公告・縦覧訴訟一号事件(楚辺通信所) 原告(国)第三準備書面


平成八年(行ケ)第1号
地方自治法一五一条の2第三項に基づく職務執行命令裁判請求事件
原告 内閣総理大臣
被告 沖縄県知事

第三準備書面

平成八年八月三〇日

右指定代理人
貝阿彌誠
江口とし子
篠原
睦
田村厚夫

福岡高等裁判所那覇支部 御中
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一 公告縦覧の代行事務の主務大臣について
 駐留軍用地特措法は、日米地位協定を実施するため、駐留軍の用に供する土
地等の使用又は収用に関し規定することを目的とする(同法一条)。これによれ
ば、駐留軍用地侍措法に基づく土地等の使用又は収用に関する事務は、我が国
の安全保障並びにこれと密接な関係を有する極東における国際の平和及び安全
の維持という国家的な利益にかかわる事務であるとともに、アメリカ合衆国に
対する施設及び区域の提供という、日米安全保障条約に基づく我が国の国家と
しての義務の履行にかかわる事務であるということができる。このことに、駐
留軍用地侍措法五条により、同法に基づく土地等の使用又は収用の認定の権限
が原告にあるものとされていることを併せ考えると、同法に基づき、防衛施設
局長が行う土地等の使用又は収用の事務の円滑な遂行と私有財産権の保障との
調整を図るための事務は、建設省の所掌事務とされている「土地の使用及び収
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用に関する事務」(建設省設置法三条三七号)に含まれるものと解することはで
きない。そして、右事務がその他の省庁等のいずれかの所掌事務に当たるとす
る法的根拠もないから、右事務は、総理府設置法四条一四号の定めるところに
従い総理府が所掌する事務に当たるとするのが相当であり、そのように解する
ことが右事務の性質にもかなうものといえる。したがって、駐留軍用地侍措法
一四条に基づき同法三条の規定による土地等の使用又は収用に関して適用され
る場合における土地収用法四二条四項、二四条四項及び同法四七条の国第二項、
四二条四項、二四条四預所定の公告縦覧の代行事務の主務大臣は、原告という
べきである。
 原告第一準備書面一、3の主張は、右の主張に反する限度で訂正する。
二 職務執行命令訴訟における司法審査の範囲について
1 都道府県知事は、地方住民の選挙によって選任され、当該都道府県の執行
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機関として、本来、国の機関に対して自主独立の地位を有するものであるが、
他面、法律に基づき委任された国の事務を処理する関係においては、国の機
関としての地位を有し、その事務処理については、主務大臣の指揮監督を受
けるべきものである(国家行政組織法一五条一項、地方自治法一五〇条)。し
かし、右事務の管理執行に関する主務大臣の指揮監督につき、いわゆる上命
下服の関係にある国の本来の行政機構内部における指揮監督の方法と同様の
方法を採用することは、都道府県知事本来の地位の自主独立性を害し、ひい
ては地方自治の本旨にもとる結果となるおそれがある。そこで、地方自治法
一五一条の二は、都道府県知事本来の地位の自主独立性の尊重と国の委任事
務を処理する地位に対する国の指揮監督権の実効性の確保との間の調和を図
るために職務執行命令訴訟の制度を採用しているのである。そして、同条が
裁判所を関与させることとしたのは、主務大臣が都道府県知事に対して発し
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た職務執行命令の適法性を裁判所に判断させ、裁判所がその適法性を認めた
場合に初めて主務大臣において代執行権を行使し得るものとすることが、右
の調和を図るゆえんであるとの趣旨に出たものと解される。
 この趣旨から考えると、職務執行命令訴訟においては、下命者である主務
大臣の判断の優越性を前提に都道府県知事が職務執行命令に拘束されるか否
かを判断すべきものと解するのは相当でなく、主務大臣が発した職務執行命
令がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべきものと解
するのが相当である。
2 この点につき、原告は、都道府県知事は、法令上付与された審査権の範囲
内において当該国の事務を執行すべき要件が充足されているか否かを審査し、
右要件を充足していると認めるときは、当該国の事務を執行すべき義務を負
うものであるから、右義務の有無を審理判断すべき裁判所も、右法令により
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都道府県知事に審査権が付与されていない事項を審査して、右義務の有無を
論ずることはできない旨主張した。
 しかし、最高裁判所平成八年八月二八目大法廷判決が、「都道府県知事の
行うべき事務の根拠法令が仮に憲法に違反するものである場合を想定してみ
ると、都道府県知事が、右法令の合憲性を審査し、これが違憲であることを
理由に当該事務の執行を拒否することは、行政組織上は原則として許されな
いが、他面、都道府県知事に当該事務の執行を命ずる職務執行命令は、法令
上の根拠を欠き違法ということができるのである。そうであれば、都道府県
知事が当該事務を執行する義務を負うからといって、当該事務の執行を命ず
ることが直ちに適法となるわけではないから、・・・裁判所も都道府県知事
に審査権が付与されていない事項を審査することは許されないとした原審の
判断は相当でない。」と判示し、また、いわゆる署名等代行事務についてで
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はあるが、「使用認定から使用裁決に至る一連の手続を構成する事務の一つ
であって、使用裁決を申請するために必要な土地・調書及び物件調書を完成さ
せるための事務である。使用裁決の申請は、有効な使用認定の存在を前提と
して行われるべき手続であるから、・・・本件各土地・・・に係る使用認定
に重大かつ明白な瑕疵があってこれが当然に無効とされる場合には、被上告
人(引用者注・原告)が上告人(引用者注・被告)に対して署名等代行事務
の執行を命ずることは許されないものというべきである。そうであれば、本
件各土地につき、有効な使用認定がされていることは、被上告人が上告人に
対して署名等代行事務の執行を命ずるための適法要件をなすものであって、
使用認定にこれを当然に無効とするような瑕疵がある場合には、本件職務執
行命令も違法というべきことになる。使用認定に右のような瑕疵があるか否
かについては、本件訴訟において、審理判断を要するものと解するのが相当
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度にかかわらず職務執行命令も当然に違法となるとして、これらの手続ない
し処分の適否を全面的に審理判断することは、法の予定するところとは解し
難い。結局、本件各土地の使用認定についての瑕疵の有無は、それが重大か
つ明白とはいえない限り、自己の権利ないし法的利益を侵害された者が提起
する取消訴訟において審理判断されるべき事柄であって、これを本件訴訟に
おいて審理判断すべきものと解することはできない。」と判示した。
 そこで、原告は、右の判示の趣旨に従い、被告の審査の範囲と裁判所の審
査の範囲とが一致する旨の主張及び使用認定の有効無効も裁判所の審査の範
囲外である旨の主張は撤回する。
三 被告第三準備書面に対する反論
1 「第一訴権濫用論等について」について
 最高裁判所昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決が、有限会杜の社員総会
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である。しかしながら、使用認定に何らかの瑕疵があったとしても、その瑕
疵が使用認定を当然に無効とするようなものでない限り、これが別途取り消
されるまでは、何人も、使用認定の有効を前提として、これに引き続く一連
の手続を構成する事務を執行すべきものである。したがって、仮に、本件各
土地の使用認定に取り消し得べき瑕疵があるとしても、上告人において署名
等代行事務の執行を拒否することは許されないし、被上告人においても、有
効な使用認定が存在することを前提として、上告人に対して署名等代行事務
の執行を命ずるかどうかを決すれば足りると解される。そうであれば、本件
各土地の使用認定に取り消し得べき瑕疵のないことが、被上告人が上告人に
対して署名等代行事務の執行を命ずるための要件をなすものとはいえない。
そして、機関委任事務の執行を命ずることの適否を問う職務執行命令訴訟に
おいて、当該事務に先行する手続ないし処分に何らかの瑕疵があればその程
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決議の不存在確認を求める訴えの提起が訴権の濫用に当たると判断したのは、
それが第三者(原告が自己の社員持分全部を譲渡した者)に対する著しい信
義違反の行為であって、かつ、当該請求を認容する判決が当該第三者に対し
てもその効力を有するからである(対世効。有限会社法四一条、商法二五二
条、一〇九条一項参照)。
 しかし、本件訴訟の場合、その判決が第三者に対しても効力を有すると解
する根拠はない(行政事件訴訟法四三条三項、四一条は、同法三二条を準用
していない。)から、土地所有者である訴外知花昌一氏と国との間にいかな
る事由があろうとも、そのゆえをもって、本件訴訟の提起が「訴権の濫用」
に当たるとされる余地はない。
 なお、本件訴訟の提起が右土地所有者との関係においても信義則違反の行
為とならないことは、原告第二準備書面第一、一で述べたとおりである。
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2 「第七公告縦覧代行義務について」について
 被告は、署名等代行事務について土地収用法三六条五項が「・・・させな
ければならない。」と規定し、公告縦覧の代行事務について同法四二条四項、
二四条四項が「・・・行うことができる。」と規定しているのは、前者の執
行を都道府県知事に義務付け、後者の執行を都道府県知事の裁量にゆだねた
と解するのが自然である旨主張する。
 しかし、右の文理上の差異は、土地収用法三六条五項が「市町村長が署名
押印を拒んだときは、」と規定し、市町村長が事務を行わないことが既に明
確になっていることを前提としているのに対し、同法四二条四項、二四条四
項が「市町村長が・・・一週間を経過しても、・・・手続を行わないときは、
と規定し、一週間経過後もなお市町村長が事務を行う可能性があることを前
提としていることに基因するにすぎない。被告の右主張は、失当である。
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 なお、本件においては、一義的に、被告に自ら公告縦覧の手続を代行すべ
き義務が生じることは、原告第一準備書面一、1、(五)で述べたとおりである。

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