事に関する事業が本来的に公共性を有しないとされ
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    てきた土地収用法の改正の経過を踏まえるならば、同法の適用にあたっては、
    強制使用認定の要件はより一層厳格に解釈されなければならないのである。
  2 強制使用認定の要件について
 (一) 使用認定の二つの要件
  (1) 駐留軍用地特措法三条は、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とす
     る場合において、その土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的
     であるときは、この法律の定めるところにより、これを使用し、又は収用
     することができる」と定め、駐留軍用地のための強制使用・収用の要件を
     規定している。
      右規定から明らかなように、駐留軍用地特措法に基づいて強制使用を行
     うためには、第一に、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする」と
     の要件(以下、「必要性」の要件という)と、第二に、「その土地等を駐
     留軍の用に供することが適正且つ合理的であるとき」との要件(以下、
     「適正且つ合理的」要件という)の二要件が必要とされている。
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  (2) 右の二要件が存することは、土地収用法との対比から言っても首肯しう
     る。
      すなわち、強制使用については、一般法たる土地収用法が存し、駐留軍
     用地特措法はその特別法たる性質を有するが、両法は強制使用要件につい
     てまったく同一の構造を有している。
      ただ土地収用法二〇条の一号要件は、使用対象事業が法定された事業に
     限定されているが、駐留軍用地特措法は、一条(目的)において「日本国
     に駐留するアメリカ合衆国の軍隊の用に供する土地等の使用又は収用に関
     し規定することを目的とする」として、対象事業が法定されているため、
     使用要件として改めて掲げることが不要となっていること、また、土地収
     用法二〇条の二号要件については、駐留軍用地特措法における申請書(起
     業者)が国であることから当然充足されるとして不要となっているにすぎ
     ない。
      このように、土地収用法との対比からいっても、駐留軍用地特措法に基
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     づく強制使用には、「必要性」の要件と「適正且つ合理的」要件の別個独
     立した二つの要件が必要とされているのである。
      以下、これらの要件について、その意味内容を明らかにする。
 (二) 二要件に共通する「駐留軍の用に供する」ことの意義
  (1) 「駐留軍の用に供する」ことが前提である
      駐留軍用地特措法三条の文言の規定の仕方から明らかなように、「必要
     性」の要件及び「適正且つ合理的」要件のいずれも、「駐留軍の用に供す
     る」場合であることが前提とされている。
      「駐留軍の用に供する」場合でなければ、「必要性」の要件も「適正且
     つ合理的」の要件のいずれも具備しないことになる。そこで、「駐留軍の
     用に供する」とはどういうことを意味するのかについて検討する。
  (2) 「駐留軍」の使用に限られる
      まず、駐留軍用地特措法に基づく強制使用は「駐留軍」の用に供する場
     合でなければならない。
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      ここでいう「駐留軍」とは、同法一条で明記されているように、日米安
     保条約に基づいて「日本国に駐留するアメリカ合衆国の軍隊」であり、同
     条約六条において規定された「アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍」を
     意味する。このように強制使用の対象たる土地等の使用主体はあくまでも
     「軍隊」に限定されている。従って、基地内で活動する機関であっても、
     それが日米安保条約上駐留を許された「軍隊」に該当しない場合には、同
     機関の用に供するために強制使用することは許されないといわざるをえな
     い。
      日米安保条約を受けて日本国における合衆国軍隊の地位を規定した地位
     協定は、その一条において「合衆国軍隊の構成員」と「軍属」及び「家族」
     との相違を明記し、さらに一五条において合衆国軍隊とは区別された「合
     衆国の軍当局が公認し、かつ、規制する海軍販売所、ピー・エックス、食
     堂、社交クラブ、劇場、新聞その他の歳出外資金による諸機関」の存在を
     確認し、それらの機関が「合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家
     族の利用に供するため、合衆国軍隊が使用している施設及び区域内」にお
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     いて活動することを認めている。
      すなわち、日本国が合衆国に対して提供した施設及び区域内では、合衆
     国軍隊だけでなく、歳出外資金によって運営する諸機関や軍属、家族等様々
     な種類の活動が行われることが予定され、現実に活動が営まれている。
      しかし、駐留軍用地特措法に基づいて強制使用をなしうるのは、右種々
     の利用形態の中でも、合衆国軍隊が主体となり直接の使用に供する場合に
     限られなければならない。なぜなら、同法に基づく強制使用は、日米安保
     条約の義務履行という理由により初めてその根拠を取得するものであると
     ころ、日本国が日米安保条約上アメリカ合衆国に対して施設及び区域の提
     供義務を負うのは、「アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍」が使用する
     場合に限られると明記されているからである。
  (3) 軍の用に供する」範囲内に限られる
      提供物件を使用するものが「駐留軍」の場合であっても、当該使用が
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     「軍の用に供する」と評価されるものでなければならない。
      そして、ここでいう「軍の用に供する」というのは、日本国がアメリカ
     合衆国に対し、日米安保条約六条に基づく施設提供の義務を履行するため
     に特別に立法された駐留軍用地特措法の立法目的からいって、当然、強制
     使用されるべき土地等が日米安保条約六条に掲げる軍隊駐留の目的を遂行
     するうえで必要なものであることを意味する。しかもその必要性は、財産
     権制限の一般法理である「必要かつ最小限度」の原則に加え、違憲の疑い
     の強い駐留軍用地特措法の厳格解釈の原則からいっても必須不可欠なもの
     に限られるべきである。
      この点に関し、旧日米安保条約下での駐留軍用地特措法に関するいわゆ
     るアニーパイル劇場事件について、次のように判示した東京地裁一九五四
     年七月二〇日判決が存する。
      「日本国は、行政協定により、合衆国に対し安全保障条約第一条に掲げ
     る目的の遂行に必要な施設及び区域の使用を許す義務を確実に果たすため
     の国内措置として、駐留軍の用に供する土地等の使用又は収用に関する特
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     別措置法を作ったのである。故に、特別措置法第三条にいう、土地等を駐
     留軍の用に供することが「適正且つ合理的」であるか否かは、その土地等
     が安全保障条約第一条に掲げる前記目的の遂行に必要な施設又は区域とい
     えるか否かということを基準として決しなければならない」(行裁例集五
     巻一号一二五頁)
      右判決は、このように判示した後、駐留軍々人の娯楽ないし慰安のため
     の劇場に供することは、駐留軍用地特措法三条にいう「適正且つ合理的」
     な使用に当たらないと判断している。正当な指摘と言える。
      右判決は「適正且つ合理的」要件の側面から「駐留目的の遂行」との関
     連を指摘したものであるが、同様のことは「必要性」の要件の側面につい
     ても言えることである。
  (4) 駐留目的の範囲内に限られる
      駐留軍用地特措法の目的は、その一条において「日本国とアメリカ合衆
     国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに
     日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定を実施するため、日本国に
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     駐留するアメリカ合衆国の軍隊(以下、「駐留軍」という。)の用に供す
     る土地等の使用又は収用に関し」と定められており、同条に掲げられてい
     る地位協定は、その二条において「合衆国は相互協定及び安全保障条約第
     六条の規定に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される。」と定
     めている。ここから駐留軍用地特措法の目的も日米安保条約六条によって
     規律されることになる。
      日米安保条約六条は、駐留軍の駐留目的が「日本国の安全に寄与し並び
     に極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」ことに存すること
     を明らかにしている。
      このように、駐留目的が「日本国の安全に寄与し」、「極東における国
     際の平和及び安全に寄与する」ものと限定されていることから、日本国及
     び極東以外の国際の平和及び安全に寄与するために使用される施設は、右
     駐留目的を逸脱するものであり、その用に供するための強制使用は許され
     ない。各施設の用途、機能ごとに具体的に検討されなければならない。
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  (5) 「極東」条項を逸脱する駐留軍基地
      アメリカ合衆国軍隊に駐留軍用地の使用が日米安保条約六条によって認
     められるのは、日本国の安全と極東における国際の平和・安全のためであ
     る。
      「極東」の意義について、一九六〇年二月二六日の政府統一解釈によれ
     ば、「極東区域は、・・・大体においてフィリッピン以北並びに日本及び
     その周辺地域で韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれてい
     る」とされている。
      ところが今や駐留軍基地は、右「極東」の範囲を越えて、太平洋、イン
     ド洋は無論のこと、中東に関する戦略の拠点としても使用されている。ペ
     ルシャ湾のホルムズ海峡制圧などを目的とした一九七九年八月の「フォ−
     トレス・ゲイル」演習への沖縄駐留海兵隊の参加、「中東有事発生の一六
     日後に沖縄駐留海兵隊二〇〇〇名を輸送船でペルシャ湾に投入する」とし
     たアメリカ議会予算局の公式文書、一九九一年の湾岸戦争への沖縄駐留海
     兵隊八〇〇〇人の参加、一九九二年のソマリア上陸作戦への沖縄駐留海兵
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     隊五六〇人の派遣などが、このことをはっきり裏付けている。
      もはや駐留軍基地は安保条約六条の極東条項を超えて使用され、違法な
     存在となっている。
  (6) 安保「再定義」による駐留目的のさらなる逸脱
      日米安保条約の存在の最大の論拠は「ソ連脅威」論であった。
      しかしソ連が崩壊し、東西冷戦が終結した今日、日米安保条約の存在意
     義そのものが鋭く問われるようになった。そのため、日米両政府は、冷戦
     終結後の日米安保体制のあり方を確認する必要性にせまられ、そのために
     なされたのが安保「再定義」の動きである。
      安保再定義の内容は、昨年二月二〇日に開催が予定されていた日米首脳
     会談で共同宣言として発表されることが予定され、その宣言案全文がマス
     コミに報道された。日米首脳会談は本年4月17日に延期されたが、その
     際に発表される共同宣言にも同様な安保「再定義」の疑念がある。
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      右宣言案によれば、「米国は死活的な国益の存在する地域に前方展開す
     るという世界戦略の一部として、東アジアにおける同盟関係を維持」する
     ものとして、日米安保条約を位置付けている。これは、日米安保条約が、
     「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持
     へ寄与する」というその本来の目的から大きく逸脱して、米国の国益のた
     めの世界戦略の一部としての役割を担うことを意味する。これに対し、日
     本政府は「日本が米国との協力の下、二国間、地域的及びグローバルな安
     全保障を維持、強化するため引き続き意義ある貢献を行う」として、その
     役割の分担強化を確認しているのである。
      右安保「再定義」については、米国防総省の発表した一九九五年二月の
     「東アジア・太平洋地域に対するアメリカの安全保障戦略」及び同年三月
     一日発表の「アメリカと日本の安全保障関係に関する報告書」においても、
     同様の認識が示されている。
      このように日米両政府は、東西冷戦終結後の駐留軍を、日本の安全や極
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     東条項の規定をはるかに越えたグローバルな戦略展開の一部として位置付
     け、それを安保「再定義」の名によって確認し、日米安保条約の実質的改
     変を推し進めようとしているのである。
      在日米軍基地、とりわけ在沖縄米軍基地は、これまでも日米安保条約の
     目的条項を逸脱した米軍の世界戦略に取り込まれ利用されてきたが、安保
     「再定義」はこのような実態を容認し固定化するばかりでなく、それを名
     実ともに地球的規模に拡大することを確認するものである。
      従って、このような「再定義」による役割を付与されている駐留軍基地
     に提供するために、駐留軍用地特措法に基づいて強制使用認定をなすこと
     は、日米安保条約六条の目的を逸脱するものとして違法だといわざるをえ
     ない。
  (7) 「駐留軍の用に供する」ことの充足
      以上に検討したように、「駐留軍」が主体となって、当該物件を「駐留
     目的(日米安保条約の目的)遂行」のために使用する場合に初めて、「駐
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     留軍の用に供するため」ということが充足されるのである。駐留軍用地特
     措法に基づいて強制使用・収用が認められるのは、正に右要件を備えるこ
     とにより、同法が日米安保条約上の義務履行としての性格を取得するから
     にほかならないのである。
 (三) 「必要性」の要件
  (1) 公益性と収用の必要性
      「必要性」の要件について、土地収用法では「公益上の必要」となって
     いるのに対し、駐留軍用地特措法では単に「必要」となっており、若干文
     言が異なっている。
      しかしこれは、駐留軍用地特措法においては、「駐留軍の用に供する」
     こと自体が公益上のものとされていることから単に「必要」のみと規定さ
     れたにすぎないのであって、土地収用法における「公益上の必要性」と同
     一の内容を定めたものと言える。
      従って、駐留軍用地特措法三条の「必要性」の要件は、駐留軍の用に供
     するため(公益性)であるか否か、土地等を必要とする(強制使用・収用
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     の必要性)か否か、という二つの判断を含むものである。前者については
     すでに述べたので、以下、後者についてその具体的内容を検討する。
  (2) 強制使用・収用の必要性
      当該物件の使用目的が「駐留軍の用に供するため」と認められても、そ
     れだけでは「強制使用・収用の必要性」という要件は充足されない。駐留
     軍の用に供することが「客観的」に必要とされて初めて、強制使用・収用
     の必要性は充足され、「必要性」の要件は具備されるのである。
      単に駐留軍が当該物件を使用・収用することを希望し、または便宜とす
     れば足りるのではなく、駐留軍が日米安保条約一条所定の目的を遂行する
     ために、当該物件を強制使用・収用することが客観的に必要とされる場合
     でなければならない。そして、この使用・収用の客観的必要性は、当然、
     当該物件が具体的に駐留軍のいかなる用途に充てられるかということとの
     関連でのみ決せられるのである。従って、強制使用・収用にあたっては、
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     当該物件が駐留軍のいかなる用途に使用されるかが具体的に検討されなけ
     ればならない。
      この点を指摘した駐留軍用地特措法に関する判例として、次のように判
     示した一九五四年一月二六日付の東京地裁判決をあげることができる。
      「適正かつ合理的であるとは、・・・同法立法経過に徴らしても単に駐
     留軍が当該物件を使用することを希望し、又は便宜とすれば足りるという
     のではなくして、安全保障条約第一条所定の目的を持って日本国に駐留す
     るについて当該物件を使用する客観的な必要性がある場合でなければなら
     ない。かかる使用の客観的必要性は、当該物件が具体的に駐留軍のいかな
     る用途に充てられるものであるかということの関連の下にのみ決せられる
     ことである」(行裁例集五巻一号一五五頁)。
      右判決は、「必要性」要件と「適正かつ合理的」要件とを混同している
     点に問題を残すものであるが、必要性が客観的なものでなければならない
     ことを判示している点は、正当な指摘と言える。
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  (3) 強制使用・収用の必要性の具体的基準
      「土地等を必要とする場合」という強制使用・収用の必要性は、二つの
     側面から検討されなければならない。  
      一つは、日本政府がアメリカ合衆国に対して当該物件を提供する必要性
     がどの程度のものかという「提供の必要性」の側面からの検討である。
      二つは、右提供の必要性が存するとしても、日本政府が国民からその財
     産権を制限してまで強制使用・収用しなければならないほどの必要性があ
     るかという「強制取得の必要性」の側面からの検討である。
      まず、「提供の必要性」についていうと、日本政府は日米安保条約上一
     般的な基地提供義務を負っているが、具体的にどの施設及び区域を提供す
     るかについては、アメリカ合衆国と協議して定めることになっており、必
     ずしもアメリカ合衆国が要求する施設及び区域を一方的に提供しなければ
     ならない条約上の義務を負うものではない(地位協定二条)。従って、こ
     の点については、日本政府は条約上かなりの裁量権を保有している。この
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     「提供の必要性」については、日本政府とアメリカ合衆国の問題であるか
     ら、その限りでは日本政府の判断にゆだねられているといえる。
      一方、「強制取得の必要性」という側面は、それが国民の財産権制限を
     もたらすだけに厳格に判断されなければならない。この強制取得の必要性
     を判断するにあたっては、次の点が当該物件やその具体的用途に即して考
     慮されなければならない。
     (1) 日本政府が主張する「提供の必要性」が駐留目的との関連で客観性を
      有しているか(客観性の存在)。
     (2) 当該物件でなければならない程の必要性があるか(非代替性の存在)。
     (3) 当該物件でなければならないとしても、それが強制使用・収用をして
      までも取得しなければならないほどに必要最小限の範囲内といえるか
      (必要最小限の範囲)。
      これらの判断要素はいずれも財産権制限の法理とされる「必要且つ最小
     限度」の原則から導かれるものである。これらが総合的に考慮されて客観
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     的な「強制使用・収用の必要性」が判断されなければならない。
  (4) 代替性の有無
      国土のわずか〇・六パーセントしかない狭隘な沖縄県内に、県土面積の
     一〇・八パーセントを占める二四五・二六二平方キロメートルという広大
     な駐留軍基地が存在し、国内に存在する駐留軍基地面積の二四・九パーセ
     ント、駐留軍専用施設面積でいえば実に七四・七パーセントが集中してい
     るという事実は、右必要性の判断をする場合に十分に考慮されなければな
     らない。
      沖縄県内の駐留軍基地は、本準備書面第三項で詳述したように、日本国
     憲法の適用が及ばない米軍施政権下で強権的に、何らの制限なく欲しいま
     まに構築されたものであり、必要以上に軍用地として土地が囲い込まれた
     経緯が存する。従って、日本国憲法の視点から基地の規模、位置等につい
     て再度厳しく点検することが必要であり、遊休地化している軍用地、住民
     の耕作を認めている黙認耕作地、他に集約することができる施設等、多く
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     の問題点が存しているのである。
      特に、前記の非代替性の存在については、他の物件で代替しうるという
     だけで「強制使用・収用の必要性」はないと判断されなければならない。
     なぜなら、代替性が存するということは、財産権制限の法理「必要且つ最
     小限度」の原則に反するということを意味するからである。
      いわゆる日光太郎杉事件控訴審判決は、道路用地のための強制収用に関
     して、「本来、道路というものは、人間がその必要に応じて自らの創造力
     によって建設するものであるから原則として『費用と時間』をかけること
     によって、『何時でも何処にでも』これを建設することは可能であり、従っ
     て、それは代替性を有している。」として、道路のもつ基本的性格を指摘
     した後、代替道路建設のために当該事業費の約三一・四倍の費用がかかる
     としても、当該土地付近の有するかけがえのない諸価値ないし環境の保全
     の要請が最大限に尊重されるべきであることを考えると、代替道路建設が
     不可能とは言えないと判示した(一九七三年七月一三日東京高裁判決)。
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     大いに参考とすべきである。
  (5) 被使用・被収用者側の事情
      「強制使用・収用の必要性」を判断する際には、使用者及び申請者(起
     業者)側の事情だけでなく、被使用・被収用者側の事情をも考慮されなけ
     ればならない。この点に関し、前記の日光太郎杉事件控訴審判決は、起業
     者側の事業計画の必要性から直ちに強制使用・収用の必要性を判断せず、
     起業者側が事業計画の実施を必要とする事情と収用対象物件の尊重される
     べき価値とを比較衡量して、強制使用・収用の必要性を判断すべきことを
     明らかにしている。極めて貴重な指摘である。
      特に沖縄においてはこの点が強調されなければならない。なぜなら、被
     使用者は既述のように自己の意思に反して駐留軍に土地を強奪されて以来、
     日本復帰前は駐留軍に、復帰後は日本政府により強制使用された経緯が存
     するからである。適正な手続きを経ないまま約五〇年間にわたり所有者の
     意思に反して財産権が制限されるという状態は、極めて異常であり、反憲
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     法的状態と評価しうるものとなっている(民法六〇四条が当事者の合意に
     よるも二〇年以上の賃貸借契約期間を定め得ず、これに反する契約期間は
     無効としていることを考慮に入れるべきである)。それだけに、被使用者
     の回復されるべき権利は、より一層高い尊重さるべき価値をもつものとい
     うべきである。
      日本政府の当該物件の強制取得の必要性は、被使用者側の右事情をも考
     慮して、その存否が判断されなければならない。
  (6) 「必要性」の要件の充足
      以上の諸要素が考慮され、「駐留軍」が「駐留目的遂行」のために、当
     該物件を「使用又は収用する客観的必要がある」と判断された場合に初め
     て、強制使用・収用要件の一つである「必要性」の要件が具備されること
     になる。
 (四) 「適正且つ合理的」要件
  (1) 土地利用の仕方についての規定
      「適正且つ合理的」要件の規定の仕方について、土地収用法と駐留軍用
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     地特措法は若干文言を異にしている。土地収用法は「土地の適正且つ合理
     的な利用に寄与するもの」と規定するのに対し、駐留軍用地特措法はただ
     単に「適正且つ合理的であること」と規定している。
      しかし、両法の構造からして右若干の文言の違いに特別の意味を見出す
     ことはできない。両法は同一の意味内容の要件を定めたものと解すべきで
     ある。従って、駐留軍用地特措法にいう「適正且つ合理的」とは、土地の
     利用の仕方が「適正」であり、且つ「合理的」であることを意味するもの
     と解する。
  (2) 「適正」の意義内容
    イ 土地利用の仕方は「適正」でなければならない
      「適正」概念の中心に正義の観念が存することは疑いえないが、その具
     体的内容に言及した見解は現在のところ見当たらない。思うに、強制使用・
     収用の要件の中に「適正」の文言が付加されたのは、土地収用法が憲法二
     九条を法的基礎としていることに由来するからであろう。憲法二九条は、
     「公共のために用いる」場合に限って財産権を制限できると規定し、土地
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     収用法はまさにこの「公共のために用いる」場合を具体的に定めたものと
     されている。このように、「公共のために用いる」ということは、財産権
     制限の正当理由とされているものであるから、単に公共の利益に寄与する
     というだけでなく、積極的に憲法及び法律に適合し、さらに社会正義に合
     致するという積極的意味・内容を含むものでなければならない。
      この 適法性ないし社会正義への合致 という積極的要素が、土地収用
     法及び駐留軍用地特措法の中で「適正且つ合理的」という形で使用・収用
     要件として規定されたものと解される。従って、「適正」な土地利用とは、
     憲法及び法律に適合し、社会正義に合致する土地利用を指すものと解すべ
     きである。
    ロ 違法状態の解消の必要性
      本訴に則して言うと、本件強制使用の対象となっている各土地は、前記
     のように約五〇年間にわたって所有者の意思に反して強制使用されてきた
     経緯が存するが、それが違法に使用されてきたと認められた場合に、引き
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     続き新たな強制使用をなすことは「適正な」土地利用とは到底言い難い。
      なぜなら、土地使用が適法に新たな使用権原を取得する性質のものだと
     しても、対象物件がこれまで違法に使用されてきたと認められる場合には、
     その違法状態を解消せずに引き続き新たに当該物件に対して強制使用をな
     すことは、既存の違法状態を追認し、それを実質的に承継することになっ
     てしまうからである。これでは、既存の違法状態が強制使用によって治癒
     され合法性を取得するという法の自己矛盾を惹起し、法的正義に合致する
     とはいえないからである。
      従って、約五〇年間にわたって強制使用されてきた本件各土地が、果た
     して適法に使用されてきたものであるか否かということは、本件各土地の
     利用が「適正且つ合理的」であるか否かを判断する上で回避できない不可
     欠な要件事実となっている。
    ハ 新たな違法状態の発生の回避
      また仮に、過去の強制使用が適法になされていたとしても、その強制使
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     用期間があまりにも長期に及んでいた場合に、さらに引き続き新たな強制
     使用をなすことは、その強制使用自体が所有権を実質的に侵害する違法状
     態を発生させるものとして「適正」とは認められない。従って、かかる新
     たな違法状態の発生を回避することが要請されているのである。
      この点に関し、民法六〇四条の立法趣旨が参考とされるべきである。同
     条項によれば、当事者の合意によるも二〇年以上の賃貸借契約期間を定め
     得ず、これに反する契約期間を無効としているのは、長期間にわたる所有
     権行使の制限は、所有権の機能を実質的に剥奪するとみなしたからに他な
     らない。
    ニ 比較衡量の問題は生じない
      この「適正」要素については、その性質上後述する「合理的」要素と異
     なり、比較衡量の問題は生ぜず、憲法や他の法律に抵触するか否か、違法
     状態が存するか否かという法的判断の問題が存するだけである。
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  (3) 「合理的」の意義内容
    イ 比較衡量による判断
      強制使用の対象となるべき土地の利用の仕方は、「合理的」でなければ
     ならない。
      ここでいう「合理的」とは、財産権制限の要件として規定されているも
     のであるから、当該物件を当該収用・使用目的に使うことが「合理的」で
     あるか否かというだけでなく、当該収用・使用によって失われる被使用・
     被収用者側の事情及び当該物件の他の用途との比較衡量によって判断され
     なければならない。なぜなら「合理的」という要素は、土地の利用の仕方
     について「公共の利益の増進と私有財産との調整を図(ろう)」(土地収
     用法一条)とするものと解されるからである。
      前記日光太郎杉事件控訴審判決は、この「適正且つ合理的」要件につい
     て、「その土地がその事業の用に供されることによって得られるべき公共
     利益と、その土地がその事業の用に供されることによって失われる利益
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    (この利益は私的なもののみならず、時としては公共の利益を含むもので
     ある。)とを比較衡量した結果、前者が後者に優越すると認められる場合
     に存するものであると解するのが相当である。」と判示している。
    ロ 比較衡量の対象−違法に形成された現況の排除
      この比較衡量の際、当該物件をとりまく状況を含めて、当該物件の現状、
     その有する価値ないし利益が検討されることになる。
      起業者(申請者)が申請した事業計画(使用目的)に基づく土地利用の
     仕方が合理的か否かの判断は、強制使用・収用時における対象土地の現況
     及びそれを取り巻く周辺状況をもとに、その歴史的、文化的、社会的諸側
     面から判断されることになる。しかし時としてこの比較衡量の対象となる
     現況が違法によって形成されてきた経緯が存在する場合がありうる。この
     ような場合には、この現況を形成してきた違法状態を度外視しあるがまま
     の現況を前提として土地利用の仕方について比較衡量を行うことは、現況
     を形成してきた違法状態を容認した上での「合理的」の判断となって前記
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     「適正」要素に反することになる。
      従って、「適正かつ合理的」であるか否かを判断する場合には、当然違
     法に形成された現況を排除し、違法なかりせばあったであろうと想定しう
     る状況(想定現況)を前提として、「適正かつ合理的」な土地利用である
     か否かを判断しなければならない。
      これまで詳述してきたように、本件各土地は、約五〇年間に及ぶ違法な
     土地使用によりいびつな現況が形成されてきたという沖縄特有の事情を有
     している。それだけに、本件強制使用認定時に本件各土地が既に軍用地と
     して利用されてきたという事実を前提にして、単純に、本件各土地を引き
     続き「軍用地」として利用することは「合理的」な土地利用の仕方である
     と判断することは相当でない。本件では、違法に形成されてきた本件各土
     地の現況を排除し、本来のあるべき状況を想定したうえでの比較衡量が行
     われなければならない。
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      本件各土地は、前記したように戦争行為及び駐留軍施政権下の土地強奪、
     並びに日本復帰後の公用地法によって軍用地としての現況が形成され維持
     されてきたのであるから、かかる現況を前提に「適正且つ合理的」な土地
     利用の仕方が比較衡量されてはならない。本件各土地は、違法な土地取り
     上げがなかりせば、市街地又は村落の中心地又はその一部として都市環境
     の中枢部に位置した土地であったり、又は村落周辺の豊かな田畑となって
     いたものであるから、そのようなものとして本件各土地の「適正且つ合理
     的」な利用が考慮されなければならない。
      このような状況を考慮の上、土地所有者の利用計画のもつ社会的、公益
     的意義、特に当該土地が都市形成上ないしは都市計画上どのような地位を
     占めているかを検討しなければならない。土地所有者らが違法に奪われた
     土地の返還を求めている行為は私的な利益の側面と同時に県民的な視点か
     ら公益的価値を有することを見落としてはならない。
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    ハ 基地被害の存在
      当該施設が、爆音公害、電波妨害等の基地被害を発生させている場合に
     は、当該土地の利用の仕方としては、マイナスの要因として、比較衡量の
     対象とされなければならない。特に地位協定によって、国民がアメリカ合
     衆国に対して直接基地被害の発生源を除去する法的請求をなしえないこと
     を考えると、国民が自らの土地を提供しないで基地被害の発生源の除去を
     求めようとすることは極めて高い公益的意義を有するものといえる。
    ニ 具体的用途による判断
      「合理的」な土地利用といえるか否かは、抽象的、一般的にではなく、
     当該土地に即してその具体的用途との関連で判断されなければならない。
     この場合、前記「強制使用・収用の必要性」について述べた諸要素が、改
     めてここでも考慮されることが大切である。
      特に、自由奔放に広大な軍用地を確保し使用する駐留軍に比し、残され
     た狭隘な土地で密集して生活する県民の実情を直視し、全県民的立場に立っ
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     て限られた土地をどのように利用することが求められているか、強制使用
     申請者(国)が使用目的として掲げる利用形態が果たして強制使用までし
     なければならない程の合理的な土地の利用といいうるのか、それらが具体
     的に検討されなければならない。その際、使用目的が格別本件各土地でな
     ければならない程の必要性を有せず、任意に取得した他の契約土地を利用
     することで足りる(代替性)事情が認められる場合には、それだけで申請
     者が主張する使用目的は、強制使用をしてまで使用する程の合理的な土地
     利用とは認められないものと判断されることになる。
    ホ 「適正且つ合理的」要件の充足
      以上の要素が考慮され、当該土地利用の仕方が「適正」で且つ「合理的」
     であると評価されたとき、強制使用・収用要件の一つである「適正且つ合
     理的」要件が具備されたことになるのである。
  3 瀬名波通信施設における本件使用認定の違法性
 (一) 本施設の概要及び機能
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     瀬名波通信施設(面積、六一・三ヘクタール)は、読谷村の北西にあるが、
    一九四九年、本施設内に、米国務省管轄のFBIS(海外放送情報サービス)
    が建設された。本施設は、アジア各国の公共放送を始め各種報道機関の通信
    まで傍受・分析し、軍事目的のために、いわゆる電波情報を収集する大規模
    な諜報組織の前線基地といわれていた。
     さらに、一九五七年以降、FBISに隣接して、ナイキ基地やメースB基
    地も建設されたが、施政権返還前から、発射訓練に際して、自衛隊幹部がす
    でに研修目的で参加していたといわれている。本施設内の「ボロー・ポイン
    ト射撃場」では、戦車の砲撃演習も実施されていた。施政権返還後、全施設
    の八割以上が返還され、残ったのはFBISの一部だけだが、いわゆる諜報
    組織の前線基地としての役割は変わらないといわれている。。
 (二) 「必要性」要件の欠如
     本施設が、東欧諸国の社会主義体制の崩壊、冷戦構造の終結により、当初
    予定された役割を終えたという事情、後述するトリイ通信施設だけでも、そ
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    の通信基地として役割・機能は十分果たせるという事情等を考慮すると、わ
    が国が米国軍隊に対して本件各土地を提供する「提供の必要性」はない。ま
    た、わが国が、本件各土地を国民から強制的に取得して米国に提供しなけれ
    ばならないという「取得の必要性」もないというべきである。従って、「必
    要性」の要件を欠くことは明らかである。
     原告は、本件各土地は、日米安保条約に基づき駐留軍が使用している「瀬
    名波g通信施設」の一部であり、「一筆は事務所用地として、一筆は電磁障害
    除去として、それぞれ使用されている。」という(甲第二号証の二)。
     しかし、そのうち、事務所用地として使用されているという、新垣昇一の
    所有する字瀬名波鏡地原八九六番地の二の土地(地積二五一・九九平方メー
    トル、地目畑)は、フェンスのすぐ内側にあり、実際に事務所用地としては
    利用されていない。右新垣の所有する右土地は、実は、ほぼ真四角の土地が、
    すべて米軍用地として強制使用され、フェンスで三角形の形に分断されてい
    た状況であったが、数年前、フェンス外の三角形の部分は返還されたが、フェ
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    ンス内の三角形の部分が、本件強制使用認定されたものである。右新垣とす
    れば、フェンス外の三角形の部分だけを返還されたとしても、有効な利用が
    できないのは当然である。また、フェンスを移動しさえすればよいのである
    から、右新垣への右土地の返還は容易である。このような右新垣の右土地の
    状況からして、わが国が、米国軍隊に対して、右土地を提供する「提供の必
    要性」はなく、また、わが国が、右土地を右新垣から強制的に取得して米国
    軍隊に提供しなければならない「取得の必要性」もないことは明らかである。
    従って、少なくとも、右新垣の所有する右土地については、客観的「必要性」
    の要件を欠くことは明らかである。
 (三) 「適正且つ合理的」要件の欠如
     読谷村は、一九七三年三月、残波リゾートゾーン計画を策定し、その後、
    同決定の見直しを経て、現在、残波公園、パブリック・ビーチが整備され、
    リゾート・ホテルやスタジオ・パーク等が誘致されている。しかし、米軍に
    よる本件各土地の強制使用及び瀬名波通信施設の存在が、同村の効果的な土
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    地利用計画の遂行を妨げているものである。
     よって、本件各土地を米軍用地として利用するよりも、本件各土地を剥奪
    された所有者らの損失がはるかに大きく、本件土地の強制使用が、読谷村の
    計画的な土地の有効利用を妨げている等の事情を比較衡量すると、本件各土
    地を強制使用しなければならない具体的必要性は全くなく、「適正且つ合理
    性」の要件を欠くことは明らかである。
  4 嘉手納弾薬庫地区における本件使用認定の違法性
 (一) 嘉手納弾薬庫の概要
     嘉手納弾薬庫地区は、読谷村、嘉手納町、沖縄市、具志川市、石川市及び
    恩納村の区域にまたがり、面積二八八三・五ヘクタールを占める広大な米軍
    施設である。
     同地区は、一九四五年、米軍の沖縄占領と同時に使用開始され、当初は、
    嘉手納飛行場に隣接する地域に、嘉手納弾薬庫、比謝川サイト及び波平弾薬
    庫が構築されたが、その後、読谷合同弾薬処理場、陸軍サービス弾薬庫等の
    施設が次々構築され、それぞれが独立した九つの施設であった。復帰に伴い
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    これら九施設は、嘉手納弾薬庫地区として統合され、その後一九七六年八月、
    南部弾薬庫や瀬長島在の海、空軍補助施設の弾薬庫の返還に伴う代替施設と
    して、弾薬庫が建設され、更に一九七八年一月、読谷補助飛行場の一部返還
    に伴う代替施設として犬舎等建物が設置されるに至った。
     本施設の存する地域は、琉球松やスダジイが群生し、リュウキュウケナガ
    ネズミ、セマルハコガメ等の貴重な動植物が棲息しているほか、本島中部地
    域において水源が最も豊富で、長田川、平山川、与那原川及び比謝川が流れ
    ており、重要な水資源涵養林地域となっている。
     本施設は、第一八航空団が管理し、米軍の陸軍、空軍及び海兵隊がこれを
    使用している。
     本施設は、極東最大の嘉手納飛行場に隣接し、右飛行場に飛来する戦闘機
    への補給はもとより、空軍、海兵隊及び海軍の各種兵器の貯蔵庫として、極
    東地域への弾薬類の補給貯蔵補給地区としての役割を果たしている。
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     本施設内は、弾薬貯蔵地域と保安地域にわかれている。弾薬貯蔵地域は、
    立入も厳重にチェックされ、特定の場所以外は禁煙とされており、覆土式、
    野積式及び土屋式の各弾薬庫がいたるところに存するほか、整備工場、実験
    室及び事務所があり、弾薬の組立、整備及び貯蔵管理が行われている。
 (二) 土地を使用する「客観的必要性」の欠如
  (1) 原告は、本件各土地は、日米安保条約に基づき駐留軍が使用している
     「嘉手納弾薬庫」の一部であり、「九筆は弾薬庫保安用地として、使用さ
     れている。」という(甲第三号証の二)。
  (2) ところで、本件各土地のうち、一筆は、フェンス付近に存し、国道五八
     号に隣接している。
      フェンス付近の当該土地は、弾薬庫からは一キロメートル以上離れてい
     る。このように、フェンス付近に存し、弾薬庫からは遠く離れた当該土地
     について、強制使用までして米軍に提供する客観的な必要性が存しないこ
     とは明らかである。
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      ちなみに、火薬類取締法施行規則二三条は、「火薬庫は・・・その貯蔵
     量に応じ火薬庫の外壁から保安物件に対し、次の表の保安距離をとらなけ
     ればならない」と規定し、火薬庫に存する火薬類の種類、貯蔵量に応じ、
     保安物件と火薬庫との間にとるべき保安距離を保安物件毎に規制している
     が、爆薬四〇トンの最大量の火薬類を貯蔵する火薬庫であっても、第一種
     保安物件(国宝、建造物、市街地の家屋、学校、保育所、病院等)から五
     五〇メートル以上も離れておれば、その施設は可とされているし、第二種
     保安物件(村落の家屋及び公園)からは、四八〇メートルでも可とされて
     いる。
      右の基準でいえば、フェンス付近の当該土地に、第二種保安物件たる村
     落の家屋が仮に存していたとしても、火薬庫たる本件弾薬庫の設置は可と
     されるものであり、逆にいえば、既に存する弾薬庫から四八〇メートルも
     離れている当該土地に、第二種保安物件たる集落の家屋を建築することす
     ら、右法規上は可とされていることになる。
      右の事実一つからみても、フェンス付近に存する当該土地について、弾
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     薬庫の保安用地として強制使用する客観的必要性が存しないことが明らか
     である。
  (3) 本件各土地のうち、一筆は、嘉手納ロータリーから沖縄市池武当に通ず
     る県道に接しており、弾薬庫からは、はるかに離れたところに位置してい
     る。これについても、弾薬庫保安用地として使用されなければならない必
     要性は全くない。
  (4) 右に述べたことから、わが国が、米国に対して、本件各土地を提供する
     「提供の必要性」もなく、わが国が、本件各土地を国民から強制的に取得
     して米国に提供しなければならないという「取得の必要性」もないという
     べきである。
 (三) 「適正且つ合理的」要件の欠如
  (1) 本件各土地のうち、大部分は、読谷村に存在している。同村に存する部
     分は、同村が策定した土地利用基本計画において農用地保全区域または、
     森林保全区域に指定されている。右部分のうち、フェンス付近の土地につ
     いては、ほとんど農用地保全区域にくいこまれていて、集団優良用地地域
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     として開発が予想されている。しかし、同村における農業の生産性は低く、
     今後の地域農業を確立するためには、根本的には、土地改良や農業用水施
     設の完備等農業生産の基盤整備が必要である。ただ本件各土地の存する部
     分について言えば、弾薬庫ノ保安用地として使用されているがために、土地
     改良等の基盤整備事業ができず、土地の有効利用ができない状態におかれ
     ている。
      また、本件各土地のうち、フェンス付近の土地は、いづれも、森林区域
     にくみこれまており、自然環境保全管理区域、もしくは自然災害発生防止
     区域に指定されている。この区域は、自然災害発生防止、水資源保全及び
     自然環境の保全が十分なされていないばかりか、放置されており米軍によ
     る樹木の伐採、松くい虫の多量発生による松の立ち枯れ等の被害が発生し
     ている。この区域も、基地ゆえにその保全管理ができず、土地利用計画の
     実施が困難になっている。
  (2) 右に述べたように、本件各土地は、保安用地として使用されているもの
     の、弾薬庫から遠く離れた場所に位置しており、保安用地としての機能は
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     ほとんど果たしていない。これを、保安用地として使用する必要性も合理
     性もない。逆に、これらの土地を農業用地あるいは宅地として開発使用す
     ることが、社会常識的にみてもはるかに適正であり且つ合理的である。
      関係各市町村は、嘉手納弾薬庫地区が返還された場合の、具体的な跡地
     利用計画を有している。
      例えば、沖縄市では、市民のための「平和で文化的なまちづくり」の促
     進を目的としているが、市民の生活環境整備、都市基盤、産業基盤の整備
     を円滑に進めるためには、軍用地の返還が不可欠であるとして、軍用地跡
     地利用計画を立て、軍用地の返還後の整備の基本方向を提示している。
      これによると、「嘉手納弾薬庫地区一帯は、沖縄本島北部と中南部地域
     の自然・生態系のクロスポイントであり、中南部地域でも広大で良好な自
     然環境が残されて」おり、かって「生活の場であり、集落が形成されて」
     おり、「沖縄市やその周辺地域の自然環境・都市環境等を支えるクサテイ 
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     森として重要」なところであるということに着目し、市民にとってかけが
     えのない財産を擁している嘉手納弾薬庫地区一帯を『市民の森』として位
     置づけ、「生態系への対応」「歴史的ストックへの対応」「付加価値の高
     い生産への対応」「森林活用型公園づくりへの対応」「合理的なアクセス
     (支援設備の整備)」の五つの基本方針のもとに、道路ネットワークの整
     備を前提として、キャンプ場、ハーブガーデンゾーン、林業体験ゾーン、
     陶芸体験ゾーン、施設園芸体験ゾーン、エントランス修景ゾーン等として、
     跡地利用することが、具体的に構想されている。
  (3) 以上述べたことから、本件各土地の強制使用は、憲法及び法律に適合し、
     社会正義に合致する土地利用ではなく、到底「適正」とはいえず、本件各
     土地を米軍用地として利用するよりも、本件各土地を剥奪された所有者の
     損失がはるかに大きく、本件各土地の強制使用が、読谷村、沖縄市はじめ
     関係各市町村の土地利用計画の実施の妨げになっている事情を考慮すると、
     到底「合理的」とはいえない。従って、「適正且つ合理的」の要件を満た
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     さないことは明らかである。
  5 楚辺通信所における本件強制使用認定の違法性
 (一) 施設の目的と概要
     楚辺通信所は、キャンプ・ハンザーと呼ばれ、読谷村字波平、座喜味、上
    地にあり、五三万五、〇〇〇平方メートルの敷地内に、通称「象のオリ」と
    呼ばれる直径二〇〇メートル、高さ約二八メートルの巨大なケージ型アンテ
    ナと一〇〇本余の棒状アンテナを有する施設で、在沖米艦隊活動司令部/海
    軍航空施設隊が管理している。施設の使用部隊は、海軍通信保安活動隊沖縄
    ハンザー部隊、国防省特別代表部沖縄事務所第一分遣隊である。同様の施設
    は在日米軍基地ではもう一カ所青森県三沢基地にある。楚辺通信所の敷地の
    九三・一%は私有地である。
     この施設は、航空機、船舶その他の軍事通信を傍受して、アンテナに取り
    囲まれた中心部の施設のコンピュータ室などで分析、処理し、トリイ通信施
    設と地下ケーブルで結ばれて一体の活動をしているといわれているが、具体
    的な機能などは公表されていない。沖縄施政権返還の際に在沖米軍基地の使
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    用条件などを定めた日米「合意文書」(五・一五メモ)の公表部分を見ても、
    「使用目的=通信所」、「使用条件=不明」とだけ記されている。しかし、
    それが戦闘機や艦船、原子力潜水艦等による通信についての傍受や暗号解読
    などを目的にした軍事情報の分析センターであり、米国国家安全保障局(N
    SA)と結びつくことによって、世界中に張りめぐらされたいわゆる米国諜
    報組織の前線基地の役割を担っている施設であることは明らかである(この
    ことは同一機能をもつ三沢の通信所についての米海軍施設技術軍太平洋軍
    「三沢海軍施設マスタープラン」に明記されている)。
 (二) 施設の強制使用の経過
     本施設は、一九四五年の沖縄戦当時からの軍事占領の継続として使用開始
    された。一九七二年の沖縄の施政権返還に伴い、楚辺海軍通信補助施設及び
    楚辺方向探知東サイトが統合され、楚辺通信所として提供施設となっている。
    その敷地については、今日まで部分的な返還も全く実現していない。
 (三) 使用対象の土地の所在と使用の現状
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     本件使用認定対象地主のうち、知花昌一が所有している訴状別紙目録3の
    土地(「知花昌一所有地」という)が本件施設内に存する。右土地の現況は、
    前記アンテナの鉄塔の一部の敷地となっている。
 (四) 使用認定の要件の欠如について
  (1) 「駐留軍の用に供する」(駐留目的に向けられていること)との要件の
     不存在
      前述のとおり、今日の在日米軍自体が、日米安保条約の目的条項を逸脱
     した存在である以上、駐留軍用地特措法上も、「駐留軍の用に供する」と
     の要件を欠くこととなる。
      特に本件施設が、わが国の平和の維持等の目的を超えた米国の世界的な
     諜報組織の一部に組み込まれてその機能を行使している実態からすれば、
     右要件の欠如は一層明らかといえる。
  (2) 「必要性」要件の不存在
      本施設の機能については右のとおり述べたが、米軍自身からはこれまで
     使用目的を詳らかにされてなく、また飛行場などと比較すると外部からは
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     その機能は容易に知り得ない。しかし、財産権制限の「必要且つ最小限度」
     の法理からすれば、目的が明らかでないのに強制使用をすることはそもそ
     もその必要性を客観的に担保できないので、「必要性」要件を欠くという
     べきである。
      なお、原告は、日米安保条約の維持のためにいずれの施設がどのような
     必要性を有しているかについても「高度に政治的な裁量判断」であると主
     張するかもしれないが、仮に安保条約の維持が「高度に政治的な裁量判断」
     であるとしても、それに基づいて個人の財産権を制約するにあたっては、
     個別に「必要且つ最小限度」か否かが問われなければならないのは当然で
     ある。かかる場合にその必要性の判断をすべて国の裁量行為としたときに
     は、個人の財産権保障はその実質を失うものと言わざるを得ない。
  (3) 「適正」要件の欠如
      本施設区域は、一九四五年に米軍占領と同時に接収され、今日まで基地
     のために余儀なく提供させられてきている土地であるが、その経過の違法
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     性は「第三沖縄の米軍基地の形成過程」で述べたとおりである。もっとも、
     知花昌一所有地は、従前米軍基地提供のために国との間で賃貸借契約を締
     結してきた土地である。しかし、土地取り上げの経過をみると、進んで土
     地を提供したものではなく米軍による占領という既成事実を作り上げられ、
     しかも返還を求めるという選択が出来ない状態で、自由な意思に基づかず
     に賃貸借契約の締結を余儀なくされたことは明らかである。従って、従前
     形式上は所有者が賃貸借契約を締結してきたからといって、土地占領及び
     接収にあたっての適正手続の欠如の経過の瑕疵が治癒されたとはいえない。
     この違法性を是正しないまま、新たに賃貸借契約の予約締結をしなかった
     からといって使用認定をなして強制使用すること自体「適正」とは到底い
     えない。
  (4) 「合理的」要件の欠如
      本施設及びその周辺地域一帯は平坦な台地上にあり、主に農業地域とし
     て利用されている。本施設の区域の大半も実際黙認耕作地として農業的利
     用がなされている。ところで、本施設に関しての読谷村としての具体的な
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     跡利用計画は未だ策定されていない。しかし、読谷村は本件施設区域を含
     め、村域の四六、九パーセントを米軍用地に占拠されている状態で、農業
     を中心とした産業振興のために多大な障害をもたらしているのが実状であ
     る。
      他方、本件施設区域は、広大な面積を占めるが、前述のアンテナ施設な
     どに実際利用されている部分はごく一部である。従って、仮に本施設が必
     要とされる場合であったとしても、任意に土地を賃借している部分に移設
     をして利用することは可能であり、それにより、土地を自ら有効利用しよ
     うとする土地所有者の利益との調整が図られ、より合理的利用に資すると
     いうべきである。
  6 トリイ通信施設における本件使用認定の違法性
 (一) 本施設の概況及び機能
     本施設は、一九八万〇〇〇〇平方メートルの面積をもつ施設で、本施設内
    には、部隊事務所、兵舎及び機材倉庫等の建物と、アンテナ等の工作物が存
    在し、軍人、軍属及び家族の約二〇〇〇人が勤務しているとのことである。
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    しかし、本施設内に居住するのは数百名の軍人等にすぎないと見られる。
     本施設の使用目的は、本施設の名称に見られるように通信所である。本施
    設は、米陸軍第一〇地域支援群が管理する施設であるが、使用部隊は、第一
    〇地域支援群司令部セクション、第一〇地域支援群司令部中隊、第一特殊部
    隊(空挺)第一大隊、第三四九信号中隊、第一八任務支援中隊民間人人事部
    等の使用のほか、空軍諜報軍所属の第六九九〇電子保安中隊、楚辺通信所に
    本部を置くハンザー海軍安全保障グループの一部が常駐し、米軍統合情報処
    理センターとして四軍に使用されているといわれる。
 (二) 本件各土地の使用目的と使用の現状
     原告は、本件各土地は、日米安保条約に基づき駐留軍が使用している「ト
    リイ通信施設」の一部であり、「土地四筆は、電磁障害除去地(二筆)、隊
    舎敷地(一筆)及び倉庫敷地(一筆)として、それぞれ使用されている。」
    という(甲第六号証の二)。
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     しかし、本件各土地のうち、隊舎敷地として使用されているという部分は、
    実際は隊舎敷地としては使用されておらず、フェンスから数メートルの個所
    に更地として、なんら使用されない状態で存している。
     その他の部分については、果たして、いかなる形態の使用がされているか
    明確ではない。その点、現地での検証が必要である。
 (三) 「駐留軍の用に供する」に該当しない
  (1) 駐留目的の逸脱本施設は、前記のように、米国の四軍により情報処
     理センターとして使用されているが、それは、もっぱら、旧ソ連、北
     朝鮮、中国、旧北ベトナム等の国々の放送、通信等を傍受して、解読
     しているものであり、本施設で処理された情報は、もっぱら米本国で
     集中管理され、全く我が国には通知されないものであり、本施設は、
     いわゆる諜報組織の前線基地の性格を有しているといわれている。
          本施設がもつ右機能・役割は、もっばら米国の世界戦略のための情
     報蒐集を行うものであり、なんら「日本国の安全に寄与し、並びに極
     東における国際平和及び安全に寄与する」ものではない。
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          特に、東欧諸国の社会主義体制が崩壊し、東西の冷戦構造が終結し
     た現在、本施設について、このような諜報組織の前線基地としての役
     割を維持・存続させておく必要性は全くない。
          従って、本施設の使用目的、使用実態は日米安保条約の駐留目的を
     逸脱するものであり、本施設への提供のために強制使用を行うことは
     許されないものである。
  (2) 「駐留軍」以外の機関の使用
          本施設について、四軍の使用以外に、どのような機関が、どのよう
     な形態で使用しているのか、その実態は明らかにされていない。しか
     し、アメリカ合衆国の軍隊ではない米中央情報局CIAの機関の一つ
     である“CSG”(混成サービスグループ)、“FBIS”(海外情
     報放送サービス)等の使用も指摘されており、その使用実態の解明が
     必要である。
          仮に、右機関が使用しているとすると、右機関は、日米安保条約に
     より駐留を認められた米国の軍隊ではないことは明らかであるから、
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     右機関の使用する目的のために、駐留軍用地特措法に基づき強制使用
     することが許されないのは当然である。
 (四) 「必要性」要件の欠如
         前記のように、本施設は、通信施設として、外国の通信を傍受するこ
        とを主な任務とするものであるが、本施設が仮に必要だとしても、すで
        に、国は、契約により賃借した広大な土地を提供土地として米軍に提供
        しているのであるから、右提供土地内に本施設を設置すれば足りる。本
        件各土地の所有者の意思を無視し、強制使用までして、本件各土地上に
        本施設を存置させなければならない客観的必要性、具体的理由は何一つ
        存しない。
         再三指摘されているように、在沖米軍基地は、日本復帰前に、必要以
        上に広大な土地を囲い込み、基地を形成してきたという歴史的経緯をも
        つものであるが、復帰後に至っても、右既成事実が、無批判に追認・承
        継された事実が存する。従って、駐留軍用地特措法の基づく強制使用及
        び収用にあたっては、正義の観念に則り、厳格にその必要性が総合的観
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        点から検討されなければならない。
         右総合的観点からすると、わが国が、米国に対して本件各土地を提供
        する「提供の必要性」もなく、わが国が、本件各土地を国民から強制的
        に取得して米国に提供しなければならないという「取得の必要性」もな
        いというべきであり、「必要性」の要件を欠くことは明らかである。
 (五) 「適正且つ合理的」要件の欠如
  (1) 「適正」要件の欠如
          本件各土地は、一九五二年から同五三年にかけて、何らの法令の根
     拠なく強制使用されたものである。
          右強制使用当時、本件区域は楚辺区住民の集落地となっていたもの
     であるが、基地建設のため住民の立退きが命ぜられ、その後に強制使
     用が開始され、違法に米軍の土地使用が開始されたものである。
          従って、日本復帰により、日本国憲法が適用されるに至った時には、
         すみやかに右違法使用状況を解消し、本件各土地を地主に返還すべき
     ものであった。ところが、復帰に際する経過措置として、暫定的に本
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     件各土地を使用する必要が存するとして、国は、「公用地法」によっ
     て、本件各土地を継続使用し、同法の使用期間が満了するや、駐留軍
     用地特措法に基づき本件各土地を使用したものである。
          右経緯から明らかなように、本件各土地の所有者らは、米軍及び国
     により、長期間、その意思をふみにじられて本件各土地を強制使用さ
     せられてきたものである。このように、長期間にわたって違法に所有
     権を制限された状態をなんら解消することなく、それを実質的に承継
     ・継続するため、駐留軍用地特措法を適用することは、憲法及び法律
     に適合し、社会正義に合致するものといえず、「適正」要件を欠くこ
     とは明らかである。
  (2) 「合理的」要件の欠如
          本施設地域の有効利用
          本施設は読谷村に所在するが、周知のように、読谷村は、約四七%
     を米軍用地に取られ、残りの約五三%で村民が生活を余儀なくされて
     いる地域であり、同村、村民及び所有者らが本件各土地を使用する必
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     要性はきわめて大きい。とりわけ、本施設周辺には、読谷高校、古堅
     中学校があり、本施設が存するがゆえに、本施設をとり囲むようにし
     て、市街地がいびつに形成されており、本件各土地所有者のみならず、
     周辺地域住民にとっても、本件各土地を使用する必要性は非常に大き
     い。
           右のように、本件各土地を含めた本施設上の土地の有効利用につい
     て、周辺住民の高い要求が存するのに対し、通信施設を本件各土地に
     存しなければならない具体的理由・必要性は何一つ存しない。
          本施設は通信施設として、外国の通信を傍受することを主な任務と
     するものであるが、前記のように本施設を読谷村に存置しなければな
     らない必要性はない。せいぜい通信傍受の関係から本島西側に位置す
     ることが必要とされるぐらいであり、そのためには、すでに米軍は山
     岳部を含めて本島西岸に多くの提供土地を有するのであるから、同所
     に本通信施設を移転すればこと足りるものである。本施設を同村に存
     置しなければならない必要性は全くない。
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          よって、本件各土地を米軍用地として利用するよりも、本件各土地
     を 剥奪された所有者及び地域住民の損失がはるかに大きく、本件各土
     地の強制使用及び本施設の存在が、読谷村の計画的な国土利用を妨害
     していることを併せ比較衡量すると、本件各土地を強制使用しなけれ
     ばならない具体的理由・必要性は全くなく、「合理性」の要件を欠く
     ことは明らかである。
  (3) 以上のことから、本件各土地の強制使用は、「適正且つ合理的」の
     要件を満たさないことは明らかである。
 (六) 本件各土地についての検討
  (1) 本施設は、兵舎等が所在する建物地域、通信施設が所在する通信管
     理地域(二重フェンス地域)及び棒状アンテナが所在するアンテナ地
     域とに分かれ、いずれもフェンスで囲い込まれている。
          前記隊舎敷地、倉庫敷地及び場内管理道路敷地とされた部分は、い
     ずれも右建物地域に所在し、残りのアンテナ敷地及び電磁障害除去地
     とされた本件各土地は、右アンテナ地域に所在している。
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  (2) 本件各土地のうち、一筆は、建物地域に所在するが、現実には建物
     敷地として利用されておらず更地となっており、住民地域と施設とを
     隔てるフェンスから数メートルの位置にあり、当該土地を強制使用に
     より使用する合理的理由は全く存しない土地である事については、前
     述したとおりである。
  (3) 本件各土地のうち、一筆は、建物区域に所在するが、現実には建物
     敷地としては利用されておらず、兵舎間に横たわる芝生地となってお
     り、当該土地を返還しても格別本施設に支障をきたすものではなく、
     若干不便となる程度のものにすぎない。当該土地は、トリイ通信施設
     正門から道路を通って一〇〇メートル余で到達する地点であり、当該
     土地を返還して、所有者にその利用を許すことこそ、当該土地の適正
     且つ合理的利用と評すべきものである。
  (4) また、本件各土地のうち、二筆は、電磁障害除去地として使用され
     ているが、その土地の一部については、アンテナ施設が平地に建てら
     れていることから、強制使用の必要性が生じているものであるから、
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     アンテナ施設を高層化する(三階ないして四階建の工作物の上に設置
     するか、又は、アンテナ施設をより高くする等)等の適当な措置をと
     れば、電磁障害除去地とされている土地を返還して、所有者らの通常
     利用に供することが十分可能である。
          本施設に存するアンテナは、棒状アンテナであり、比較的少ない経
     費で、アンテナ部の高層化が可能であり、そうすることにより本件各
     土地の所有者との合理的な調整利用が可能といえる。当該二筆の土地
     については、現状においても、電磁障害除去地として利用する必要性
     はないものと思われる。また、当該二筆の土地は、いずれもフェンス
     近くに所在し、当該二筆の土地を返還しても格別の障害は生じないも
     のといえる。
  (5) いずれにしても、原告は、本施設の通信施設の内容及びその機能の
     実態、本件各土地を強制使用する具体的必要性を明らかにし、本件各
     土地を強制使用する「適正且つ合理的」な理由が存することを明らか
     にする責務を負っている。本件各土地を強制使用する「適正且つ合理
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     的」な理由が存在することの立証責任は、国が負うべきものであり、
     同立証が尽くされない限り、強制使用の要件である「適正且つ合理的」
     要件は充足されず、本件強制使用は違法・無効となるべきものである。
  7 キャンプ・シールズにおける本件強制使用認定の違法性
 (一) 施設の目的と概要
     本施設は、沖縄市字知花及び登川に位置し、七〇万一〇〇〇平方メートル
    の面積をもつ施設で、在沖米艦隊活動司令部/海軍航空施設隊が管理してい
    る。施設の使用部隊は、海軍機動工兵大隊、太平洋艦隊海軍工兵大隊司令部
    沖縄分遣隊である。施設内には、在沖米国艦隊活動司令部事務所、兵舎、修
    理工場、クラブ(将校、一般兵、LPO)、映画館等の建物が存在し、約五
    〇人の軍人、軍属及び家族が居住しているとのことである。
     本施設の使用目的は「宿舎、事務所及び訓練場」とされているが、現実に
    は主に軍人、軍属及びその家族の居住(兵舎)、及び娯楽施設として使用さ
    れ、一部が「シービー」と呼ばれる海軍の工兵部隊の使用する車両修理工場、
    及び資材置場として利用されているに過ぎない。
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 (二) 施設の強制使用の経過
     本施設は、一九五二年七月の米陸軍の接収によって使用が開始された。沖
    縄の施政権返還に伴い、日米安保条約に基づく提供施設となった。これまで
    数回にわたり細切れの一部返還がなされ、今日の現況に至っている。
 (三) 使用対象の土地の所在と使用の現状
     本件使用認定対象地主のうち、島袋善祐が所有する訴状別紙目録6の土地
    (「島袋善祐所有地」という)がキャンプ・シールズ内に存し、本件の使用
    認定申請書(甲第五号証の一)によれば倉庫及び駐車場敷地とされているが、
    実際にはいずれにも利用されてない更地の状態である。
 (四) 使用認定の要件の欠如について
  (1) 「駐留軍」の使用の要件の不存在
      本件施設は、クラブ、映画館、そして軍人、軍属及び家族らのための住
     宅など、合衆国軍隊の直接の利用に供するものではない部分が相当割合を
     占めている。前述のとおり駐留軍用地特措法はこれらについて強制使用・
     収用の対象とはなしていないと考えられるので、「駐留軍」の用に供する
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     との要件を欠くものである。島袋所有地自体も単なる駐車場と倉庫への利
     用であるので、右要件を欠く。
  (2) 「駐留軍の用に供する」(駐留目的に向けられていること)との要件の
     不存在
      前述のとおり、今日の在日米軍の活動の実態が、安保条約の目的条項を
     逸脱している以上、駐留軍用地特措法上も、「駐留軍の用に供する」との
     要件を欠くこととなる。
  (3) 「必要性」要件の不存在
      島袋善祐所有地を強制使用してまで駐車場及び倉庫として利用する客観
     的必要性は存在しないので、必要性の要件も欠けるというべきである。
      そもそも本施設区域のうち、現実に有効に使用されている土地は半分に
     も満たず、遊休提供地がかなり存するのである。本施設は、米軍施政権下
     における強権を利用して、不要不急の土地を囲い込んだ典型的な施設とい
     える。現実に島袋善祐所有地も、以前は資材置場として使用されていたが、
     数年前から資材も撤去され、駐車場などとされていたが、現在は既に駐車
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     場としても利用されず、また倉庫なるものも存在せず、全く更地のまま遊
     休化しているのである。そのため、島袋善祐所有地を利用できないとして
     も、それ自体既に遊休化しているのであり移設の経費云々は全く問題とな
     らず、また、仮に以後駐車場や倉庫用地が必要であるとしても、施設区域
     内の他の遊休提供地に駐車場や倉庫を設置すれば済むはずである。現実に
     島袋善祐所有地のすぐ近隣に同様の遊休地が存在している。しかも、単な
     る駐車場や倉庫である以上、それらを設置する場所がどうしても右土地で
     なければならないという必然性も生じない。要するに代替性は十分にある
     のだから、強制使用するまでの「取得の必要性」は存しないというべきで
     ある。
      また、本施設は、前記のように兵舎、娯楽場、修理工場、資材置場の使
     用目的をもった施設で民間人の立ち入りを禁止すべき性質の施設ではない。
     現に本施設及び区域内の指定された出入路は、合衆国軍の活動を妨げない
     ことを条件に地元住民の通行が認められることが日米合同委員会で合意さ
     れ、地元民は右制限付きではあるが現実に出入りを行っている。島袋善祐
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     所有地は、地元住民が出入りを認められている右指定路まで約二〇メート
     ルと近接した位置に所在し、右土地が返還されても、何ら本施設の機能に
     影響を及ぼすものではない。
      なお、島袋善祐所有地に対する「使用の認定を申請する理由書」(甲第
     五号証の二)によれば、右土地は「施設全体と有機的に一体として機能し
     ている」とされている。しかし、単に基地内の施設は一つの軍事目的のた
     めに相互に連関している、という程度の抽象的な「有機的一体」性の主張
     のみでは、右使用認定の必要性の根拠とはなりえない。なぜなら、右使用
     認定の適否については、その対象となる土地毎に判断しなければならない
     のであり、本件ではまさに基地内の島袋善祐所有地一筆を使用認定せずに
     返還することに支障があるか否かが問題だからである。そうすると、その
     土地が本施設内の他の言葉どおり「有機的一体」といえるためには、当該
     土地上の物件(駐車場及び倉庫)が、他の施設内の物件との関係上密接不
     可分に関連しており、当該場所以外に設置することによりその物件相互の
     機能を喪失ないしは著しく減退するような場合でなければならないのは当
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     然である。
      これを島袋善祐所有地についてみると、その土地上に設置するという駐
     車場や倉庫自体が、まさにその土地になければ機能を果たし得ないという
     わけでなく、施設内の近隣の遊休地に設置することによって従前通りの機
     能を発揮することができるものである。従って、右土地が「施設全体と有
     機的に一体として機能している」との主張は、強制使用の必要性の根拠と
     はなりえない。右の主張は、島袋善祐所有地自体が米軍による「有効利用」
     もなされていないことを承知していながら、それでも強制使用を押し通す
     ために持ち出してきた弁解に過ぎないのである。
  (4) 「適正」要件
      本施設は、一九五二年にいわゆる「銃剣とブルドーザー」によって強制
     的に接収され、沖縄の施政権返還後も違憲の「公用地法」、「地籍明確化
     法」などにより今日まで強制使用されているのであるが、その経過の違法
     性は「第三 沖縄における基地形成史」で述べたとおりである。その違法
     性を是正しないまま更に継続して使用認定すること自体「適正」とは到底
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     いえない。
  (5) 「合理的」要件
     (1) 本施設の不合理な利用の実態
      本施設は右のとおり不要不急の遊休施設であるため、これまで六回にわ
      たって合計約七一万四九七〇平方メートル返還されており、団体営畑地
      帯総合土地改良事業や東南植物楽園などに利用されている。しかし残さ
      れた施設区域についても、大半が遊休地となって放置されている状況に
      あり、本施設を利用しているのはわずか約五〇名程度の兵員に過ぎない。
      実態としては不合理な土地の利用状況であることは明白である。
       また、島袋善祐所有地を返還して駐車場等を移設するとしても、わず
      か数十メートル移動させれば済むことであり、かつ駐車場等に過ぎない
      以上移設に多額の費用がかかるということも全くないのに、そのまま強
      制使用を継続することは著しく不合理である。
     (2) 本施設返還による利用の必要性
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       それに比べ、本施設用地を返還して自由な土地利用を許す社会的必要
      性、効用は極めて大きい。
       本施設は、西部を嘉手納弾薬庫に、北西部を東南植物楽園に隣接して
      おり、施設の東側には沖縄自動車道及び国道三二九号をはさんで返還済
      みの旧「キャンプ・ヘーグ」があるほか、病院や集落がある。施設の北
      側一帯は主に農地になっている。
       沖縄市は、市域四八、九四平方キロメートルのうち、三六、八パーセ
      ントの一八、〇一平方メートルに米軍基地が存在しており、残る三〇、
      九三平方メートルに約一一万五、〇〇〇人が居住しているという人口過
      密な都市である。本施設は右のような位置に存するため、施設区域の返
      還に伴い、農業的利用をなすとともに、沖縄市の近郊住宅地として利用
      開発する意義は極めて大きい地理的関係にある。
       沖縄市では、狭隘な市域に占める米軍基地が平和の面のみならず都市
      開発や産業振興上で大きな障害となっていることを踏まえ、基地の返還
      実現に努めるとともに跡地利用計画も順次策定してきている。これまで
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      嘉手納弾薬庫地区、キャンプ瑞慶覧、泡瀬通信施設及び嘉手納飛行場に
      関して開発整備方針の検討をなしてきており、本施設についても近い将
      来跡地利用計画の検討が開始されるであろうとみられる。その際には本
      施設の右地理的特性を生かした跡地利用計画が策定されると見込まれる。
       従って、本施設の合理的利用の見地からすれば、現況の米軍基地とし
      て提供するよりも返還して市民的利用に委ねるのが当然といえる。また、
      跡地利用の計画が未策定の段階であっても、前記施設の遊休化の実態か
      らすれば、島袋善祐ら自ら利用を望む所有者に対してはそれぞれの市民
      の利用に任せるのが土地の有効利用に最も資するところである

  8 嘉手納飛行場のおける本件強制使用認定の違法性
 (一) 嘉手納飛行場の概況
          嘉手納飛行場は、嘉手納町、沖縄市、北谷町の一市二町にまたがって
    存在し、その総面積は一九九七万五〇〇〇平方メートルである。その内
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    訳は、嘉手納町八八五万二〇〇〇平方メートル(同町の約五九・一四パ
    ーセント)、沖縄市七四六万平方メートル(同じく約一五・二六パーセ
    ント)、北谷町三六五万九〇〇〇平方メートル(同じく約二七・七〇パ
    ーセント)である。
     同飛行場は、いずれも三〇〇メートルのオ−バ−ランをもつA、B二
    本の滑走路(Aは延長三六五〇メートル・幅九〇メートル、Bは延長三
    六五〇メートル・幅六〇メートル)を有し、太平洋地域最大の米空軍基
    地である。右滑走路を中核として、同施設内には駐機場、エンジン調整
    場、F 用シェルタ−、照明設備、保安柵、ゴルフ場等の工作物があり、
    また司令部事務所、管制塔、タ−ミナル、格納庫、兵舎、住宅、学校、
    教会、劇場、銀行、消防署、診療所等の建築物がある。
          同飛行場は、第五空軍指揮下の第一八航空団のベースとなっており、
    その主力は第一八作戦群である。同部隊は、F−15イーグル戦闘機を
    それぞれ一八機有する三個(第一二、第四四、第六七)の戦闘機中隊、
    空中警戒管制中隊、空中空輸機中隊及び戦術管制中隊等から編成されて
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    いる。
          同飛行場には、第一八航空団の外に、第六〇三軍事空輸支援群をはじ
    めとする多数のテナント部隊が管理部隊として配置されており、防空、
    反撃、空輸、支援、偵察、機体整備等の総合的な基地となっている。
 (二) 「駐留軍の用に供する」ことの不該当性
      在沖米海兵隊は、世界のどこへでも、いつでも出撃できるよう再編
     強化され、湾岸戦争では八〇〇〇人が、ソマリア上陸作戦では五六〇
     人がそれぞれ派遣されたが、いずれも嘉手納飛行場等がその出撃基地
     として利用された。
      このように嘉手納飛行場は、中東紛争のための駐留軍の拠点となっ
     ており、安保条約六条の駐留目的を逸脱しているといわざるをえない。
      よって、本施設内の本件各土地に対する強制使用認定は「駐留軍の
     用に供する」という要件を欠き、違法である。
 (三) 「必要性」要件の不存在
     嘉手納飛行場は、北西側の飛行場地区と南西側の居住地区からなる。
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    居住地区には、基地司令部、兵舎、通信施設、家族住宅、幼稚園、小・
    中・高校、、病院等があるほか、図書館、野球場、ゴルフ場、映画館、
    ボ−リング場等の教養娯楽施設が完備されている。
     住宅地区部分は、いわゆる日本政府の思いやり予算で駐留軍家族用住
    宅が次々と建築されているとはいえ、未だ広大な面積が遊休地となっい
    るうえ国道五八号からも見える広大なゴルフ場をかかえている。
     駐留軍家族用住宅及び駐留軍人の子どものための学校を基地内に設置
    することが駐留軍にとって便宜的に優れているということができるとし
    ても、それは駐留軍の直接の利用に供するとはいいえないばかりか、駐
    留軍家族用住宅は民間もしくは地方自治体経営の住宅でまかなうことは
    十分に可能(代替性の存在)である。 従って、駐留軍家族用住宅用地
    及び学校用地として本件各土地を強制使用することは「駐留軍」の使用
    に該当せず、かつ客観的必要性をも欠如するものといわざるをえない。
     本施設内の各土地のうち、住宅地区部分に所在している比嘉康雄所有
    地の沖縄市字山内唐道原六〇番一、六〇番二の土地はいずれも学校用地
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    として、金城昇所有の沖縄市字山内西原一一六九番、及び高宮城清所有
    の沖縄市字白川白川原三八二番一の各土地は、いずれも家族住宅敷地と
    して使用されており、それらの使用の継続のためにさらに本件強制使用
    認定がなされたのであるが、それらの使用はいずれも軍隊でない機関の
    用途のためになされているのであるから、「駐留軍」の使用に該当しな
    いといわざるをえない。
     また、嘉手納飛行場の外縁部に位置してフェンスの直近に所在してい
    る比嘉康雄所有の右二筆の土地、並びに駐車場敷地として使用されてい
    る喜友名朝則所有の沖縄市字山内石迫原一五七六番の土地は、いずれも
    それらを返還したとしても基地機能には何ら支障は生じないのであるか
    ら、これらの土地を強制使用する客観的必要性は存しないといわざるを
    えない。
     さらに、比嘉康雄所有の沖縄市字大工廻大工廻原三二番、三四番の土
    地は、いずれも資材置場敷地として使用されているが、嘉手納飛行場内
    には他にも資材置場は存しており、それに集約しうるのであるから、右
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    二筆の土地を強制使用する客観的必要性はこれまた存しないのである。
 (四) 適正且つ合理的要件の不存在
  (1) 適正要素の欠如
      嘉手納飛行場は、旧日本軍が一九四四年に中飛行場として開設して
     いたところ、一九四五年四月の米軍の沖縄本島上陸にともない直ちに
          占領され、その後、布告二六号により米軍使用の法的根拠が基礎づけ
          られ、また沖縄の復帰に際しては「公用地法」とそれに続く「地籍明
          確化法」にもとづいて使用継続がなされたが、それらの歴史的経緯及
          び違法、違憲性は既に詳論したところである。
       このように嘉手納飛行場内の本件各土地は、駐留軍用地特措法にも
     とづく強制使用がなされる時点で、すでに長期間にわたり、特に復帰
     以降は、日本政府自らの手によって違法な使用状態が形成されてきた
     こと、また、一九四五年以降五〇年間という長期間にわたって所有者
     らの意思に反して所有権行使が制限されてきたこと、それらの土地に
     対して、さらに、本件強制使用認定をなすことは所有権の機能回復の
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     機会を剥奪するものであり、実質的な所有権剥奪であると言い得るこ
     と等に照らせば、本件土地を強制使用することは到底「適正」な土地
     利用とは認められないといわざるをえない。
  (2) 合理的要素の欠如
            嘉手納飛行場には戦闘機、空中空輸機等八〇機が配備されており、
     これら航空機による離発着、エンジン調整、タッチ・アンド・ゴー訓
     練のほか、米空母監戦機や国内外から飛来する米軍機の飛行活動は、
     騒音発生源となっている。そのため、周辺住民は長期間にわたり騒音
     被害をうけ、多大の犠牲を強いられてきた。一九九四年度の騒音測定
     の結果、同飛行場周辺で二三ポイント中九ポイントが環境基準値を超
     えていることが報告されている。
      厚木、横田の両飛行場については、飛行時間の制限に関する日米合
     同委員会合意が存在するが、嘉手納飛行場及び普天間飛行場について
     はない。ちなみに、嘉手納飛行場における駐留軍航空機による騒音被
     害は、うるささ指数で年平均七七・八で受忍限度を超えており、また
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     午後一〇時から翌朝午前七時までの夜間飛行は年六〇回を上回ってい
     るのである。現在、嘉手納基地爆音訴訟が控訴審において係属中であ
     るが、その一審判決は受忍限度を超える騒音被害の存在を認定し、被
     害者らの損害賠償請求を容認している。なお、沖縄県は、一九九五年
     九月、嘉テ手納、普天間両飛行場における航空機騒音を軽減させるため
     に「航空機騒音の軽減に関する措置」をまとめ、嘉手納飛行場におけ
     る海軍駐機場の撤去または移設とともに、日米両国政府に要請してい
     る。
            また、嘉手納飛行場では、沖縄の復帰以前から航空機の墜落事故が
     相次いで発生していたが、復帰後も一八件の墜落事故が発生して、周
     辺住民に不安を与えたり、一九九二年になってPCB漏出による土壌
     汚染が発覚する等の基地被害を発生させている。
      さらに、嘉手納飛行場の存在によって、前記のとおり、嘉手納町は
     町面積の五九パーセント余を、沖縄市が一五パーセント余を、北谷町
     が二七パーセント余を基地にとられ、それぞれ基地の周辺に追いやら
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     れ、見るからに基地にへばりつくような形で狭い地域にひしめくこと
     を余儀なくされているのである。これら自治体の平和で効率のよい地
     域振興開発にとって、嘉手納飛行場がいかに障害となっているかは一
     目瞭然である。
      これらの事情を考慮するならば、本施設内の各土地を嘉手納飛行場
     用地に提供することは、合理的要素を欠如するといわなければならな
     い。

  9 那覇港湾施設における本件強制使用認定の違法性
 (一) 本施設の概況及び機能
     那覇港湾施設は、那覇市垣花町、住吉町、字鏡原に所在し、沖縄県の
    海の玄関である那覇商港那覇埠頭と同一港湾にあり、勝連町のホワイト
    ビ−チ地区に次ぐ大きな軍港で、その面積は五七万五〇〇〇平方メ−ト
    ルである。北側を民間が、南側を米軍が本施設として使用し、岸壁に管
    理事務所や倉庫等が立ち並んでいる。 
     本施設内には、大小一四のバ−ス(大型七、中型五、小型船用二)、
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     五つの野積場、二つの大きな上屋倉庫等がある。以前使用されていた
    港湾管理事務所、機械修理工場は遅くとも一九八三年一一月には完全閉
    鎖され、それ以降はまったく使用されていないといわれている。
     本施設は、復帰前、特にベトナム戦争中は軍艦や原子力潜水艦が頻繁
    に出入港していたが、現在は米陸軍運輸管理部隊と連携し、輸送船を使
    って軍需物資の搬出入港として使用されている。利用状況(入港数)は
    一九八六年七九隻、同八七年九六隻、同八八年四二隻、同八九年三三隻、
    同九〇年二五隻、同九一年四五隻、同九二年一六隻、同九三年一六隻、
    同九四年一八隻であり、特に一九八八年以降は激減している。一九九一
    年は湾岸戦争の影響もあって増加がみられたが、一九九二年以降は一六
    隻もしくは一八隻と月平均一隻強まで減少してほとんど遊休化の状態に
    ある。
         なお、本施設は第一五回(一九七四年一月三〇日)日米安全保障協議
    委員会で移設条件付全面返還が合意されているが、移設先が決まらず、
    合意から二二年余が経過した現在も返還は実現していない。
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 (二) 「必要性」要件の不存在
  (1) 代替性の存在
      一九七四年一月三〇日に開催された第一五回日米安全保障協議委員
     会で、本施設の移設条件付全面返還が合意されていることは前述した。
     このことは、本施設の機能、役割は他の施設に集約することができ、
     代替しうることを意味している。従って、代替性の存する本施設内の
     各土地に対し、「強制使用の必要性」は存しないことは明白である。
  (2) 客観的必要性の不存在
      前記したように、現在、本施設の利用状況は激減して月平均一隻強
     の入港数となっており、明らかに施設全体として遊休化した状態とな
     っている。そのうえ、本施設内の港湾管理事務所、機械修理工場は一
     二年以前から完全に閉鎖されているといわれている。
      本施設内の各土地のうち、那覇市所有の那覇市垣花町二丁目四一番、
     四一号の二の各とちは、港湾管理事務所用地としての利用のために、
     また、同市所有の那覇市垣花町七番、八番一、一一番二の各土地及び
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     同市垣花町三丁目五七番、五八番の各土地、並びに徳里進・徳里正秀
     ・徳里恒雄共有の同市垣花町三丁目九一の土地は、いずれも機械修理
     工場敷地としての利用のために、それぞれ本件強制使用認定がなされ
     たものである。しかし、完全に閉鎖され遊休化した港湾管理事務所及
     び機械修理工場用の敷地として、これらの各土地を強制使用する客観
     的必要性がまったく存しないことは明白である。
      このように全体として遊休化した本施設のために、また閉鎖された
     機械修理工場用敷地として、本施設内の本件各土地を強制使用する客
     観的必要性は最も存しないというべきである。
 (三) 「適正且つ合理的」要件の不存在
  (1) 適正要素の欠如
      本施設は、一九四五年、米軍の占領と同時に接収され、その後布告
          二六号により米軍使用の法的根拠が基礎づけられ、沖縄の復帰に際し
     ては「公用地法」とそれに続く「地籍明確化法」に基づいて使用継続
     がなされたが、それらの歴史的経緯及び違法、違憲性は既に詳論した
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     とおりである。
      このように、本施設内の本件各土地は、駐留軍用地特措法に基づく
     強制使用認定がなされる時点で、すでに長期間にわたり、特に復帰以
     降は国自らの手によって、違法な使用状態が形成されていたのである。
     従って、その違法状態を解消せずに、しかもその違法状態を自ら作り
     出した国自身の汚れた手によって引き続き強制使用をなすことは、使
     用を開始するに至る手続自体が法的正義に反するものとして「適正」
     とはいいえない。 
      また、一九四五年以降五〇年間という長期間にわたって、所有者ら
     による所有権行使が制限されてきた本件各土地に対し、さらに駐留軍
     用地特措法に基づいて強制使用認定をしたことは、所有権の機能回復
     の機会を剥奪し、実質的な所有権侵奪である。このことは、私有財産
     権との調整原理を根幹とする土地収用法制の基本精神を逸脱するもの
     として違法であり、「適正」な土地利用とは認められない。
  (2) 合理的要素の欠如
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      本施設は、那覇港港湾施設の一部である那覇埠頭区の南岸に位置し
     ているが、過密状態にある那覇港の状況に鑑みて、駐留軍の用に供す
     るよりも、那覇市が商港として使用し、又は漁港、観光港として利用
     することが公共の福祉を増進することとなって「合理的」である。
      沖縄本島と周辺離島からなる沖縄県の県民生活及び経済社会活動に
     必要な物資の移入、移出は、その大部分が海上交通に依存している。
     那覇埠頭区、泊埠頭区、那覇新港埠頭区、浦添埠頭区からなる那覇港
     は、背後に本県の中心集積地である那覇、浦添両市を擁する交通の要
     衝に位置した本県第一の商港である。従来より本土、外国及び先島を
     結び定期航路の拠点として貨客輸送における重要な役割を担ってきた
     が、経済社会活動の拡大発展に伴い、その役割はますます重要視され
     ている。
      そのため、県内外及び国外からの港湾取扱貨物量は年々増大してい
     るが(ちなみに一九八九年以降の取扱貨物量は一四〇〇万トンを越え
     るようになり、一九九三年度一五九四万九四二八トンである。)、既
     存の係留施設及び港湾施設用地では対応できず、貨客の円滑な流通が
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     阻害されている状況が顕著である。海上交通体系整備のために本施設
     の早期返還は不可欠である。 このように那覇港の狭隘さを解消する
     ために、本施設を商港として那覇市の使用に供することが、県民福祉
     の向上に寄与し、「合理的」であることは明白である。
      那覇市は、本施設の返還に備えて、跡地利用計画を一九八二年度よ
     り継続的に検討してきたが、一九九〇年度には「那覇港湾施設(那覇
     軍港)跡地利用基本計画調査」を実施している。那覇市の計画案によ
     れば、本施設の西側に流通加工、業務等の産業系ゾ−ンを、中央部に
     国際交流ゾ−ンを、東側に商業サ−ビス、居住、レクレ−ションポ−
     ト等の文化・レクレ−ション系ゾ−ンをそれぞれ配置し、本施設の跡
     地を豊かなウォ−タ−フロント交流ゾ−ンに形成することを計画して
     いる。これと並行して、本施設の地主等で構成されている那覇軍用地
     等地主会においても、「那覇軍港跡地及び周辺整備基本計画」を一九
     九一年に策定している。このように本施設は、跡地利用計画が具体化
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     しており、県民福祉の向上のためにも早期返還が強く求められており、
     その返還によせる県民の期待は大きいものがある。
      一方、本施設は、国道三二二号沿いであり、また近くには本県の空
     の玄関である那覇空港をひかえ、市街地内に位置しているが、本施設
     が軍港として駐留軍の用に供され、弾薬の運搬にも利用されているこ
     とに鑑みれば、爆発の危険性は常にはらんでおり、県民に与える不安
     は大きい。
      以上によれば、本施設を強制使用するための「適正かつ合理的」要
     件は存在しないというべきである。
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