「マーガリン=健康的な植物油」はウソだった

原水爆禁止調布市民会議・有機野菜店主

 写真はふたつのフライドポテトを並べて、その様子を見てみようとした実験を写したものだ。ファーストフード店の製品と自家製である。みなさんは多くのフライドポテトはマーガリンで揚げていることをご存知だろうか。この報告は、このポテトが腐るか、腐らないかに関するものである。

 マーガリンが危険な食品であると聞いても、信じられないという人が多いのではないかと思う。日本ではこのことを問題にする人はまだ少数だからである。それでも2005年8月にニューヨーク市が市内にある3万4千軒の飲食店やスーパーにマーガリン類を調理用油として使用しないことを要請した時、またはアメリカ政府の食品医薬品安全局が2006年1月までにマーガリン類を含む食品に表示を義務づけた時には、日本でも報道されて話題となった。しかし日本では様々な事情で同じような規制が行われなかったために、社会問題化することはなかった。このことはたいへん重大な問題が野放しにされていることを示している。「外国ではその危険性が指摘されて規制が始まっている」事柄について、日本ではその対応が遅れているために深刻な事態を招いているという、アスベストや薬害エイズなどで起きてしまった悲劇を繰り返そうとしているのだ。毎朝パンにたっぷりぬって食べているという人は多いはずだ。なぜマーガリンが危険な食品なのか、日本ではなぜ諸外国のような規制が行われないのか、食品安全の課題であるこの問題について述べてみたい。

「マーガリンが固まっているのは、オイルのプラスチック化」

 バターなどの動物性の油脂より植物性のマーガリンのほうが健康のために良いと考えて食べている人は多いと思う。確かに動物性の油脂は「飽和脂肪酸」を多く含むのでコレステロール値を上げて心筋梗塞や動脈硬化のリスクを高める。融点(溶ける温度)が高いので常温では固体となって体内でも固まりやすく、過剰摂取は有害である。動物性油脂の食べすぎは危険であると多くの人が認識しているのは正しい。それに対して植物性の油脂は「不飽和脂肪酸」を多く含むのでコレステロール値を下げる働きがあり、融点が低いために常温では液体であり体内で凝固することもなく健康的だといわれている。このことが動物性油脂より植物性油脂が健康的だと信じられてきた理由である。  しかし植物油は酸化しやすくて品質の劣化が早く、日持ちしないという性質がある。またバターのように常温で固体を保つ油脂はパンや菓子類の製造に欠かせない物なので、バターに代わる固体の植物油脂として登場したのがマーガリンである。20世紀の初頭から行われ始めた「水素添加」という化学処理によって生まれた固体の植物油脂は科学的な組成が安定して、劣化しやすいという植物油の性質を一変させて酸化したり腐ったりすることのない便利な油として登場した。しかもバターよりも安く製造できるので、健康的な植物油だという神話とともにすぐに人気を得ることとなった。現在ではバターに代わる家庭用のマーガリンとして、またショートニングという名で製造用に使われる無味のマーガリンはパンや菓子類の練り込み材料として、フライドポテトやチキンの揚げ油として、アイスクリームやコーヒー用のミルク、カレーのルウなどの加工食品などに、広く使われている。  マーガリン・ショートニングが科学的に安定して腐らない植物油脂であることの理由は、水素添加という化学処理によって不飽和脂肪酸が「トランス型脂肪酸」に変化したことによる。不安定だった原子構造が、水素原子の移動(トランス)の結果きれいに整列して安定した構造となり、常温でも固体を保ち、酸化しにくくなることで保存性を持つこととなる。1998年にアメリカで「危険な油が病気を起こしている」という本を発表したジョン・フィネガンによるとこの水素添加した脂肪の分子を顕微鏡で見るとプラスチックにたいへん似ていて、科学者たちは「オイルのプラスチック化」と呼んでいたそうだ。このトランス脂肪酸は牛や羊の胃の中でも微生物によって生成されるために、バターやチーズ、食肉の中にも少量ではあるが天然の形で存在している。しかし水素添加によって生まれたトランス脂肪酸は自然界には存在しない物質である。アメリカやヨーロッパではこの天然のトランス脂肪酸と化学変化によって生まれたトランス脂肪酸を区別して規制している。

「トランス脂肪酸はとても危険な化学物質」

 2002年7月、アメリカの医学学会(Instiute of Medicine)がトランス脂肪酸についてのレポートを発表して、トランス脂肪酸は「悪玉コレステロール」を増加させるだけでなく肝臓に悪影響を及ぼして「善玉コレステロール」を減少させてしまうという2倍のマイナス効果で心臓病のリスクを高めると警鐘を鳴らした。それを受けてアメリカ政府の食品医薬品安全局もトランス脂肪酸の摂取量を減少させることが心臓病のリスクを低下させると発表して、2006年1月までにトランス脂肪酸の含有量表示を義務化することを決定した。2005年8月にはニューヨーク市がすべてのレストラン、スーパーにトランス脂肪酸を含む調理油を使用しないように呼びかけた。ヨーロッパの各国ではそれ以前からトランス脂肪酸の危険性が広く知られており、加工食品の含有率規制も行われている。欧米に比べて油脂の摂取が少ないといわれているアジアでも、韓国と台湾ではすでに含有率表示が義務化されている。WHO(国連世界保健機関)とFAO(国連食料農業機関)は合同で報告書を発表して、トランス脂肪酸の摂取量は最大でも1日あたりの総エネルギー摂取量の1%未満とするように勧告している。そして世界の国々でトランス脂肪酸フリーの「安全な新しいマーガリン」が発売されてトレンドを得ている。日本で市販されているマーガリンには平均値で約7%のトランス脂肪酸が含まれており、加工食品の製造過程で使用されるショートニングにはそれ以上のトランス脂肪酸が含まれていると思われる。  人体はトランス脂肪酸を他の油脂と同じように処理しようとするが、通常ではあり得ない分子構造のために処理しきれずに体内に蓄積してしまったり、悪影響を及ぼすことが様々な研究の結果でわかってきたことが、世界中でのマーガリン規制(トランス脂肪酸規制)につながっている。コレステロールのバランスを崩して動脈硬化などの心臓疾患のリスクを高めるほか、免疫力を低下させてアトピー性皮膚炎などのアレルギーの原因のひとつとなることも指摘されている。また体内を酸化させてガンを発生させる原因にもなるともいわれている。アメリカではガンによる死亡率とトランス脂肪酸を含む食品の消費率それぞれの増加がほぼ一致しているという報告もある。痴呆について長年にわたって研究したアメリカの科学者からは、トランス脂肪酸が認知機能を下げる恐れがあるという報告が出されている。血中の悪玉コレステロールが増えるために心臓だけでなく脳の動脈硬化も進むためではないかとみられている。

「フライドポテト1個で基準値を超えてしまう!」

 日本ではこのトランス脂肪酸がどのように扱われているのか。2007年に食品安全委員会は国内に流通するパン類、乳製品、マーガリンなど386種の食品に含まれるトランス脂肪酸を分析して国民の摂取量を推計して発表した。日本人の1日当たりの摂取量は平均してエネルギー摂取量の0.3~0.6%で、欧米での摂取量より少なく、またWHOが示した1%未満という基準値より少ない。この結果を食品安全委員会化学物質専門調査会の立松正衛・愛知県ガンセンター研究所副所長は「各国に比べて少なく、差し迫った危険性はない」と評価した。業界団体の「日本マーガリン工業会」は、トランス脂肪酸が血中の悪玉コレステロールを上昇させることを認めながら「エネルギー比2%以下ならほとんど影響しない」と主張、「WHOの基準は1%、日本人の場合はそれも下回る0.7%」として、「現在の日本人の食生活においては何ら問題はない」と結論づけている。また「リノール酸の摂取量がトランス脂肪酸より多いとその作用を低減させる」と主張して、日本人のリノール酸摂取量の多さにも言及している。  しかし食品安全委員会の調査には、外食産業で使われるショートニングなどは含まれていない。例えばあるファーストフード店のMサイズのフライドポテト(135g)には4gを越えるトランス脂肪酸が含まれており、WHOの基準値エネルギー比1%を摂取量に換算すると約2gとなることを考えると、このフライドポテトだけでこの1日当たりの基準値を超えることになる。コンビニで売っている菓子やケーキ、パンなど大量生産が前提の製品には1g以下であってもほとんどの製品にトランス脂肪酸が含まれていると考えられるので、若年層に限って見ると基準値以上のトランス脂肪酸を摂取させられている日本人は多いのではないかと考えられる。食品安全委員会が発表した「国民ひとり1日当たりの摂取量」とは、老若男女すべてを含む国民全体の平均値であって、淡白な和食を好む高齢の世代と洋風で油分が多い食事を好む若年世代を分けて分析する必要がある。ファーストフードとスナック菓子が大好きな子どもたちが特に食品に含まれる有害物質の影響を受けやすいことを考えると、このままでいいのかという疑問を持たざるをえない。  トランス脂肪酸の含有量規制も表示義務もない日本だが、最も多くのトランス脂肪酸を含む食品であるマーガリンについては安全な製品を作る努力も行われている。市販のマーガリンはトースト3枚にぬって食べるとWHOの基準をほぼ超えてしまうので、トランス脂肪酸を0.5%以下に抑えた新しい「バーガリン」という製品が誕生したのだ。水素添加などの化学処理をしないで、常温でも固体のパーム油をベースにする方法で作られている。しかしこのバーガリンは日本では辛い運命にある。「トランス脂肪酸0.5%」という表示をするとマーガリン業界の反発が強くて国内メーカーでは製造委託を引き受けてもらえなかった。そこでトランス脂肪酸規制の先進国であるオランダで2006年3月から製造を始めて6回の輸入ロッドをクリアーして製造されてきたのだが、2008年、石油価格や穀物価格の世界的な上昇の中でバーガリンの原材料も高騰して、オランダから運ぶことに耐えられなくなって挫折することになった。その後、韓国のメーカーに製造を依頼することになったが、ここでは家庭用のカップ入りの製品ができずに1ポンドの業務用サイズを紙で包んだ状態で輸入せざるを得なかった。販売単位の量が増えたので値上げではなかったが、1個の価格が200円も高くなった上に家庭では使いにくくなったのである。バーガリンはこの形態の変更でまた困難な状態に追い込まれている。  日本にはもうひとつトランス脂肪酸を抑えた「安全なマーガリン」が存在するが、こちらは国内生産をめざしたためにパッケージにトランス脂肪酸のことを表示できず、また一般の市場での販売もできていない。宅配専門の会社がグループ内で流通させるだけにとどまっている。これもマーガリン業界の圧力のためである。  ファーストフード店の中にもトランス脂肪酸の低減を実現して安全性をアピールする会社が現れている。ミスタードーナツはホームページで「日本での平均的なトランス脂肪酸は諸外国に比べて少なく特別な基準ももうけられていません。しかしミスタードーナツはいち早くこの課題に取り組み、2007年12月から全店でトランス脂肪酸を大幅に抑えたオイルを使用しています」と宣言して、ドーナツ1個あたりのトランス脂肪酸の量を、平均で1~1.5gだったのを、平均0.25gまで低減させたという。単純計算ではドーナツ2個でWHOの基準値を超えていたのを、8個まで基準値内になったのだ。この努力は賞賛に値するが、ミスタードーナツ以外に追随する会社は見当たらない。ケンタッキーフライドチキンやスターバックスコーヒーは、アメリカなどの規制がある国ではトランス脂肪酸の低減を実現しているが、日本の店舗では危険な油脂を使い続けている。また国内のインスタントラーメンの有名ブランド、日清のカップヌードルやサンヨー食品のサッポロ一番では、国内向けの製品は揚げ油にトランス脂肪酸が含まれているので製品にも含まれているようだが、規制がある海外向けに生産されたものはトランス脂肪酸ゼロの表示がある。つまり技術的には可能であるのに、規制がない国内向けの製品にはその技術を使っていないのである。  以前は日本のテレビでよく見かけたマーガリンのCMだが、2006年のアメリカでのトランス脂肪酸の表示義務の開始を境に見かけなくなった。マーガリンメーカーは家庭でトーストにつけて食べるための食品としては積極的に売り込むことを控えるようになったようだ。その代わりにマーガリンはショートニングや「植物性油脂」に姿を変えて大量生産されてコンビニなどで売られる菓子やパンに入り、またファーストフードやファミリーレストランの調理油になって使用も消費も広がった。トランス脂肪酸の摂取は目に見えにくい形に変化していったのだ。

「ショートニングで調理すると6ヶ月たっても腐らない!?」

 冒頭の写真の話に戻る。  プラスチック食品と呼ばれるマーガリン・ショートニングを含む食品は腐りにくく長持ちするといわれてきた。これはトランス脂肪酸の影響だと考えられるが、この腐りにくい性質がマーガリン・ショートニングを「便利な油」として使う理由である。原材料としての品質管理がたいへん楽な上にできた製品は腐りにくい、こんなにいいことはないということだろう。しかし前述したようにあるファーストフード店のフライドポテトは、Mサイズをひと袋食べただけでもWHOが勧告した1日あたりのトランス脂肪酸摂取量を超える。そこでファーストフード店のフライドポテトは本当に腐らないのかどうか調べて見ようとしたのがこの写真の実験である。このポテトを買った日本最大といわれる外食チェーンの揚げ油はショートニングである。このチェーンの本部があるアメリカでは、すでにすべての店舗でショートニングを使うのを中止してトランス脂肪酸の低減に取り組んでいるのだが、日本では規制がないためにショートニングを使い続けている。くどいようだが、Mサイズひと袋でWHOの基準値を超える可能性があるというのにである。じゃがいもの違いや揚げる環境や温度を同じにすることはできないので正確な比較とはいえないが、トランス脂肪酸0.5%以下のバーガリンでポテトを揚げて並べて置いてみた。この実験は2005年にアカデミー賞のドキュメンタリー部門にノミネートされた映画「スーパーサイズ・ミー」の特典映像として添付されている実験の二番煎じである。この時点のアメリカではこのチェーンのフライドポテトは腐らなかった。まだショートニングを使っていたのだろう。私の実験は2009年4月の日本の店で買ったものがどうなるのかを調べようとするもので、結果はご覧のとおりである。バーガリンで揚げたポテトはすぐにカビが生えて腐り始め、2週間目には腐敗臭に耐えられずに実験を終えた。ファーストフードチェーンのポテトは微動だにせず、この原稿を書いている約6ヶ月を経過した10月になってもカビも生えず,腐りもしていない。  このファーストフード大手の会社は現在の不況下でも低価格を売り物にして最高益を出している。つまりショートニングの使用をやめないかぎり、トランス脂肪酸の摂取量が増え続けていることになる。またこのチェーンの子ども向けセットメニューはテレビCMが流されているから、子どもを集客の対象にしているのはいうまでもない。このようなまさにプラスチック食品と呼ぶのにふさわしい食べ物を育ち盛りの子どもに与えてもいいのだろうか。子どもたちは学校給食で出される紙包みのマーガリンをパンにつけて食べている。その上でのフライドポテトである。  学校給食でのトランス脂肪酸の規制をするべきだろう。またすべての食品において、せめて諸外国なみに表示を義務づけるべきではないだろうか。トランス脂肪酸の低減を打ち出した商品が圧力を受けるような社会はおかしいのではないか。食品安全行政の姿勢が問われている問題である。

参考文献
ウェブサイト「トランスファット注意報」http://www.burgarin.com
「危険な油が病気を起こしてる」ジョン・フィネガン著
「食用油には危険がいっぱい」氏家京子著

 

「マーガリン=健康的な植物油」はウソだった(2)

                藤川泰志(原水爆禁止調布市民会議・自然食品店店主)

  11月24日、福島瑞穂消費者担当大臣は記者会見で「マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸について、商品への含有量表示を義務づけるよう検討を消費者庁に指示した」と発表した。これは食品安全行政の画期的な前進である。本誌11月号で詳しく報告したように、この危険な油脂であるトランス脂肪酸への規制が無いのは先進諸国では日本だけだという状態であるにもかかわらず、今までこの一歩を踏み出すことができなかったのだ。含有量表示の導入という控えめな意思表示ではあるが、国民の健康を害しているこの問題が明らかにされていくことになる。マーガリンやショートニングといったこのトランス脂肪酸を多く含む油脂と深く関わる業界や、この油脂の恩恵を受けているあらゆる食品メーカーから圧力を受けることが予想されるが、一日でも早く含有量表示義務の導入を実現させて、規制につなげていきたい。  この記者会見の中で福島大臣はもうひとつ重要なことを発言している。この問題について食品安全委員会が「一般的な日本人の食生活では摂取しても直ちに問題がない」としていることに対して、「食品理解を深めるためにも表示する方向で検討してほしい」と述べたのだ。これにはたいへん重要な意味が込められている。トランス脂肪酸が多く含まれている食品はマーガリンそのものは別格として、ファーストフード店のフライドポテトやチキンのように危険な油で揚げた食品や大量生産された菓子パンやスナック菓子など、いわゆるジャンクフードと呼ばれているものであることを考えると、それらをたくさん食べている若年層が自分の健康を守るために「食品を選ぶ」ことができるようにすることが重要なのだということを示唆している。これは最近よくいわれるようになった「食育」の基本的な課題だといえるだろう。なぜならトランス脂肪酸の有無、あるいは含まれている量を確認しながら自分が食べるものを決めるということは、外来の食べ物であるシャンクフードを食べ続けるのか、あるいは日本の伝統的な食事を見直すのかという問題に必然的に行き着くからだ。福島大臣が食品安全委員会の見解を見直すことの論拠とした「食品を理解して選ぶ」ということは食育の基本問題であると踏まえて、食育とトランス脂肪酸について考えてみたい。

   「食育」というと思い出すことがある。2005年の総選挙で愛知4区から立候補して、比例東海ブロックで当選した藤野真紀子前衆議院議員のことだ。「小泉チルドレン」のおひとりで、料理研究家を本業とする方である。この藤野前議員が当選のインタビューで議員としてやりたいことを問われて、「食育」と答えた時、たいへんな違和感を覚えた。郵政民営化を踏み絵にした市場原理主義を推し進めようとする小泉・竹中政治の中から立候補した議員と「食育」はまったく結びつかなかったからだ。食育とは1980年代にイタリアで始まったスローフード運動が使い始めたことばである。大量生産、大量消費という現代の食のあり方、ファーストフード店の越境による世界的な味の均一化、海を越えて流入してくる食料による自国の農業への圧迫などに対して、地域の伝統的な味や食習慣、地元の農業を守ることなどをめざして提唱された運動である。新しい食文化のあり方を提案して実践していく運動だからかならずしも反ファーストフードではないが、この運動の出発点となったのは1986年にローマの旧市街の中心で観光名所でもあるスペイン広場にマクドナルドが出店しようとしたことに対する反対運動だった。日本でも使われ始めていた「食育」も同じような意味で、品質や栄養より収益のための効率を優先させ、売れる物なら何でも売るファーストフードの市場原理優先の食のあり方に対する異議申し立てであったはずである。それに対して藤野前議員の食育とは、ホームページなどを拝見すると「語り継ぐお菓子たち」という活動によって子どもたちにお菓子作りの楽しさを伝え、親子でお菓子を作ることの重要性を訴えることらしい。
 しかし藤野前議員は選挙前の「公約」で重要なことをいっている。その公約とは「食育で愛知4区の治安を日本一よくする」というものだった。藤野前議員の在任中の5年間に名古屋の治安が他と比べて少しでも良くなったという話は聞かないが、それでも「食」と治安を結びつけた発想には脱帽するしかない。食生活・医事ジャーナリストの氏家京子さんが著書の中で紹介しているアメリカでの調査によると、粗暴犯罪者の血液検査をすると血中の脂肪構成が悪くなっていることがわかるという。DHA(ドコサヘキサエン酸)の値が暴力経験のない一般の人の値より著しく低くなっていて、これは日ごろの食生活における脂肪の摂り方に問題がある結果だという。人の脳の大部分は脂質でできていて、その中でも重要な役割をもつ脳神経細胞は大量のDHAで作られているので、これが不足すると脳神経細胞の働きに影響が出て、学習能力や記憶力を衰えさせることが考えられるという。杏林予防医学研究所所長で分子栄養学博士の山田豊文氏は著書の「細胞から元気になる食事」の中で、トランス脂肪酸が細胞膜の組織内に大量に存在すると細胞膜が正常に機能しなくなることを指摘していて、それ自体が自然界には存在しない有害なものであるばかりでなく、他の必須脂肪酸が取り込まれて栄養として利用されるのを妨げると説明している。このように栄養の摂り方、または脂肪の摂り方が心と体のコンディションの問題と深くかかわっていることわかる。
 12月1日の朝日新聞では、小、中学校で児童生徒の暴力行為が前年度比で13%増、3年間で7割も増えたことが報じられている。子どもたちは「感情がうまく制御できない」「コミュニケーションの能力が足りない」と観察されていて、いじめは先生たちの様々な努力によって毎年のように減っているのに暴力行為は増え続けているという。この原因のすべてを食生活に求めるのは乱暴だが、魚や豆、海草や野菜をたくさん食べていた伝統的な和食の食卓が崩壊して、肉食と危険な油があふれた食事に変わったことが少なからず影響していることは容易に想像できる。不況による生活費の減少と、食品の低価格競争が招く食材の粗悪化がこれに追い討ちをかけているのかもしれない。
 ファーストフードの弊害をリポートしたアメリカの映画「スーパーサイズ・ミー」(2005年アカデミー賞ドキュメンタリー部門ノミネート作品)では、ウィスコンシン州にある不登校などの問題がある生徒を集めた高校でおこなわれたジャンクフードや炭酸飲料を好んでいた生徒たちに低脂肪、低カロリーのランチを食べさせる試みが紹介されている。オーガニックフードの会社に委託した野菜や果物たっぷりで、全粒粉のパンや、揚げたものをやめてオーブンで焼くことを心がけたすべて手作りの料理を導入して、そして糖分過多の炭酸飲料をやめることで生徒の行動に落ち着きが出て、学習への集中力が高まったと校長が証言している。

 このように栄養に関する様々な問題が心と体のコンディションを左右することを広く知らせて、安全な食べ物を選択していくことを子どもたちに教えていくことが現状での食育の基本だと思う。トランス脂肪酸についての理解を深めて、それが含まれている食べ物を避けることはそのための解りやすいテーマである。山田豊文博士はトランス脂肪酸を避ける時の注意を次のように記述している。「マーガリン以外にもトランス脂肪酸はその名前を変えてさまざまな食品に含まれています。買い物をするときに、食品のパッケージに貼られているラベルを注意して見るようにして下さい。クッキーやケーキ、チョコレート、菓子パン、コーヒーフレッシュをはじめ、多くの加工食品にマーガリンやショートニング、加工油脂、あるいはファットスプレッドなどと書かれていることにお気づきになったでしょうか。これはすべてトランス脂肪酸が大量に含まれていることを意味します」。山田博士は本誌11月号で詳しく述べたトランス脂肪酸が持つ危険性で最も重要なことが、血液中の悪玉コレステロールを増やして善玉コレステロールを減らすことによって心臓病のリスクを高めることであることも指摘している。そしてこの危険なトランス脂肪酸の含有量のラベル表示が2006年からアメリカで行われているのと同じように、日本でも早く対策を打つべきだと主張している。「本来の食事とは健康を維持していくためのものですが、これでは健康を害するための食品が店頭に並び、私たち消費者はわざわざそれを選んで購入していることになります」これが山田博士の結論である。福島大臣がトランス脂肪酸に関して「食品への理解」を呼びかけたのはまさに重要なことであり、消費者庁への指示が一日でも早く実現することが望まれる。

 

 写真はアメリカで売られているカップヌードルである。このように成分表示に「トランスファット0g」と表示されているばかりでなく、表にも「トランス脂肪酸0g」の目立つ表示がある。これが望ましい商品の見本である。このように表示されていれば、自分の健康を考えながら食品を選ぶことができる。同じ商品なのにアメリカで売る製品はこのようにトランス脂肪酸に関しては安全な製品ができるのに、日本向けの製品は依然として揚げ油にトランス脂肪酸が含まれているためにリスクを伴う製品のままだというのはおかしな事だが、それでも「やればできる」ことを示しているといえるだろう。山田博士が指摘したように菓子類やパンなども同様に表示をするべきだろう。バターを使った菓子とマーガリンやショートニングを使った菓子のどちらを選ぶのかという問題は食育の大事なテーマだと思う。カフェでコーヒーや紅茶を飲む時に「コーヒーフレッシュ」といういつでも常温に置いてある、そしていくつ使っても無料の「ミルク」を使うのかどうかも食育の重要なテーマである。冷蔵する必要がなく使い放題のこの白い液体は、ほとんどが牛乳成分など入っていない植物油を加工したもので、トランス脂肪酸を多く含んでいる。
 成分表示が義務づけられている加工食品はトランス脂肪酸の含有量表示で見分けやすくなる。しかしわかりにくいのはファーストフード店などの外食産業で出される料理やスーパーなどで売られる惣菜に含まれるトランス脂肪酸である。特に揚げたものは安くて粗悪な油を使うと多量のトランス脂肪酸を含んでいることがある。揚げ油としてショートニングを使うことはハンバーガー店やファミリーレストランでは普通におこなわれていることだが、これが最も危険である。マーガリン・ショートニングのように化学処理によってトランス脂肪酸が発生した油脂の他にも、通常の食用油の場合でも製造法によっては危険なものがある。大豆や菜種などの食用油には「圧搾法」で搾られたものと「抽出法」で化学的に作られたものがあるが、昔ながらの低温で搾る(コールドプレス)油が安全で栄養の面でも優れているのに対して、様々な薬品を加えて油を溶かし出して高温で無味無臭に精製する抽出油は効率的でたいへん安く製造できるが多くのトランス脂肪酸を発生させてしまっている。オリーブ油の場合ではエキストラバージンと明記されているものだけが圧搾法で作られていることが保障されていて、安いものには搾りカスに高温と高圧をかけて溶かし出したものが多く、これは危険な油である。残念なことだが食用油に関しては価格が安全性に比例しているといっていい。ちなみに筆者はレストラン経営者だが、揚げ油に使っているのは「圧搾一番しぼり」の菜種油で価格は一斗缶(16.5kg)で9700円である。業務用の食用油を売る店をのぞくと同じ一斗缶の植物油が2500円前後で売られている。
  2005年にニューヨーク市が市内のすべての飲食店やスーパーに対して、トランス脂肪酸を含む調理油を使用しないように呼びかけたのはこのようなリスクをなくすためであるのはいうまでもない。日本でも食用油に対してトランス脂肪酸の含有量表示を徹底して、外食産業や飲食店、スーパーなどに対してトランス脂肪酸の低減を要請するべきだろう。

 最後に山田博士の本からもう一度引用させていただくことにする。博士はショートニングの語源を、揚げ物やクッキーなどのサクサク感を出すこと、つまり「もろくする」という意味のshortenであると紹介して、次のように書いている。「家で揚げ物をするより、出来合いのものを買ってきたりお店で食べたりするほうがカラッと仕上がっているという印象を受ける方も多いでしょう。これらを『専門店のなせる業』と思っていたら、実はショートニングを入れた油で揚げているだけ、というケースも決して珍しくありません。私に言わせれば、ショートニングでもろく崩れていくのは、ずばり私たちの体です。」
  社会をあげてトランス脂肪酸の低減をめざすことが急務である。福島大臣と消費者庁の今後の仕事に期待したい。

 

参考文献:

 

「この文章はみさと屋の藤川が、月刊社民編集部の要請を受けて執筆したものです」