国 第五準備書面


平成七年(行ケ)第三号
職務執行命令裁判請求事件

                    原告 内閣総理大臣

                    被告 沖縄県知事

      原告第五準備書面


平成八年三月一日
                   右原告指定代理人
                    川 勝 隆 之
                    松 谷 佳 樹
                    植 田 和 男
                    田 村 厚 夫
                    富 田 善 範
                    田 川 直 之
                    小 澤 正 義
                    崎 山 英 二
                    浦 田 重 男
                    原 田 勝 治
                    安 里 國 基
                    久 場 景 一
                    屋 長 朝 郎
                    小 澤   毅
                    林     督
                    地 引 良 幸
                    千 田   彰
                    内 山   孝
                    西 村 和 敏
                    里 吉   勝
                    芦 田 栄 司
                    小 竹 秀 雄
                    世 利 隆 司
                    高 岡 辰 榮
                    大 石   毅
                    佐 伯 惠 通
                    新 城 弘 康
                    古 波 一 男
                    宮 国 恵 守
                    野 島   皓
                    斉 藤   勝
                    野 村 庄 一
                    運 天 常 隆
                    田 名 弘 明

福岡高等裁判所那覇支部 御中

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 原告は、被告第六準備書面に対し、次のとおり反論する。
一 被告は、訴状添付別紙物件目録1記載の各土地、同目録2記載の各土地のうち松
 田正太郎の所有地、同目録7記載の各土地のうち金城昇、比嘉信子及び喜友名朝則
 の各所有地、並びに同目録8記載の各土地(以下「平成四年の使用裁決に係る土地」
 という。)については、前回の使用の裁決の申請時に作成した実測平面図を再使用
 したものであるとし、このことを理由として、右土地に係る土地調書の作成手続に
 瑕疵がある旨主張する。
  しかし、被告の右主張は、以下に述べるとおり失当である。
1(一) 防衛施設局長が、駐留軍用地特措法一四条一項、土地収用法三六条の規定
   に基づき作成する土地調書は、収用委員会の裁決に係る審理の資料とするため
   のものであるから、使用認定後、裁決申請時までの時期における土地の状況を
   把握して、作成すべきものである。しかし、このことは、もとより土地調書の
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   作成に必要な資料が使用認定後に収集されたものに限定されるということを意
   味するものではない。すなわち、防衛施設局長が使用認定前に調査、測量して
   収集した資料を利用して使用認定後に土地調書を作成することは、何ら土地調
   書の作成の趣旨に反するものではない(土地収用法実務研究会編著「土地収用
   法一問一答」(ぎょうせい)一四一ページ参照)。仮に、土地調書の原案自体
   は使用認定の前に作成されていたとしても、使用認定後に防衛施設局長が土地
   の現状に変化がないことを確認し、使用認定後の土地の現状を表す土地調書と
   して完成すれば、土地調書の作成手続としては、何ら瑕疵はない。
 (二) 訴状添付別紙目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)に係る土地
   調書(以下「本件土地調書」という。)に添付された実測平面図は、原告第四
   準備書面二ページないし六ページで述べたとおり、平成四年の使用裁決に係る
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   土地に限らず、いずれも本件使用認定前からあった既存の資料である登記所備
   付けの地籍図(訴状添付別紙目録6記載の土地(以下「目録6記載の土地」と
   いう。)については地籍図の原図)と位置境界明確化作業において調査、測量
   された成果を利用して、その原案を作成した上、現地において測量し、対象土
   地の各筆界点を特定して、現地で土地の位置境界を確認し、現地復元性がある
   ことを確認したものである。
 (三) そして、平成四年の使用決裁に係る土地以外の各土地については、いずれ
   も本件使用認定の申請の前に測量作業を実施し、本件使用認定の後、那覇防衛
   施設局職員が、現地において、本件使用認定前に現地で測量した際に打った杭
   等の状況に変化がないことを計測等により確認し、右各土地に係る実測平面図
   の原案が本件使用認定後の土地の現状を表すことを確認した上で、これを右土
   地に係る土地調書に添付して、土地調書を作成した。
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 (四) また、平成4年の使用決裁に係る土地についても、右(二)で述べたとお
   り、本件使用認定申請前に各実測平面図の原案を作成したが、今回の駐留軍用
   地特措法に基づく使用の手続のために改めて現地で測量作業をしていない。こ
   れは、原告第四準備書面五ページで述べたとおり、前回の使用決裁申請のため
   に現地で測量した際に打った杭などの状況に変化がなかった(このことは、証
   人佐伯惠通が証言したとおり、那覇防衛施設局の職員が現地で各杭間を計測す
   る等の方法により確実に確認している。)ので、測量作業を最初からやり直す
   必要を認めなかったからである。そこで、本件使用認定の後に、那覇防衛施設
   局の職員が、現地において右各土地に係る実測平面図の原案が本件使用認定後
   の土地の現状を表すことを確認した上で、これを右各土地に係る土地調書に添
   付して、土地調書を作成した。したがって、この各実測平面図と右(三)記載
   の各実測平面図とは、その性質を異にするものではない。
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2(一) 右1(二)、(四)で述べたとおり、平成四年の使用裁決に係る土地につ
   いても、被告が主張するように前回の使用決裁申請の際に作成した各実測平面
   図をそのまま使用しているわけではなく、右各土地に係る各実測平面図は、今
   回の駐留軍用地特措法に基づく使用の手続のために新しく作成されたものであ
   る。ただ、右各土地に限らず、本件土地すべてについて、実測平面図の基礎資
   料は、前述のとおり位置境界明確化作業において調査、測量された成果等を利
   用しているので、前回又はそれより更に前にされた使用裁決申請の際に添付さ
   れた実測平面図の作成当時の基礎資料と変化がないため、結果的に同一の内容
   の実測平面図が作成されている(毎回、同一の土地について使用裁決の申請を
   しているのであるから、自然現象による地形等の変容が生じない限り、実測平
   面図が相違することはあり得ない)。しかし、これらについても、申請の都度
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   使用認定の後に土地の現況を確認した上で、その現況を表す実測平面図を作成
   し、これを土地調書に添付しているのである。
 (二) 被告は、実測平面図に代えて公図の写しを添付した土地調書は適法でない
   旨の小澤道一著「遂条解説 土地収用法 上」の記載を引用し、あたかも本件
   土地調書に添付された実測平面図が右の類の図面であるかのような主張をして
   いる。
    しかし、右1記載のとおり、本件土地調書に添付した実測平面図は、地籍図
   ばかりでなく、位置境界明確化作業において調査、測量された成果(図根点か
   らの方位角、距離等の本件土地の筆界点を特定するための資料は、基本的にこ
   のときの測量によって得られた数値に基づいている。)を利用して作成したも
   のであり、被告の主張は誤りである。なお、このような資料は、過去の調査、
   測量の成果であるが、那覇防衛施設局長が行った位置境界明確化作業により得
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   られた資料であって、那覇防衛施設局長がその精度を確認しているものである。
二 目録6記載の土地について
 1 被告は、「編集地図確認書」に訴外島袋善祐が署名押印したからといって、目
  録6記載の土地が特定したものとはいえないと主張する。
   しかし、原告は、編集地図確認書に訴外島袋善祐が署名押印したことだけから、
  目録6記載の土地の位置境界が特定したと主張しているのでなく、原告第四準備
  書面八ページないし一一ページで述べたような事情を総合することによって、目
  録6記載の土地の位置境界が特定しているとともに、その所有者が訴外島袋善祐
  であることが明らかであると主張しているのである。
 2 また、被告は、目録6記載の土地に関する土地調書添付の実測平面図が現況地
  籍照合図に基づいて作成されたものと推測しているが、これは誤りである。右実
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  測平面図は、前述のとおり、地籍図の原図を基にして、位置境界明確化作業にお
  いて調査、測量された成果を利用して作成されたものである。ちなみに、原告第
  四準備書面一二ページで述べたとおり、那覇防衛施設局長は、目録6記載の土地
  を含む字等の区域である字知花曲茶原の所有者全員(訴外島袋善祐を除く。)が
  現地確認をしたことにより特定した土地の境界を測量した結果を基に、目録6記
  載の土地に係る地籍図の原図を作成しているのであり、右近隣所有者が現地確認
  した位置境界について、訴外島袋善祐と右近隣所有者との間で実質的に争いがな
  いことも明らかであるから、かかる地籍図の原図の図面としての精度は、登記所
  備付けの地籍図と実質的に変わらないものといえる。
 3 なお、被告は、境界が明らかでない土地については、当初から境界不明地とし
  て土地調書を作成しなければ、裁決申請手続が不適法となる旨主張するようであ
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  る。
   しかし、防衛施設局長が境界が確定していると認識して土地調書を作成し裁決
  を申請したところ、収用委員会の審理の過程で境界が不明ということになったと
  しても、実測平面図によって対象土地の特定がされている以上、収用委員会は、
  当該係争地について、いわゆる不明裁決をすれば足りることであり、このために
  裁決申請手続が不適法となることはない。被告の右主張は失当である。
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